「統合して何が変わった?何が変わってない?」~フーリハン・ローキー×GCA経営統合1周年記念企画(第2回)

シリーズ記事 

米国のグローバルM&Aアドバイザリー会社フーリハン・ローキー(HL)との経営統合を受けて、昨年2月22日に社名を変更して1周年を迎えました。M&Aの当事者となったM&Aアドバイザーは何を感じたのか、統合によってどのような変化がもたらされたのか。統合から1年が経った現在、HLのM&Aアドバイザーが統合時の心境や現況を語ります。全5回のシリーズの2回目となる今回は、ヘルスケア/ライフサイエンス部門を担当している美里賢史の話をご紹介します。

「統合はステージアップの手段の1つ。未来に対する期待感しかありませんでした」

――旧GCAで担当されていた業務をお教えください。

美里 私が入社した2008年当時はまだ、GCAはさほど大きな組織ではありませんでした。そのため、入社当初はM&A業務全般を手がけ、業務領域の拡大に伴って担当が細分化された2011年頃からヘルスケア/ライフサイエンス部門を担当するようになりました。2020年から統合まではGCAから分社化したGCAヘルスケアでヘッドをやりつつ、GCAグループ日本でのヘルスケア部門のリーダーを務めてきました。

――GCAと米HLとの経営統合について、いつお知りになりましたか?その際に感じたことなどをお聞かせください。

美里 統合は、TOB公表のタイミングで知りました。正確には、前日の夜10時ごろ米国で先に開示され、それを見た仲間が知らせてくれたのです。

情報管理が徹底されていたため予期すらしていなかった話でしたが、新しいステージに入ったんだな、というのが最初に頭に浮かんだことでした。私が入社する直前にGCAは米サヴィアンと統合して、その後上場市場も東証一部となり、さらに、欧州アルティウムとの統合も経験してきましたから、今回もステージアップすべき時期が来たのだと思いました。そして、より大きなプラットフォームになることと、これから協業することになる人たちとの出会いに対する期待感でいっぱいでした。

――統合後も日本のヘルスケア/ライフサイエンス部門を率いられていますが、ご担当分野のM&Aの特長をお聞かせください。また、統合後に渡米されたと伺いましたが、その目的をお聞かせください。

美里 ヘルスケア産業は、技術の進歩が著しく制度変更も頻繁にありますから、専門性を持ったチームで臨むべき分野です。特にクロスボーダー案件では、資本市場のトレンドだけでなく、海外での業界構造や各制度面にも精通している必要があります。

統合発表後すぐに、日本でのオペレーションは既存のまま継続することを旧GCAのマネジメントチームから伝えられました。とはいえ、旧GCAのヘルスケアチームの位置付けがわからない。そう思っていた矢先、日欧米豪のHLヘルスケア担当バンカーによる会合の開催が決まり、2022年3月にダラスへ渡ったのです。

Rs P1480543 rev

HLのヘルスケアチームは、細分化されたサブセクターごとに担当が振り分けられています。欧州も大幅に人員を増やした直後だったので、ダラスでの会合では、各サブセクターの機能や担当する案件、他チームとの連携事例などの説明を受けました。1日6コマほどのセッションを3日間、空き時間には参加者約80人でのギャザリングやチームボンディングがありましたから、かなり濃密な3日間でしたし、正式にグループに迎え入れられた実感も湧いてきました。

そこで得た情報は、目からウロコのものばかりです。その1つが、米HLでは病院やクリニックなど医療機関そのもののM&Aを扱う医療サービスチームに半数以上のバンカーを充てていたこと。旧GCAのヘルスケア/ライフサイエンスチームでは、バイオベンチャーや医療機器などメーカー系のM&A案件が大多数を占め、医療サービスにはリーチしていませんでした。しかし、欧米では病院がチェーン展開しているため案件の規模が大きく、また投資ファンドがM&Aによって活発に成長資金を供給するので、産業としてとても高い成長率を示しています。加えて、医療費削減や新技術の導入といった世界的トレンドに鑑みると、とても効率的な体制だと感じました。

ダラス会合は、HLのサービス領域をきちんとお客様に説明することができるようになったこと、海外チームとの連携のタイミングや方法が見えたこと、海外のバンカーとの絆が深まったことが大きな収穫でした。

実際にお客様に新体制をご説明すると、お客様の海外M&Aチームが既にHLの現地チームとお付き合いいただいているケースも多くありました。そういった場合、日本でのつながりが海外でのつながりとリンクします。M&A業界は、バンカーの人間力が問われる世界。既に現地に信頼しているバンカーがいればお客様の安心感が高まりますし、海外でのつながりが明らかになることで、お客様との距離もいっそう縮まります。

「同じ理念を共有する海外バンカーたちとの絆は、業務効率の向上に直結します」

――今回の統合は、日本のヘルスケア/ライフサイエンスチームにはどのような影響を及ぼしたのでしょうか?

