誰にでもチャンスがある時代だからこそ、今こそ真剣勝負を|渡辺章博インタビューVol.4

シリーズ記事 

M&Aは単にまとめるものではなく、クライアント企業を成功に導くもの

ーー 今後いろいろなことで変化が起こると思うんですけれど、GCAにとっても激動の時代だとは思います。GCAの役割であったり、今後のGCAが目指すものはどうでしょうか?

渡辺 グローバル化を進めるということで、私どもも上場した以上、上場企業としての責任もやっぱりあるわけです。かつ、創業のときの「For Client’s Best Interest」という理念を貫くためには、グローバル化を進めることによって成長していくことが必要です。そこで株主価値をつくりながら、日本企業の役に立っていくというモデルをやってきたわけです。

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けれど、今は欧米がデジタル化の流れというか、これからのGX、つまりグリーントランスフォーメーションの流れを先取りしているような気がします。ですから、欧米が先取りしているものを、日本企業のために上手く活用していく。今までは、日本企業が海外に打って出ていくためのM&Aをサポートするということが大事な役割だったと思うんです。これはこれからも重要な役割であることには変わらないんですけれど、これからやらなくてはいけないことは、やはりそうやって先取りしている欧米のビジネスといったものを、いかに見極めて日本企業に取り込んでいくか。そういうことをサポートしていかなくてはいけない。

そのためには、我々は世界一のテックグローバルフランチャイズを持っているので、そこからいかに学ぶか。そして、その人達にとっても、日本の企業と組むことで、自分達のクライアントの価値を高めるという意識をつくっていく。それが私に課せられた経営の課題だというふうに思っています。

M&Aはまとめればいいというものではないんです。もちろん、私達はM&Aをまとめて成功報酬をもらいます。まとめることもすごく大事な仕事です。最近の日本では事業承継の仲介モデルが流行っています。M&Aの規模が小さければ仲介でもいいんですが、規模が大きくなると、いろいろな関係者の利害が絡んできます。この関係者の利害を調整するために必死で価格交渉をする。これはFA型と呼ばれる代理人モデルでないとできません。売り手にとっても買い手にとっても話をまとめて欲しい。それぞれの利益を代表したアドバイザーが真剣な価格交渉が行われて合意された案件は双方の利害関係者も納得するわけです。やはりまとめるということはとても大事なことなので、まとめることによって成功報酬をもらうというビジネスモデルは変わらないと思います。

金融機関だったら他にたくさんの金融ビジネスがあります。M&Aでは成功報酬狙いの案件をまとめて儲けるというそれだけでもいいのでしょう。でも私達が目指す独立系世界一というのはそれでは駄目なんです。お客さんが成長してくれて、またM&Aをやってくれないと、リピートクライアントにはならないんです。要するに、一発もので終わってしまってはサステナブルではないわけです。独立系M&A助言会社にとってはよいM&Aをまとめることによって、お客さんが繁栄することが大切です。

結局、日本企業が海外のM&A、あるいはベンチャーのM&Aが成功するポイントは、先ほどの話に戻りますが、学ぼうという姿勢が大事です。一方で、取り込んだビジネスの仲間達にハッピーになってもらわなければいけないんです。日本企業にM&Aをしてもらって、という表現がいいかどうかはわかりませんけれど、M&Aをしてパートナー企業になったことによってこんないいことがあった、という世界をつくらなければ、M&Aは成功しないんです。

GCAの強みであるグローバルネットワーク

私達が海外のM&Aで成功したのは、やはりそこが上手くいったということなんです。これは自分でも誇りに思っています。M&Aを繰り返す中で、グローバルなネットワークをいかしながらローカルなビジネスを伸ばすことをやってきたんですが、それが非常に上手くいった。

