フランス選挙結果を受けたフランスやEUの今後|欧州M&Aブログ(第7回)
フランス大統領選挙は最後までやきもきする展開となりました。Brexitやトランプ政権誕生に続くビッグサプライズも脳裏をよぎりましたが、結果は大方の予想通り中道系マクロン氏が66.1%の票を得て33.9%の極右国民戦線のルペン氏を下し、任期5年の大統領の座を獲得しました。一つの大きな山を乗り越えたフランスそして欧州はこれからどのような方向に進んでいくのでしょうか?
En Marche!(前進!)するマクロン氏とは?
2016年に左派でも右派でもないEn Marche!(前進!)という政党を立ち上げ、若干39歳にしてフランス大統領に就任したマクロン氏。政治経験は浅いものの、オランド政権の経済産業テクノロジー相や投資銀行ロスチャイルド出身という経歴から親ビジネス的な政策が期待され、会社経営者・エリート層から多くの支持を集めています。フランス金融業界で働く人の何名かと話をしましたが、一様にポジティブな意見が聞かれました。
出典:https://www.japantimes.co.jp/
マクロン氏は、選挙運動中は「保護主義ではなくグローバル化と経済開放」、「移民規制ではなく融合」、「EU離脱ではなくEU深化」といった具合に、世界中で勢いを増す愛国心を煽って躍進を続けるポピュリズムに真正面から対峙しました。大統領選直後にはFacebookを通して地球温暖化防止のための国際的枠組みであるパリ協定の重要性を(フランス語ではなく)英語で世界に発信したり、閣僚の過半数に女性を登用したりするなど、政治経験が浅いがゆえに、旧来の政治家に見られなかったリーダーシップを発揮しています。
とはいうものの、政治は大統領一人で行うものではありません。今後自身の信じる政策を実行に移していくためには、6月に予定される国民議会選挙にて与党連合が過半数の支持を得ることが必要となります。新閣僚には左右両派から人材を取り込むなど、単独過半数獲得のための準備を周到に進めており、世論調査における支持率上昇を受けてその可能性もゼロではないとも言われています。しかし、「反既成政党・反エスタブリッシュメント・反EU」を掲げた政党の得票数が大統領選における第1回投票で約半数(49.6%)に及んだことに鑑みれば、過半数獲得は容易ではありません。マクロン大統領の更なるリーダーシップが期待されます。
フランス国内の二極化は深まるか?
マクロン氏とルペン氏の支持基盤を見ると、マクロン氏は高学歴、高収入の都市民に支持されたのに対し、ルペン氏は地方の低所得者、低学歴、労働者そして失業者に支持されました。これは米国や英国で見られる状況と同じで、フランスも社会が大きく二極化している実態が浮き彫りになりました。
「反既成政党・反エスタブリッシュメント・反EU」という不満は、欧州危機以降の経済停滞とそれに伴う失業率の高止まりが主たる原因と言われています。しかし言い換えれば、経済が成長し、失業率が低下すれば、(そんな簡単な話ではないですが)二極化解消へ向かう光が見えてくる可能性はあります。マクロン大統領にとって追い風は、フランス経済が足元でその強さを取り戻しつつあるという点です。製造業景況感は過去6年間で最高水準を維持しており、2017年のGDPは通期2%成長という予測も出ています。
この足元の状況のみをもって「EUという仕組みは機能しており、二極化はやがて解消に向かう」と結論づけるのは時期尚早です。しかし、フランス経済の復調は、EUという枠組みを維持したうえで改革を進めていく方向性は間違っていないという理由にはなります。これはBrexit後のEUの結束をリードするドイツにとっても、大変ポジティブな材料といえます。
フランス選挙結果を受けたEUの今後
英国のEU離脱は言うまでもなく、各国で勢いを増す反EU勢力の拡大を見るに、EUの仕組みが不完全であることは皆が認めるところです。そのような中、マクロン大統領は就任後最初の外遊先のドイツでメルケル首相とEU深化に向けたロードマップを描くことを合意し、EUという壮大なプロジェクトに対する両国首脳の強いコミットメントを示しました。マクロン大統領が取り組むべき課題は山積ですが、オランド大統領もできなかったドイツが推進する緊縮財政の打破のみならず、ユーロ単一通貨の制度的不備への対応、ユーロ共同債の発行等、ドイツをどこまで動かすことができるかは要注目です。
ところで、日本企業にとっては親EUのマクロン氏が大統領になったから欧州ビジネスは一安心とはならないかもしれません。なぜならば、英国のEU離脱交渉においてマクロン大統領はドイツよりも強硬なポジションを取る可能性が高いと見られているためです。
英国は欧州へのゲートウェイとして数多くの日本企業が拠点を置いています。EU離脱後に英国経済が大きく停滞することがあれば、それは日本企業にとって間違いなくマイナスです。英国に拠点を置くグローバル企業のなかには、既に英国政府に個別アプローチを開始し、ダメージを最小化するためのアクションを取り始めているところもあるようです。私たちが認識すべきことは、待っていても英国政府から何らかのソリューションが提示されるわけではないということです。EU離脱の交渉過程について情報収集を怠らず、場合によっては拠点機能の一部をEU域内に移動させる等、プロアクティブな防衛手段を講じることが重要となります。
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