美里 HLの細分化されたサブセクターに対応するため、統合から1年間、メンバーを増員してきました。これは本社からの指示ではなく、連携機会を最大限に活用するための日本のマネジメントの判断です。そして、お客様に最高のタイミングで最上の価値を提供するための体制でもあります。

ダラスに集まった顔ぶれを見て実感したことは、HLバンカーは皆、HLカルチャーが好きだから長く在籍しているということ。その感覚は、旧GCAのバンカーと共通していました。そして、国を超えたチーム意識が高く、1人ひとりが能動的に行動します。実際、海外チームに質問を投げかけたときのレスポンスはすごく早いし、回答はとても奥深い。新しく加わった日本チームにできるだけのことをしたいという思いが伝わってきます。そうするとこちらも自ずと、彼らが見ている景色を一緒に見たいと思うようになってきます。

――統合により、業務内容に変化はありましたか?

美里 旧GCAのクロスボーダー案件では、買い手側である事業会社の代理人としてターゲットエリアの買収先を探索し、エグゼキューションを支援するといった動きが多かったのですが、全世界のバンカーの協力を得ることができるようになった今は、売り手側代理人も積極的に務めることができるようになりました。

クロスボーダーの売り手側では、真のグローバルリーチがあってこそ、良い買い手候補を見つけるための付加価値が提供できます。HLは幅広い業種セクターをカバーし、経験を積んだバンカーが世界中の詳細に及ぶ情報を収集しています。そのため、事業会社のノンコア事業の売却、ファンドのポートフォリオの売却などお役に立てる場面が広がりましたし、実際、そういった案件の数が格段に増えています。

M&Aは、売り手/買い手探しがベースのビジネスですが、HLには同等規模のキャピタルマーケットのチームが存在しています。この資金調達先をアレンジするチームとM&Aチーム、それが両輪として動いているのです。ダラス会合でその体制を知ったときには予想以上の規模に驚きましたが、お客様と常に関わり、ファンドのポートフォリオや事業会社の成長をずっと見守り続ける体制が素晴らしいと感じました。

旧GCAもHLも自分たちでは投資やトレーディングをしないM&A専業です。常にお客様に向き合い、長期にわたるリレーションから信頼関係を築き上げることが私たちの役割。その理念に賛同している仲間同士が同じ目標に向かって進むのですから、未来には新たな可能性しか感じられません。

「業界の再編期は必ず来る。日本企業が時代に合わせて変化し続けられるよう全力でサポートします」

Rs P1480526 rev 1 1

――今後、日本のヘルスケア分野のM&Aはどのように変化していくとお考えですか?

美里 少子高齢化や人口減少が課題となっている日本において、事業拡大を目指す事業会社は、必然的に海外に目を向けることになるでしょう。他方、海外の事業会社や投資ファンドも日本に注目しています。実際、昨年コロナの入国規制が緩和された頃からは、提携先や買収先を探しに訪日する方も増えています。良いM&Aが増えれば、産業全体が活性化していくと考えられます。そして新しいイノベーションが起こる。これからの時代は、欧米のように病院や介護施設など医療サービスの再編が活発化することも予想されます。

私たちHL日本チームは、業界再編に素早く対応できるよう、海外同様の体制を整えてきました。海外チームの手法を見て、時代の変わり目では先手を打つ。今はまだ日本に存在しないM&Aの形態についても先行している海外事例から日々学び、私たちは進化し続けています。

ヘルスケア産業の盛衰は、将来私たち個々人が受けるサービスの質にも大きな影響を及ぼします。日本政府も産業政策として力を入れていますが、私たちのような立場からもヘルスケア産業の活性化に貢献したいと思っています。

――ご担当されているヘルスケア/ライフサイエンスチームから、読者に向けたメッセージをお願いします。

美里 HLは、ローカルで実績を積んだグローバルなヘルスケアチームがお客様をサポートします。それぞれの国・地域の事情に精通した100名ほどのバンカーが揃う当社は、実力も実績も世界最高レベル。提案の質と幅広さ、実現に向けたサポート力には自信がありますし、ローカル/クロスボーダー問わず全力で支援させていただきます。

日本企業の業態は、ここ数年間だけでも大きく様変わりしました。トッププレイヤーは資源の集中投下や売却した上での買収など、先を見越した視点を持っています。その点、グローバル規模での情報量の多さから幅広い提案ができるHLは、お客様とより深く長いお付き合いができると考えています。

特に、アウトソース事業に代表される製薬関連サービスには、欧州に実績を積んだチームがあります。医療機器については欧州と米州に専門チームがいます。医療サービス分野は、米州の複数の大都市拠点で優秀なバンカーが活躍していますし、日本でも将来を見据えて体制を強化しています。加えて、ビジネスサービスの分野、ヘルスケアITに関しては、旧GCAが得意としたテック専門チームとの強力な連携体制がグローバルで構築されています。HLの柱ともいえるこれらの分野で課題を抱えている企業、グローバルでの事業拡張をお考えの企業の方々は、ぜひ私たちHLにご相談ください。一緒に最善策を検討していきましょう。

【話し手】
フーリハン・ローキー株式会社 マネージングディレクター 美里 賢史

経営コンサルティング会社等を経て2008年にGCAに入社。ヘルスケア/ライフサイエンス・カバレッジ担当として、医療機器、診断・研究用ツール、ヘルスケアIT、製薬関連サービス業界を専門とする。多くのクロスボーダー案件および国内案件を担当。当社参画前は投資会社にてライフサイエンス企業投資にも従事。M&Aアドバイザリー歴は17年超。早稲田大学大学院理工学研究科修了。