ファンドインタビューの記事一覧
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- 2023.06.26
Digitalで切り拓くPE新世代
D Capital株式会社共同代表 / パートナー 梅津 直人 シティグループ証券及びSMBC日興証券にて様々な産業におけるM&Aや資金調達を経験。その後、ユニゾン・キャピタルにて注力領域であるヘルスケア産業の投資担当者として、製薬企業への成長投資や調剤薬局・病院・訪問看護のロールアップ投資を中心に中堅・中小企業への投資及び成長支援を指揮。 日本の中小企業のDXが進んでいない ―― 梅津様の自己紹介をお願いします。 梅津 私は投資銀行でキャリアをスタートさせて、様々な産業のM&Aやエクイティファイナンスなどに取り組んできました。ユニゾン・キャピタル(以降、ユニゾン)が仕掛けた、とある買収案件に関わった際、プライベート・エクイティ・ファンドのビジネスに面白みを感じ、ユニゾンの門を叩いたのが2013年のことです。ミスターミニットやエノテカなどコンシューマーセクターの投資などを担当した後、共同代表の木畑と一緒に、ヘルスケア領域にも携わるようになりました。製薬会社への成長投資のみならず、薬局や病院、在宅医療、訪問看護と投資対象を拡げていき、専門性を深めました。その後、 2021年にD Capitalを設立しました。 ―― D Capitalを設立された際の経緯と社名の由来についても教えていただけますか。 梅津 ミッドキャップのPEファンドマーケットが成熟してきて、言い方を変えるとすごく混み合ってきて、競争も激しくなっています。その一方で、その少し下の階層は、まだプレイヤーが少なく良い案件も多いと見ておりました。ここで差別化された戦略をとるファンドをやりたいと考え、旧知のメンバーで議論を重ねました。 元ユニゾンのメンバーである木畑、重光、さらに重光と同じくゴールドマン・サックス出身の仁木、また木畑と留学時代からの友人であるデータサイエンティストの松谷、そして私。投資のプロとDXのプロが集って「DX×PE」というコンセプトを生み出し、D capitalをスタートさせました。 D Capitalの「D」は、もちろんDigitalという意味合いもありますが、業界をDisruptするような可能性を持つ会社に投資をさせていただいて、経営とDXの支援をする会社になっていきたいという想いも込めています。そして我々はDXを最初の切り口にしつつも、他の様々な経営テーマに対しても柔軟でありたいと思っています。 ―― DXに精通したメンバーも多く在籍されているかと思いますが、御社はどのような体制になっていますか? 梅津 「DX×PE」というコンセプトの通り、投資のチームとデジタルのチームという、出自が違うチームの混成になっています。投資のチームには、コンサルや投資銀行をバックグラウンドに持つメンバーが集まっていますが、デジタルのバックグラウンド持つメンバーがすぐ近くにいるというのは、とてもユニークなことです。例えば木畑はファンドの経験もありますが、直近までJDSCという、DXコンサルティングを生業とするDXベンチャーでビジネスの管掌をしていました。松谷はMIT出身で、その後にNASAでロケットサイエンスに従事し、その後ゴールドマン・サックスでトレーディングの自動化に携わった経験を持っています。他にもデータサイエンティストやエンジニア、ITストラテジストなどデジタルバックグラウンドのメンバーが活躍しているのが当ファームの特長かなと思います。 ―― 様々なバックグラウンドの方とビジネスを進めるにあたり、共通の理念や大事にされている価値観はございますか。 梅津 日本の中小企業のDXが進んでいないという現状認識があります。それは何故かというと、テクノロジーを持つ人とビジネスを推進する人、双方が有機的に繋がることがDXを進める上で大きなポイントであるにも関わらず、現状できていないからだと考えています。この橋渡しをするのが我々の仕事であり、存在意義です。デジタル側の観点のみならず、経営や財務的な観点を理解し融合していくことが組織運営にはとても重要であり、投資先のバリューアップにおいても大きなポイントであるというのが、メンバーの共通認識です。 ―― 投資先に対して、投資チームとデジタルのチームが連動して対応されているのですね? 梅津 おっしゃるとおりです。 テーマは「デジタル人材のハンズオン支援」 ―― いま運用されているファンドの概要について教えていただけますか。 梅津 ちょうど去年の年末にファイナル・クローズを迎えて、いま315億円の初号ファンドを運用しています。機関投資家の皆さまの他、KDDIさんやSCSKさんといったデジタルパートナーの方からもご出資をいただいていることが、特徴と言えるかもしれないですね。 ―― 初号ファンドから300億円を超えられて、非常に大きなアチーブメントだと思います。やはり投資家が御社のコンセプトを大きく評価されたということでしょうか。 梅津 そうですね、投資家の皆さまとの会話の中で、やはり日本のプライベート・エクイティ・マーケットが成熟期にあり、プライベートエクイティが提供する価値もコモディティ化してきているのかなと感じました。この状況下で、デジタルのなかでも、「当社のネットワークにいるデジタル人材がハンズオンサポートを行う」というのは新しいテーマでありアプローチだと思っており、こういった時流を投資家の皆さまも感じておられることがご支援につながったのかもしれません。 ―― 今後の投資について、強化していきたい案件のタイプや領域などはございますか? 梅津 案件のタイプとしては、事業承継の話が一番大きいです。オーナーの皆さんは、DXという単語に関心を持っていらっしゃるけれども、「具体的に何をやるのかわからない」「DXによって自分の会社にどういう可能性が拡がるのかイメージできない」「デジタル人材はどのように確保すればいいのか」などと仰います。それに対して我々が具体的なソリューションを交えた提案をすると、ファンドに売却するというよりは、「会社の次の成長を見据えDXをハンズオン支援する会社に譲る」という捉え方をされて、売却金額の多寡よりもオーナー様の御心に響いているのではないかと思うことがあります。 また、カーブアウトのニーズも結構増えています。カーブアウト案件の際に重要なテーマになるのが、システムやデータの切り出し、スタンドアローン化です。我々は外部に任せるのではなく、まずは内部の人間がアセスメントし、ベストな布陣で対処することができるため、コストや安定性を担保できている自負があります。あとは非上場化です。非上場化して次の成長を作る際、やはりデジタルはどの会社にとっても避けては通れない大きなテーマですので、我々がお役に立てる場面があるというお話をします。 ―― セクターに関しては、何か方針をお持ちでしょうか。 梅津 まず前提として、デジタルの余地はどの会社でもどの産業にでもあると思っているため、あまり業種を絞っておりません。ただ、これまでの実績やメンバーのバックグラウンドとしてはヘルスケアに強みを持っております。医師免許を持つ者、医大でデータサイエンスの講師をしている者の他、私自身もヘルスケアの投資を重ねてきており、引き続き取り組んでいきたいと考えています。あとはB2Cです。これも、強みを持つメンバーがいますので、色んな仕掛けを作っていくことはできるかなと思っています。またB2Bサービスも、引き合いがとても多く、しっかり捉えていきたいです。 DXは単なる省人化ではない。 ―― 投資先に具体的にどのような支援をされているか、お聞かせくださいますか。 梅津 大きく3つのステップに分けています。まずデジタル戦略を策定し、組織を作り、蓄積したデータを整理する、つまりデータを使える状態にするのがステップ1です。次なるステップが事業改善です。使えるようになったデータを基に売り上げを伸ばす、コストを減らして効率化する、あとはキャッシュフローの改善などです。 例えばB2Cのお会社さんで現状のeコマースに新しいチャネルを作りたいというニーズがあれば、目的に沿ったアプリやサイトを作って、お客さんのインフローを確保していく。更にそのアプリやUXをしっかり磨き込み、色々な仕掛けを組み入れていくことによって、お客さんのロイヤルカスタマー化、アップセルやクロスセルを実現し、お客さまのライフタイムバリューを確実に増やしていきます。 よくDXというと省人化みたいに捉えられますが、我々はどちらかというと、これから成長していく部分を最も効率的に回す仕組みを作っていきたいと考えるのです。とある店舗型の営業で、売上情報を日々本部にFAXして、本部ではそれをエクセルに打ち込んで収支を作って、というようなフローが未だ行われています。これでは、店舗が増えるとそれだけバックオフィスの人数も増やさなければならず、労働集約型のビジネスなってしまうのです。我々は情報を一括管理できるような仕組みを整えて業務を改善し、ビジネスが成長してもバックオフィスがパンクせず、人が減っても人員効率が自然と引き上がるよう導きます。 また、在庫を抱えるビジネスにおいて、販売と製造のやりとりがシームレスになっていないことにより、過剰在庫や欠品などの問題がよく起こります。これも過去のトレンドデータを適切に分析して最適な在庫水準が分かれば問題は解消されていくはずで、在庫の圧縮によってキャッシュフローが改善します。このように、売り上げを伸ばす、コストを見直して効率化する、キャッシュフローを伸ばす、これら全てを我々はお手伝いできます。 ステップ3は、まさにトランスフォーメーションの世界で、例えば蓄積した顧客データを基に新しいビジネスを生み出すとか、非連続な成長を作ることです。大きな可能性は秘めていますが、必ずしも誰しもに必要なことではないかもしれません。ステップ2まででも十分に企業は変わると思いますので、まずはステップ1&2でビジネスを盤石にしていくということだと思います。 ―― 他社のPEファンドでは、投資後に外部のコンサルティングファームなどに依頼してデジタルプロジェクトを進めていくケースが多いと思いますが、御社の場合は、インハウスメンバーでご支援をされるというでしょうか? 梅津 そうですね。D Capitalの中に5名、あと、DX Guildと呼んでいるD Capital独自のデジタル人材プールとして30名弱ぐらい、信頼に足る非常に優秀なエンジニア、データサイエンティストなどを集めています。結局、デジタルも属人的な領域であり、いい人材を捕まえるのがとても重要で、一騎当千の世界だと思っています。我々は、投資先の様々なデジタル人材のニーズに対し、インダストリーや技術的な要素などを加味した最適な人材を派遣できるような仕組みを構築していています。 ―― 特に中小企業様だと、悩みはありつつも、プロに頼むとお金が掛かるから二の足を踏むというケースが多いと思うんです。御社のDX支援に関して、単純なコストと捉えられないような工夫をされていますか? 梅津 そうですね、まさに仰る通り、ベンダーロックイン問題はよく見かけます。ベンダー側に主導権を握られてしまってコスト高などに陥るのです。本当に必要なシステムなのか、オーバースペックになっていないか等を見直した上で、元の要件に照らして最適なパートナーを見つけていきます。そういう意味では効率化される部分があると思います。 ―― その設計のところを御社がしっかり担当されるというのがポイントだということですね。 DX×PEを支える「若さ」という要素 ―― 投資先のエグジットについてはどのようにお考えでしょうか。方針や大事にしておられる判断軸はございますか? 梅津 上場であれ第三者への譲渡という話であれ、誰かが株主であることは変わりないと思っています。我々が最も重視していることは、「誰が株主であっても、会社として持続的に成長する仕組み作りを一緒に作り込む」ということです。先ほどお話したステップ1でDXチームを作るとか、DXチームを作りながらステップ2のところまでしっかりと伴走し、それができたらあとは自立自走で自動的に企業価値が上がっていきます。企業価値を永らく最大化していくためには、上場がいいのか誰かの傘下に入ってより強力な支援を得るのがいいのか、この辺りを一緒に考えていきます。 ―― 投資する際もそういった先のことを見据えながら、経営者と議論されているんですね。 梅津 そうです。本当にトランスフォーメーションの可能性が大きく、第3のステップのところを見据えているならば、やはり上場は大きな価値を生む選択肢であり、我々のリターンからいってもそれが魅力的かもしれないですね。 ―― ありがとうございます。少し今までと視点が違う話になりますが、皆さん非常に若いチームで運営しておられて、他社と比べても際立っていますね。 梅津 若造です。(笑) ―― 一方で、投資先あるいは今後に投資対象になり得る会社には様々な経営者の方がおられて、若さゆえに色々と苦労をされたり、逆に若いからこそ上手くいっているというようなお話があればお聞かせください。 梅津:苦労したことは殆どなく、むしろデジタルというからにはある程度の若さが必要になってきます。もはや我々ですら、この業界では老輩です。「デジタルを進めていく中での山あり谷ありを乗り越えるバイタリティーがある」「身を粉にして頑張る」、我々の若さをそのように捉えていただいているように感じます。 ―― 外苑前エリアにオフィスを構えられているのも、個性的ですね。 梅津 我々は半分金融だけど、やっぱり金融とは少し毛色が異なると思っています。ですので、いわゆる業界のオフィス街とは違う所がいいかなと。また、デジタル人材にとって働きやすい、堅苦しくないという意味で、スーツ姿の方が少ない場所を選んだのです。 「我々が壁打ち相手を務めさせていただきます」 梅津 我々の一番の価値は、「ビジネスとテクノロジーの橋渡し」です。「会社の強みやポテンシャルを、我々の持っているネットワークにあるテクノロジーを組み合わせると何が生まれるのか」を、共に考えます。そして、実際に進めていこうとなれば、お金とテクノロジーと我々の人的ネットワークを提供して、一緒に作っていくということなのです。 ビジネス上の題材をご提供いただき議論を重ねることで、何かのきっかけが起きるかもしれません。そうならなかったとしても、おそらくDXの観点からとても意味のある壁打ち相手になれる可能性があると思っていますので、お気軽にご相談いただければと思います。 以上 D Capital株式会社https://dcapital.jp/
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- 2023.04.04
日本のグッド・カンパニーをグレート・カンパニーに
株式会社日本産業推進機構(NSSK)代表取締役社長 ESGコミッティー議長 津坂 純 1983年ハーバード・カレッジを卒業、ハーバード・ビジネススクールにてMBA、マサチューセッツ工科大学(MIT)においてAdvanced Management Certificate in Innovation and Entrepreneurship を取得、アメリカでの米系投資銀行におけるバンカー経験の後、2006年よりTPGキャピタルの元パートナー兼投資委員会委員、及びパートナー選定委員、TPGキャピタル株式会社の元代表兼パートナー及びマネージングディレクターを歴任。 2014年に日本産業推進機構(NSSK)を設立し、最高投資責任者、ESGコミッティー議長、および株式会社日本産業推進機構の代表取締役社長を務める。それ以外には、MITが提供している経済発展を目指した教育プログラムであるMIT地域起業創生加速プログラム(MIT REAP)の東京チーム共同委員長や、日本ハーバード・クラブのプレジデント、経済同友会会員、故稲盛和夫氏が塾長を務めた盛和塾のメンバーとしての活動などに参加。 ディレクター 岩見 誠人 NSSK参画以前はプライスウォーターハウスクーパースに勤務。監査業務を経て10年以上に亘りM&Aのアドバイザリー業務に従事。NSSKには2016年に参画し、多くの投資先の新規投資および投資後の支援に携わる。公認会計士、立命館大学経営学部経営学科卒業。 シニアマネージャー 浜村 誠 NSSK参画以前は大和証券株式会社にてM&A案件に従事。NSSKには2018年に参画し、多くの投資先の新規投資および投資後の支援に携わる。神戸大学経営学部、ノースカロライナ大学(MBA)卒業。 「富士山と日の丸」に誓った日本への想い ―― 津坂様の自己紹介と、御社を設立された経緯についてお教えください。 津坂 大学を卒業後、米国でバンカーとしてのキャリアをスタートしました、世界で最も進んだ米国のプライベートエクイティ(以下「PE」)に関わる業務に身を置き、そこで改めて日本を見つめるなかで、日本には潜在力の高い魅力的な中堅・中小企業が数多く存在することに気づきました。当時の自分の仕事と照らし合わせて考えたときに、PE投資家は、今後日本経済において重要な役割を果たすであろうし、そうであれば既にマーケットが確立されていた米国の最先端のノウハウや経験を伝えるのが自分の役割だと思い帰国しました。帰国後に代表職に就いたグローバルファンドで、グローバルに通用する投資手法、業務改善の方法などのベストプラクティスや世界の投資家の見方といった知見を蓄積し、それらをより多くの機会で活かすべく、2014年に当時の仲間と一緒にNSSKを設立しました。こうした来歴もあり、我々NSSKは「グローバル企業での投資や投資先支援の経験を有するメンバー」で構成された、「日本発の独立系投資会社」であることが特長であると考えます。 (津坂氏) ―― 御社名はとても特徴的で、会社のロゴもユニークですね。どんな想いが込められていますか? 津坂 創立以前から「日本のために仕事がしたい」という強い想いを持ってきました。我々が日本の企業をお手伝いすることで「日本のグッド・カンパニーをグレート・カンパニーへ導きたい」と。そのような想いをどう形に落とし込むかは悩みましたが、最終的には僭越ながら日本の象徴である富士山と日の丸をモチーフとしたロゴを作りました。また我々は、働く上での最も重要な指針として、「人として正しいことを貫く」ことを全ての判断軸に置いています。利益や投資リターンの追求よりも前に、自分たちの支援が投資先企業の従業員やその家族の幸せにつながるかを問いますし、従業員の皆様には誇りを持って働いていただける会社へと成長する支援をしたいと考えています。 ―― 前職の代表を務められていた頃から、NSSKを設立されて現在に至るまで、時代も大きく変わりました。日本におけるPEマーケットの現状をどのように捉えていらっしゃいますか? ここ20年で、PE業界は着実な変化と進化を遂げています。まずは、世間の見方の変化です。2000年代前半は「ファンドに買われる」という言葉に込められていたのは、いわゆるハゲタカのイメージでしたよね。そしてそのネガティブなイメージはとても強かった。しかし今となっては、誰もPE投資家をそのような悪役とは見ていないと思います。企業の成長パートナーとしての実績が積みあがる中で、徐々に良いイメージに変わってきたと思いますし、PE投資家の役割への認識が醸成されてきたように思います。 そして、事業承継案件の増加です。PE業界における事業承継案件の比率は5割以上と認識しており、我々に投資していただける投資家の方々も日本における事業承継案件のプレゼンスには大いに注目しています。事業承継案件に関与していなければアクティブなPE投資家と見做されないといっても過言ではありません。家族経営の企業や、オーナー様が一代で築かれた企業などでは、自分たちの会社をどうしていくべきかについては常日頃から議論されていると思います。一方でグローバルあるいは日本の経済の状況、国としての状況、技術の進歩など取り巻く環境の変化により、正しい舵取りのための手法や知識は様変わりしており、難易度も増しています。そのような中で、事業承継案件の担い手としてPE投資家が台頭してきており、自社の成長戦略実現のために、日本のオーナー企業にとってPE投資家を上手く活用していくことが重要な選択肢の一つになってきているともいえます。昨今のGDP低成長時代において、投資家、経営者、従業員、顧客など企業の活動を取り巻く様々なステークホルダーから期待される存在として「PEの黄金時代が始まっている」と、私はそんな風に時代を読んでいます。 世界で最も脚光を浴びている日本のPEマーケット ―― NSSKが管理するファンドには、海外の投資家も多く出資をされていると聞いています。世界の投資家は、日本の投資環境をどのように見ているのですか? 日本は世界3位の経済大国であり、透明性のある世界水準の資本市場を有し、国内消費の割合も高く、経済も安定しています。ここだけ切り取ると、投資環境としては遜色ないのですが、PE投資家が関与する案件数自体はそう多くない時代が続いてきました。近年、活動実績が積み上がってきたことで海外の投資家からの信頼を得て、ようやく彼らが日本のPEに投資する「良い条件」が揃ったと見ています。 日々生活していて自国の悲観的な事実やニュースにしばしば触れていると気づかないのですが、実はPEの世界では日本のマーケットが一番脚光を浴びていると考えています。たしかに、日本は世界各国との比較では緩やかな経済成長ではありますが、グローバルで幾度となく危機的状況が生じたなかでも、全体として安定感があり、ボラティリティが小さく、レジリエントな市場であるというのは、大きな強みであると考えています。 ―― ファンドの概要と、組織体制や陣容の特徴についてお聞かせください。 現在管理している複数ファンドの合計で約1,500億円のAUM(Assets under management:運用資産残高)を運用しています。LP投資家の過半は世界を代表する年金や政府系機関であり、NSSKへの厚い信用と信頼の証だと自負しています。主に、業務改善を支援し、投資先企業の価値向上のパートナーとして寄り添うバイアウトファンドと、ESG活動の一環として地域の活性化のために運用しているインパクトファンドに分けられます。 投資チームのメンバーは、金融、コンサルティング、事業会社など多種多様なバックグラウンドを持ち、女性も活躍しています。また、投資チームと共に大きな役割を担っているのが、業務改善を支援するNVP(NSSK Value-up Program)チームです。オペレーショナルなノウハウを最大限に活用してハンズオン支援をします。2014年の設立以来、30件を越える投資実績と世界の最新の業務改善ノウハウによって、企業ごとの最適なアプローチを創造・実装・実践しています。メンバー全員が高いプロフェッショナル意識を持ち、常に高い志と前向きな姿勢で業務に取り組んでいます。 ―― ファームによっては投資担当者がバリューアップも兼任される場合もありますが、御社のように専門人材を抱える狙いはどこにありますか? 津坂 改善のスピードや効果を考えると、専門家のアプローチが一番効率の良い方法です。その分コストはかかりますが、投資ですから必要な経営資源は投下します。投資先企業には、我々から人を派遣するのではなく、まずは投資先企業において必要な追加人材を採用していただくのが基本スタイルです。これに加えて、業務改善に深い知見を有する専門人材と、数々の投資案件において課題解決と価値向上の実績と知見を有する投資チームメンバーが一体となり、投資先を強力にサポートしていきます。 ―― これから注力される案件の形態や業界など、今後の戦略をお聞かせください。 津坂 まずは事業承継に引き続き注力します。