今治からの挑戦

イベントレポート 

岡田 武史|株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長、元サッカー日本代表監督

第192回 GCAクラブ(2021年10月開催分)ダイジェスト

今回は、元サッカー日本代表監督で、現在は今治で地域を巻き込んだサッカー事業を率いておられる岡田様に、FC今治の企業理念「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」を体現した取組みと、これからの社会に本当に必要なものは何か、子供たちの世代のために何ができるかについて、お話いただきました。

人口15万人の小さな町で夢を見る、ホラを吹く。

7年前、縁あって訪れていた今治の地でサッカー事業を始めました。日本が世界で勝つために、ジュニアから長い時間をかけて、主体的なプレーができる、自立した選手を育てていきたい。これを「今治モデル」と名付け、小さくても日本一良質な育成ピラミッドを作ろうと決めました。

同時に、この地方の町に活気を取り戻そう、スタジアムを作って人を呼ぼうと。お前はホラ吹きだと言われ、最初は何を言っても何をやっても、受け入れて貰えませんでした。けれど、語り続けていたら、いつしか仲間もお金も集まって、5,000人のスタジアムが建ちました。どうやったらここを満杯にできるだろう?楽しんで貰えることは何でもやろう!チームでの挑戦が始まりました。

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見えないものの豊かさを大切にする社会に

オーナー兼社長としての日々。けれど、経営の経験はありません。全てが手探りのスタートアップでした。当時、ライフネットの出口社長に掛けられた言葉が忘れられません。「大変なことを始めたね。スタートアップの9割は5年以内に潰れているよ。でもね、このリスクにチャレンジするひとがいないと、社会は変わらないんだ」。やってやるぞ!負けじ魂の炎が灯った瞬間でした。けれど、どうしたものかー。先輩経営者たちに教えを乞い、見つけたエッセンスは「理念、ビジョン、ミッション」を整えること。

考え尽くした末に浮かんだのは、自身の人生訓でした。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」信頼、共感、感動、勇気、そんな目に見えない資本にお金が回っていく社会を作りたい。この理念に沿って全てを判断し、日々を積み重ねていきました。

今こそ、夢を語ろう

「お前は甘い、会社が潰れるぞ」そう言われます。けれど、コロナ禍でも黒字決算になりました。自社が厳しい中でも支援を続けてくれるパートナーがいます。応援や共感にお金を出そうという人がいます。そう、サッカーをトリガーに、今治が変わり始めています。

次なるステップは、J2仕様のスタジアム建設に向けた40億円の資金調達です。こんな大金、本当に集まるだろうか。この今治に投資してくれる人はいるだろうか。けれど、砂漠にラスベガスが出来たように、魅力的なストーリーがあれば、きっと共感してくれる人はいる。目指すのは、サッカーだけじゃない、人々が心の拠り所として365日集う場所。僕はまた、新たな夢を語り始めました。

新スタジアム構想 『里山スタジアム~バリ・ヒーリング・ビレッジ~』
https://satoyamastadium.com/

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自分を突き動かすものが何なのか。もし理由を探すとしたら「子供や孫に、自分の手で誇れる社会を作っていきたい。」という想い。未来を生きる子どもたちのために、今治からの挑戦は続きます。

パネルディスカッション

講演後には、今般の資金調達をサポートさせていただいているGCAテクノベーション久保田とのディスカッションを通して、改めて経営者としてのお考えを伺いました。7年の歳月を積み上げた今、皆で目標に向かって進むために必要なことは、サッカーでも経営でも同じだと気付いたそうです。

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■ディスカッショントピック
・企業の役割の変化とこれからの在り方~ものが豊かになり、便利になった。企業は次に、何をするべきなのか~
・「ブルーゾーン」に学ぶ生き方の秘訣
・「夢」と「現実の資本主義」の狭間で考えてきたこと~稲盛和夫さんから学んだ「自我と真我の関係」~
・FC今治が挑戦する「ベーシックインフラ」作り
・スポーツビジネスに起こっているパラダイムシフト
・企業理念はどう浸透していったか~モラルとルールの違い~
・チームで目標を達成するために一番大事なこと
・自立的な組織の作り方
・組織における経験や知恵の伝承
・運を掴むために必要なこと~勝負の神様は細部に宿る

人生の分水嶺は、『ジョホールバルの歓喜』の前夜だったそうです。

負けたら二度と日本の地は踏めない、そんな極限状態のプレッシャーが臨界点に達したときに、はたと開き直れたそうです。窮地に追い込まれて、人は身を守る殻を破り、成長のステップを踏める。眠っていた遺伝子にスイッチが入ったようだったと述懐されていました。

講演で挙がった書目と、薫陶を受けた方々のお名前を聞くにつけ、実に広い交友関係と豊富な知の引き出しをお持ちであることに驚かれた方も多いかもしれません。スポーツ関係者のみならず、一流の経営者達に教えを乞い、時には禅問答をしながら、経営観を養ってこられた岡田様。経営者の方には揺るがない覚悟の決め方を、マネジメント層には強い組織の作り方やリーダーシップのあり方を、地域を考える方には地方創生のヒントや活動の盛り上げ方など、どの立場で聞いても示唆に富むエピソードの連続だったのではないでしょうか。

今日のオーディエンスも、夢の傍観者から、夢のサポーターへ。

少年のように夢を語る姿に、いつしか身を乗り出して応援したくなってしまう。人懐っこい笑顔に存分に魅せられた90分でした。