「両利きの経営 組織カルチャー変革への挑戦 ~人の心に灯をともす、リーダーの条件~」
島村琢哉氏 | AGC株式会社 (旧 旭硝子株式会社)取締役会長
既存事業を「深化」しながら新しい事業を「探索」する、いわゆる「両利きの経営」を実践しているAGC。これを機能させるため、組織カルチャーの変革の見直しにも同時に着手した取り組みは、スタンフフォード大学のケーススタディにも採用され、大きな注目を集めました。CEOとして「両利きの経営」の実践でⅤ字回復を実現された島村会長に、これまでの道筋を語って頂くとともに、人と組織を成長させる「人の心に灯をともすリーダー」についても、お話を伺いました。
『易きになじまず難きにつく』
AGCは1907年創業の老舗企業です。三菱グループの創始者、岩崎弥太郎の甥である岩崎俊弥が、板ガラスの国産化に挑んで事業を興しました。俊弥の語った『易きになじまず難きにつく』、この言葉こそが不屈のチャレンジ精神であり、我々の原点です。現在31ヶ国で事業展開し、海外売上比率は7割に迫り、グローバルカンパニーとして今日も成長を続けています。自動車用ガラスやフッ素樹脂(ETFE)をはじめとする世界トップシェア商品を多数揃え、素材を通して時代のリーディングインダストリーを支えてきました。
2010年に史上最高益を記録した直後、4期連続で営業利益減という経営危機を経験しました。絶好調だったディスプレイガラス市場の成長が止まり、利益が大幅にしぼんだのです。業績の悪化は組織を委縮させ、新しいことにチャレンジする空気は失われていきました。AGCは社会に必要とされているのだろうか、自らの存在意義を根本から問いました。
AGC流の「両利きの経営」とは
厳しい状況下、未来を担う次世代リーダーとともに、「10年後のありたい姿」を徹底的に議論しました。もはや祖業も聖域ではありません。長期安定的な収益基盤となる既存の「コア事業」群と、将来の柱となる幾つかの「戦略事業」を選定してメリハリある資源配分を行いつつ、ガラス事業の一部売却とライフサイエンスやエレクトロニクス領域で戦略的M&Aを断行し、適切なポートフォリオへの転換を図りました。また、各カンパニーを既存事業の深化にフォーカスさせ、新規事業の育成機能をコーポレート部門に取り込むことで、組織のジレンマや軋轢を解消しました。収益構造は電子中心から徐々に化学品を柱とする形へと変化し、「戦略事業」は2030年の予想利益の半分を見込むほどに伸長してきました。そして、様々な取り組みの締めくくりとして、2018年に旭硝子からAGCへ社名を変更し、「素材」の会社であることを内外に宣言しました。
既存の「深化」と新規の「探索」という両輪を機能させるために重要視したのが、組織カルチャーの変革です。挑戦する風土からしか新しいものは生まれません。「事業環境の変化に対応し、自律的かつ継続的に変革していく組織」を作ることを同時に目指した、これがAGC流の「両利きの経営」です。
偉大なリーダーは人の心に灯をともす
企業の成長を支えるのは「人」です。多様な人財を活かし、チームで果敢にチャレンジしよう!という組織カルチャーを実現するために、私が取り組んだのが「経営層と現場との対話」でした。年に150回を超えるペースで現場に足を運び、従業員の声を聴き、直接言葉を伝えて共感を起こしながら、自律的な行動を促す素地を作っていきました。対話を通して「自分が尊重されている」「ここに成長の機会がある」と感じることが、彼らの行動を変えていく源になるのです。
そして、カルチャーを変えるとき、大きな役割を果たすのがリーダーです。リーダーは部下の気持ちを理解し、組織のエネルギーを最大化していく存在ですから、「人の心に灯をともす」存在になってほしいというメッセージを組織長に送り続け、私自身がそのような存在であろうとしました。偉大なリーダーが良い組織を作り、会社や事業の成長を支えていくのだと、私は信じています。
パネルディスカッション
弊社マネージングディレクター國重が参加し、引き続きお話を伺いました。
■ ディスカッショントピックス
- 上司の放つ「なんとかしろ!」が招く事態について考える
- チャットが会話になり、会話が議論になっていく。いきなり議論しようとしていませんか?
- 「ボス」と「リーダー」の違い
- 「平等」と「公平」の違い
- 利益は目標であって、目的ではない。企業の目的は「社会的価値を提供して対価を得ること」
- how to に頼ってしまいそうな時こそ、原点に戻ろう
以上