案件数の半分程度は事業承継案件が占めるという構造は大きくは変わらないと思います。それ以外にはカーブアウトや、非上場化などの案件にも取り組んでいきます。投資対象としては、投資先企業の多様化を意識しており、幅広い業態の知識や知恵をフル活用して支援し、さらに知見を蓄えてより実力を上げていくという考えです。具体的な注力領域としては、例えばサービス業やコンシューマー事業であれば広義のヘルスケア、ウェルネス、教育といった日本の中でも重要なテーマ性のある領域や、製造業であれば成長性のあるニッチな分野で活躍している企業に注目しています。 ―― ESGへの取り組みも目立ちますが、どのような活動をされているのでしょうか。 (2022-2023 NSSK ESG 年次報告書) 津坂 ESG活動はNSSKにとって最も重要なもののひとつです。ESGに真剣に対応することは、社会的責任に応えるのみならず、投資先企業の価値向上につながるものであると真剣に考えております。NSSKは設立以来、ESGの基本方針を定め、現在は投資プロセスの一環として各投資先においてESGリスクや改善点を外部のエキスパートと共に分析し、改善につなげることで実践しております。また外部に向けては、国内のGPとして初のESGの年次報告書を毎期刊行し、NSSK投資先企業の従業員によるESG活動の成果と取り組みを報告しております。さらに、日本国内の活動のみにとどまらず、国連が支援するPRIに署名しており、日本のGPとしては初めて、インパクト投資の運用原則に署名し、さらに2022年2月には同原則のアジア太平洋地域の議長に選任されました。このように、PRI 及び IFC といった外部機関と協調し、我々のコミュニティ及びアジア地域における ESGを推進しております。 社内にESGを専管するチームを設けそのチームが中心的に活動していますが、組織として浸透させ、実践していくためにも、私自身がNSSKのESGコミッティー議長を務め、あらゆる活動に積極的に参加しております。活動規模も、投資先が増える中で多様化しております。例えばNSSKグループの投資先全体として、雇用社員数が12%増加しています。女性従業員や女性管理職比率の向上も積極的に推進しており、CEO/COOの40%が女性またはマイノリティ、全投資先12,000人以上の従業員の70%が女性、管理職の35%が女性です。これは、私たちが最初にこれらのビジネスに投資したときと比べると、大きな増加です。ESGの取り組みは奥深く、状況を把握し、目標を定め、達成の方策を検討し、実践するという、投資先の価値向上のための方策と全く同じアプローチで、着実な取り組みを続けることが重要と考えています。投資先企業における意識も着実に高まっており、我々も責任ある行動を実践できていると実感します。 経営支援の実績とフィロソフィーへの共感から繋がった縁 ―― では、最近フーリハン・ローキーがエグジットのお手伝いさせていただいた、ウェルネス分野「Welfareすずらん」様を例に、ご担当者から詳しく御聞かせいただきます。簡単に自己紹介をお願いします。 岩見 当社入社前は、PwCグループで会計監査やIPOの支援業務に携わった後、PEファンド向けにM&Aアドバイザリーに従事しておりました。2016年に当社に参画し、8年目に入りました。 浜村 同じく入社前は大和証券でM&Aアドバイザリーを行い、よりプリンシパルの立場から携わりたいと2018年に当社に参画し、その後、一貫して投資チームで案件に従事しております。 浜村氏(写真:左)と岩見氏(写真:右) ―― Welfareすずらん様ついて教えてください。 浜村 Welfareすずらん様(以下、すずらん様)は2011年に設立され、名古屋市を中心に介護事業を展開されています。「全従業員の物心両面の幸福を追求し、利用者様、全ての方々の健康増進に全力を尽くす」を企業理念に掲げ、住宅型有料老人ホーム、障がい者グループホーム、認知症対応型グループホーム等計12施設を展開しております。主力である住宅型有料老人ホームでは、施設に訪問介護・訪問看護ステーションを併設し、協力医療機関との連携を行いながら、充実した在宅療養体制を構築しているのが特徴の一つです。要介護者だけでなく精神障害者、身体障害者、認知症患者、難病患者等が適切な医療・介護サービスを低価格で受けることができる体制を構築しており、高収益かつ高い入居率での運営を実現しています。 ―― 投資の経緯を教えてください。また、どのような課題を抱えておられたのでしょうか。 岩見 日本全体で要介護ニーズが高まる一方、高齢者向けの住まい・施設の供給が不足しており、需給ギャップの解消のため業界は活況です。一方すずらん様に於かれては、事業が順調な中でも、個人経営ならではの課題を感じられていました。例えばオペレーションの最適化、経営管理の効率化、高稼働を維持しながらの施設展開、組織的な人材育成など、今後に向けて課題解決のためのパートナーを探しておられました。ご縁あって面談の機会をいただき、NSSKとしての多店舗展開型の投資先への豊富な経営支援の実績があること、特に同じ介護業界の会社として、サービス付き高齢者住宅を中心に関東圏で当時140以上の施設を展開していた株式会社ヴァティーでのNVPでの実績等を踏まえ、NSSKであれば安心してパートナーになってもらえると創業者兼社長の田渕氏からご評価頂き、共に新たなスタートを切ることになりました。また、すずらん様とNSSK、両社ともに京セラ創業者の故稲盛和夫氏のフィロソフィーに深く共感し、強く影響を受けた企業理念を掲げていることから、企業文化に大きな親和性があったことも、当社を選んでいただいた理由の一つかと思います。 ―― 実際に、どのような支援をされたのですか? 岩見 経営の見える化を通じた組織的な経営管理、施設展開、訪問看護売上の強化、人財補強、人材育成・教育、ESGを中心にご支援をさせて頂きました。例えば、経営管理や人材補強についてですが、毎月の予実管理や月次決算の早期化等、経理プロセスやフローの改善・見える化が必要であったことから、NSSKの人材ネットワークを活用し、上場会社の執行役員経理部長等を経験していた方を幹部メンバーの一人として管理部長のポジションに補強させて頂きました。経理業務に留まらず、採用や人材育成、行政手続き、法務、総務などの管理部門の業務の責任者として活躍頂き、効率的かつ生産性の高い経営管理の大きな改善につながったと感じております。 また、介護は人のビジネスですから、人材教育が肝になっています。施設長及び施設長候補等の中間管理職の育成の一環としてリーダーシップに関する教育プログラムを新たにスタートさせたほか、長年に亘って稲盛氏の右腕として活躍してこられ、当社のチーフコーポレートフィロソフィーオフィサーである大田主導の元、NPP(NSSK Philosophy Program)を実践しました。フィロソフィーを体系的に学び、仲間とのディスカッションを通して、人材教育の基盤となるフィロソフィーへの理解が深まり、会社全体が一つの方向へ進む力が生まれます。すずらん様には以前から企業理念やフィロソフィーブックというものも存在していましたが、これをきっかけにフィロソフィーブックの改訂も行い、すずらん様の人材教育の基盤づくりに貢献できたと考えております。 ESGについては、従業員数、女性の管理職比率、女性の従業員比率をKPIとして設定し、継続的な改善に向けた取り組みを行いました。結果的には、NSSKの投資期間において従業員数は約40%の増加を達成しており、また女性の管理職比率、女性の従業員比率についてはそれぞれ約40%及び約80%と高い水準で維持することができております。また他にも、訪問介護記録ソフトの導入によりサービス実施記録のデジタル化を推し進めることで、サービス実施記録用紙の使用力削減等のペーパーレスに向けた検討などを行っておりました。 私たちの役割は、投資先の更なる成長のための基盤作りです ―― 今般、支援が順調に推移してエグジットに至られたと思いますが、エグジットに対する考え方を教えてください。 岩見 我々のエグジット後、投資先がいかに成長を続けられるかどうかを第一に考えます。そのための基盤作りをすることが自分たちの役割だと思っております。 本件に関しては、3年間の投資期間で売上高は約1.5倍に、EBITDAは約2倍まで拡大し、元々想定していた経営支援が一旦節目を迎える中で、すずらん様の更なる成長のためには新たなパートナーの元で次のステージに進むことが重要であると考え、エグジットプロセスの検討を始めました。 すずらん様のパートナーとなられたリコーリース様は、長年に亘り医療・介護業界向けのリースサービスや介護報酬ファクタリングサービスを提供されておりますが、自社での介護事業の運営自体は初の試みです。すずらん様と一緒になることで、既存のサービスの一層の強化と施設運営をも取り込んだサステナブルなサービス開発が可能となります。またすずらん様にとっても、リコーリース様の医療・介護業界で展開する事業部門との連携や、堅牢な財務基盤、信用力を背景としたファイナンスサービス等を活用し、更なる成長、企業価値向上を実現していけるものと感じております。 ―― 介護業界に対し、どんな展望を持っていらっしゃいますか? 岩見 高齢化の進展により介護業界へのニーズは非常に高まっており、日本全体が抱える様々な周辺課題に対してPE投資家が果たせる役割があると考えています。高齢者にとっての重要な公共インフラである介護施設を拡大して、更に地域コミュニティへも貢献するといったビジネスモデルを今後も継続していきたいです。介護業界のみならず、ヘルスケア全体に対しても引き続き注目し、我々の知見や経験、ネットワークを最大限活用して確かな経営支援を担っていく所存です。 皆さまへのメッセージ ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。 津坂 産業や事業を問わず様々な課題があり、それは多様化・複雑化しています。ですが、現代は情報が豊富にあり、かつ、情報を容易に手に入れられる時代ですので、Nothing is impossible!だと考えています。解決に向けて策を練り、リソースを与え適任人材を置けば、難しい状況を変えていけるのではないでしょうか。我々は、不可能を可能にするお手伝いをしたいと思っています。 以上 日本産業推進機構https://www.nsskjapan.com/
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- 2022.06.30
日本の未来に挑戦しつづける金融フロンティア
株式会社日本政策投資銀行企業投資第1部長 新美 正彦 1994年日本開発銀行(現 ㈱日本政策投資銀行)入行。2002年留学修了以降、事業再生部(現 企業投資第1部)・企業投資部(現 企業投資第2部)・日本航空出向等にて、一貫して投資フロント業務や再生案件に従事(エクイティ投資、メザニンファイナンス、再生企業への出資やDIPファイナンス、LBOファイナンス、ファンドへのLP出資等)。早稲田大学政治経済学部卒、ロンドンビジネススクール修士(ファイナンス) 株式会社日本政策投資銀行企業投資第1部 課長 村尾 洵一 2005年日本政策投資銀行入行。2012年留学修了以降、企業投資部(現 企業投資第2部)・企業投資第1部で投資フロント業務に従事(バイアウト、グロース投資、顧客との共同投資、メザニンファイナンス等)したほか、業務企画部で投資企画業務(予算・戦略策定、投資委員会運営等)に従事するなど一貫して投資関連業務全般に従事。東京大学経済学部卒、UCLA修士(MBA) 「金融力で未来をデザイン」したい ーー 自己紹介と御行に参画された経緯についてお聞かせください 新美 1994年に当行の前身の1つである日本開発銀行に入行しました。セクターカバレッジのようなフロント営業に加え、審査やリスク管理等の経験を積み、留学を挟んで2002年以降は、投資部門で20年ほど勤めております。 村尾 私は2005年に入行しました。当時から当行はユニークなプロダクトを扱っていたため、他行に比べ珍しい経験ができそうだと期待を持ちました。私も留学を経て投資部門に入り、フロント業務の他に投資企画等のミドル業務を含め、10年以上、この世界に携わっております。 (写真左:村尾洵一氏/写真右:新美正彦氏) ーー 次に社内体制についてお伺いします。投資部門には何名ほど在籍されているのですか 新美 当行の企業投資部門と100%出資のベンチャーキャピタル(以下、VC)であるDBJキャピタルなどを併せ、フロント業務とアドミ業務に携わっている担当者総勢で100名程度の規模です。 企業投資部門は機能別に第1部~第3部に分かれます。企業投資第1部は主に特殊なファイナンス全般を扱っており、メザニン、LBOのようなM&Aファイナンス、事業会社との共同投資案件や再生ファイナンスを担当しています。企業投資第2部はもう少しエクイティ寄りで、キャピタルゲイン重視型の案件を取り扱います。レイタ―ステージにあるベンチャーにグロース投資をしたり、東南アジアなどのクロスボーダー案件も取り扱います。企業投資第3部は、主に地銀や事業会社と共同でファンドを組成・運用しています。東日本大震災後には、東北3県と茨城県の各地銀と、震災復興ファンドを共同で立ち上げ、被災した会社にリスクマネーの供給を行いました。 いわゆるセクターカバレッジの営業部隊は、担当セクター別に都市開発部、企業金融第1部から第6部、全国の支店に分け、企業投資部門とは連携しながら活動しています。 ーー 皆さまが大事にされている理念や価値観をご紹介いただけますか 新美 私どものミッションは「金融力で未来をデザイン」すること。つまり、様々な金融の解決策を提供して、お客さまの未来の成長につなげていくことです。役職員全員が「Initiative and Integrity (挑戦と誠実)」を胸に刻み、業務に取り組んでいます。シニアローンからエクイティまでお客さま本位の様々な解決策を「フレキシブル」に提供できることと、特定の財閥や企業グループに属しておらず、「中立的な立場」で等しくお付き合いをすることが我々のスタイルです。 金融の受け皿として、大いなるフレキシビリティを発揮する ーー 御行はファイナンスとエクイティの両方を扱われており、金融機関的なアプローチも投資ファンド的なアプローチも取ることができます。一般的に銀行は、どこも同じようなソリューションが出せると思われがちですが、他の金融機関にはない特徴があればお聞かせください 村尾 大きな特徴はフレキシビリティです。そもそも当行は、「民業を補完すること」を基本としており、補完というミッションを果たすために小回りのきいた組織で非定型的なニーズへの対応力を磨いています。シンジケートローンなどの確立された分野においてはメガバンクの方が得意とすることが多い一方、まだ「こなれていない」分野については誰も対応できないことが多く、結果として非定型的なニーズにフレキシブルに対応できる当行に任される事例が多くなっています。また、私どもは必要があれば議決権比率などに捉われることなくファイナンスからエクイティにまたがった複合的なソリューションの提供が可能で、実際にそのような議決権に関するフレキシビリティが寄与して成立した事例が増えてきています。 新美 我々はプロダクトありきで提案するのではなく、お客さまのニーズ、B/Sの状況や今後の計画について議論を重ね、深く考察した上で、柔軟な提案を行うことができるのが特徴と言えると思います。 ーー ありがとうございます。次にエクイティに着目した場合、一般のPEファンドと比較して御行のスタイルに特徴があれば教えてください 新美 PEファンドは100%のバイアウト、もしくはそれに準じたマジョリティーを取るのが基本スタイルだと思いますが、私どもはこれに限らないというのが大きな違いです。例えばPEファンドや事業会社がマジョリティーを取り、何かしらの事情により当行にマイノリティーを引き受けてほしいということになれば、それにも対応しています。 ーー PEファンドは投資家からお金を預かり、コミットしたリターンを実現するために投資をしますが、皆さんがフレキシブルなのは、そういったリターンの要求が通常のPEファンドとは異なるからなのでしょうか 新美 そこは良いポイントなのですが、「DBJはリスクに見合ったリターンをいただきます」というのが我々の考え方です。リスクに見合った適正なリターンがあげられることを、お客さまのB/SとP/Lを基に確認する作業を地道に積み上げて判断しようという思想であり、決して同じリスクを前に、我々は低いリターンでよいという発想はありません。リスクが低ければリターンも低くて構いませんが、リスクが高ければ、我々も当然高いリターンをいただきます。 ーー 投資を受ける側からすると、リターンと並んで「投資期間」も気になります。どの程度が標準的な保有期間なのか、一般のファンドと比べていかがでしょうか 新美 「我々はいつまでも持ち続けます」ということはありませんが、PEファンドのようにファンド期間等の制約を受けるわけでもありません。従って、最初にご相談を受ける段階で、お客さまの考え方やニーズに対して我々ができることを確認し合い、その際にイグジットの目安についても会話をさせていただきます。投資後も状況に応じて会話を継続させていただき、一言で申せば「フレキシブル」というのが答えになります。 村尾 実態としては、投資の意思決定の時点においては、投資期間は大体5年とするケースが多くなっています。というのは、PMIが落ち着くまでというように、お客さまのプロジェクトが一区切りつくまで伴走してほしいというニーズが多く、それが5年程度であることが多いためです。とはいえ、投資後の状況変化によって、結果的に投資期間が2、3年で終わる場合もあれば、10年を超える長丁場となる場合もあります。 DBJの投資スタイルを支える「柔軟なスキーム設計力」 ーー 随所に「フレキシブル」な姿勢を感じるお話が続いております。実際の投資事例を踏まえてもう少しご説明いただけますか 新美 2013年の『リクシルによる独・グローエ買収』の事例をご紹介します。グローエは高級なシャワーヘッド等を取り扱う、欧州でも有数の水栓金具メーカーで、当時PEファンドが保有していました。リクシルは以前からグローエに関心を寄せておられ、PEファンドのイグジットのタイミングで手を挙げられました。しかし、トータルで3,000億円を下らないディールサイズの大きさ、グローバルビッドプロセスに求められる限られた時間軸、その他多様なご事情等、ディール遂行にあたり様々な難しさがありました。そこで、求められる条件を満たすようなスキームを考案し、シニアはメガバンクが担当し、エクイティに関して当行分は議決権付優先株として、リクシルと共同買収する体裁を取りました。数年後、リクシルは当行分を買い戻し、晴れてグローエを完全子会社化しました。 ーー リクシルは場合によってはPEファンドと組むオプションも取りえたと思いますが、御行にサポートを依頼された背景にはどのような期待があったと考えられますか 新美 リクシルは、ファンドと組むとはあまり考えていなかったと記憶しています。なぜかというと、この状況であれば、通常ファンドは「リクシルと組んでもいいけど、マジョリティは我々ですよ」という提案をしてくることが予想されますし、仮に後年ファンド持分をリクシルが買い取る場合には、更に大きな金額を持ち出す必要があるという危惧があったと思います。 村尾 一般的にPEファンドは経営の支配権を握りたいという傾向がありますが、リクシルには自身でこの会社をマネージしたいという意向がありました。私どもはPEファンドと異なりお客さまのサポート役に廻ることも可能なので、こういう我々の立ち位置がリクシルにとって心地良かったのではないかと考えられます。また、リスク・リターン設計という側面においても、PEファンドはある程度のリスクを取って高いリターンを作るという設計が基本形のところ、私どもはリスクから起算して、取れるリスクを選別した上で、そのようなリスクにマッチした、ある程度コントロールされたリターン設計のオファーをしました。結果的に、リクシルにとってその資本コストが受け入れられやすかったということが、手を取り合えた理由ではないかと思っております。 ーー 日本企業が海外投資を検討する際、日本のPEファンドは投資対象が国内に限定されているため対応できない、一方でいきなりグローバルファンドと組むこともハードルが高い、かといって通常のファイナンスでは限界があるなど、リスクをシェアできる金融機関を見つけるのは難易度がとても高いと感じます。まさにそこに皆さまがソリューションを提供されているようにも見えるのですが、特に海外投資に対して強みがあるということでしょうか 村尾 もちろん、「海外企業の見極め力」を付けて勝負したいとは思っており日々グローバル案件審査力を磨いてはいますが、どちらかというとスキームの設計力が鍵となっていると思っております。例えば、熟知しているわけではない海外プロジェクトにおいて、様々なリスクを「取れるリスク」と「取れないリスク」に分類したうえで、そのようなリスクの分担を共同投資パートナーと相談することで、案件をサポートできるように組み立てられます。我々には投資戦略上の制約がないため、柔軟な設計力と機動的な意思決定をもって海外案件を検討することができる、このように理解しております。 「日本の資本市場を広げる取組」としてのグロース投資 ーー ありがとうございます。他にもご紹介いただける事例はございますか 新美 5、6年前になりますが、『メルカリ、スマートニュース、ラクスルという、レイターステージにあったベンチャー向けにグロース投資』をした事例です。いわゆるユニコーン級の企業に、さらなる成長資金として数十億規模の資金ニーズがある場合、2022年の今でこそVCやPEファンドも実績がありますが、当時は対応できるプレイヤーがきわめて限られていました。当行は中長期的な視点を持った投資を設計し、彼らのR&Dや海外ビジネスを広げる支援も行いつつ、結果としてメルカリもラクスルも上場を達成しました。 ーー ベンチャー投資の場合、当然通常の会社よりはリスクが高いと思いますが、そういったこのリスクの目利きや成長の見極めについては、専門的な部署で行われているのでしょうか 新美 それは非常に鋭いご質問です。少額のVC投資以外は通常案件同様に当行の審査部門の目を通すことになりますが、「なんだこれは?そもそも赤字じゃないか!」というところで議論が止まってもおかしくないところ、当時、専門チームを発足させたわけではありませんが、VCの経験者を含め、かなりの人的リソースを使って調査をし、考え方を整理しました。 村尾 このクラスのベンチャー企業は、いわゆるアーリーステージのスタートアップと違って、黒字化こそはしていませんが、ユーザーの獲得や定着等、やるべきビジネスプロセスは十分進捗していることが多くなっています。アーリーステージの投資に求められるような目利き力に依拠しなくても、標準的なDDをしっかりすれば、DBJのようなVCを本業とするわけではない金融投資家にとっても十分理解できる、十分インベスタブルなアセットとして検討できるのではないかと、我々は捉えています。ただ当時は金融業界でもそのような認識は今ほど普及しておらず、結果として大型スタートアップの資金調達は難しい状況にありました。いわば当時の我が国の資本市場に未成熟な部分があったなかで「駆け込み寺」的に当行に相談が来て、VC的な目利きに依拠し過ぎずあくまで通常水準のDDを行い、それで十分説明に耐えたので投資を決めました。 新美 こういった案件の発展形として、例えばUniposに対してSansanと共同で大規模増資に応じる等、SaaS領域のグロース企業との連携事例も出てきています。視座を高めますと、戦後の日本経済を支えてきたのは製造業でしたが、徐々にサービス業のウエイトが高くなって、ひょっとすると今後は、このようなICT産業がGDPのかなりのウエイトを占めてくる日が来るかもしれませんので、このような会社がしっかりと成長していくためにサポートしていきたいと考えております。 金融業界で無二の存在であるために ーー さて、政府系ということで、民間の投資ファンドや金融機関との距離感や役割分担には難しさがあると思いますが、これに対して皆さんはどのようなお考えをお持ちでしょうか。 新美 私どもは、例えば民間の金融機関、銀行、あるいは民間の金融投資家の方々と常に連携し、協調することを原則としております。基本的に、我々が機会を独り占めすることはありません。引き受け手がなく単独になりそうなケースでも「一緒に動きませんか」というお声かけを基本動作として行っております。 村尾 他の金融機関との連携を組織レベルでオペレーションに組み込んでいます。投資委員会でも、必ず投資家やプロジェクトの顔ぶれをテーブルに並べた上で、DBJの立ち位置について常に点検しています。 今日ご紹介した事例のように、既存の仕組みやプレイヤーだけでカバーできないニーズは存在しますので、それに積極的に関与し、挑戦することが当行の使命・存在意義だと考えています。 皆さまへのメッセージ ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします 新美 M&Aに限らず、事業の一部を切り出したい、財務改善をしたい、あるいは会計的、ガバナンス的な歪みを正したいなど、会社によって様々なテーマや課題をお持ちだと思います。我々は、例えば設備投資をするときの資金調達や株式、事業承継に必要なファイナンスなど、様々な局面で「フレキシビリティ」「中立性」を活かし、ご相談に乗りたいと思っています。お気軽にお声掛けいただきたいなと思います。 村尾 これまでお客さまに喜んでいただいた案件のほとんどは、最初は混沌とした状態で、けれど期日は刻一刻と迫っているという難しい状況から始まったものが多かったように思います。その混沌としたところを解きほぐすのがDBJの得意なスタイルでもありますので、ぜひ、ご相談いただく内容がうまく整理できていない場合であっても、遠慮なくお話いただければと思います。 以上 株式会社日本政策投資銀行https://www.dbj.jp/
