ベンチャー企業のイグジット戦略における「成功」とは  |  池田泉州キャピタルでの講演

イベントレポート 

2023年10月27日(金)に池田泉州キャピタル主催の勉強会にて、弊社エグゼクティブディレクターの久保田朋彦が「ベンチャー企業のM&Aイグジット」をテーマに登壇いたしました。 ベンチャー企業のイグジット戦略におけるIPO至上主義への問題提起から、ベンチャー企業M&A成功の要諦まで、具体的事例とともに解説いたしました。

Kubota

サマリー

ベンチャー企業のM&Aの本質はイノベーション

  • 大企業を対象としたM&Aと、ベンチャー企業のM&Aとの違いは「イノベーション」獲得の有無。ベンチャー企業は利益が出ておらず赤字の企業も多いが、リスクを冒してでも事業会社がベンチャー企業のM&Aを検討するのは、自社にない革新的な技術やアセットを手にして、イノベーションを推進しようとするためである。
  • 弊社がアドバイスした案件として、水処理事業大手である栗田工業が、シリコンバレーのベンチャー企業で水道管劣化予測ソフトウェアに独自の技術を有するFractaを買収したディールはその例である。栗田工業はそれまでもDX化に挑戦してきたものの、プログラミングやアルゴリズム構築といった分野の人材獲得が難しく、内製化に課題を抱えていた。栗田工業は、Fracta買収によりDX化の課題を解決し、技術革新と市場拡大を実現することが出来た。
  • シリコンバレーのテック企業ピクサーは、NASDAQに上場したうえで最終的にハリウッドの伝統的アニメ制作企業であるディズニーに買収された。当時ディズニーはCGを使う作品を制作する技術を有しておらず、CG技術を外部に求めた結果ピクサーが最適なパートナーだった。一方、ピクサーは資金の脆弱性の克服が課題でありディズニーの有する資金力や配給力を必要としていた。M&Aはお互いにとって最適な選択だったといえる。

IPOしたから安泰なわけではない

  • ベンチャー企業のイグジットとして、「IPOは成功でM&Aは失敗」と考えるIPO至上主義者は未だ多いが、そのマインドセットは変えるべき。M&AもIPOも投資家の立場からすると同じイグジットのオポチュニティーで、投資を回収する意味ではどちらも成功。
  • 多くの企業が、明確な目的や理由を持たないまま上場しているのではないか。成功したIPOの定義は「株式市場を活用できているか。もっと言えば、上場後、公募増資をしたかどうか」である。過去5年に新規上場した会社で、上場後公募増資した企業は5%くらいしかない。株式市場から資金を集める権限を持つならば、そこで集めた資金を活用して更なる成長を追い求めることが重要。
  • 一方、低成長で資産価値に対して株式が割安と判断された企業に対してはアクティビストが介入してくる。上場したことに満足して低い株価のまま放置していると、外部からアタックされうることを意識すべきである。

M&AかIPOは、投資する前から検討すべき

  • ベンチャー企業がM&Aを狙うには、18-24ヵ月くらいのランウェイが欲しい。資金不足で早晩にキャッシュが無くなってしまう恐れがある企業にはバリューがつかないし、そのような企業のM&Aは誰も幸せにならない。また、安定的な売上・利益を上げられる資産を有していないベンチャー企業の買収は、イノベーションを創造してきた創業者をメンバーとして迎え入れるという趣旨が強く、その創業者が辞めてしまうような買収案件は、買い手にとっても無意味な買収案件になってしまう。
  • 投資家がベンチャー企業に対して、IPOかM&Aのどちらが適しているか、投資前より検討をする方が好ましい。IPOして自前での成長ストーリーを作れるのか、それともM&Aによりパートナーへ譲渡することで、パートナーのアセットを活用した方が良いのか、どちらが向いているのかを検討したうえで出資する方が成功率は上がる。

ベンチャー企業のM&Aを成功させる3つのポイント

  • 1点目は、発行体経営陣とのコミュニケーション。イグジット戦略としてIPO/M&Aどちらが適しているか、投資家の立場から投資実行前から十分に検討した上で、発行体経営陣と話をすることが好ましい。M&Aの場合、買い手と事前にアライアンスを組んで共同開発等を行うなどのコミュニケーション期間を求められるケースもある。
  • 2点目は、バリュエーションと事業計画。ベンチャー企業の事業計画はアグレッシブな内容になっていることも少なくない。起業家は事業に邁進し、どちらかというと夢を語る立場にあり、必ずしも数字やファイナンスに強くある必要はない。買収をする側は、粗探しをするのではなく、自社で出来ないことを実現している点にリスペクトをもって、歩み寄ることが大事。一方で、ベンチャー企業も、買い手とギャップを埋めるように試みることが必要で、その役割をサポート出来るのは投資家ではないか。
  • 3点目は、ストラクチャーやインセンティブプランの設計。大企業がベンチャー企業を買収する際、買収後、創業者に一定の株式を保有してもらうようなインセンティブ設計をするケースが多い。創業者にM&A後もオーナーとしてのマインドを維持してもらうためである。買収後も継続的に事業計画が達成できたのであれば、より大きなリターンが創業者に提供される設計にすることは大事なポイント。このインセンティブを設計するにあたり、事業計画の達成度と企業のバリュエーションは不可分。そのためにも、実現可能性のある事業計画を立てるようにしたい。
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記事監修

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