ローカルなブティックはグローバルネットワークを持っていないんです。こういった時代になると、たとえばヨーロッパでEコマースのビジネスを売却しますといったM&Aをアドバイスするときには、アメリカの会社にもリーチができるし、アジアの会社にもリーチができる。そういうことが、仕事をもらうための非常に大きなポイントになってきます。GCAのグローバルネットワークの中に入ることでM&A対象のブティック企業がどんどん成長するという成功の方程式ができました。言ってみれば、私の経営力ではなくて、グローバルプラットフォームがあるということだけで、私達のM&Aは成功してきたんです。

本当は、これが日本企業にも当てはまるんです。それはグローバルネットワークかもしれないし、日本の技術かもしれないし、日本人の優しさかもしれない。それはわかりません。やはり投資してもらってよかったな、というふうにM&A対象企業の社員に思われない限りM&Aは成功しないのです。そういう成功の方程式みたいなものを日本企業に認識してもらう。そのやり方だと上手くいくんだということのネットワーク化というか、ナレッジシェアリングしていくということが、次にGCAに課せられている使命のような気がします。

GCAを使っていただいているお客様は皆成長していますが、私はこれをとても誇りに思っています。クライアントが成長しているというのは、我々がちゃんとしたM&Aのアドバイスをしている証拠だと思いますし、そういった良いお客さんがつくことが我々のビジネスの信用にも繋がってきて、非常に良い循環になるということなんです。

ーー なるほど。グローバルのネットワークがあるという強みを今後もしっかりといかしていくことで、自社のお客さんに対する価値も上がるし、ひいてはお客様が成功に向かっていくことのお手伝いになるというところですよね。

渡辺 そうです。もう1つ、日本の会社のために本当に役に立とうと思うと、実は次の段階でやらなくてはいけないことがあるんです。GCAの欧米のネットワークはやはりテックに偏りすぎているんです。これはいいんですが、日本の会社にとっては、バリュエーションがとても高いテックの会社をいきなりM&Aするということが、本当にハードルが高いということがよくわかったんです。これからは成熟型のビジネス。たとえばコテコテの製造業もいいですし、なんでもいいです。そういう海外企業をM&Aをする。海外とくに欧米はデジタル化が進んでいるので、そういった成熟型の会社でもすでにDX化に取り組んでいて、ベンチャーをたくさん買収していますし、ベンチャーの活かし方を知っているマネジメントの人がいるんです。そういうM&Aをすることで日本のDXとかGXというものは進めていくのも一つの手段だと思います。

コロナになってGCAはBIZITというオンラインプラットフォームの会社をM&Aしました。ここは海外のM&A案件を紹介するプラットフォームです。このプラットフォームを通じて、小規模・中規模程度のM&Aを日本企業に紹介していきます。

M&Aしていない地域では海外のブティックと提携しながらやっていますので、それをさらにBIZITと上手く組み合わせることが第一段階です。次に我々自身がグローバルの今までのテックに加えて成熟産業、ノンテックのM&Aネットワークをつくります。そうでないと日本のお客様の役には立てないと思っています。特に10年スキップしてしまったので、ここのスピード感を取り戻すためには、やはりもう一段M&Aをしなくてはいけないのかなと思っています。

誰にでもチャンスがある時代だからこそ、今こそ真剣勝負を

ーー このメディアの読者さんである経営者の皆様にメッセージをお願いします。

渡辺 私達も含めて、いままさに本当に真剣勝負で経営をしないといけない。来年は今年から続いているんだ、という意識ではいけない。このパンデミックで冷や汗をかいたわけじゃないですか。おそらく景気は急速に回復すると思うんですけれど、そこで冷や汗をかいたものが乾かない内にアクションをとらなくてはいけないということは、本当に強く申し上げたいです。

リモートワークが進んだり、郊外に行ってワーケーションということをやったりとか、そういうこともどんどんやられていると思いますが、日本の大企業のおじさん達というのは、ちょっと気を緩めると、すぐに元に戻ると思うんです。「景気が戻ってよかったな」「パンデミック怖かったな」ということで、過去のものにしておしまい、ということであってはいけないんです。