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- 2022.05.26
日本企業の競争力強化に真正面から応える官民ファンド
JICキャピタル株式会社代表取締役社長CEO 池内 省五 JICキャピタル参画以前はリクルートホールディングスに32年勤務し、取締役専務執行役員、顧問を歴任。主に、海外展開とデジタルトランスフォーメーションを推進、経営企画及び人事の責任者を務める。内閣府「構造改革評価報告書」タスクフォース委員、経済産業省「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会」委員。京都大学大学院工学研究科修士卒。 M&Aをした会社が成長しないと意味がない ーー 自己紹介とJICキャピタルに参画された経緯についてお聞かせください。 池内 1988年にリクルートに入社して以降、経営企画をキャリアの中心軸として、事業会社の買収や売却、資本業務提携などに数多く携わってきました。後半の10年間ぐらいは、リクルートというドメスティックな会社を如何にグローバル化させるか、アナログな事業体をどのようにデジタルトランスフォーメーション(DX)させるかという2つを、最重要テーマとして取り組みました。2020年に取締役を退任するタイミングで、「事業会社の経営者でM&Aに多少なりとも取り組んだ」経験に着目されたJICからお声掛けいただき、参画しました。 ーー リクルート在職時に取り組まれたグローバル化やDXは、まさにJICが民間企業をサポートする際のアングルと重なるのでしょうか。 池内 はい、ある意味で、私の経験は役に立つのではないかと思っています。前職で様々な案件を手掛けましたが、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)については、正直成功した案件はあまり多いわけではありません。20戦して本当に勝ったのは2割ぐらい、負けたのが半分、残り3割は引き分けという印象です。引き分けというのは、経済的に損はしていないけれどもリターンもなかったという意味です。買収する際には、それなりのコストと時間を掛けてデューデリジェンスを実施し、コストダウンの試算や売上シミュレーションを行いますが、想定通りになることは殆どありません。それほどに、クロージング後の事業会社の経営とは非常に不確実性の高いケースが多く、思ったようにコストが下がらない、要の人材が辞めてしまう、競争環境が劇的に変わるといった想定外のことが色々起こるのです。このような問題を経営陣が如何に解決していけるか、これがPMIを大きく左右します。リターンを出すということも金融投資家的には重要な視点ですが、僕は事業会社での経験から、「買収した会社が成長しないと全く意味がない」という感覚がとても強いですね。 「日本企業の国際競争力の向上」を見据えて ーー JICキャピタルと親会社であるJICとのご関係をお聞かせください。 池内 JICは、位置づけとしてはホールディング会社で、その傘下に、ベンチャー・グロース(JIC Venture Growth Investments)とバイアウト・ラージグロース(JIC Capital)などの機能会社を抱えています。JICは全体の政策方針を決定することが役割で、JICキャピタルは主にPEとして比較的大企業様を対象に投資を検討させていただいています。またJICの別の役割として、他国と比べ圧倒的に少ないと言われるリスクマネーの供給という機能があります。併せて、実績のある民間ファンド等に対してLP投資を行い、民間投資を通じて、産業の活性化を目指しています。 我々の極めて明確な特徴として、産業競争力強化法に基づき、「日本企業の国際競争力の向上」や「代表的な産業の再編を加速させる」といった視点を持ち、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指す「Society5.0」の実現という「政策投資意義」が強く問われているファンドであるという点があります。 実際にはバイアウト投資が中心ですが、それ以外にもグロース投資やデジタル化の加速に応える5GやIoTといったリスクマネーが不足する次世代社会インフラなど比較的幅広いアセットクラスをカバーするのが特徴です。現在25名の投資プロフェッショナルがほぼすべてのインダストリーをカバーし、ディールのソーシングやエグゼキューションを日夜行っています。 JICとJICキャピタルの協働については、JIC本体にある調査室との連携が挙げられます。産業の構造変化や将来の見通しなどを調査・分析し、我々がどのように関与すれば国際競争力を上げていけるのか、産業の再編が進むのかをシナリオ化し、課題への突破口を探しています。同様の取り組みとして、経済産業省とも数か月に一度は意見交換しています。 ーー 民間ファンドにおいては特定のセクターフォーカスを持つところもありますが、貴社はいかがでしょうか。 池内 プライオリティはつけています。例えば半導体という産業は、日本の国家競争力、ひいては経済安全保障という側面でかなり重要な産業だと思いますし、他にはカーボンニュートラルをプロジェクト化し、我々の投資により、脱炭素社会を実現できるか検討しました。検討期間を区切り、リソース配分の軽重をつけ、自分たちが掘り起こさなければいけない分野にフォーカスするよう心がけています。 ただ、産業が構造的課題を抱えているからといって再編が起こるかというと、実は別問題という現実があります。「べき論」だけで進めても、全く再編が進まないということが起こります。一方で案件が発生しやすい局面にある産業もありますので、そのあたりの実情を考えないと、案件のソーシングに非効率性が生じることになりがちです。産業構造論だけで議論し、提案をしても成果に結びつかない、これは他のPEでも悩ましい課題ではないかと思います。 ーー ファンドという形式上、当然リターンというのは必ず出てくる話かと思いですが、一般的なPEのようにリターンありきではなく、大規模かつ中長期のリスクマネーを供給するということ念頭に進められているのですね。 池内 それが我々の役割だと思っています。 当社は一般のPEと違って、リターン計算においてIRRを指標にしていません。IRRを用いた場合、相対的に短期的な時間軸でリターンを追うことになり易いからです。当社は、実投資額に対する長期の回収倍率(Multiple of Capital:MoC)を経済的指標として用いています。例えば2千億の投資枠があった場合、10年後に1.5倍ぐらいの回収を目安に経済的リターンを考えています。この数字は一般的なPEの水準よりは低いと思います。これには色々と議論があるかと思いますが、基本的に、経済的リターンより政策投資意義、つまり日本企業の国際競争力とかSociety 5.0に資するかどうかの視点を優先させつつ、一方で最低限必要な経済的リターンは獲得するというバランス感覚で経営しています。投資委員会においても、本当にこの案件は政策投資に値するのかどうか、値するならどのように具体的な産業再編が実現できるのかなど、かなり執拗に議論する傾向が強いですね。 ーー 中長期的なリスクマネーの供給という観点からすると、運用期間が10年であるとか投資期間が5年というのはすごく短く見えるのですがいかがでしょうか。 池内 ええ、本当はもう少し長くしてほしいです。例えば洋上風力発電への投資は、実際に用地の取得から施工、運用に乗せるまで最短でも8年以上かかると言われていますので、10年償却のファンドでは結構難易度が高いです。もう少し長めのファンドを用意するなど、幅広に検討していく可能性はあるのではないかと思っています。 ーー 官民ファンドに関しては民業圧迫だということも耳にしますが、リターンの考え方も違えば、そもそも求める投資意義も全然違っているということですね。 池内 我々は「この投資が自分たちの存在意義にフィットするかどうか」を最も重要な判断基準としています。ただ、過去実際に民間PEとコンペになることがありましたし、たぶんこれからもあるでしょう。民業圧迫という意見に対しては、「クライアント企業から見て我々が必要でないケースなら、我々は手を挙げない」と整理しています。つまり他の民間PEが入札されているところに対して我々も手を挙げることを検討する場合、「先方企業がJICキャピタルという政府系のファンドを必要としているか」を必ず確認し、ディールに参画するかどうかを見極めます。そこで民間だけでよいと言われたら我々は参画しない、そういったスタンスを守っています。 「政府系ファンド」のもたらす安心感 ーー 企業の立場から見て、貴社を選ぶことにどのようなポイントや付加価値があるのでしょうか。 池内 おそらく、「政府系ファンドの安心感」だと思います。我々のお金の出どころは主に国です。日本の産業競争力を引き上げられるかという視点で、長期に渡って最後まで伴走できることが、相対的な差別化要素だと考えています。例えば、日本にとって未来の一つの基軸になるような非常に重要な「機微技術」と言われるものを大企業や中堅企業が保有しているケースは多く、そういった技術を海外に流出させず、保持したいというニーズは高いです。政府系ファンドという看板を背負っている以上、それを第三国に売却しないという方針や、リストラクチャリングが必要なケースにおいて、現実感のあるリストラクチャリングを対象企業の経営陣の納得感を獲得しながら進めて行くというスタンスなどが、クライアント企業に安心感を持っていただける源泉ではないでしょうか。差別化というよりは他社とはポジショニングが少し違うということかと思います。 また、我々は、必ずしも単独で投資したいと思っているわけではありません。例えば外資のPEがマジョリティを取り、我々がマイノリティを取ることが、クライアント企業にとって意味がある、または、企業価値を最大化しうる場合があります。政府系ファンドを参画させることによって、業界再編を進めながらも機微技術を日本から出さないとか、現場から納得感が出るような実効性あるリストラクチャリングを進められるとか、そこに我々の存在意義があるのではないかと考えます。 ーー 投資後のオペレーションへの関与の仕方に、何か特徴的なスタイルはありますか。 池内 JICキャピタルは、まだPEとしては歴史が浅く、2020年の9月に立ち上がったばかりで、どんなファンドなのかというバリュー・プロポジションがこの数年で問われると思っています。 リクルート時代に、会社や事業を買収後にどうやって現実解として価値創造していくかが圧倒的に重要だと学びました。バリューアップ実現の道筋をつけるために、自分自身の経験やノウハウを何とかこのファンドの中で生かし、組織知にしていけるかが今のチャレンジです。 自分たちの価値は、本来、経営陣のみならず、現場の中堅クラス、部長や執行役員といったリーダーの方々と徹底的に議論をし、適切なソリューションを見付けて、それをやり切ることにあると考えています。やり切る「覚悟」とか「胆力」のようなものを強く持ち、もしこれをやって駄目ならすぐ修正する、そしてまたチャレンジするというPlan-Do-Seeのサイクルを、高いエネルギーとコミットメントで続けていく。言うのは簡単ですが難易度は極めて高いと実感しています。こういう実行困難なエグゼキューションを提供価値のど真ん中に据えるファンドでありたいですし、お客様に価値貢献ができるような組織に自社を成長させていくということが自分の責務です。 ーー PEはアドオン買収が成長戦略の一つの鍵になるかと思います。アドオンも当然ケースバイケースでやられると思いますがいかがでしょうか。 池内 アドオンをするにしても、絶対的に事業軸が重要ですね。そもそもスタンドアローンで成長させられない会社が、ロールアップで簡単に成長するとは考えていません。まずは、買収した会社を単独で成長させられなければ、PEとして買収する意味はあまりないと思います。再生・再成長を実現してこそ、PEとして価値を認めていただけると思います。「リターンが取れるかどうか」は、投資家サイドの論理であり、事業会社から見れば、自社が成長できるかどうかが全てです。成長を実現できなければ、自分自身も結果責任を取らなければいけないと考えています。 ーー 他の政府系の方と違う点があるとすれば、どのような点でしょうか。 池内 基本的にはDBJ様でもJBIC様でも、協業できる部分はあると思っています。出資は分担しても、自分たちの重要な役割はやはりPMIでバリューアップを実現することだと考えています。そのためには、バリューアップの重要プロジェクトには、PMIチームを派遣し、現場の責任者の方々と一緒に価値向上の実現を果たしたいと考えています。片道切符というと大げさですが、そういう強い覚悟で買収した会社に入り、現場の中間管理職の方々と一緒に汗をかく経験を通して、初めてPMIの本質的な難しさとか勘所が分かっていくと思っています。 政府系の各社は、そもそも成り立ちや特性が違うので、夫々の役割やミッションに応じて、産業再編などの大きな目的を達成するために、お互いの強みを有機的に組み合わせる事は十分出来ると思います。 皆さまへのメッセージ ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。 池内 自分の経験上、関連会社の売却やカーブアウト、大規模な資本業務提携といった社運を賭けるようなディールを現実に意志決定することの難しさはとてもよく理解できますし、企業価値ベースで結果を出すことは、本当に容易ではないと思います。しかし、10年ぐらいの長期的な時間軸で、自分自身の会社の企業価値をどれくらいの水準まで、どのように成長させていくかのグランドデザインを描こうとする際、多くの企業にとって、事業ポートフォリオを再編することは、直面している最大の課題なのではないでしょうか。つまり、長期的にここは絶対成長させるという領域を決めて、経営としてリスクを取って、他社の買収も含め、相応の規模の事業投資を行い、10年くらいかけて、国際競争力を圧倒的に高めていく。その一方で、残念ながら競争力が構造的に劣後していく事業は、他社へ売却したり、資本業務提携などを含めた再編を実現していくことが、市場から求められている経営のアジェンダになっています。こういった再編を実現していかないと、日本の産業や企業のグローバル競争力は向上しないという実感があります。 長期的継続的な成長と発展について悩まれている経営者の方々は多いと思います。まずはお声掛けいただいて、長い目線でディスカッションさせて頂き、そのうえで我々の活用を一つの選択肢としてお考えいただけるとありがたいです。 以上 JICキャピタル株式会社https://www.jiccapital.co.jp/
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- 2022.01.12
日本型投資で「いい会社」を共につくる
インテグラル株式会社パートナー 山崎 壯 2000年代前半よりプライベート・エクイティ投資に一貫して従事。投資実務に加え、投資先企業の経営陣に参画しての常駐での企業価値向上、機関投資家からのファンドレイズについても豊富な経験を持つ。産業再生機構にて、中堅製造業等の事業再生案件を担当。デューデリジェンス、事業再生計画の策定、投資の実行、投資先へのハンズオンでの経営支援、投資のEXIT実行等の一連の業務を担当した。産業再生機構以前は、デロイトトーマツコンサルティング(現・アビームコンサルティング)戦略ビジネス事業部等にて、主に自動車/小売/専門商社/銀行のコスト削減、在庫削減、業務プロセス改善等の業務改革プロジェクトを担当した。 パートナー 早瀬 真紀子 国内大手銀行のM&Aアドバイザリーのクロスボーダーチームにて、重機・ハイテク業界の国内外のクライアントの子会社売却、事業部買収、会社再生などを手がけた。その後、米系コンサルティング会社の国内・海外オフィスで消費財、金融、ハイテク、自動車業界の戦略立案、新規事業開発、業務効率化プロジェクトなどに携わる。創業後まもないインテグラルに参画。 ディレクター 池田 篤穗 2008年より新日本監査法人において、主に大手物流グループ、自動車・建機部品メーカー及び商社等に対する法定監査業務・内部統制監査業務に従事するとともに、管理体制強化や予算管理・原価計算の精緻化等のアドバイザリー業務を担当。 ダイバーシティ溢れる日本発のプロフェッショナルチーム (写真左から池田篤穗氏、山崎壯氏、早瀬真紀子氏) ーー 皆さまの自己紹介と貴社に参画された経緯についてお聞かせください。 山崎 2009年7月にインテグラルに入社しました。新卒ではデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)でBPRなどに従事し、2004年に産業再生機構に転職しました。地方の中小企業さんに再生のための投資などを進めていましたが、2007年に再生機構は解散し、その後ハーバード・ビジネス・スクールに留学しました。機構で経験した「投資をして企業の価値を上げる」という仕事に非常にやりがいを感じていたため、ビジネススクール卒業後にそのような業界や外資系ファンドなどの門を叩きましたが、リーマンショックと重なり採用が凍結になってしまいました。そんな折、ちょうど1号ファンドの立ち上げ最中だったインテグラルの紹介を受けました。現パートナーの山本や佐山はユニゾン・キャピタルやGCAといったM&A関連で非常に有名でしたし、辺見の講演も聞いたことがあり知っていたので、このメンバーだったら面白そうだなと思い、参画しました。 早瀬 インテグラルの創業直後の2007年12月に入社しました。新卒ではさくら銀行(現三井住友銀行)での支店配属から始まり、その後M&A関連の部署に異動した際の直属の上司が、現パートナーの山本でした。彼は一年足らずでユニゾン・キャピタルへ移ってしまいましたが、そのときの縁が今日に繋がっています。私は元々、事業会社で働きたかったため、銀行でM&Aに従事していた時も、PMIなどディールの後はどうなっているのだろうという事にとても興味がありました。私も山崎と同じくハーバードへ留学し、その後マッキンゼーで2年ほど働いた後、インテグラルに参画しました。やっと今、投資先の様々な事業会社と一緒に仕事ができるようになり、やりたかったことができていて、14年近くになります。 池田 前職は新日本監査法人で、会計監査とIPOのアドバイザリー等を担当しておりました。当時から事業再生に興味を持っていたのですが、その前に一度MBAに行ってみたいと思いスペインへ留学しました。そこでコンサルティング会社と投資銀行とインテグラルとでインターンシップに参加しました。その中でもインテグラルは当時、スカイマークに投資した直後で熱気があり、とても充実した時間を過ごしました。投資先の事業に非常に近く、経営の第一線でやれるなと感じました。また、他と比べると、インテグラルでの仕事は本当に重要な局面にいるという臨場感があり、自分がグリップしている感覚が強くあったので、ここでチャレンジしてみたいなと思い入社を決めました。 ーー 現状運営されているファンドの概要とチーム体制についてご説明ください。 山崎 日系の日本に特化した投資のファンドとしては最大級となる、1,000億円を超えている数少ないファンドの一つです。大きめの案件にも対応することができますし、案件規模が小さくても成長力の高い企業に投資させていただいていますので、ストライクゾーンは広いかと思います。 陣容は拡大してきており、パートナーが8名、ディレクター、ヴァイスプレジデント、そして投資プロフェッショナルが続きます。加えて、公認会計士資格を持ってファンドのアドミニストレーションを執りつつ投資先企業の管理部門や経理をサポートする部隊もあり、総勢60名強となっています。最近は毎月のように入社があります。 ーー 色々なキャリアの方がいらっしゃいますね。多様性なども意識して人員構築されているのですか。 山崎 いわゆる金太郎飴的なプロフェッショナルファーム出身者だけではなく、事業会社や官庁出身者、さらには元サッカー選手などもおります。また、パートナーの二井矢と早瀬も含めて、いわゆるダイバーシティの観点からも、女性のシニアマネジメントもいる数少ないファンドの一つかなと思います。 インテグラル流を支える「i-Engine」と「ハイブリッド型投資」 ーー 御社で大事にされている理念や価値観を教えてください。 山崎 日本の独立系ファンドであり、創業パートナーの4人含む8名のパートナーと職員で自社株をすべて持っております。基本的に8人で全ての意思決定ができるため、自由に経営できる体制になっていると言えます。 社名の由来にもなっていますが、インテグラルには「積分」や「積み重ねる」という意味があり、「ハートのある信頼関係」と「最高の英知」を積み重ねていきたいという願いを込めております。投資先の企業様の信頼を得て、それを積み重ねていくことで「信頼される資本家 Trusted Investor」になりたいという想いを経営理念として持っております。 