危機を乗り越え進化を続ける長寿企業IHI

イベントレポート 

釡 和明 ⽒|株式会社IHI 特別顧問 (元代表取締役会⻑・代表取締役社⻑)

第191回 GCAクラブ(2021年9月開催分)ダイジェスト

今回はIHI特別顧問の釡和明氏に、IHIが創立168年の中で主力事業を時代とともに変化させ、直面する様々な経営課題の変化にどのように打ち克ち進化を続けてきたかについて、事例を交えお話いただきました。

連綿と受け継がれる技術のDNA

IHIの創業は黒船が来航した1853年、水戸藩が幕府の命を受けて設立した石川島造船所を母体としています。

冒頭、広壮な「ものづくり系譜図」に目を見張りました。造船を祖業に、派生した技術は各種産業用機械、プラント製造建設、いまでは産業や社会の巨大なインフラストラクチャー作りへと拡大しています。まさに連綿と受け継がれる技術のDNA、IHIの歴史は日本の重工業の歴史であると言えるでしょう。

右肩上がりの成長を遂げてきたIHIでしたが、経営はいま大きな転換点を迎えています。
コロナ禍による航空機需要の激減に加え、自動車産業は電動化への大きなうねりに突入し、更に気象災害による経済損失の問題からカーボンソリューションの必要性が高まっています。このような危機とも云える事業環境下で、IHIはどのように経営方針を再定義したのでしょうか?

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危機を乗り越えるために何が必要か

IHIでは、イノベーションとは単なる技術革新ではなく「新たな価値を生み出すこと」と定義し、「既存の技術×既存の技術」の掛けあわせと捉えています。危機を乗り越えるためにはイノベーションの創出が重要だと考え、グループ全体最適をミッションとした司令組織を新設し、機動的な投資施策とポートフォリオ管理の見直し、更にM&Aも積極的に活用しながら集中と選択を進めてきました。

長寿企業の更なる挑戦!~脱炭素社会の実現に向けて

近年、ますます重要性を増すESG経営。講演の後半では、カーボンニュートラル社会の実現を目指し、クリーン燃料への変換やCO2の有効利用など、IHIの様々なグリーントランスフォーメーション(GX)の一端をご紹介いただきました。

■事例:アンモニア混焼技術■
JERAと共同したカーボンソリューション事業。
石炭火力発電所においてアンモニアを石炭に混ぜて燃やすことで、従来の発電量は変えずにCO2排出量を削減。
IHIはアンモニアの燃焼状態を効果的に抑制し,安定的に燃焼させるバーナー開発に成功。
NEDOの助成事業にも採択され、2024年度にアンモニア20%混焼を目指し、世界発の実証事業を進めている。
https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2021/resources_energy_environment/1197405_3345.html

講演の最後には「私たちの役割は環境に優しく豊かな社会、つまり自然と技術の調和する社会を作ることです。『Realized your dreams』をコーポレート・メッセージとして、世界中の人々の夢を実現する企業グループとして『頼りになる存在』でありたいと思っております」という力強いメッセージを頂きました。

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パネルディスカッション

長らのくお付き合いをさせていただいている弊社マネージングディレクター池田と、次のようなテーマについて深掘りしながら、M&A巧者としてのIHI、そして釡様の人となりにも迫っていきました。

■M&Aについての基本的な考え方
規模やステージを異にする事業を多数抱え、M&Aを日常的な経営手法に持つIHI。改めてM&Aに対する基本的な姿勢を伺いました。
・日常的な思考にM&Aを組み込む
・M&Aが有効となる領域の整理法(象限整理)
・M&Aの発案や推進体制

■造船事業の事業統合について
祖業の切り離しという大きな決断について、当時を振り返ってお話いただきました。
・検討開始の時期
・社内からの抵抗と説得
・統合比率への配慮

■IHIでは珍しいと言われるキャリア~財務畑からの社長職
釡様は高校時代までを長崎で過ごし、東京大学を経てIHIに入社、その後は主として財務畑を歩んで来られました。財務畑からの社長職というアングルで様々なご示唆を頂きました。
・「選択と集中」を行うために、トップに求められること
・財務畑出身の強みとは
・CFO出身の社長への期待について

本講演で特に印象的であったことの一つは、失敗事例を惜しみなくご披露くださったことです。その訳をお尋ねしたところ、こんな言葉を返してくださいました。

「会社側としても本当は失敗事例などを話したくはない。ただ皆さんもなかなか聞くチャンスもないと思い、敢えてお話することで、誰かのお役に立つのであればと思いました」
先人の失敗事例から学ぶことは、聴講していた会員企業様にとって非常に有意義だったのではないでしょうか。

個社固有の事案からでも、何か普遍的な学びがあるのではないかと、そうお考えになった釡様。
気骨の経営者に滲む、その誠実なお人柄が、会員の皆さまの胸を静かに打った講演でした。