日本の経営者の皆さんは、パンデミックのあいだ会食もなく、私も含めてですけれど、お家時間の中で本当に真剣に経営をしたと思います。経営者の仕事は、やはり頭を使うことなんです。けれど、頭を使うとお腹がすくんですよね。食事の時間が楽しみになるくらい、動いていないのにお腹がすくくらい頭を使うということを、皆さんされたと思うんです。そのときに、やはり進むべき道はこうだ、ということがあったはずなので、それをしっかりとやっていく。それは、いろいろな手段を使ってやっていくべきだと思うんです。

その際、我々のようなアドバイザーも活用していただきたいし、アクティビストみたいな人達の中にも、バリューアクトなど非常に評価の高いエンゲージメントファンドがありますから、ああいう人達の手を借りるとか。あるいは、ファンドの手を借りて一度非公開化して、ビジネスのトランスフォーメーションをしていくとか。今はもう、いろいろな手段というのがあるわけです。そこで、いやいや、自分にはもう成長しかないんだというのであれば、インフレが本格化する前に、まだ低金利ですから、今の内にレバレッジをかけてM&Aをするという手段もあるでしょう。そういったことで、とにかくアクションをする。景気が回復して、もう大丈夫だというふうに思わないでやっていただきたいということが、私が今一番お伝えしたい事です。

今の日本の状況で私がすごく危機意識を持つのは、大企業のサラリーマン経営者の方々が、短期思考に陥っているということです。いわゆる、短期での成果を出さなきゃという思考です。言ってみれば、四半期の決算至上主義。今はマイクロIPOみたいなことが本当に多いじゃないですか。本当に必要なリソースがないうちに、クリティカル・マスというか、そういったものがないうちにIPOしてしまって、結局四半期報告に追われてしまう。

日本のベンチャーコミュニティは歪んでいますよね。ちょっと上手くいくと、金融の人達がすぐによってたかってIPOさせたがる。日本では上場しているということが偉いように思うところがある。上場しておいてお前がそんなことを言うなよ、と思っているかもしれないけれど、私自身、早く上場したことのデメリットをすごく感じている人間なので、そういったこともすごく大事だと思います。マイクロIPOじゃなくて、ベンチャーが必要なリソースというのは、実は今やお金ではなくて、人材です。企業の成長のステージに合わせた人材が適時適材適所で入らないと、ベンチャーは本当に育たないんです。

アメリカのイノベーション/スタートアップソサエティのいいところは、それができているというところです。最近はSPACが出てきて、皆眉をひそめていますけれど、あれだけ資金があると、あれもありだなと。SPACスポンサーの人達が適時適材適所のタイミングをわかっているスポンサーであれば、SPACとの合併による上場もありですよね。日本のベンチャーからもそういう取組みが出てきています。日本では何かというとすぐにユニコーンが少ないという議論になってしまうんですけれど、ユニコーンでなくても革新的なベンチャーはたくさんあります。

皆チャンスは等しくある。これからとんでもない変革が起きるかもしれない。別にGAFAが未来永劫、10年20年あのままで行くというのはあり得ないんです。そういう意味では、皆さんにチャンスがある。その中で、そういったソサエティの人達にも、上手く大企業の経営資源なり何なりを上手く使っていただくということをやるのも、我々の役割だと思っています。等しくある。これからとんでもない変革が起きるかもしれない。別にGAFAが未来永劫、10年20年あのままで行くというのはあり得ないんです。そういう意味では、皆さんにチャンスがある。その中で、そういったソサエティの人達にも、上手く大企業の経営資源なり何なりを上手く使っていただくということをやるのも、我々の役割だと思っています。

GCA株式会社 代表取締役 渡辺 章博|1982年、米国に渡りKPMGニューヨークにてM&A業務に従事。2004年にGCAを創業。2006年に最短で上場させ、その後、欧米でM&Aブティックを次々に買収。GCAをグローバル24拠点、500人のプロフェッショナルを有する日本発のグローバルM&A助言会社に育てあげた。米国・日本公認会計士。