当社のスタイルは日本型バイアウト、日本型投資です。私たちが掲げる日本型の目標は、「共にいい会社を作る」ということです。投資先企業の経営陣や社員の方と一緒にいい会社を作った結果として、当社に出資約束をいただいている投資家様にリターンを還元できる、ということをコンセプトとしています。例えば、個別の案件では必ずしも最大のリターンを目指していません。1円でも高いエグジットを目指すことにフォーカスするのではなく、結果として良い形で投資先企業を送り出したいと考えています。投資先企業が嫌がるようなエグジットはしないと明確に言っておりますので、例えば某国の企業には売却されたくないというご希望が投資先にある場合、たとえそちらの選択の方がリターンは出るかもしれない場合でも、お約束は守ります。このように、「投資先が望むゴールに向けて同じ目線に立ち全力でコミットする姿勢」を投資先企業や業界の方などにご理解いただき、その結果としてまた良い案件が巡って来るという形で事業が回っております。 具体的な施策として行っているのは「i-Engine」という事業アプローチと、超長期の投資のアプローチである「ハイブリット型投資」です。 「i-Engine」というのは、投資家と働く人という二分的なスタンスではなく、株主、経営者、従業員が三位一体となり、共に設定した長期的なゴールに向かって積み重ねていくという考え方をベースに、必要に応じて当社からも人材を派遣し、投資先で深く長く一緒に働くというアプローチです。管理部門だけではなく、経営企画や事業開発など、事業にどっぷり漬り、お客様に同行して他社と交渉するような機会もあります。 「ハイブリッド型投資」というのは、投資家から集めたファンド資金に加え、自己資金を使った当社独自の投資モデルです。当社のバランスシートを使って投資させていただくということで、大きいポーションではないのですが、安定的に残ってほしいというご希望があれば、長期的に投資を継続させていただくこともできます。 いい会社をつくるために、他のファンドとは違う観点を持ち、自分たちが骨身を惜しまず働きますよ、エグジットまでの短期目線ではなく、長期的な関係という選択もできますよということを仕組みとして持ち、社会インフラとして信頼を勝ち得ていきたいという想いがあります。 ご要望にお応えして、ハンズオン型の経営支援「i- Engine」で事業価値を向上させる ーー 実際の投資先における「i-Engine」 機能を用いた経営支援の事例があればご紹介ください 早瀬 「i-Engine」というのは決して押し付けではなく、投資先企業にとって必要なことをサポートしましょうというスタンスです。ですので、例えばAPAMAN株式会社のように、常駐者を派遣しなかったケースももちろんあります。現在サポートしている日東エフシーの場合は、「必要なこと」が代表のポジションでした。常駐する場合は1名を派遣することが多いのですが、日東エフシーでは私ともう1名の2名で常駐しています。投資のテーマは「事業承継と事業の再成長」で、鋭意取り組んでいるのは「会社のカルチャーをもっとチャレンジする姿勢に変えていく」ことです。300人ほどの全社員にインタビューをさせてもらい、いま何が面白いか、どこを変えどこは守りたいかという現場の声を拾って、経営陣で議論しました。攻めの組織に変えようと、2年目にはマーケティング専任チームを作るなど色々と進めています。 日東エフシーへの投資直後は、「ファンドが初めて肥料業界に来た」と言われ、お取引先が戦々恐々とされていたので、社内の改善活動など内科的なことに集中して支援しました。お取引先や競合他社さんからも「肥料事業をちゃんとやろうとしている」と認識いただき、日東エフシーの社員も自信を持って色々なことに挑戦できるようになってきたかなと感じています。 今、農業業界にはベンチャーの参入も多く、肥料以外にも様々な農業資材が出てきています。日東エフシーは昔ながらの肥料で戦ってきましたが、今はドローン向けの肥料や新しい資材なども研究開発してみよう、農家さんに積極的に紹介していこうといった発想が社内に生まれていて、徐々に変わってきています。カルチャーというものは、5年後ぐらいに振り返って、変わって良かったね、と気づくものだと思います。近い未来に日東エフシーの社員にそういう気持ちを持ってもらえたら嬉しいです。 「i- Engine」とは怖れず濃密な時間を積み重ねること ーー ファンドから人を長期に派遣することに対し、乗っ取られるとか、人を送り込まれるというように、構えられる会社さんがまだ多いと思います。当初はディフェンシブであったけれども、後に変化があったエピソードがあればお聞かせください。 早瀬 我々も最初にディフェンシブな反応があるということは理解しているため、当社では、人として魅力的な人、新しい環境にも溶け込める人を採用し育てて派遣しています。それでも、株主が人を派遣するということに精神的ストレスを感じる方はいらっしゃるので、事業については投資先の方々が大先輩であって、たまたまこの投資期間にご縁があって我々はご一緒しているだけであること、投資先企業をお手伝いする立場であることを社内で共有しています。謙虚な心を忘れない人が当社には揃っていると考えています。 池田 経営陣は課題を抱えていらっしゃいます。必要な人材を社内異動や採用で充てるのでは6カ月程度かかってしまうため、インテグラルのメンバーを活用したいというニーズが発せられます。その際に常駐者を派遣します。上手く活用できて経営陣からもっと長くいて欲しいと希望されることも多く、3年以上もご一緒することもあります。インテグラルから人を受け入れて良かったと思ってもらえる点は、やはり他の事業会社や業界を知っているということや、MBA的な知見、すなわちフレームワークや物事の整理の仕方を知っている、課題の発見が早いということかと思います。埋もれた問題をきちんと課題として経営陣に提示ができて、経営課題としてソリューションへ繋げていく、そこが一番「インテグラルから来た人は役に立つね」と思ってもらえている点だと思いますし、問題を解決してくれる人たちだと分かれば、ディフェンシブな姿勢は和らいでいきます。 また、やはり人と人なので、毎日一緒に過ごすというのも結構大事なことだと思っています。一緒に考えて、一緒に事業を進める中で、日常の中に課題解決の仕組みが入っていき、お互いに成長できます。 一番の財産として我々が投資先に残せるものは、投資先で育った人であり、彼らがその後も自分たちで課題解決を続けながら会社がよくなっていきます。そして、我々も学んだことをインテグラルに持ち帰り、色々な切り口や経験知を身につけて次の投資検討に活かしていくことができていると思います。 山崎 私たちのスタイルは、これしてあれしてというような指示めいた言葉は全然言わないんです。投資先の望むことを手伝うパートナーのような形で使っていただいて、信頼関係を築けた段階で初めて、変えていくべき改革のポイントを柔らかくお伝えしていくというのが弊社の特徴的なスタイルです。 ーー 近年、御社の投資先でIPOをされる会社がとても多いという理解をしております。今ご説明いただいたようなスタイルで会社が良くなり、IPOを成し遂げたというケースをご紹介いただけますか。 池田 ダイレクトマーケティングミックスという会社に2017年の9月から常駐をしています。投資させていただいた直後から、上場したいという意向を伺いましたが、以前支援していたファンド傘下では、IPOに至らなかった過去がありました。そこで再度当社で検討し、難所も多くありましたが、3年ぐらいかけて上場準備をしてきました。会社のカルチャーから改善を行ったり、労務管理を整えたり、一つ一つ会社の制度改革を行っていきました。今では東証一部に上場を果たし、上場企業としての責任を社長も役員陣も感じながら経営してくれています。上場するという共通の目標が持てたことで、改革も力強く進みました。 「ハイブリッド型投資」で投資先と同じ船に乗る ーー ハイブリッド投資についてお伺いします。ファンド資金がある一方で自己資金もあるとのことですが、どのように使い分けをされているのでしょうか。 山崎 ハイブリッド投資は当社が日本型バイアウトとして提供できる特徴的な価値の一つで、投資先企業、特に経営陣の皆さまからリクエストをいただいて実行するというのが基本的な流れです。経営者から見たらプリンシパル投資は自己資金なので、仲間としてコミットしてくれて、本当にこの会社に懸けてくれているんだと感じていただけます。経営者自身は自分の会社に懸けていますので、名実ともに同じ船に乗るという意味合いがあると思います。ファンドは最終的には上場後に保有株式を全て売却しなければならないのですが、プリンシパル投資であれば、長期的に持ち続けることができます。例えば上場したQBハウスでは、ファンドとしての持分は全部売却が終わっているものの、プリンシパル投資の部分は継続して保有しています。安定株主として長期に亘って会社をサポートできる株主が求められる場合には、プリンシパル投資部分の資金を増やして欲しいとリクエスト頂くこともあります。 間口は広く、キラリと光る企業の成長を支援する ーー 今後、注力していきたいセクターや案件のタイプなどの戦略を御聞かせください。 山崎 弊社ではテーマを絞って投資先を決めるわけではなく、幅広くカバーしています。事業承継もありますし、もっと成長していきたい企業においては事業資金のニーズ、一度非公開化して事業の構造改革をしたいというニーズもあります。カーブアウトにおいては、大企業からすればコアに集中するためのノンコア部門の売却のニーズ、独立する企業側からすると、独立・起業・専業として成長していきたいというニーズがあります。例えばサンデン・リテールシステムというサンデンホールディングスからのカーブアウト案件はこれに該当しますし、足元でも同様の案件のパイプラインを多く抱えています。また、先ほど池田から説明させて頂いたダイレクトマーケティングミックスのように、非常にユニークで強みのあるビジネスモデルで進化し続けている企業に継続して資金を投じるということはテーマとしてあります。 早瀬 キラリと光る企業にも注目しています。 山崎 そうですね。後は非公開化MBO、これもすごく大きなテーマとしてあって、1年に一度は投資しています。過去にはアデランスや豆蔵K2TOPホールディングス、今年はオリバーの非公開化をサポートさせていただきました。 皆さまへのメッセージ~相性のよいファンド探しの秘訣は会って話すことです ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。 山崎 私自身、色々なファンドの方とも会う機会もあり、過去に採用面接で他のファンドを受けたこともありますが、本当にそれぞれ全然違うと感じます。そこにいる人の価値観、雰囲気、スタイルや話し方、そういうことを含めて各々に個性がありますので、是非、直接お会いして、色んなファンドと交流されることをおすすめしたいなと思います。そうすると自分たちにとって合うか合わないか、肌で感じることができると思います。 池田 当社のメンバーは経営理念を大事にしていて、投資先との信頼関係を考えながら仕事をしているメンバーが多いように思います。 山崎 確かにそうですね。例えばチームでプレゼンテーションをして、その後、山本や佐山を紹介したりするんですけど、言っていることがみんな同じで一貫性があるということを、とても評価いただきます。 早瀬 会社が今後こういうことをやりたいのだけれども、社内の人では間に合わないという時に、気軽に声を掛けていただきたいと思っています。株とセットになるところがハードルになるかもしれませんが、逆に株がセットだからこそ、我々も本当に真剣にご一緒できるので、そういう観点も是非持っていただければと思います。 以上 インテグラル株式会社https://www.integralkk.com/
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- 2021.12.21
卓越したコンサルティングアプローチによる事業成長支援
ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLCマネージングディレクター 末包 昌司 ボストンコンサルティンググループにて消費財・通信・自動車・金融等の業界に対してのコンサルティングに従事。2006年ベインキャピタル日本オフィス立ち上げに参画後、ベインキャピタルボストン本社を経て現職。 東京大学工学部学士、ハーバードビジネススクール経営学修士(MBA) 事業成長の結果として投資家のリターンがある ーー 末包様の自己紹介と、貴社に参画された経緯について教えてください。 末包 以前はボストンコンサルティンググループでコンサルタントをしており、2006年にベインキャピタル日本オフィス設立時に声が掛かり入社しました。参画後は日本オフィスの立ち上げに尽力し、その後にハーバードビジネススクールへ留学、ボストン本社での勤務を経て日本に戻って参りました。帰国後は主に大企業のカーブアウト案件や、産業財、総合電機などのセクターを中心に携わっており、主な担当案件は東芝メモリ(現キオクシア)の買収、三井造船(現三井E&S)からのカーブアウトである昭和飛行機、ニチイ学館のMBO、そして、直近ですと日立金属の買収などです。最近では、トラディショナルなプライベートエクイティ投資からやや外れますが、日本風力開発というインフラ投資にも関わっております。 この業界に入る際、前職との親和性のあるコンサルティングや事業成長に軸足を置いたファンドに心が動きました。日本の経営者は会社の売却先等を検討する際、価格だけではなく事業への理解を非常に重視されます。金融色の強いファンドよりも事業寄りのファンドの方が、より案件発掘の機会が多いのかなと思ったのと、投資後に、会社の成長をしっかり後押ししたいという想いがあり、ベインを選びました。 ーー 御社の活動において、大事にされている理念や価値観をお聞かせください。 末包 金融的リストラクチャリングだけではなくて、須らく事業を成長させるべきということが関係者にとって大切だと思っています。弊社は元々、ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社のシニアメンバーが設立した会社ですので、起業の発想として「事業成長をしっかり実現させ、その結果として、投資家としてのリターンがある」と考えます。これがグローバル全体の共通思想でもありますので、日本でも同様の哲学を内包して取り組んでいます。事業が成長すれば、従業員もハッピーになりますし、私どもに会社を預けていただいた売り手方もしくは経営者もハッピーに、そして我々も結果としてリターンを上げられるということで、皆々の幸せにつながる状況を生むと思っており、それを追求できるようなティールを選んでおります。 徹底的な議論から事業戦略の方向性を見出す「コンサルアプローチ」 ーー コンサルティングアプローチというのは御社の大きな特徴かと思いますが、組織の上でも投資チームと別に、投資先の事業改善やオペレーションを支援するチームを備えていると伺いました。チーム体制についてお聞かせください。 末包 投資先の支援を専門に担当する「ポートフォリオグループ」というチームを有しております。オフィス全体で45人ほどのプロフェッショナルのうち、10名程度がこの機能に携わっており、彼らは専ら投資先に出向常駐して内側から経営支援をするメンバーです。一方、残り30人強の投資チームに関しても、基本的には自らが関わった投資案件に最後まで責任を持つのが私どもの信条ですので、コンサルティングないしは事業会社の経験を持つメンバーを揃え、必要に応じて投資先との会話に時間を割き、事業成長を強力に支援するという体制を敷いております。 ーー オペレーション支援に特化したメンバー十数名に加え、投資チームも投資先にコミットするという点を伺うに、事業成長支援にここまで厚い陣容を敷いているPEファンドは稀ではと思います。 末包 人数の観点からも、少なくとも外資のファンドの中では最大の陣容だと思いますし、コンサルティング会社や事業出身者が6~7割、金融機関出身者が3~4割という構成は、おそらく他のファンドさんとは異なる比率ではないかなと推測します。本気で企業変革を後押しするためには、取締役会などであるべき論を振りかざすだけでは何のお力になることもできません。やはり現場に入り、課長・部長級の方とスクラムを組み、繰り返しPDCAサイクルを回していくということが、最も重要だと考えております。そういった意味でも、我々の側に層の厚い体制を用意することは必要なことです。 ーー 売却される事業側からすると、投資前の段階でコンサルアプローチによって描かれた成長戦略の腹落ちがあるということと、この人たちだったら任せられると感じられるということですね。 末包 そうですね、経営者ご自身が腹落ちするということも勿論重要ですが、様々なステークホルダーと会話し、売却を説得していくというプロセスも無視できないと思うんですよね。例えば、特に従業員からは「なんでこのPEファンドに会社を売却するんだ」という反応が最初にきます。これに対し、ベインがどういうアイディアを持っていて、どのように事業を成長させてくれる存在なのかということを、経営者自身の口から説明することはとても大事です。また、従業員だけではなく、取引先、時には日本政府なども巻き込んでいかなくてはいけない場合もあります。「それぞれのステークホルダーに最適なパートナーとしてベインキャピタルがいる」ということをしっかり理解いただくために、十分に練り上げた事業戦略を準備し、関係者にベインはこの戦略の実現を支援してくれるパートナーだと認識いただくことが大切です。 ベインの歴史上初めてとなった一国ファンドの創設 ーー 御社はキオクシアや最近公表された日立金属のように、多くの大企業の大型カーブアウト案件実績をお持ちです。2006年の設立以降、大企業のプライベートエクイティに対する見方の変化をどう捉えておられますか。 末包 15年前に比べると、プライベートエクイティに対する企業の受容度は、明らかに高くなってきていると思います。より積極的にプライベートエクイティを活用し、自社グループの成長を追求していこうという前向きな姿勢を感じています。昔はPEファンドに事業を売却することに非常にネガティブな印象を持ち、それは最後の手段だと考える方が多かったのですが、良くも悪くも15年がたち、私どもがお預かりした事業に対して創出した価値をご理解いただけるようになってきたのかなと拝察しています。 ーー 大型案件に強みを持つ一方で、少し前に日本に特化したファンドも立ち上げられていますが、狙いについてお聞かせください。 末包 日本ファンドを立ち上げる以前は、日本で何らかの投資機会があった場合、約5,000億円程度のアジアファンドと、1兆円強のグローバルファンド、この2つを活用して投資してきました。一般論として、ファンドサイズが大きくなると、1件当たりの投資額も、投資効率の観点から同様に上がっていく傾向にあります。そうすると、5,000億円規模のアジアファンドを例にとりますと、100億円以下のエクイティチェックの案件になかなか投資しづらいという状況が起きていました。一方で、これまで15年間にわたる経験上、数十億円のエクイティチェックの案件、企業価値でいうと数百億円の案件でも、我々でも十分お役に立てる機会が数多くあると確信しており、ファンドサイズが大きいがために機会損失が起きていることに忸怩たる思いを抱いておりました。そこで、チャンスを拡げるべく1,100億円程度の日本ファンドを立ち上げたというのが「ジャパンミドルマーケットファンド」誕生の背景です。ちなみに、一つの国に特化したファンドの立ち上げはベインキャピタルの歴史上初めてで、今までの日本チームのトラックレコードがしっかり評価されたことの証左だと思います。 あるべき論を振りかざすだけでは会社は変わらない ~事業改革は現場から~ ーー これまで大きな成果を上げられた案件についてご紹介くださいますか。 末包 まずはキオクシア様(旧東芝メモリ)です。この件は様々な意味でいい方向に向かっていると思っております。まず事業の側面からお話します。東芝グループに在った時は、コングロマリット全体としての資本配分の議論の中で、必要十分な設備投資を享受できないときもあり、構造的な影響を受けていました。私どもと独立してからは、良くも悪くも自己責任となり、自分たちが稼いだキャッシュフローはきちんと投資に回せるし、逆も然りで、皆さん心を一に取り組みました。結果として、年間数十パーセントの規模でメモリの生産キャパシティーは増えています。その後も成長を続け、今でも「サムスンに追いつけ追い越せ!」と頑張っています。 また、M&Aによる成長という側面では、台湾のLITE-ONという会社のSSD事業の買収を実行しました。これは、今まで携帯電話やPC向けエンドアプリケーションとして多かったNAND型フラッシュメモリをデータセンター向けに活用するべく、研究開発のケーパビリティを強化するための買収でした。大型買収の経験者がそう多くない状況でしたが、ベインのディールチームも加わってノウハウを提供し、無事クロージングまで迎えております。案件の発掘から支援し、DD、交渉、かつ一番重要となる統合後のPMIにおけるモニタリングをサポートしました。 一体となって取り組んでいる事業改善の先に、上場を見据えています。社員の皆さんにストックオプションを持っていただき、上場の果実も受け取れるように仕組みを整えました。事業の成長、従業員の方の満足、そうして私どもも確かな収益を上げる、このような良い形を目指して支援を続けています。 ーー 現場で行われる具体的な支援ついて、エピソードなども含めてもう少し詳しくお聞かせください。 末包 冒頭申し上げた通り、取締役会で旗を振るだけでは会社は変わらないと思っていますので、我々は現場組織に入り込んでいきます。キオクシアに投資させていただいた際は、財務、営業、人事、そしてIPOプロジェクトを立ち上げ、それぞれのプロジェクトで洗い出された論点を一つ一つ整理していきました。例えば財務プロジェクトでは、独立した財務管理を独立企業体として実施していなかったため、管理体制に課題がありました。経営におけるKPIの設定やテンプレートの持ち方、キャッシュマネジメントの徹底といった論点が炙り出されました。 他のプロジェクトでも同じように特有の論点があり、各プロジェクトに私どもの社員を1~2名張り付けました。我々が黒子となり、先ほどの財務プロジェクトであれば財務部と戦略部の方と共に毎週ミーティングを実施して、今週の進捗確認と、次週のネクストステップ確認を繰り返し、そのアウトプットを月1回、CEO以下、そしてベインキャピタルのメンバー全員集まって議論する「経営戦略会議」で基本的な方向性を決めています。それを正式に機関決定するのが取締役会という建付けです。取締役会、経営戦略会議で出てきた宿題は各プロジェクトにフィードバックし、検討を深めていきます。このように、投資直後はベインメンバーがしっかり貼りついてサポートしますが、常態化するのは健全でないため、徐々にハンズオフに移行します。M&Aの検討などはアドホックにサポートする等、その時々に応じて柔軟に伴走します。 信頼の構築に「魔法の杖」はなし ーー ファンドに入られる際、経営陣や社員の方々は「乗っ取られる」という警戒感を持たれると思うのですが、これはどのように薄まっていくものなのでしょうか。 末包 どのような投資であっても、オーナーが変わることに対し、当然関係者の皆さんは不安な気落ちを持たれると思うのですが、これにはあまり特効薬がなくて、一つ一つ信頼を積み上げて対処していくしかありません。要はこの人たちは意外と役に立つなと思っていただく機会、たとえば電気代の削減といったような小さなことから我々の蓄えたノウハウを注ぎ、問題解決のクイックヒットを重ねていきます。簡単な問題解決を糸口に、より本質的な論点~事業のビジネスモデルどうしていくのか、大型買収ってどう進めるべきか~へ進めていきます。信頼関係の深化によって、より大きな話を、腹を割って話せるようになるということなのかなと考えています。 ーー 今後の注力領域、特に注目されているセクターがあればお教えください。 末包 基本的に、あまり制約は持たずに検討していこうと思っています。得意としてきた分野のトラディショナルなバイアウト、グロース投資的なもの、またクレジット投資に近いようなインフラ投資や不動産周りも含めて取り組んでいこうと思っています。 ーー 外資系には国内系にはない「グローバルのネットワークを生かした技」というものがあると思うのですが、数ある外資系中でも、御社の特徴があればお聞かせください。 末包 グローバルメンバーが共通して「事業成長を後押ししていこう」という哲学を持って投資に臨んでいることが我々の特徴だと思います。投資先に協力するべく、国境を越えてグローバルからサポートを受けられる体制になっていますし、われわれ側のインセンティブにもなっています。日本の中で完全に独立された運営をしているようなグローバルファンドさんもあると聞きますが、ベインは日本の投資案件であっても投資先企業がグローバル展開をする際にグローバルチームから協力が得やすいということが大きな特長です。 皆さまへのメッセージ ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。 末包 15年前に比べると事業会社の方々のプライベート・エクイティ・ファンドに対するアレルギーというのは減ってきたと感じてはいるものの、実際に提案を聞く機会を持ったことがないという方も沢山いらっしゃると思います。具体的なお話でなくとも、こんなことはできるのか、こういう支援はやってくれそうか、ぜひ我々にお話をぶつけていただきたいと思っております。お話しさせて頂くことでお互い何らかのコミットメントが求められるものでもないですし、良いディスカッションができれば、会社のためになるような提案につながる可能性もあるかと思います。そういう機会をいただけるとありがたいと思っております。 以上 ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC(通称 ベインキャピタル・ジャパン)http://www.baincapital.co.jp/
