欧州M&Aの最新動向―イタリアを中心に  |  西村あさひ/伊Chiomenti法律事務所共催セミナー

イベントレポート 

2024年5月15日(水)に開催された西村あさひ/伊Chiomenti法律事務所との共催セミナーにて、フーリハン・ローキー東京事務所マネージングディレクター村井慎が、イタリアを中心とした欧州およびグローバルM&Aの最新動向につき解説いたしました。

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サマリー

日本企業、欧州市場で新たな波

  • 日本企業は欧州で積極的なM&A活動を展開しており、2019年以降は1000億円規模の大型案件が多く成約された。近年は日本企業による事業戦略の見直しや撤退を目的としたノンコア事業の売却も増加しており、欧州における売却案件と買収案件の金額がほぼ同水準に達し(件数では依然として買収案件のほうが多い)、日本企業の欧州M&Aにおいて新たな潮流が生まれている。
  • 欧州市場の特徴として、再生案件を専門に扱うターンアラウンド系ファンドの存在がある。ターンアラウンドの専門家が業績不振の企業を買収したのち再生し売却することは、欧州市場において確立されたエコシステムとなっている。
  • 日伊案件では、製造業、化学工業、食品産業セクターの案件が多い。ドイツと比較するとイタリアの案件規模は比較的小ぶりだが、特にイタリア北部にはニッチながらも優れた技術をもった製造業者が多く存在する。
  • Mergermarket社による2024年業界センチメント調査によると、インフレや中国経済減速の影響から欧州の経済成長は停滞ないし後退が予想されている。一方で欧州市場はM&A案件の増加が見込まれると回答が多かったが、業績不振企業・事業の売却も増加する可能性がある。
  • 日本人とイタリア人のコミュニケーションスタイルの違いを理解することは、円滑なM&A案件推進の鍵となる。非言語コミュニケーションスタイルや文化背景の違いを理解し、率直な意見交換を積極的に行い、双方の理解を深めながら案件を進めることが重要。

1. 欧州M&A市場:2021年以降減速傾向。回復の兆しは未だみられず

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  • 欧州M&A市場は、グローバル市場全体と同様に2021年をピークに減少傾向にあり、やや回復が遅れている。グローバル市場は2023年12月末四半期に金額増加が見られ、底を打ったようにもみえるが、欧州はまだまだ回復軌道には乗っていない。欧州市場の回復遅れの要因としては、ウクライナ情勢やエネルギー価格高騰などを背景とした景気減速が挙げられる。アジア市場は欧州ほど落ち込んでいないが、直近は減少傾向にある。
  • 日欧M&Aは、新型コロナウイルス感染症の影響で一時落ち込んだものの、コロナ明け以降は回復基調となり、堅調に推移している。2019年以降、日本企業は欧州において1000億規模の大型案件を数多く手掛けた。
  • 近年は海外企業による日本企業の海外子会社の買収ないし海外ファンドによる日本企業の買収・投資といったいわゆる「OUT-IN案件」が増加しているが、背景には日本企業の事業ポートフォリオの最適化に伴う売却や、割安な日本企業に対するアクティビストの投資などがある。
  • 欧州市場において、再生案件を専門に扱うプライベートエクイティファンドが関与する案件は近年増加傾向にある。これらのファンドは、財務的に困難な状況にある企業や事業再生が必要な企業を買収し、コンサルタントを活用して経営を再建した後、事業会社や他のプライベートエクイティファームへの売却を通じて利益を獲得するのがビジネスモデルとなっている。
  • 再生企業は、キャッシュフローも赤字に陥っているケースが多く見受けられ、こうしたマイナスキャッシュフローを補填すべく、売却時に一定額の持参金を支払う(売り手から買い手に対して支払いが生じる)案件も増加傾向にある。
  • 日本イタリア案件のセクターは多岐にわたり、製造業、化学工業、食品産業などが中心。ドイツと比較すると案件規模は比較的小ぶりだが、北イタリアには射出成型、繊維機械など、ニッチながらも優れた技術をもった製造業者が数多くあり、日本企業の買収実績も数多くある。

2. 欧州M&A市場全体:テクノロジー案件が最多、金額はインダストリアル案件が中心

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  • 件数ベースではテクノロジー案件が最多であり、特にソフトウェア案件、ITサービスが増加している。これは、デジタル化の加速を受け、テクノロジー案件にPEファンドやSiemens、Schneiderといった大手コングロマリットの関心が高いことが背景にある。続いて多いのは製造業とコンシューマ案件。製造業案件については、北欧、ドイツ、スイス、イタリアにおいて数多くみられる。
  • 金額ベースでは、インダストリアル案件とエネルギー・ユーティリティ案件が中心となっている。

3. 欧州M&A成功の鍵:市場センチメントとコミュニケーションスタイルの理解

  • Mergermarket社が世界の主要M&Aディールメーカーに対し実施した2024年の市場センチメント調査によると、欧州市場においてM&A案件の増加を見込むという回答が多く、北米やアジアと比較しても欧州M&Aマーケットの復調に対する期待感は高いことが示された。一方、経済成長予測に関しては、欧州と英国は停滞もしくは後退が予想されるという回答が多数を占め、M&A案件タイプでは引続きターンアラウンド系のものが相当数出てくると考えている。
  • コミュニケーションスタイルにおいて、日本は世界の中でも特にハイコンテクスト(言葉よりも状況や雰囲気で判断する。要するに“空気を読む”)で、直接的にフィードバックすることを好まない。感情表現においては感情を抑制し、対立よりも協調性を重視する傾向が強い。一方イタリアは、欧州の中では比較的ハイコンテクスト文化であるが、率直な意見交換を重視する。感情表現は豊かで対立を恐れずに議論を深めることを好む傾向がある。
  • 文化的な傾向は、コミュニケーションスタイルに大きな影響を与え、ときに相手方の誤解を生み、不要の対立を生む原因となる。文化的な背景の違いを意識した対応を心掛け、双方の理解を深めながらM&A案件を進めることが肝要である。
European MA dynamics what makes a successful transaction in Italy 1

記事監修

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