「サステナブルな経営にむけて」

イベントレポート 

小堀 秀毅 氏 | 旭化成株式会社 代表取締役会長

昨今、持続可能な社会への貢献、企業としてのパーパスということが話題になっています。持続可能な社会に企業としてどう貢献をしていくのか、一企業として持続的に成長、拡大、存続していくためにはどうあるべきか。経団連副会長の要職も務められている小堀会長に、経営者として「サステナブルな経営」に向けて実行してきたことと、今後の経営の在り方についてお話いたただきました。


100年企業を支える人類貢献への想いと事業ポートフォリオのあくなき変革

旭化成は昨年、創業100周年を迎えました。創業者の野口遵は「吾々工業家は飽までも大衆文化の向上を念として、最善の生活資料を最低廉価に然も豊富に給することを以て究局の目的としなければならぬ。」と語り、まさに人類の文化的生活への貢献を目指しました。この創業者精神を大切に受け継ぎながら、当社は時代とともに変化する社会課題に挑戦し、事業ポートフォリオを絶えず変革させながら成長してきました。現在、ケミカルやテクノロジーをベースにした素材や中間材を提供するマテリアル領域、戸建・集合等の住宅と建材を中心とする住宅領域、医薬品と医療機器から更なる拡大を目指すヘルスケア領域の3つを事業の柱として、20ヶ国以上に生産・販売・研究開発拠点を配し、グローバルに事業展開しています。

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「I have to workからWe want to work together」へ

私が社長職に就いたのは、思いがけないタイミングでした。2016年、前年に世間の皆さまにご迷惑をおかけした杭うちデータ改ざん事件による社長の引責辞任により、急遽、社長を任されることになったのです。社会からの信頼回復に向けて、コンプライアンス遵守の徹底とともに、三現主義(現場・現物・現実)と三原主義(原理・原則・原点)を以て、揺れる会社を立て直していきました。同時に、多角化経営から3領域経営へ移行し、遠心力の効いた経営から、求心力を高めて事業間の連携を強める体制に変更することで、経営資源を効率的に活用し、環境変化に柔軟に対応できる組織へと改革しました。また、これを担う未来の経営人財育成のため、グループ全体最適の視点でビジョンを構築でき、実際に組織間の連携や融合を図れる人財を中長期で育てる仕組みを作りました。更に、人財の終身成長を見据え、各々が専門性を高めながら活躍できるよう、高度専門人財のキャリアパスを整備しました。

私が大切に守った伝統の一つに「“さん”づけ文化」があります。地位や役職を意識しないフランクなコミュニケーションにより、風通しもよくなり、挑戦する文化も生まれやすいと思っています。こうして育まれた企業風土に、共通の価値観を持った社員が集い、一枚岩のマネジメント陣と中長期のミッションとビジョンを共有し、伸びやかな成長を続けていく―目指したのは“I have to work”という義務感から“We want to work together”への意識の変革でした。不透明かつ複雑な時代を乗り越えていける、強いチームを作ろうとしたのです。

M&Aの成功が成長戦略の実現に寄与

成長戦略を描き事業ポートフォリオ見直す中で、当社はM&Aを積極的に活用してきました。

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2012年に、Zoll Medical(米)を当社の過去最高額(当時)で買収しました。ヘルスケア領域で初の大型海外買収であり、医薬品と医療機器以外の新規分野として救命救急事業を取り込みました。2018年には取引先であったSage(米)を買収し、事業の垂直統合により自動車メーカーへのアクセスは強化され、モビリティ分野での事業拡大を実現するための足掛かりとなりました。 M&Aは手段であり、あくまで目的は「買収後の目指すべき事業像の実現」ですが、2021年度までの10年間で売上は1.59倍、営業利益は1.94倍、に伸長し、M&Aの成功が成長戦略の実現に大きな役割を果たしました。

時代の転換期を生き抜くために

現在は時代の大きな転換期だと思います。デフレの終焉、地政学リスクや経済安全保障への意識の高まり、デジタルの進展等が企業経営や生活様式を大きく変えようとしています。複雑で不確実な時代であると言われる一方、カーボンニュートラルや循環型経済など、目指すべきサステナブルな社会像の共有は進んできました。いま企業や経営者はどんな役割を果たし、どんな価値を提供できるのかが問われています。

ダーウィンが語ったように、環境変化に適応できるものだけが生き残れるのだと思っています。変化に柔軟であるためには、人も企業も専門性や多様性を備え、心にゆとりを持ちながら生産性を如何に高めることができるかどうか、これが鍵だと信じています。

パネルディスカッション

弊社マネージングディレクター國重が参加し、引き続きお話を伺いました。

■ディスカッショントピックス

  • 買収先マネジメント陣とのコミュニケーション
  • コロナの経験から学んだこと
  • 人の心・やりがい・モチベーションの総和が事業の力になる
  • 組織を考えるときは、4番バッターばかり集めてでもダメです
  • なぜ人にフォーカスする経営を執りおこなってきたか
  • これまではゼネラリスト、これからはスペシャリスト
  • 環境に合わせて変わるのではなく、自らの意思で変わっていくことが大事
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