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- 2021.12.21
幾重の信頼が導く「選ばれるNo.1ファンド」への道
ティーキャピタルパートナーズ株式会社取締役社長 マネージング・パートナー 佐々木 康二 1998年12月、東京海上火災保険に入社、1999年7月から東京海上キャピタル(現ティーキャピタルパートナーズ)に出向し、PE投資チームの立ち上げを始め組織管理面の整備を進める一方で、数々のPE投資を率先して実行。2005年8月同社に転籍。2015年7月代表取締役社長兼マネージング・パートナーに就任し、現在に至る。 取締役 マネージング・パートナー 中川 俊一郎 2000年8月より東京海上キャピタル(現ティーキャピタルパートナーズ)に入社し、ヘルスケア、アウトソーシング等を中心に、幅広い業種における投資を主導。特に大企業グループからのカーブアウト案件、経営陣とのMBO型案件に豊富な経験を持つ。前職は東海旅客鉄道(JR東海)にて人事・企画・株式上場プロジェクト等に従事。 東京海上のグループ企業として産声を上げ、経営陣によるMBOで独立 (写真左:中川俊一郎氏/写真右:佐々木康二氏) ーー ご自身のご紹介と、貴社を設立された経緯や背景をご説明をいただけますでしょうか。 佐々木 私は1985年に新卒で日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行しました。銀行では法務部門の後、M&Aアドバイザリー業務を経験しました。80年代後半、当時は日本企業のクロスボーダーM&Aの全盛期でしたが、たまたま関わった案件の相手方がKKRで「米国には面白いビジネスがあるんだ、いつか日本でも」と思ったのが、プライベートエクイティ(PE)との出会いです。その後、米国留学を経て香港勤務になった際、担当した華僑企業がダイナミックなグローバル投資をしていて、あらためて投資事業に魅力を感じ、1998年長銀が破綻する中で、日本でPEというビジネスにチャレンジしたいと思うに至りました。 当時、日本ではPEはまだほとんど知られていませんでした。とにかく最初は信用が大切なので、誰もが知っていてリスペクトされているブランドである東京海上は、このビジネスを始めるには絶好のプラットフォームだと思いました。一方、東京海上としてもちょうど、子会社の東京海上キャピタルを通じて1991年頃から行なっていたベンチャーキャピタル事業をさらに発展拡大しようと試みている時期であり、その一環でグループ外の資金をファンド形式で集め運用する投資事業に本格的に進出しようとしていました。そうした状況と私の思いが一致して東京海上キャピタルに入社したのですが、これが現在のティーキャピタルパートナーズにおけるPE投資の実質的な始まりとなりました。 とはいえ、親会社である東京海上はご存知のようにプロの機関投資家ですから、私たちは当初から「キャプティブファンド」と呼ばれるリスクを常に感じていました。キャプティブファンドというのは耳慣れない言葉だと思いますが、金融系のグループ子会社で一時的な出向者が運用しているファンド、というネガティブな意味が込められています。そこで数年かけて、豊富な実務経験を持つプロフェッショナル中心の運営体制へと移行し、独立した投資意思決定の仕組みや、ファンド業界独特のキャリード・インタレストと呼ばれる人事報酬制度も作り上げ、徐々に「東京海上のブランドを持ちつつも運用上は親会社の影響を受けない独立したPEファンド」というユニークなビジネスモデルの確立に成功しました。 この結果、国内の機関投資家からは大変高い評価を頂くようになったのですが、海外の機関投資家からはやはり「ユニークな投資実績があり、パフォーマンスも素晴らしいが、キャプティブファンドのままでは資金を預けることはできない」といわれる状況は変わりませんでした。東京海上とも「資本的に独立した方がお互いのためだね」という話が自然とでるようになり、最終的には私をはじめとする当社の経営陣で東京海上から全ての株を買い取って、2019年10月に「卒業」、つまり東京海上のもとからMBOで独立したというのが当社の沿革です。 中川 私はこの会社で21年間、佐々木と共にバイアウト投資を推進してきました。元々は1990年にJR東海に新卒で入社し、最初の1年間は新幹線の車掌や駅員など鉄道の現場でじっくり勉強しました。その後、主に人事や財務部門で経験を積み、そこで自社の株式上場プロジェクトも担当しました。その後は米国留学を経て、次のキャリアステップとして「より産業社会のダイナミックな動きに関わりたい」という想いで、当時の東京海上キャピタルに転職しました。以来、様々な業種・規模の投資を経験してきましたが、なかでも比較的規模の大きい製造業でビジネスとしては安定しているものの、次のステップでの成長シナリオを模索しているような会社への投資を多く積み重ねてきました。 投資先と築く「横から目線」の関係性とは ーー 貴社は他のファンドと比較して、メンバーが定着していますし、良いチームワークで活動されているという印象があります。経営陣と社員の方とではどのような理念や価値観を共有されているのですか。 佐々木 私たちが活動の原点にしているキーワードは「誠実」と「信頼」です。PEという業種は現在、良くも悪くも世間から非常に注目されており、その中で私たちの振る舞いはPE業界全体の評判にも影響を与える立場であるという自意識を持って、常にしっかりした姿勢を維持したいと考えています。あらゆるステークホルダーから「ティーキャピタルというのは良いファンドだな、信頼できるな」と思われ、投資先の経営者や従業員の方たちからも「ティーキャピタルに投資してもらって良かったな」と思われることが最大の目標です。「選ばれるNo.1のファンド」でありたい、これが私たちの一貫したポリシーです。 特に当社の社員には、投資先企業に対して「横から目線」で接しようと常に話しかけています。ファンドの人間は企業価値を高める色々な知恵や経験を持っているのは事実なのですが、ともすればそれらを株主の立場を利用して独りよがりに導入し、企業を性急に変えていこうとする嫌いがあります。我々の心の持ち方としてはそうではなく、投資先企業の方に寄り添い、常に対等なパートナーシップを組む仲間としてディスカッションを繰り返しながら一緒に成長していきましょうという姿勢が最も大事だと思っています。これが「横から目線」という言葉の意味するところです。 ーー 一方でこれだけ長い歴史で多くの投資を重ねながら、一度も損を出されていない、業界の中でも稀有な存在でいらっしゃるとも聞いております。どのようにこれだけのパフォーマンスを出されてきたのでしょうか。 佐々木 元本を毀損しないで回収するということは投資ファンドとして当然期待されることですが、それを長年続けることは現実には非常に難しく、私たちが何か魔法のようなテクニックを持っているのではと言われることもよくあります。もちろん定量的・定性的な投資分析の手法や判断ロジックなどの点で独自に磨き込んできたスキルが大きな役割を果たしているのは事実だと思います。ただ、それ以上に、私たちが最後は「人」を見て投資を決めること、投資後も「人」と真摯に向かい合いながら共に企業価値向上という目標に向かって歩んでいくというスタンスを堅持していることが、結果としてのパフォーマンスに表れているのかなと考えております。 「誰も辞めないファンド」がもたらす安心感と信頼の礎 ーー 貴社チームの特徴について教えてください。 佐々木 創業以来のフランクで自由闊達な社風を維持したいと考えております。私たち自身がいつも和やかに伸びやかなムードでやっているということは、端的にはメンバー勤続年数の長さに表れていると思います。「メンバーが辞めないファンド」という特徴に加え、21名のメンバーは銀行や証券などの金融業界出身者ばかりでなく、商社や事業会社、コンサルタントや会計事務所の出身者など多様なバックグラウンドを持っています。私たちは規模や投資スタイルを大きく変えずに安定的に成長していく方針ですが、ファンド規模が徐々に大きくなるに伴い、若手を中心に毎年若干名ずつ増員しています。 投資先との関係でいうと、案件の初期的な検討段階で担当チームを決めると、そのチームメンバーが原則として最後まで一貫して投資先と伴走します。しっかり責任感を持ってやりましょうということですが、これは投資先との信頼関係を醸成するうえでも非常に重要だと思っています。 ESG投資のパイオニアが挑む産業未来図 ーー 投資スタイルの特徴などを教えてください。 佐々木 ESGに対する強いコミットメントが我々の特徴の一つです。2013年、日本に本拠を置くPEとしては初めてESG投資に関する国連のPRI(責任投資原則)に署名参加しました。投資した後も対象企業をESGの観点から繰り返しレビューしています。ESGを常に意識して経営を推進することによって結果的に企業価値の向上に繋がるという、今では広く認知されている関係性に私たちは早くから気づき、実践してきたので、ようやく時代が追い付いてきたなという感慨があります。 ーー ESGのアングルについて、海外の機関投資家から何かコメントされることはありますか? 佐々木 彼らからするとESGはもはや出資を決める際の必要不可欠な基本条件になりつつあると思います。当社は毎年海外からインタビューも受けてAランクの評価も頂いていますし、社内でもESGのチェック体制が組織的にインストールされており、案件の初期段階から投資後まで、明文化された仕組みによるESGチェックを行っています。このESGに関する手慣れ感も、海外の機関投資家から安心感を持って受け入れられている理由かなと思います。 ーー 注目しているセクターなどありましたら教えてください。 中川 フォーカスセクターと呼ぶ3つの重点業界を設定して活動しています。1つめはヘルスケア業界です。今の日本で唯一確実な中長期トレンドである少子高齢化という流れの中で、人々がどうしたら健康的な生活を送れるかという大きなテーマに即した投資をしたいと考えています。その意味では製薬業界だけでなく健康食品や医療器具、医療サービス、介護なども含む、広義のヘルスケア業界に着目しています。 2つめはB to Bの領域、特にB toBサービス業界です。いわゆる産業社会のなかで動脈的、静脈的、或いは潤滑剤的な役割を果たしている存在意義の高い会社にフォーカスしたいという想いがあります。具体的にはSIer、アウトソーシングを引き受けている会社、最近ではSDGの観点からリサイクルの分野などにも注目しています。 3つめはいわゆる、サービス・小売業界です。案件数は非常に多いのですが、投資環境的には難しいセクターです。一過性の流行に乗っている会社を追うのではなく、コアとなるしっかりした力を持っている会社、例えば非常に強いブランドを持っているとか、独自のビジネスモデルを作り上げているなど、長期的にエッジを立て続けていられるような会社を探し出して投資をしたいと思っている分野です。 この3つのフォーカスセクターについては社内でそれぞれに専任者を決めてチームを作り、業界研究やネットワーキングを深め、個別企業にプロアクティブに提案に行く等、特に積極的に活動しています。 人・物・お金すべてにおいてサポートし、投資先を世界トップランクへ ーー これまでで印象深い投資案件を教えてください。 中川 2010年に投資をし、2014年にエグジットした武州製薬の事例をご紹介します。元々は塩野義製薬の100%子会社で薬の製造受託を専門に行なっている会社です。当時、グローバルに新薬を開発し販売していくという塩野義グループ全体の戦略とのベクトルの違いによって、カーブアウトの対象になりました。我々は、従来の塩野義グループ傘下では同社の高い技術力や品質管理能力が売上高や利益として十分に活かしきれていないところに着目しました。実際、投資後は新規の販路にフォーカスして営業チームを再編・強化した結果、塩野義製薬向けの売上を維持したまま、従来取れなかった他社からの商売もどんどん取れるようになりました。急速に事業が拡大する中で新たな人材も必要となってきたので、経営企画や技術部門の中心となる方を外部から採用しました。 生産キャパシティに関しても、地道な生産性改善活動や、外部コンサルタントを活用した大規模なプロジェクトを導入しつつ、最終的には大手製薬会社の主力工場を買収したことで飛躍的な拡大を達成しました。 このような人・物・お金すべてにおけるサポートの結果、4年間の投資期間で武州製薬は名実ともに日本最大手の製造受託事業へと成長しました。それは同時に、日本の製薬業界全体にとって一つの強力な生産インフラとなる企業が生まれたということでもあり、社会的にとても意義のある投資になったともいえるかと思います。 時には花見酒をともにするも、影を潜めるのが我々の日常です ーー PEファンドから投資を受けることを今でも「乗っ取り」と感じられる会社が多いなかで、どうやって経営陣と一緒に色んなことに取り組まれてきたのか、具体例をご紹介いただけますか。 中川 先ほどお話しした武州製薬を例にすれば、正直に言って最初の1~2年は経営陣とは一心同体ではなく、むしろお互いに相手の考えを分かり合えるようになるまで、同じようなディスカッションを延々と繰り返すような、良い意味で緊張感のある関係がありました。 というのも、当時の武州製薬は、良いものを安定的に作って親会社を始めとする既存のお客様に納めていればそれでよし、という守りの姿勢が強い会社のように見えました。それでも当面はやっていけるのでしょうが、独立した企業として利益成長を続けなければグローバルな競争が始まっている業界の中で生き残ることはできず、結局は技術力や品質力といった、会社が最も大切に思っている価値も失うことになりかねないという危機感をなんとか共有したいという思いが私たちにはありました。 当初は噛み合わない部分も多かったのですが、技術と品質と利益、この3本柱で会社を伸ばしていきましょうというところで、具体的な成長シナリオを含めて意見が一致した後の動きはとてもスムーズでした。社長自ら大規模なM&A戦略の旗振り役となり、積極的にご自分のネットワークを駆使して候補先を発掘していただくようにまでなりました。 ファンドと投資先の一般従業員の方との関係で言いますと、社員食堂で一緒にランチを食べながら話を聞かせてもらったり、お花見の席に日本酒を持って参加するような関わり方はよくするのですが、基本的には「われわれが株主のファンドです」という形で前面に出るということは極力避けるというのがポリシーです。社員の方の意識の中心にはまず経営陣がいるべきだと思っていまして、そこにファンドが出しゃばってしまうと、一体俺たちはどこを向いて仕事をすればいいのだろうとなりますし、経営陣も非常にやりづらくなってしまうからです。 皆さまへのメッセージ~社会的な実在として、日本の変革や成長に資するPEでありたい ーー 最後に、読者の方に向けてメッセージをいただけますでしょうか。 佐々木 今、コロナ後の事業環境の変化への対応として、また株式市場をはじめとするガバナンス改革の必要性もあって、多くの企業でカーブアウトに関する検討が進んでいるようです。またオーナー企業の事業承継ニーズも不可逆的に増え、その受け皿機能としてファンドが市民権を得てきているのは間違いないと思います。実際に企業価値を高めることに成功した事例も増えて、安心してご相談いただける状況になっているのではないでしょうか。日本企業の変革や成長に役に立つ、社会的な実在としてPEは今後もますます発展拡大すると思います。企業として検討事題があれば、まずは何なりとご相談いただければと思います。私たちも選ばれるよう、日夜努力していきます。 中川 カーブアウトを検討されている親会社の経営企画の方向けに、私たちがどういう会社に関心があるかについて若干補足させていただきます。3つほど視点があり、最初は、対象会社が一匹狼になれる存在なのか、親会社の虎の威を借りている狐なのか、この辺りの区別をはっきり見たいと考えています。親会社の資本が外れてもスタンドアローンで進んでいけるようなコアとなる力を持っているかを、まずは見させていただきたいと思っています。 次に、現在のグループに入っていることで何らかのデメリットがあるとか、伸び悩んでいる部分があるかです。投資後の改善余地という点で、これはあったほうが投資評価においてプラスに働きます。例えば、採用や設備投資についての考え方が合わないとか、成長の方向性に関して自社と親会社のベクトルがズレているとか、そういうのも観点の1つです。 最後に、私たちが投資したらどうお役に立てるのかという点で、過去の投資から得ている業界知見ですとか、事業提携やM&Aのネットワーク、生産性の改善、海外販路の拡大などといったプラクティスを適用して効果があるかどうかです。 私たちはこれらの視点を持って日々投資の可能性を検討しておりますので、予めご理解いただいていると最初の会話もスムーズに進むのかなと思っております。 以上 ティーキャピタルパートナーズ株式会社https://www.tcap.co.jp/
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- 2021.12.07
起業家精神を備える投資プロフェッショナル集団
ユニゾン・キャピタル株式会社 代表取締役 川﨑 達生 創業メンバー。ユニゾン・キャピタル株式会社代表取締役。コンシューマー関連ビジネス、B2Bサービス等、幅広い分野への投資経験を有する。以前は、ゴールドマン・サックス証券、マッキンゼーを経て、米国にてベンチャー企業の立ち上げに従事。 「ユニゾン流」で走るプロ集団 ーー 川﨑様の自己紹介ならびにユニゾン・キャピタル設立の経緯をお聞かせください。 川﨑 個人的なきっかけは、大学卒業後ゴールドマンサックスで働いていた当時、上司に江原、同僚に林がいて、彼らとファンド構想を一緒に考えたことで、1998年の10月のユニゾン・キャピタルの設立に繋がりました。設立当時、自分はまだサンフランシスコに住んでいたこともあり暫くは行ったり来たりをしていましたが、設立翌年にお金も無事集まり、1号ファンドが発足しました。今は東京で仕事をしています。 ーー ユニゾン・キャピタルの社名の由来をお教えいただけますか。 川﨑 江原が元々とても音楽が好きなのですが、音楽では旋律を同じように奏でるユニゾンという言葉があり、これを会社の名前にしました。ロゴはその調律に使う道具の形にアイディアを得ています。 ーー 御社の理念や価値観で大事にされていることをお教えいただけますか。 川﨑 社内には「ユニゾン流」という言葉があり、それにはいくつかの要素があります。1つ目は我々自身が起業家であること。2つ目は、我々がやることはある種プロデューサー業であり、リーダーシップを発揮し、自分だけでなく周囲をしっかりと巻き込み投資業を進めていくということ。そして3つ目は我々の周囲、社会、またはビジネスコミュニティとも言えますが、こういったところに我々の活動を通じた還元ができるようにすること。それを最近の言葉で言えば、ESGということになりますが、設立当初からそういった意識は強く持っておりました。 ユニゾンらしさを表すもので、ガイディングプリンシパルというのもあります。これは会社によっては社訓など色々な言い方がされると思いますが、我々にはそれに相当するものをガイディングプリンシパルと呼んでおり、その中には今申し上げたような3つのポイント、それに加え、例えば、長期の利益を追求するために正しい活動をしようとか、マナーとは何なのか等が列挙されています。 ーー ファンドの概要についてお教えください。 川﨑 ユニゾン全体でいうと、今までで5,000億円弱の資金を集めております。投資チームは東京に30名程、韓国とシンガポールにも拠点があり、フルタイム、パートタイム含めマネジメントアドバイザーの方々を含めていくと総勢100名程度の規模になっています。ファンドの規模感としては、今届け出をしている4号ファンドが700億円で、5号ファンドがまだレイズ中ですが、800億円をターゲットにファンドの組成をしているところです。 フォーカス分野で蓄積したノウハウを駆使した、連続性を意識したロールアップ戦略 ーー 貴社は独立系の老舗で、業歴も長く、その間PEを取り巻く環境も色々変化があったかと思います。昨今のPEを取り巻く環境についてはどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。 川﨑 環境としては、どちらかといえば可能性は広がっていると思います。それは資金調達面もそうですし、投資機会もそうです。ファンドですからある種のリサイクルを続けるわけですけれども、投資をした後でそれがリターンに繋がる形でのエグジットをするという、お金がぐるぐる回っている状況というのを見ると、総じて前向きな状況だなと思っています。