パンデミックで加速した投資先の変化と集中|渡辺章博インタビューVol.2

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コロナウイルスにより「世の中の流れが10年間スキップ」

ーー 創業から17年が経ち様々な変化があったかと思いますが、コロナウイルスの影響でここ1~2年は誰の目で見ても明らかな変化が世界中で起きています。渡辺社長が見る、創業当時とはまったく違う最近のトレンドみたいなものは、どういったものがあるとお考えですか?

渡辺 いくつかあるんですけれど、1つ目は、パンデミックによって、10年間時間がスキップしたということです。10年間、日本の会社に与えられていた時間的な猶予が一気になくなったというところでしょうか。そういった大きな変化というものが本当にきています。何か大きな事態がいつか起こる事は皆わかっていたと思うんですけれど、それがパンデミックでスキップしたということです。それから、2つ目はパンデミックによって大量な資金が供給されたということです。その資金が向かう先というものが、ESGという方向に世界があっという間に一致した。2050年にカーボンニュートラルの世界を目指すということで一致したわけです。そういった変化というものは、本当に大きなものだと思います。

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それが、どれくらいのマグニチュードなのか、ということで言うと、1990年にベルリンの壁が崩れて、冷戦が終わったというのも非常に大きい事だったと思います。日本ではその後、1995年に阪神淡路大震災があって、地下鉄サリン事件があって、Microsoftがデジタルの世界を先取りしたかたちでWindows95で日本の電機メーカーのお株を奪っていったという非常に大きな流れがありました。1997年にアジア通貨危機があって、北海道拓殖銀行や山一証券がつぶれるという、日本の今までの高度成長の世界の中では考えられないことが起きた。その後ドットコムバブルがはじけてリーマンクライシスがあり、東日本大震災があり、ということが起きたんですけれど、今回のパンデミックでこれまで以上の革命的なことが起きた。それは変革の時間というものが一気に短縮されたということです。そうなると、M&Aの役割というものは極めて重要になってくる。これはもう日本の会社だけではなくて、欧米のクライアントも含めて、皆さんそうなんです。

ーー 具体的に、10年間スキップしたという意味でいうと、10年経って変化するくらいのことが一気に起こったというようなイメージですか?

渡辺 そうです。10年後に起きるというか、10年後にこういう社会になる、というもの。たとえばわかりやすくいうと、普通にzoomみたいなものを使ったりとか、クリックしたら物が届けられることとか。そういうようなことって、やっぱり10年くらいかかるんじゃないかと皆漠然と思っていたと思うんです。それが、一気に起きたということ。わかりやすい事例で言えば、そういうことなのかなと思います。

全人類共通の敵コロナウイルスと戦った事によりESGへの投資が加速

ーー 時代が一気に変わる中で、M&Aの果たす役割というものも重要になってきているし、変わってきているということを感じられているということですね。

渡辺 そうです。日本企業ということに話題を戻すと、日本企業の電機メーカーがITのプレイヤーに凌駕されてしまって、競争力を失ってしまった。その中で、自動車産業だけは頑張ってきたわけじゃないですか。日本の自動車産業にとって一番大きいことは、デジタル化とESGで10年間の時間的猶予がなくなったということです。それは自動車業界にとってはすごく大きいと思います。デジタル化もさることながら特に資金がESGをテーマにした投資に向かうという流れが一気に来てしまった。

世界は足掛け3年にわたり、言ってみれば、コロナウイルスという共通の人類の敵みたいなものと戦ったわけじゃないですか。宇宙侵略戦争みたいなものが起きて、地球防衛軍みたいな感覚です。政治家も含めて、企業のリーダーも、今までサステナビリティとかESGとか言ったけれど、やはり株主資本主義で、自分達が儲かればいいという姿勢があった。けれど、こういうパンデミックという人類の敵みたいなものがあらわれて社会の分断も出てくると、次世代においても社会が継続するためのビジネスや振る舞いが求められる。そうなると利己的な行き過ぎた株主資本主義は修正を求められるのは当然です。そういう正しく美しい思いと、お金の吸収場所という思惑が互いに絡み合って本当に上手く融合してESGが共通テーマになってきたように感じます。日本企業はこの20年、石油というものに頼った国の構造がまだ続くことを前提に、自動車も化石燃料をベースにしたガソリンエンジンを延命させるハイブリッドで世界をリードしてきた。日本人得意のすり合わせの技術ですよね。これがあと10年、20年、30年は大丈夫じゃないかと思っていたところがあると思うんです。いずれはテスラみたいな会社がどんどん出てくるのはわかるけれど、もうちょっと時間の猶予が与えられていたと思っていたところで、この10年、20年が一気になくなったというのは衝撃的だと思います。

家電業界が駄目になって、半導体業界が競争力を失ってしまって、自動車産業もいずれはデジタル化の波がきてIT業界の方々がどんどん進出してきてプラットフォーマーと呼ばれる人達がどんどんマーケットをとっていくんだろうなとか、情報化社会の中ではデータが大事なんだということは皆わかっているのに、まだ自分には時間が与えられているというふうに思って、やってこなかった。けれど、目の前には本当に駄目になる現実があるわけじゃないですか。そういったことを日本人の経営者でも意識している人はしていました。自動車産業でも同じことが必ず起きるという前提で経営に取り組んできた。その人たちでさえ、自動車の場合は電機業界よりはそのサイクルが長いという前提に立っていたけれども、それを崩すような大きな波が非常に早い段階できてしまった、ということだと思うんです。

GCA株式会社 代表取締役 渡辺 章博|1982年、米国に渡りKPMGニューヨークにてM&A業務に従事。2004年にGCAを創業。2006年に最短で上場させ、その後、欧米でM&Aブティックを次々に買収。GCAをグローバル24拠点、500人のプロフェッショナルを有する日本発のグローバルM&A助言会社に育てあげた。米国・日本公認会計士。