2020年の前半はコロナにより、またリーマンショックみたいなことが起きるのかなという、方向感が見えない感じはしましたけども、1年半経ってみて、実際には活動レベルがしばらく停滞した時期は1~2ヵ月ありましたが、結果から言えば案件は動いています。もちろん大変な業態はありますが、実際の経済活動がそれほどダメージを受けていないようにも見えます。 ーー 貴社は様々なタイプの投資を数多く手がけられていますが、ここ数年は特にコンシューマーやヘルスケア領域等、セクターフォーカスを意識された投資を実行されていると理解しております。セクターナレッジやセクターフォーカスへの考え方をお教えいただけますか。 川﨑 創業以来、1号、2号、3号ファンドという過程の中で、だんだんと「我々はこういうのは上手くやれる組織だな」とか「得意なものはこうだな」など、形が徐々に出来上がってきた認識があります。その上で、今の4号ファンドから5号ファンドに移る過程においては、特にヘルスケアのサービス関連並びに製薬業を中心としたプロバイダーを一つの塊として、我々の集中している分野としています。それから、1号ファンド以来、コンシューマーサービス、消費財分野に投資をしてきており、今後も継続して集中していく領域となります。それから、業種というよりは業態になりますが、B to Bのサービス領域というのは現在注力している分野です。この3つを我々は「プラクティス」と呼んで柱としていますが、これらの領域において様々な知見を蓄積し、マネジメント人材等のエコシステムを集めています。 ーー セクターフォーカスをしていく中でそれぞれのセクターで成功した事案をご紹介いただけますか。 川﨑 ヘルスケアで大きな成功事例となったのは、あゆみ製薬です。もともとは昭和薬品化工という会社で、いくつかのファンドがオーナーになった時期を経て、我々が株主になったタイミングでかなり本格的な組織改正をしました。追加買収を実施するなど様々な打ち手を講じ、最終的な形としてエグジットを迎え、比較的大きなリターンを得ることができました。この案件を起点にして、製薬関連事業のエコシステムを作っていき、元々の案件から次に繋げるというスタイルの典型例になり、その他の投資にも繋がってきています。また、ヘルスケアのサービス領域ではCHCP(株式会社地域ヘルスケア連携基盤)という形で、ユニゾンのGPのチームを別ブランド化しています。このチームには業界のプロがいて、医師、薬剤師、看護師の方々と事業的な観点で話し合いをし、我々と一緒に事業を改善するプラットフォーム作りをしています。このプラットフォームを通じてさらに次のソーシングに繋げるといったことを進めています。例えば調剤薬局だと、1店舗あるいは10店舗、15店舗と展開なさっている薬剤師のオーナー経営者が多くいます。そういった方々には事業承継のニーズがあり、今後につなげるための施策策定の依頼に応じ、CHCPのプラットフォームに参画することでより大きな事業の一部になっていく、結果としてCHCPが調剤薬局をロールアップするという戦略を取っています。こういった形でスケールを発展させていくのがヘルスケア投資の特徴ですね。 コンシューマーセクターは、必ずしもそういったプラットフォームや仕組みを元に大きくするわけではないのですが、様々な経験値をつなげていくことが主眼になっています。例えば過去の投資先のCEOやCFOの方々に、別の案件で経営陣として参画頂くとかですね。そういう意味でのエコシステムの連続性は、この分野においては起きています。このような投資対象の事業分野の「プラクティス」を縦軸とすると、「イニシアチブ」が横軸となり、プラクティス間での共通軸を持ちながら連続性のある投資活動をしています。 「イニシアチブ」の一つにDXがあります。ITを駆使してデータを活用しながら、コンシューマー分野でどのように売上を伸ばしていくか、あるいはデータを使って採用のプロセスをどのように効率化していくか、更には従業員の能率やリテンションをどう高めていくかといった課題があります。そこで、ユニゾンでは全投資先に共通するアイディアをまとめて、具体的な施策作りにつなげています。データを使ってできることはたくさんありますが、各投資先単体だとなかなか規模的に取り組みにくい場合があります。そういった場合には我々がハブとなり、IT施策、データ施策を提供します。 同様に、ESGに関しても、フレームワーク化し、投資先の事業の中に組み込んでいます。色々な業種での実際成功事例を整理し投資先全体のスケールを利用して付加価値作りにつなげています。この、「プラクティス」x「イニシアチブ」の掛け合わせが、ユニゾンの工夫です。 ーー LTLファーマやCHCPなど、プラットフォームを作り、そこから投資に繋げるスタイルは貴社の特徴かと思いますが、その他にもユニークな点はございますか。 川﨑 ユニゾンというプラットフォームにおいて、若い元気な人たちが、自由な発想で活動をしているのが一つの特徴です。私たちが事業を始めた時、私は33歳か34歳で、林も年齢的に大した差はありませんでした。その我々にとってシニアな存在である江原が45、46歳くらいでした。そういう組織ですから、日本社会で考えればとても若い組織なわけです。創業から今まで参画してくれた人たちは、起業家精神旺盛で多くのアスピレーションを持ったプロフェッショナルです。残ってパートナーになった人もいれば、別の道を進みユニゾンの卒業生として活躍している方々が多くいます。この卒業生コミュニティというのは我々にとってとても大事なエコシステムだと思っています。今では卒業生が100人位いますが、そういった卒業生コミュニティとのネットワークを大事にし、できるところでは共同する、というのがユニゾンの強みです。 セクター間で起こる知見の重なりが生む相乗効果 ーー 今後の展望、戦略で何かお考えの所をお教えください。 川﨑 当面は先ほど申し上げた3つの分野と、成功に寄与した付加価値をイニシアチブとして掛け合わせ、より深めていくというのが組織としての方向性です。我々の投資先というのは、事業としてはしっかりとした基盤があるものの、比較的規模感が小さい、売上で見れば100億~500億くらいのレンジ内の企業が中心です。組織的な成熟度や複雑さは大体想像できますし、比較的国内完結型の事業が多いです。よってユニゾンの投資活動は手触り感があり、ハンズオンの投資先支援ができるポートフォリオ作りをしています。そして、プラクティスとイニシアチブの活動から、経験値が染み出して活動が広がる、ということが起きます。例えばコンシューマーサービスだと多店舗展開している事業が多いわけですが、最近、ヘルスケアの領域で投資している訪問看護の事業は「多店舗展開」という要素が強いビジネスであるため、まさに業種を超えたテーマの重なりが出てきています。 今後は、こうした広がりの延長には海外の成長市場との繋がりを意識した取組みをしていくべきだとも思っています。 1つ目は、我々の投資先を通じた成長市場へのアクセスという観点です。投資先支援のための海外市場へのアクセス作りの仕掛けを考えていく必要があると思っています。勿論、今はコロナ禍ということなので移動の制限もありますし、それほど一気に何か起きるという状況ではないですが、徐々に移動の制限含め色々な制約が減ってくるでしょう。コンシューマー関連事業では、「ジャパンクオリティー」が支持を得るマーケットは多く、今後新たな事業機会を広げるチャンスがあると見ています。 2つ目として、インドの投資先と日本の機関投資家を繋げるコンセプトの新しい事業展開を発表しています。日本国内でのフラグシップはミッドキャップのPEファンド運営だとすると、その活動で得た我々の知見とかネットワークを活かして海外の成長分野との繋がりを作る機会は色々なところにあると思っています。今後、ユニゾンとしての新規事業を取組の中に少しずつ組み込んで行きたいと考えています。 投資先ニーズに合わせた最適な伴走スタイル ーー ファンドと組むことに違和感を覚える会社もあると思いますが、いわゆる、ユニゾンスタイルで一緒に伴走することについて、具体的な例でご説明いただけますか? 川﨑 どの投資案件においても、最初の段階におけるプランニングに基づくガバナンス提供をするのかが肝です。例えば、組織作り。経営チームをどのようにして作り、必要な社内人材を伸ばしてゆくか、また足りないところは外部人材をどのようにスカウトしていくか、など経営チームと相談をして組織作りのフレームワークを作ります。そうして合意したフレームワークに則って、投資先の組織発展が進むように、投資開始後のガバナンスを提供するのがユニゾンの役割になります。 ただし、実際には投資先においては本社機能に関わる能力とか人材が不足している、ITの実装も遅れている、情報はあるがデータ化されていない、データはあるけれども、それを経営の情報として加工しきれていないといった課題があります。そのような場合には、その課題の切り出しができたところで我々の投資チームの人間が期間限定で改善する施策を直接サポートさせて頂くこともしますし、あるいは外部のコンサルタントの方も含めて一緒に改善策を考え、実行します。そして、最終的には会社が自立した組織として運営ができるように、会社のマネジメントチームにその役割をバトンタッチします。 常駐と聞くと、ずっといて後ろから番をしているというイメージがあるかもしれませんが、それよりは分業のイメージです。冒頭のプランニングの結果必要なものが明確となり、それについて更に我々がお手伝いできる分野がはっきりとある場合には、タスクを切り出し、常駐の形でサポートさせて頂くことがあります。とはいうものの、基本的にはマネジメントの方と組まないと物事は成り立たないので、やはり既存のマネジメントチームの方といろんなプランを策定し、それを実行頂くというのが一番の理想です。 ご質問にある、マイナスイメージは、株主が常駐するときの負の側面にあると思います。特に、親会社から送られて来た管理者が、子会社のマネジメントを管理している、ということでは、ガバナンスを基軸とした付加価値提供はできません。大事なのは、役割分担です。冒頭のプランニングの結果、必要なものが明確となり、それについて更に我々がお手伝いできる分野をはっきりさせ、ユニゾンが担うタスクを切り出し、常駐の形でサポートさせて頂くことがあります。その時には、マネジメントチームの担当の方と組んでタスク実行をして、徐々に役割を移管してゆく、ということです。 例えば共和薬品工業様です。もともと日本の企業でしたがインド企業の傘下に入り、それから親会社の事情で資本的に離れる必要が発生しました。経営チームは社長以下しっかりと独立しており、この経営チームとユニゾンがタッグを組み、当時の親会社の財務的な困難に起因した問題に対するソリューションの提供を考え提案をしました。経営チームからすると、ユニゾンと組むことで更に成長する道筋は作れるのだろうか、我々の投資家としての製薬事業に対する知見や、ネットワークを通じて補完関係が意味あるものなのか、がポイントでした。そして、深い話し合いを経て信頼関係を醸成します。最終的には、双方が合意できるしっかりした経営計画ができました。ユニゾンの役割は、計画に基づく必要な資金調達、経営チームの施策を保管する外部のリソース探し、など、事業の周辺での必要なサポートを提供する、というのが主眼です。 対局にあるのが、資さんうどんという北九州の地元志向のうどんチェーンのケースです。こちらは創業オーナーが既に亡くなっていて、経営が空洞化していました。ただ立派な事業を創られたため、40店舗の規模で利益もしっかり出ており、経営陣は、うどんを作って店で出すということに関してはとっても自信を持ってやっていました。店長以下の従業員の方々で自走できるくらいでした。しかし、そこから例えば次の5店舗、10店舗と店舗網を広げよう、そのために食材製造機能を拡張しようとしても、新しい取り組みをする組織にはなっておらず、そのままでは困難であると判断しました。そこで、社長や専務を外からスカウトし、外部のプロ経営者と中堅幹部を繋げ、初期的には様々な企画機能を我々が代行することをしました。そのために、投資開始後もユニゾンの投資チームのメンバーが一定期間、常駐で関わり、徐々に機能移管をしていった例です。 投資先のニーズによって、我々の直接的な関りが深い場合もあれば、さらっとしたものになる場合もあります。理想はさらっとしたものですね。というのはやっぱり会社は永続するし、我々の関係は永続しないので、そういう意味でもなるべく会社自体に能力を持ってもらう、そのためのお手伝いをするのが我々という考え方でやっています。 ーー このサイトの読者の方々にメッセージをお願い致します。 川﨑 プライベートエクイティや、外部の投資家を経営の中に入れていくことは、そんなに頻繁にあることではないですし、正直申し上げて違和感が大きいものだと思います。かたや我々のような存在が、ものすごく有効に機能する場面というのが多くの企業であるとも実感しています。先ほど挙げた製薬業界に限らず、様々な業界で事業会社が難しいオペレーション状況あるいは財務状況になる、またその結果として組織の方向性自体が乱れてしまうということを経験するわけです。時間軸を考えた際には、方向性を直す作業を資本と経営が一体となって実施することが極めて有効です。そういった場面、我々のような投資ファンドと組むことが積極的に考えられるようになってきていますが、今後もこの流れは拡大していくだろうと思います。基本的にはニーズがあって、それに合致する形で市場というのは大きくなってきているということだと思います。具体的な成功例の裏側にはそれを可能にする様々な施策があるということをお伝えできればと思います。 以上 ユニゾン・キャピタル株式会社https://www.unisoncap.com/jp/
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- 2021.12.07
和魂洋才のプロフェッショナル集団
カーライル・ジャパンマネージングディレクター 小倉 淳平 UBSウォーバーグ証券会社(現UBS証券株式会社)の投資銀行本部にて、主に金融機関に対するコーポレートファイナンス業務を担当。在職中、ニューヨークオフィスの金融法人グループに所属し、米銀、資産運用会社向けアドバイザリー業務に従事。2006年にカーライル・グループに参画。現在、マネージングディレクターとして国内のTMT(テクノロジー・メディア・テレコム)関連の投資先支援業務を主導。株式会社マネースクエアHD及びAOI TYO Holdings株式会社の非常勤取締役。過去においてアルヒ株式会社、シンプレクス株式会社及びウォルブロー株式会社の非常勤取締役、チムニー株式会社及び株式会社ツバキ・ナカシマ非常勤監査役。 慶應義塾大学総合政策学部卒。 マネージングディレクター 寺阪 令司 1994年に大蔵省(現: 財務省)でキャリアをスタートし、6年間勤務。2003年より10年間カーライル・グループに在籍。2013年以降は株式会社ジャパンディスプレイ、ベルリッツコーポレーション、株式会社マレリ(旧カルソニックカンセイ株式会社)など、様々な業界で上級管理職を歴任。2020年よりカーライル・グループに復帰。現在、マネージングディレクターとして製造業・一般産業(General Industries)関連の投資先支援業務を主導。 東京大学法学部卒業/タフツ大学(フレッチャー法律外交大学院)修了/スタンフォード経営大学院修了。 マネージングディレクター 渡辺 雄介 三菱商事株式会社にて、機能性⾷品素材、ニュートラシューティカルズ、プラスチック、石油化学の事業投資、メーカー経営、ターンアラウンドに従事。 2006年にカーライルに参画。現在、日本における消費財・小売・メディア・ヘルスケア関連の投資先支援の責任者。もやしとパック野菜の製造を手掛ける名水美人ファクトリー株式会社(旧九州ジージーシー株式会社)、化粧品受託製造・研究開発大手の株式会社トキワ、サステイナブルな新世代バイオ素材を開発製造するSpiber株式会社、Supreme、Golden Goose Deluxe Brand他グローバルブランド等の支援に関与。 過去には、コバレントマテリアル株式会社(現クアーズテック株式会社)、AvanStrate株式会社、株式会社ツバキ・ナカシマ、シーバイエス株式会社(旧ディバーシー株式会社)等の支援業務に従事。現在、株式会社トキワ、Golden Goose Deluxe Brand JapanおよびSpiber株式会社の非常勤取締役。 慶應義塾⼤学経済学部卒。ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。 「新しくて面白い!」と胸を高鳴らせての参画 (写真左から寺阪令司氏、小倉淳平氏、渡辺雄介氏) ーー 皆さまの自己紹介と貴社に参画された経緯についてお聞かせください。 小倉 2006年に入社して以来、15年間にわたってバイアウト一筋に取り組んでいます。前職時代、ニューヨークのビジネスシーンにおいてプライベートエクイティが様々な価値を創造する姿を目の当たりにし、このような機能は日本でも必ずや求められる、ぜひ携わりたいという想いで入社しました。 寺阪 私、実はカーライルへ2度入社しています。最初は2003年から2013年まで10年間を過ごし、その後2020年に戻っています。元々は日本を良くしたいという志で公務員からキャリアをスタートしました。その後、米国へ留学した際、産業界におけるプライベートエクイティの活躍に大いなる可能性を感じ、帰国後カーライルに入社しました。2013年に事業会社に場を移して経営を学ぶ傍ら、投資先の立場から支援の在り方を考える機会を持ちました。この経験を携え、昨年より再参画しています。 渡辺 私も2006年に小倉とともに入社しました。日本企業のお手伝いに加え、グローバル企業の日本展開という観点からも色々と投資に携わっております。元々は三菱商事に在籍しファンドはハゲタカだと思っていた私は、たまたま留学中にカーライルの面接を受けることになりました。その時に、これは会社の売り買いにとどまる話ではなく、例えるなら「松岡修造」だと感じました。「錦織圭」という、島根で日本一を目指している光り輝く少年を探してきて、日本を飛び越え世界一を目指して共に取り組むということではないかと。前職で事業投資を行っていた際に抱いていた、ガバナンスの効かせ方や、海外における人材の採用や機能のさせ方についての問題意識とも相まって、新しくて面白い、日本の企業を強くするプラットフォームになるという期待と興味を持って入社しました。 資本の担い手として存在感の増すプライベートエクイティ ーー 皆さんがこの業界に入られた時から色々と変化があったかと思いますが、昨今のプライベートエクイティを取り巻く環境について、どのように感じていますか。 小倉 かなり大きな変化を感じています。この5年程で、コングロマリット企業において、プライベートエクイティの活用が戦略オプションの1つに並べられるようになりました。黎明期から相当の時間をかけてプライベートエクイティによるバリューアップや再上場への確かな道のりを、業界としてしっかりお見せできた成果だろうと推察しています。 渡辺 帝国データバンクによると、後継者がまだ決まっていない企業が全体の65%を超えるという調査結果があり、後継者不在は喫緊の問題となっています。これを受けて、我々も事業承継の問題を解決する、もしくは親族内でのトランジションをお手伝いするといった形での関わりが増えています。また、アベノミクスのガバナンス・コードも、大企業にカーブアウトを強く促進させる要因だと感じています。さらに、我々の機能をご理解いただいている貴社のようなアドバイザリー企業や金融機関からの投資候補企業への紹介も、我々のビジネス機会増加要因の一つだと思います。 ーー 戦略オプションのひとつとしてプライベートエクイティが根付いているという話は大企業に限った話なのでしょうか? 小倉 いいえ、もっと裾野の広がりを感じています。今や毎月のようにMBOやカーブアウトが発表されていて、オーナー会社であればMBO事例をお調べになっているでしょうし、中堅企業の経営企画やCXOの方々は、カーブアウト案件についてプライベートエクイティが果たす役割や提供する価値について考察されていると思います。 オーナーシップではなくパートナーシップで企業を強く ーー 貴社の理念や大事にされている価値観をお教えください。 寺阪 私たちが大事に思っていることは「事業ファースト」です。もちろん投資家から預かったお金を実際に運用して、最終的にはリターンをあげなければいけませんが、これが前面に来るということではありません。あくまでも「投資先の企業の成功、あるいは成長」が、先ずありきです。その1つのエビデンスとして、上場あるいは再上場させてのエグジット実績が国内隋一ですし、上場後の株価推移も着実な成長を見せており、大変誇らしいことと自負しております。 小倉 我々は投資業ですので「オーナーシップ」を取ることになるのですが、弊社では「オーナーシップではなく、経営陣とのパートナーシップで企業を強くしていこう」というフィロソフィーがあり、これはグローバルでも日本でも共通しています。 お家芸は、日本とグローバルの「いいとこ取り」戦略 ーー 現状の運営されているファンドの概要と、チーム体制やカバーされているセクターについてご説明ください。 渡辺 2000年の日本オフィス設立以来20年の歴史を重ねており、PE業界の草分けの1社であると一社であると自負しています。世界での運用総額は33兆円(2021年9月末時点)とグローバル最大級であり、かつ日本で日本専門ファンドを持った最初の存在でもあります。 小倉 現在、日本において最大規模となる2,580億円の円建てファンドを運営しています。これまでのコミット総額は約6000億円になります。現在投資プロフェッショナルは21名、産業別(インダストリー別)にチームを分け活動している点が大きな特徴です。お客様の事業にコミットしていく限りは、産業のインサイダーにならなければいけないと考えております。我々が手を携える経営者はまさにそのインサイダーであるため、自らプロフェッショナルとして産業の課題意識を持ち、未来を語り、彼らと志を共にしていくことが求められます。私自身はTMT(テレコム・メディア・テクノロジー)セクターを、寺阪はGIG(ジェネラルインダストリー、製造業)を、渡辺がCRH(コンシューマー・リテール・ヘルスケア)を専門に担当しております。 渡辺 我々のインダストリー制をさらに手厚いものにしてくれているのが、豊かな経営経験を有するシニアアドバイザーの存在です。例えばファイザー社の元会長やJ&Jの元グローバルコンシューマービジネスのヘッドといった強力な布陣と一丸となって、投資先事業の発展を支援しています。 ーー インダストリー区分は日本だけではなくグローバル共通でしょうか。 小倉 大きくはグローバル共通のインダストリーの軸を使って活動しています。豊富な情報や深い知見といったグローバル・リソースを日本の投資先のバリューアップに活かしていますね。 寺阪 今やどのセクターもグローバルなしでは語れない状況にあります。例えばテクノロジートレンドは完全にアメリカ先行で、それに倣うのは重要なインサイトですし、コンシューマーやジェネラルインダストリーでも、グローバル展開の巧拙が大きなテーマとして挙げられます。日本とグローバルネットワークの2つの軸を併せ持つことで、元々良いものを持っている日本企業をさらに覚醒させるような価値を提供できると自負しております。 小倉 カーライルには、私が入社した頃から「和魂洋才」という言葉があります。言わば、日本とグローバルの「いいとこ取り」戦略です。当然グローバルの展開のお手伝いもできます。他方、日本のビジネスプラクティスを理解したジャパンチームが前面に出て、経営陣のパートナーとして並走しているということが大きな特徴かなと思います。 ーー サイズの大きなファンドを持たれていることから推察するに、やはりそれなりのサイズの投資案件にフォーカスすることになりますか? 小倉 クラシカルなバイアウトだけではなくて、様々な投資をしていこうと考えています。エクイティサイズではグロース投資だと50億円くらいの投資からという目線もありますし、平均すると100~200億円位のレンジが多いです。中堅の企業様規模から大きな企業様にも幅広くご対応できるレンジをカバーしております。一方で更に大きなサイズに関しても、アジアや米国といったシスターファンドと協働して、4桁億の案件規模もご相談に応対できると考えています。 “One Carlyle”の豊富なグローバル・リソースを十二分に活用する ーー 貴社の強みや特徴が活かされた成功事例をご紹介いただけますか。 小倉 シンプレクス社というシステム会社の案件をご紹介します。日本のテクノロジーは5~7年くらい遅れてのアメリカのトレンドを追いかけるという傾向があります。この案件では、米国チームにおける過去の類似案件の元経営陣を招き、今後の業界変化について意見交換を行った上で投資を決め、バリューアップを実現しました。まさにこれは、グローバルの知見を日本企業の価値向上に還元した事例です。 寺阪 製造業からはツバキ・ナカシマ社をご紹介します。こちらは世界最高級の球面加工技術を有するメーカーでしたが、グローバル展開に課題がありました。まず経営体制を見直し、外部からの引き抜き含めグローバルに耐えられるような経営基盤を作りあげると同時に、M&Aにより業容拡大を並行させ、最終的には世界シェアが6割を超える規模まで成長した時点で再上場しました。日本の製造業において同様に海外展開に悩みを持つ企業様は多いと思いますが、我々は今のリソースにカーライルのグローバルネットワークをブースター剤としてプラスアルファし、非公開化から再上場というパスを作っていきたいと考えています。 渡辺 ヘルスケアからはソラスト社をご紹介します。今では介護大手として有名な会社ですが、元は医療事務を中心にした会社で、株式市場からはあまり評価は高くありませんでした。非公開化して本業を強化しつつも、介護というこれから伸びるであろう新しいセグメントへの挑戦と、その足掛かりとしての買収を検討しました。しかし、この会社にはM&A経験がなかったため、買収の流れの理解、金融機関との関係作り、エグゼキューションやPMIの作法など、一からノウハウを一緒に積み上げていきました。結果として介護事業も大きな柱となり、再上場後の株式市場の評価も飛躍的に大きくなりました。新たな成長戦略を共に創出したという事例です。 コンシューマーからは名水美人ファクトリーというもやしの会社をご紹介します。オーナーの事業承継が大きなテーマで、外部人材の活用と内部からの人材育成含め、次世代の経営基盤を整えました。新機軸としてミックス野菜のパック事業を立ち上げると共に、自分たちの想いが消費者に届くようブランディングを再検討し、企業名、ミッションやビジョンの整理、パッケージの見直し、広告宣伝戦略などを一気通貫でサポートし、4年間で30%売上を伸ばしました。 ーー 御社の投資後、社名やブランドが変更になった事例がいくつかあります。どのような考えや戦略に基づいて実施されたのでしょうか。 小倉 カーブアウトのように母体だったコングロマリットの名前を使えなくなる場合だけでなく、事業承継など必ずしも名前を変える必要がない場合においても、体制変更や何かしらの変化の中で一度立ち止まり、「10年後に自分たちはどのような姿を目指し、それにふさわしい会社の名前は何なのか」を経営陣や従業員の方々と一緒に検討を重ねていきます。まさしく第二創業という位置付けで議論が起こるケースが多いです。会社名の変更ありきというよりも、もう一度、社会で果たすべきミッション、これから実現を目指すビジョンを見直して、世の中とコミュニケーションする方法として会社名やブランディングなどを変えた方がいい時がある、そう理解しております。 「我々がいなくなった世界」を想像することから投資は始まります ーー グローバルファンドと謳っているファンド様は御社以外にいらっしゃいますが、カーライルだからこそ!という特徴を教えてください。 小倉 極めて特徴的だと考えているのは、我々は経営陣との緊密な連携や協働関係を非常に重要視するため、今後のビジネス展開や将来像について、案件の手前から相当の議論を重ね、同じメンバーが一気通貫でバリューアップをお手伝いするということです。何よりも我々の資本が抜けた後、その会社が永続的に成長していくために何が必要なのかという所から思考をスタートさせます。他社ファンドにはバリューアップチームを置くところもありますが、我々は必要な機能であれば時間がかかってもその投資先でしっかり体制を備えるべきだと考えます。 寺阪 小倉が申したのは、まさにオーナーなのかパートナーなのかという違いの表れです。あくまでも会社に能動性を持っていただき、我々は経営陣を支えるパートナーであるというスタンスです。その為、経営陣の採用についてもカーライルから派遣するのではなく、あくまでも会社主体で選んでもらいます。 我々の使命は「身の丈経営」を超えるお手伝いをすること ーー 今後の投資戦略や注力されている分野があれば教えてください。 渡辺 コンシューマーに関して、日本の市場だけではやはりそんなに大きくなっていかないので、グローバルで戦っていける事業のお手伝いをしていきたいと思っています。サポートの形としてはDXやブランディング・マーケティング強化もあるでしょうし、海外チャネルの提供や経営陣の強化も考えられます。ヘルスケアに関しては、生産性の向上や医療費の問題の解決につながるディスラクティブなテクノロジーや新しいサービス、アウトソーシングなどに関心があります。 小倉 TMTで関心があるのは、BtoB領域では日本経済の生産性向上に寄与するシステムやテクノロジーを有する会社、BtoCの領域ではデジタルによって今までにない顧客体験を提供するサービスに注力をしている会社です。必ずしも現状が伴わなくても、我々と手を組みビジネストランスフォーメーションをしていこうという会社様とご一緒したいと考えております。 寺阪 製造業でもグローバル展開は大きなテーマとなっており、追加買収や海外子会社の強化など、様々なグローバルの知見が活かせる分野だと思っています。課題は認識しているけれど、自前ではあと一歩足りないという時こそ、気軽に相談していただければと思っております。 渡辺 「身の丈経営」は日本企業の美点ともいえるんですが、グローバルに大きな市場があるにも拘らず進出に躊躇逡巡がある企業に、一歩を踏み出す勇気を与えることが僕らの使命だと思いますし、このプラットフォームの面白さではないかと思っています。 皆さまへのメッセージ~いつかのために、今日お目にかかれたら幸せです ーー 最後に、読者の方々にメッセージをいただけますでしょうか。 寺阪 ファンドというと、どこか無機質に感じられ、実際どういう志を持って関わってくるのか、外側からだと見えにくいと思います。世の中には様々なファンドがありますが、カーライルには、会社の成長を全力でサポートしたいというとても熱い志を持つメンバーが集まっております。すぐさま何かをコミットするのではなくとも、まずは我々の想いや思想に耳を貸していただけたら大変ありがたいです。もしかしたら何らかのヒントをお伝えできるかもしれませんし、リレーションを重ねながら、外部の力を借りたい時の引き出しとして温めていただければと思います。このような観点で、是非一度、お目にかかる機会があればと願っています。 以上 カーライル・ジャパンhttps://www.carlyle.com/ja/carlyle-japan
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- 2021.11.25
社会と個の幸せを見つめる、産業界のポール・スターを目指して
ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 代表取締役社長 木村 雄治 東京大学教養学部卒業米国ペンシルバニア大学ウォートン校 MBA(1991年) 1985年4月日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、国内外取引先向けコーポレートファイナンス及び証券業務を担当。興銀証券(現みずほ証券)設立後、社債・株式引受業務を主導。その後、みずほ証券プライベートエクイティ部長に就任、自己勘定を活用したプライベートエクイティ投資業務を立ち上げる。2004年9月ポラリスを創業し、代表取締役に就任。現在、代表取締役社長として経営全般を統括しつつ、投資委員会委員長として投資・モニタリング・IR業務の前線に立つ。2019年9月一般社団法人日本プライベートエクイティ協会会長就任。2020年4月京都大学大学院客員教授就任(現任)。 『ハゲタカ』の時代、興銀DNAを宿しての船出 ーー 自己紹介ならびに貴社設立の経緯や背景をお聞かせください。 木村 1961年、大阪生まれです。大阪教育大学附属天王寺の中学高校を出て、東京大学に入りました。1985年に日本興業銀行に就職し国際営業からスタートした後、1989年から1991年まで2年間、公費でアメリカのペンシルバニア大学ウォートン・スクールというMBAコースに留学しました。帰国後は証券部、日本郵船等の海運融資を担当する国内営業部7部を経て、興銀証券で株の引き受けも経験しました。その過程で銀行が合併することとなり、自分が目指してきたことと違う商業銀行になっていくのだろうなと思ったのと、興銀が持っている産業金融機能のような中長期的に融資先や投資先をサポートしていくというような仕事にもう一度チャレンジしたいなと思い、自ら新しい器、仕組みを作ろうとポラリス・キャピタル・グループを2004年に設立しました。 当時1990年ぐらいにはユニゾン様やアドバンテッジパートナーズ様、MKS様と後に御三家といわれるPEファンドがスタートしていたのですが、まだプライベートエクイティというものは日の目を見ていませんでした。どちらかというと買収屋というか、ノックアウト企業を買収するというところがハゲタカのようだと言われました。折しもNHKで『ハゲタカ』というドラマが始まり、それと合わせてこの業界は悪の権化みたいに見られていました。 私がアメリカに留学していたときは、プライベートエクイティというものが新しいビジネスとして立ち上がっていた頃でした。ケーススタディを見るなかで、このビジネスモデルは面白い、必ず日本にも上陸し、主たるビジネスになるのではないかと感じ、2004年に会社からチャンスをもらってポラリスをスタートさせました。ただ、実際ビジネスをスタートしたときは、世間でのバイアウトの知名度も、それに対する理解も低く、新しいビジネスとして本当に日本に根付いていくのか微妙な頃だったのではないかと思います。外資系も入ってきて競争が激しくなりつつあり、それなりのビジネスオポチュニティはあったとは思うのですが、如何せん知名度は低く、オーナーには「なぜそんな買収屋に株を奪われないといけないのだ」と受け止められたり、大企業の経営者からはファンドに売り渡すということに抵抗感を持たれたりする時期でした。そんな中で案件を仕立てていくのは相当苦労しましたが、みずほ発というバックボーンをうまく利用しながら信用を勝ち取りビジネスを軌道に乗せ、その後MBOによりみずほを離れ、完全独立系に移行しました。独立の立場になったことが功を奏し、海外の投資家のウェイトが高まり、ファンドサイズを上げていくことができました。また、個人としてはこの2年間日本プライベートエクイティ協会の会長を務めました。コロナ禍でも業界の知名度・存在感アップに貢献できたのではと思っています。 輝星「ポラリス」、その名を冠した想い ーー ポラリス・キャピタルという社名の由来をお教えください。 木村 銀行が合併するという混乱の中で、自分の目指すべき方針を社名で示したいなと思いました。ポラリスというのはポール・スター(北極星)なんです。とにかく軸が動かないというポール・スターの在り方がとても好きで、またそれを目指していこうという目印になるところも、日本産業界の中心となって企業を導いていくイメージに近いのかなと思い、ポラリスという名前にしました。 ーー 貴社が掲げている理念や価値観についてお教えください。 木村 この仕事をやるのであれば、業界のリーダーになりたいという強い想いがあります。われわれのビジネスというのは投資家の貴重なお金を預かり、一定の期間の中で企業に投資をし、付加価値を上げ、それで上げたリターンを投資家に還元していくというフローをつくる役割です。あくまでも中間に位置する導管であるという意識を持つことが必要です。我々の活動は投資家のお金ありきだということと、投資先の付加価値を上げるサービスを提供していくこと、この2つは特に重要です。我々の提供する付加価値により投資先が成長し、結果としてリターンを投資家に還元することができれば、投資家もハッピーになる、投資先もハッピーになるというWin-Winの関係ができるわけです。 また、雇用創出であるとかノックアウト企業を救い出すなど、我々の投資が結果として日本経済や社会のためになっていくことも、我々の理念として大事な所だと思っています。 そして付加的にですが、ポラリスで働いているメンバーが幸せになり、働きがいや生きがいを見出ださないといけない。このビジネスは結構難しくチャレンジングで、強い責任感が求められるビジネスモデルです。5年から10年と中長期的に仕上げていかなければならず、そういったプレッシャーの中でも楽しい、やりがいがあると社員の皆に思ってもらわないといけないと思っています。このような想いを盛り込んだ経営理念を打ち立てて、これまで17年間やってきています。 企業価値向上にコミットするバリューアップグループ ーー 貴社の体制についてお教えください。 木村 現在従業員は合計で50名程度です。創業メンバーをコアにそれなりの組織サイズになっていますが、次世代につなげていくために、やはり組織をピラミッド構造にすべきだと考えています。私も含めてトップの層は50~60歳ですが、底辺の部分を立ち上げて、VPやアソシエイトを大量採用していく必要があるのではないかと思います。最古参のメンバーはそれなりに実績やノウハウもついてきているので、その中間から下のところを再構築し強化していくというのが今、組織の課題ですし、これから取り組んでいきたいことです。 さらに大きいファンドを運営すべく、それに向け陣容は相応に強化する必要があるなと思っています。具体的には、投資グループを中心に陣容拡大を考えています。一方、3年程前に「バリューアップグループ」というものを作ったのですが、これは投資先の企業価値を上げることに専念するチームです。投資グループとバリューアップグループがタイアップして投資先を見ていく体制です。投資グループは投資実行から投資後モニタリング、バリューアップ、エグジットまで一気通貫で行うのですが、バリューアップグループはその投資先に集中することで、投資グループのモニタリング力にアドオンするような機能を搭載しようと立ち上げました。特にマッキンゼーやボストンコンサルティンググループ(BCG)など、経営コンサルティング経験を持ち、かつ事業会社での経営経験がある者を採用し、現在は5名体制の組織となっています。 トップはBCG出身で、彼は投資グループにも在籍していたことがあるため、投資経験もあります。彼を核として、マッキンゼー出身の製造業等に詳しい者、それからBCG出身でヘルスケアに強い者、最近はマッキンゼー出身でDXやAIに強い者を採用し、陣容を強化しているところです。 なぜバリューアップグループを作ったかというと、これからはバリューアップ競争というものが業界の軸になるであろうということと、企業価値を上げるバリューアップグループという先端チームがしっかりそこに目配りすることが、ポラリスの競争力を高め、恐らく差別化要素になると思ったからです。私としては、これからはバリューアップ手法としてDXや業種に特化したノウハウは必須と考えており、また製造業、ヘルスケア、DXはこれから投資も集中していかなければいけないセクターのため、その辺の専門家を採用し、バリューアップに専念してもらうことも考えています。 投資グループのモニタリングは他の投資と並行して全てを見ていくため、時間の使い方として薄くなる面があります。そこで厚みを出すためにバリューアップグループがついているわけです。また、一つのレポーティングだけでは不確実な面があります。例えば、投資先に入れ込むと何も見えなくなって守ろうとしたりする体質が出てくるのです。一方、バリューアップグループはニュートラルに見て報告してくれる。投資グループとバリューアップグループの両輪体制を取ることで、私としては正確なジャッジメントを下しやすくなります。事実として、バリューアップグループが関わるようになってから投資先のモニタリング力は格段に上がっています。 経営者のプレッシャーに応える確かな提案力とエグゼキューション力 ーー 近年大企業のカーブアウトの案件を多く手掛けられていますが、昨今の大企業のカーブアウトの動きをどのように見ていますか?また、御社がカーブアウト案件で実績を上げている強みについても教えてください。 木村 大企業のカーブアウトで言うと、富士通の携帯事業のカーブアウトや、パナソニックの監視用カメラi-PROの切り出しもかなり大型でした。直近ではパイオニアからのインクリメント・ピーという地図情報の会社の切り出し、昭和電工マテリアルズのプリント基板事業の切り出し等があります。AIメカテックというフラットパネルディスプレイや半導体パッケージ製造装置の開発・製造・販売などを行う会社は、元は日立製作所の液晶・フラットパネルディスプレイの製造販売事業でしたが、5年かけてこの7月に上場に導きました。このように大企業のカーブアウトについては幅広く堅実に積み上げることができていると思っています。 やはり大企業の経営者の皆さんにお会いすると、選択と集中を早期に計らなければならないと悩まれています。次世代に向けた投資をするためには、やはり非コアというのを選定して売却し、その原資でコアに集中・特化していく必要があります。「非コアの早期売却」というのは経営者皆さんの頭にあるということと、上場されているので株主への意識、特にアクティビストが入っている場合それを意識せざるを得ないということです。どうして収益率が低いのか、アセット効率が悪いのではないか、不良資産があるのではないか、もっと集中と選択を早期化せよなど、経営者はそういうプレッシャーにとても敏感になっていると感じています。また、ガバナンスの面でも、社外取締役が2名入ることがそれなりに機能しているのではないかと思います。客観的な指摘に耳を傾けないといけないという姿勢も出てきており、こういった事業環境面の変革もカーブアウトへのプレッシャーに繋がっているのではないかなと思います。 それから、やはり足元のコロナです。ウィズコロナでどうビジネスモデルを変えていくかというプレッシャーがあるなかで、有能な経営者はこれを転換期として、ファンドなど外部資本をうまく活用して業態やビジネスモデルの転換、イノベーションができないかということを考えておられます。従って、提案は積極的に受けたいし、タイミングと価格が合えば売却を進めたいという経営者の方が増えてきています。 ポラリスがカーブアウトの実績を上げているとの点ですが、やはり私が日本興業銀行出身だということが生きていると思います。いまだに興銀というものは結構評判が良く、「興銀さん出身だったんですね」と言われたり、「興銀のDNAをポラリスが引き継いでおり、産業金融に対する思いもあります」と申し上げれば耳を傾けてくれる企業が必ずいらっしゃいます。そういったものをベースに信頼関係を構築してきました。あとは、提案力とエグゼキューションの力です。弊社はデリバリー能力が高いと評価されています。またプライスに対するコミットがある点も評価いただいているのですが、これは売り手として非常に大事じゃないですか。そういったコミット力を評価いただき、カーブアウト案件を考えるときには必ず弊社を呼んでくださる企業もいます。 あとはファンドサイズです。日系の先駆者がトライしてきた1,500億円というファンドサイズをブレイクし更に上がろうとしている所ですが、この規模感だからこそお声がかかってくる面もあると思います。後は日立さんのカーブアウト案件で、リターンもさることながら上場を達成できたことは、カーブアウトを検討されている大企業の皆さんから「よく仕上げましたね」と評価いただいています。 ーー 今後さらに注力していかれたいセクター、あるいは案件のタイプはございますでしょうか? 木村 ヘルスケア分野ですね。以前、総合メディカルホールディングスという調剤薬局の非公開化案件をお手伝いしました。この会社の創業者の精神は、医療支援というお医者さんをサポートし、日本の医療問題を正そうというものでした。どうやって医療を支えていくか、患者さんをどうやって助けていくかという患者本位な考え方、どうやって皆さんにヘルスケアを味わってもらうかというところにフォーカスしたビジネスモデルに共鳴してバイアウトしたいと思ったのです。ヘルスケアはやり方によってはまだまだ伸び代がある事業だと考えており、医療関連のビジネスを含めて、投資を進めていきたいなと思っています。 2つ目は情報産業分野です。インクリメント・ピーというパイオニアのカーブアウト、これは私が「駅探」をやっていた頃からずっと付き合いがあり狙いを定めていた案件なんですが、この度ベアリング、パイオニアという関係の中で売り出してくれました。なぜ元々狙っていたかというと、地図情報だけではなく位置情報を含めた地図ソリューションがソフトのビジネスになるなと考え、更にこれがビッグデータとうまく繋がるとさらに発展する、プラットフォームになるなと思っていたからです。今後も情報産業にITを絡めたものを狙っていきたいなと思っております。 それから私どもの案件実績として多い技術・製造分野です。先ほど申したカーブアウト案件はほとんどこの分野にあたるのですが、豊富なトラックレコードもあって製造業に対しては土地勘がものすごくできていて、どこにバリューアップポイントがあるか、どうやったら経営改善するかというような技というのはそれなりに磨き尽くしてきたところがあります。そういったアセットを活かすべく、技術・製造カーブアウト案件というところについては狙いを定めていきたいなと思っています。 最後に、非公開化案件です。今ご相談をいくつも受けていますが、最近ではアクティビストが活躍しているということもあり、いい意味で対象会社さんにプレッシャーをかけてくれています。元より潜在力があるにもかかわらずそれを顕在化できていないことがアクティビストに狙い撃ちされている背景ですが、顕在化させるポテンシャルを持つ会社は必ずあるんですね。ですから、業種を問わず非公開化というテーマはものすごく魅力があって、磨けばダイヤモンドになるものを発見できるのであれば、手をつけていきたいなと思っております。弊社が携わった非公開化案件は数多く、ワークスアプリケーションズはじめノバレーゼや、キューサイ、それから総合メディカルとかオークネット等ありました。しかも短期間で仕上げるというノウハウも持っていて、それなりに技を磨いてきた面もあります。積み上げた実績はそれらが評価された結果かなと。エグゼキューション力ですね。 皆さまへのメッセージ~しがらみを共に解決し、夢を実現させましょう ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。 木村 いま働いている環境や経営の実情が「これで良い」ということは恐らくないと思うんです。さらに進化するというマインドを皆さんお持ちになっていると思うんです。しかし、転換には「しがらみ」が障害となります。何らかのしがらみに束縛されて手が打てない、新しい発想に転換できない、アイディアはあるのだけれども実現できない、誰かに止められているなどは絶対に生じます。こういった束縛をどうやって解き放っていくかについて、恐らく経営者の皆さん、従業員の皆さんは頭の中で考えておられるかと思います。また、上場会社特有のしがらみもあるんですよね。アクティビストにやられるとか、株価対策しなければいけない、どうやったら利益を上げられるか、短期的にやらなければならず中長期的には考えられないなど、これはすべて「しがらみ」だと思っています。しがらみをどう解決していくかというソリューションは自前ではなかなか出てこないものです。しかし、お金を提供しながら一緒に考えることができるコンサルティング能力のあるファンドマネージャーがいると、一緒に解決策を見出すことができます。 中長期的にビジネスモデルを磨き直して、皆さんに第二創業というかたちでベンチャースピリットを持ちながら新しいビジネスモデルに向けて走り出してもらいたいと思っています。私は「しがらみ学」と呼んでいますが、「しがらみ」の解決という点からアプローチさせていただいていています。「しがらみ」の解決のためにわれわれを利用して活用してください。必ずソリューションを提供します。そして夢を実現させましょう。 以上 ポラリス・キャピタル・グループ株式会社https://www.polaris-cg.com/
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- 2021.11.25
経営陣との徹底的な議論による会社変革~ファンドから離れた後も競争力のある企業として発展する形を目指して~
株式会社アドバンテッジパートナーズ代表取締役 シニアパートナー 喜多 慎一郎 2003年10月、アドバンテッジパートナーズに参加。国内バイアウト投資事業の責任者。コミュニティワン、カチタス、ユナイテッド・プレシジョン・テクノロジーズ、ネットプロテクションズ、やる気スイッチグループ、コスモライフなど20社以上の案件を担当。事業戦略の策定や、組織改革、ファイナンス支援など全般にわたって投資先企業をサポート。 アドバンテッジパートナーズ参加前は、ベイン・アンド・カンパニーにて、国内外の大手企業に対する経営戦略コンサルティングに従事。東京大学経済学部卒業。UCバークレービジネススクール修了(MBA経営学修士号取得)。 取締役 パートナー 古川 徳厚 2010年7月、アドバンテッジパートナーズに参加。プライベートソリューションズ投資事業の責任者。フジオフードシステム、アークランドサービスホールディングス、エスエルディー、ひらまつ、エムピーキッチン、おいしいプロモーション、ヴィレッジヴァンガード、ウェルネット、ピクセラ、アプリックス、Eストアー、メタップス、メイコー、日本パワーファスニング、キャンバスなどの投資案件を担当。 アドバンテッジパートナーズ参加前は、マッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍し、クライアントの全社戦略や海外戦略の構築、生産性の改善、SCM、買収対象企業の事業精査などに従事。東京大学理学部地球惑星物理学科および同大学情報理工学系研究科創造情報学専攻修士課程修了(Best Manipulation Paper Award, 2006 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation) ファンドから離れた後も競争力のある企業として発展する形を目指して ーー ご自身ならびにチームの紹介ならびにアドバンテッジパートナーズへの参画の経緯についてお聞かせください。 喜多 APには2003年に入社し、その前はベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社に学卒から10年ほど勤めました。コンサルタントとしての仕事は非常にチャレンジングで充実していたのですが、同じ支援をするのなら、経営陣と利害を一致させて企業の成長に深く長くコミットする形で仕事をしたい、と考えたのがAPへの参画の経緯です。 APは今、日本のバイアウトファンドとアジアのバイアウトファンド、およびプライベートソリューションズという3つのファンドを運営しており、日本のバイアウトのファンドの責任者を務めております。チームには30名ほどのプロフェッショナルが在籍しています。 古川 私はプライベートソリューションズというチームの責任者を務めております。APには2010年に入社し、その前はマッキンゼーで3年半ほどコンサルタントをやっておりました。マッキンゼーではクライアントが大企業中心でしたので、もう少し小規模かつ数年間ハンズオンでサポートできるような機会を得たかったこと、またPLの改善だけではなく、会社経営で必要となる法務や会計、ファイナンス等、知見を広げたいという2点で参画を決めました。現在チームには16名のプロフェッショナルが在籍しており、規模も徐々に大きくなってきています。 ーー 貴社の理念や価値観をお教えください。 喜多 一つ目は、我々が投資した企業様には、当ファンドから離れた後も競争力がある企業として発展する会社となっていただくことです。投資後は経営陣と密接に協力し、ファイナンスだけでなく、戦略や組織面での様々なサポートをして、企業の発展に尽くします。例えば、我々のサポートの定番メニューのひとつに、「ロールアップ戦略」とったものがあります。日本バイアウトで過去投資先の半数ほどで、我々の投資期間中に何らかの形で同業のM&Aを行い、自ら業界の再編をリードしています。我々は、追加買収先の選定や交渉、ファイナンスのサポートや買収後の統合まで、全面的にサポートをします。 (代表取締役シニアパートナー 喜多慎一郎氏) 二つ目は、投資先企業に価値提供するにとどまらず、他の株主、従業員、家族、取引先、金融機関、GCAさんのような事業パートナーの皆様も含め、全ての関係者が我々のファンドの投資活動を通じて経済価値を享受できるように、投資実行のプロセス、また投資後の企業運営をさせていただくことを理念として掲げております。これはバイアウトだけではなくプライベートソリューションズのチーム含め、当社のメンバーは全員、常にこの理念を基準に日々行動しています。 株主としての活動と、経営支援という活動の両面からサポートできる意義 ーー 貴社は国内系PEとしては老舗であり、数々の投資実績をお持ちですが、その間、企業及びPEファンドを取り巻く環境は色々変化してきたと思います。直近の環境について、どのようにお考えでしょうか? 喜多 今思えば、2003年の入社当時は、まだプライベートエクイティとかバイアウトに対する世の中の認知はほぼゼロに等しい状況でしたが、近年では、経営者の間で資本や事業を考える上での一つの選択肢として認知が進んできたと感じます。すべての会社がプライベートエクイティの投資対象になるとは申しませんが、やはり産業構造が大きく変化していく中で、我々のように資本面、事業面の解決策を同時に提供できるような存在がお役に立てる場面は確実に増えてきていると思います。 具体的にはこの1年間で6件の投資を実行していますが、約半数が大企業からのカーブアウトの案件です。よく言われることですが、大企業の中で素晴らしいビジネスがそのポテンシャルを活かしきれていないケースは非常に多いし、もったいないことだと思います。多くの日本企業が変革を迫られている状況で、カーブアウトは経営の重要な選択肢となっているのだと感じています。 中堅企業のオーナーの事業承継も案件数は増加しています。後継者がいないオーナーからの承継という場合もありますが、最近は40、50代のまだ若い創業者が次の成長のステージに向かうためにファンドの支援を求めるケースも増えてきています。いずれにしても、ファンドを使った事業承継というのは、オーナー企業の中でも認知が高まってきた、というのが実感です。 ーー プライベートソリューションズ・上場マイノリティへの投資をいち早く立ち上げてやってきておられるのも貴社の特徴かと思います。マイノリティ投資に特化したファンドを立ち上げた背景や狙いをお聞かせください。 古川 バイアウト3号ファンドでダイエー、ニッセンという上場を維持したまま資金を入れてサポートしていくという案件を実行しました。加えて、バイアウトチームで非上場化やMBOを何件も取り組む過程で、4,000社ほどの上場企業の中には、やはり上場維持のニーズが強く、MBOや非公開化になかなか踏み切れない会社が多数あるということが分かってきました。 (取締役パートナー 古川徳厚氏) 我々は戦略の転換や、M&A・海外展開などによる非連続な成長、コスト削減やマーケティング戦略の見直しなど、提案しており、そこに興味を持っていただき、弊社と一緒にやりたいとお声がけをいただくケースは数多くあります。ただ、投資の手法として非公開化だけですと、実際に投資に至るケースは限定的なものになると考えました。そこで発想を転換して、それならば上場を維持したまま出資させていただき、サポートを実現していくというパターンもあるのではと考え、2008年5月にインフレクション1号を立ち上げ、活動を本格化いたしました。私は2010年から参画し、インフレクション1号でいくつかの案件に取り組んだ後、、こうした投資先企業のニーズは継続的にあると判断しインフレクション2号を立ち上げました。加えて、DBJ社やNTTドコモ社にも興味を持っていただき戦略的パートナーとして参画頂き、より大きな案件にも取り組んでいこうとファンド規模も大きくして、3号目のファンドとしてAA成長支援ファンドを立ち上げています。 ーー 御社の特徴というと、喜多様も古川様もそうですが、コンサルティングファーム出身の方が多く、それ故にコンサル的なアプローチを得意とされているかと想像します。コンサルアプローチはソーシングあるいは投資先のバリューアップの局面でどのように活きているとお考えですか? 古川 ソーシング面から申し上げると、アークランドサービスHDやEストアーのような、無借金で大きく成長してきたものの、売上が安定成長又は横ばいとなるなかで更なる成長を求めたいという会社や、イトーキのように、財政状態は良好な一方で収益性が他社に比べて低いという悩みを持たれているところがありました。そういった時は、コンサルティングノウハウを活かし、どのように事業を改善していくか、3年後、5年後の売上、利益や時価総額といった目標を具体的に設定させていただき、どのようなプロジェクトに取り組むべきかを細かくご提案しました。 そのようなアプローチでのご提案に関心を持っていただいたことがきっかけとなり投資に至った案件もいくつかあり、バイアウトチームと同様に、コンサルティングで培ってきたノウハウや、過去案件からの経験などの集積が、新たな案件獲得に繋がってきたというところはあるかと思います。 マッキンゼーやBCG、ベインは比較的大企業がターゲットになると思いますので、そうした大手コンサル会社の報酬水準だと、小さい会社はなかなか利用する機会がないと思います。我々は主に時価総額数十億くらいから2,000億くらいまでの会社を対象としていますが、コンサルティング会社を使ったことがない場合も多いため、しっかり戦略を提案し、数年かけて実行もサポートしていくことができるのが、弊社の最大の強みかなと考えています。 投資先のビジネスモデルの転換を推進、事業戦略構築から実行・組織作りの支援により飛躍的な成長を実現 ーー 貴社のアプローチがうまく機能し大きな成功につながった案件についてバイアウト、マイノリティ投資それぞれで具体的な事案を披露いただけますか? 喜多 バイアウトで投資回収が完了した案件で、カチタスという中古住宅再生事業の会社をご紹介させていただきます。カチタスは地方の中古の戸建て住宅を買い取り、きれいにリフォームした上で販売しています。もともと、「やすらぎ」という社名で名証セントレックスに上場していましたが、5年連続で売上、利益の減少が継続するなど、業績が非常に悪化していました。その状況で外部からの経営改革と資金調達力の向上を目指し当時のオーナー創業者からAPに支援要請がありました。 中長期的には中古不動産市場は成長産業であり、その市場のトップ企業のカチタスはAPのサポートで再生可能であると判断しました。中古不動産の流通を活性化することで、地方の活性化、空き家問題の解決等、社会的課題の解決になるというところも魅力でした。約140億円でTOBを行い非公開化、社名も「やすらぎ」から、家に価値を足すということで「カチタス」と変更しました。 投資後、ビジネスモデルの変革に取り組みました。AP投資前は仕入れ物件の大半が競売物件でしたが、競売市場自体が縮小し、仕入れ競争が激化していました。そこで、家を直接所有者から買い取る方法に転換しました。社名変更だけでなく、営業やブランディング、マーケティングなど、ほとんどすべてのプロセスを再設計しました。現在では仕入れのほぼ100%が直接買取りによる仕入れとなっています。買取り仕入れは競売と比べて営業の手数はかかりますが、収益性は高く、結果として粗利率や在庫回転率も大幅に改善しました。 経営体制としては、オーナーが引退される前提でしたので、リクルート出身の新井社長を招聘しました。マーケティングや経営企画、人事などの不足していた機能には、新たにプロフェッショナルを採用し経営組織を強化しました。5年後に東証1部に再上場し、今では時価総額3,000億円を超える企業に成長しています。高成長、高収益な企業に生まれ変わったことで、従業員の皆さんにとってもポジティブな変化を起こせたのではないかなと考えています。我々の投資期間を通じ、営業スタッフはもともと週休1日だったところは完全週休2日となり年間休日数は倍増し、一人当たりの年収は1.3倍以上に増加しました。 ーー バイアウトされた時に140億円程度だった価値が3,000億円に成長というのはものすごい成功だと思いますが、これを可能とした事業内容のトランスフォーメーションは投資前からアイデアとしてあったのか、投資後に経営陣と一緒に策定されたのか、もう少し詳しく教えていただけますか? 喜多 我々は再上場したときに株式を売ってしまったので、すべてリターンとなっているわけではないのですが、、(笑)。ただ、「ファンドから離れた後も発展している」という事例ではあると思います。 ご質問にお答えすると、全ての投資案件について、投資前のデューディリジェンス期間に「投資仮説」を作ります。会社の強み、市場や競合状況を踏まえた上で、我々の投資期間中、事業、組織、それを支える資本構成をどのように変化させ、企業価値を高めてゆくか、についての設計図です。この精度が高ければ高いほど、案件の成功確率は上がります。但し、実際は投資後、経営陣とじっくり議論しながら、仮説を具体化させてゆきます。 本件については、事業環境として今後、日本の空き家が増加していくとか、リフォームのニーズが増えていくとか、マクロについての見立ては今から見ても正しかったと思います。競売から徐々に買取り中心のモデルに切り替えていく必要があるということは理解した上で投資を実行しました。ただモデル転換の大変さについて、投資時に完全に理解できていたとは思いません。経営陣と、買取りへの切り替えをいくつかの営業所でトライするなど色々な試行錯誤を経て、課題を一つずつ潰しながら実行していきました。最終的には経営陣の実行力が案件成功の鍵となりました。 投資先が継続的なM&Aを重ね企業価値を上げていく 古川 外食チェーンのフジオフードグループ本社(旧フジオフードシステム)が成功事例として挙げられます。投資時の2012年には650店くらいだったところから、今では900店ほどと店舗数をかなり伸ばしました。投資時は時価総額80億程度で、自己資本比率も若干低く約20%でした。我々にコメダ珈琲や牛角などいくつか外食への投資経験があり、そのノウハウを活用してより成長していきたいという先方のニーズがあり、案件化に至ったものです。 当時売上・利益は横ばいで成長が止まっており、まいどおおきに食堂という定食チェーンは全国に出店し切っていて、なかなか次の成長を見出せず、時価総額も100億を切っていました。そこから成長軌道に乗せようと我々と連携した結果、売上も利益も倍ぐらいの規模に成長することができました。時価総額も直近では600億円程度になっています。 最初は中期経営計画を一緒に作りましょうというところからスタートしました。システムを入れ替えて分析をより簡単にできるよう経営基盤を整えた後、各部門長とディスカッションを重ね、お客様の購買データやマーケティングの効果を分析しながら施策を打っていきました。一例として、投資期間中に消費税改定で8%から10%に上がることになった際、そのまま値段に反映すると利益が2%落ちてしまうので、上手くサイドメニューを改定しながら平均単価を上げ、利益を落とさないようにする取り組みを、パイロットA店とB店で実施・比較し、結果的に良かった方を採用したということが挙げられます。 M&A活用と海外展開による成長もマルチプル向上のきっかけになりました。M&Aは1回も経験のない会社でしたので、まずはどのようなM&Aを実行すべきかという議論からスタートし、数十件を一緒に検討していくなかで、結果的に7件実行し、M&Aで成長できる会社に変わっていきました。海外展開は、当時1~2カ国だけでの展開だったところから、タイ、台湾、インドネシアでジョイントベンチャーという形で出店を重ねることができました。 経営陣と一つ一つ話をし、納得いただき進んでいく ーー マイノリティオーナーだからこその難しさや、マイノリティオーナーだからこそできたことなど教えてください。 古川 弊社では成長支援型と再成長型という形で案件タイプを大きく分けています。成長支援型というのは比較的業績が好調の会社に対してM&Aや海外展開などで非連続に成長カーブを上げていきましょうというサポートスタイルで、このような場合には資金ニーズは相対的に小さいことから、弊社の持分比率は潜在株で10%~20%といった少ない持分でサポートさせていただくことが多くなります。このような案件の場合、既に成功している会社ということもあり、隅から隅まで経営支援をして方向性を変える必要性はあまりなく、非連続成長をめざして足りない機能に注力してサポートしていくことができます。 一方、再成長型の場合、最近では新型コロナウイルスの影響などでかなり時価総額が下がっている状況の企業に投資することが多くなっています。スターフライヤーなどが該当しますが、必要な金額から逆算して持分比率が決まるため、結果として持分が大きくなるケースが多くなる傾向があります。このような場合には、潜在株ではあるのですが、役員も2名派遣するなど、グリップを握りながら、かなり深く入ってバリューアップ活動を行っております。リティ出資に比べかなり深く入って対応しております。 喜多 バイアウトについては、取締役会の過半を持ち、そのパワーを背景に投資先の運営をしている、というイメージが一般的にはあるかもしれません。ただ、実際には経営陣と一つ一つ話をして皆さんが納得して動いていただかないと物事は進みません。これはマイノリティ投資でもバイアウトでも同じだと思っています。 ーー 御社は長い歴史の中で様々な業界、消費財からサービス業、製造業まで多岐にわたって支援をされているのも特徴です。他のPEファンドは、得意なセクターに注力をして投資をするなどセクターで濃淡をつけているところもありますが、御社はどのように各業界の知見を蓄積されているのでしょうか。 喜多 前述の通り、投資先の経営陣と議論をしながら、実現に向けて我々のノウハウなりネットワークを提供して、会社の価値を上げていくというのが基本的なやり方です。セクター個別の知見は経営陣が一番お持ちですし、必要に応じて外部から追加のリソースを獲得することも可能です。これまでセクターを絞らず投資先の幅を広げてきたことで、結果として幅広い業種への知見を蓄積することができました。また、業界を絞ることなく投資をしていることによって、例えば製造業で培った品質管理のノウハウをサービス業で活かす、といったことも可能になります。 一方、経営の課題の多くはセクターを超えて共通的なものが多い、というのが我々の実感ではあります。例えば、投資先の経営におけるDXの重要性はますます高まってきています。我々は、IT企業そのものへの投資経験もありますし、過去に色々な業種の投資先で、ユーザーの立場からITの戦略立案を実行してきた経験を豊富に持っています。経営陣が主体となって戦略を実行してゆく、その際に我々のノウハウやネットワークを活用いただく、それが我々の知見につながってゆく、という正の循環を作りたいと思っています。 古川 ファンド運営上、業界を分散した方がリターンは安定化するということもありますが、何より、例えばスターフライヤーなどは私にとって新しい業界であり、色々な新しい業界に飛び込みたいという知的好奇心的からやってきているというのがありますね。 喜多 これだけ過去多くの投資経験があると、銀行や証券会社、ファイナンシャルアドバイザーの方からご相談を受けた際、何らかの形で我々のその業界に近いところでの経験や、その会社が抱えている課題に対するソリューションを、過去の経験から引き出すことができるというのは、我々の強みになっているかなと思います。 業界を越えた知見を活かした提案を、経営陣と共に実行していく ーー 最後に、ここの読者様にメッセージをお願いします。 喜多 これまで申し上げてきた通り、APグループは上場、非上場を問わず、資本と事業の課題を一体として解決できる様々なソリューションを持っています。事業環境が複雑に変化する中で、過去の様々な経緯、例えば大企業の持つ制約や、創業オーナー家との関係などが障害となり、経営の動きが取りにくくなっている事例は多く見られます。そうした企業では、資本の課題と事業の課題はセットで考えていかないと本質的な解決策は見出しにくいのではないかと思います。 これまでバイアウト投資だけで規模や業種も様々な67社に投資を実行しており、多くの経験を積んできました。また、現在も投資先は20社程度あります。何らか協業ができる可能性があれば、GCAさん経由でも、直接でも結構ですので(笑)、お気軽にお問合せをいただければと思います。 古川 プライベートソリューションズは、上場企業を対象とした、まだ他のファンドではあまりないユニークな投資戦略です。M&Aや海外展開などこれまで経験は少ないが成長のため実行したい、成長に対して人材補強が追いつかず採用面での支援がほしい、収益性または売上の伸びが他社より見劣りするので伸ばしていきたい等、上場を維持したままサポートをするというソリューションを提供しています。ご一緒した投資先企業様から、我々と組んでよかったという声も多くいただいております。是非この機会にご活用を検討いただければ幸いです。 以上 株式会社アドバンテッジパートナーズhttps://www.advantagepartners.com/