「40足す40足す40足す40掛ける40」

イベントレポート 

長門正貢氏 | 前 日本郵政社長

現 Insight Partners / Senior Advisor、楽天銀行/社外取締役、グローバルコンサルティング企業/Senior Advisor

長門様は経営者として、日本興業銀行(現みずほ銀行)、富士重工業(現SUBARU)、日本郵政等の第一線で長らくご活躍されてきました。1970年代から国際畑を歩まれ、日本のバブル崩壊やアジア通貨危機、リーマンショック等にも直接遭遇されたご経験も踏まえて、危機から何を学ぶのか、経営の教訓についてお話いただきました。

マクロの経済危機から何を学ぶか

私が遭遇した、忘れられない経済の大事件といえば、まずは90年のバブル崩壊です。株と土地の暴落で、当時のGDPの2年半分くらいが吹き飛びました。タイ駐在時には、タイを震源としてアジア通貨危機が勃発しました。バーツは対ドルで半値となり、タイ国内の金融機関の3割が不良債権化したと言われました。そして、08年のリーマンショックです。金融機関同士が疑心暗鬼になり、お金の流れが完全に凍結してしまいました。

いま思えば、世界的に危険な兆候は有りました。バブル時代には、「皇居を売ればカリフォルニア州を買える」とも言われた異常な地価高騰に対し、官僚やエコノミストは楽観に終始していました。タイの通貨危機では、大きすぎる内外金利差、巨額の経常赤字で不安定な経済が続いていました。リーマンショックの直前でも、米FRB元議長のグリーンスパンですらサブプライムローンを手放しで激賞していました。このように、小さな綻びを殆どの人が見過ごしていたのです。 経営者は自社というミクロの議論に集中するだけではなく、マクロにも目を拡げ、クールヘッドで物事を見て危険を察し、必要な手を打ことが求められます。

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では、事件が起こってしまったらどうするのか。 アジア通貨危機でタイ経済が大混乱に陥ったとき、とあるコングロマリットの華僑経営者は、やれるべきことを速やかに行動に移していました。ノンコア事業売却先の探索、借入期間の交渉、ドルローンへの切り替えなど、国の出方を待つことなく次々と手を打ち、結果、生き残りました。平時の経営では戦略論も勿論重要ですが、マクロ危機においては、今できることをすぐ実行する機動力が生死を分かちます。また「危機」は、その字の通り、クライシスであると同時にチャンスとも言えます。バブル崩壊後に金融の再編から新銀行が誕生したように、ドン底だからこそできる仕事を見つけて、ビジネス機会に活かせる人が必ずいます。私はタイの危機に於いて、政府や中央銀行総裁らと知恵を絞り、外銀としての制限を受けない融資スキームを実行し、自分の銀行人生の中でも忘れられないディールになっています。これも、危機だからこそ生まれた機会だったと振り返っています。

当たり前の経営を愚直にきちんとやる

34年間の銀行員生活の後、富士重工業(現SUBARU)へ派遣されました。

国内の乗用車メーカー8社のうち、当時の富士重工業は、国内20万台、米国20万台、その他海外併せて60万台弱を生産する、最も小さな会社でした。これが、営業利益や株価の桁が変わるほどの高収益企業へと躍進した裏には、森社長(当時)の進めた、徹底した「選択と集中」がありました。名車『スバル360』を擁した軽自動車、ルーツであるプロペラを使った風力発電、NO.1シェアだったゴミ収集車、メカニックの誇り・ワールドラリーへの参戦など、名はあれども儲からない事業からの撤退を次々と決断しました。一方、製販機能のあった米国への集中を進めつつ、当社が得意とする「安全性」への注目が燃費競争の後れをリカバーする追い風にもなり、売上を大きく伸ばしました。業績と戦略をもって事業の見極めを行うという、当たり前の経営をすること、更に、間近でみた森社長の強い覚悟と気迫に満ちた経営の舵取りに、会社はトップの力で如何様にも変わることを学びました。

偉人たちからのエールを繫ぐ

今日の講演タイトルは、私の人生の一冊から引用しました。中国問題のジャーナリスト・ソールズベリ―が95年に書き下ろした『ニュー・エンペラー』、この中に失脚と復活を繰り返した鄧小平のエピソードが書かれた章「forty plus forty plus forty plus forty times forty」(原語)があります。彼は軟禁されていた家屋の、一辺が40歩足らずの正方形の小庭を40周、来る日も来る日も黙々と歩き続けたそうです。その姿を見た家族は、鄧小平が復活を諦めていないことを悟ったというのです。どんな過酷な状況にあっても、腐らず前向きに準備しておくこと、そして、決して諦めない姿勢に心が震えました。かの元英首相チャーチルも、母校の卒業生に向かって「Never never never give up.」という名言を残しており、先人たちの不撓不屈のエピソードは、時を超えたギフトではないでしょうか。

経営の道は順風ばかりではありません。山あり谷ありの連続だと思いますが、私からも、この「諦めない」という気持ちを皆さんに送りたいと思います。

パネルディスカッション

弊社マネージングディレクター國重が参加し、真のグローバル経営について、引き続きお話を伺いました。

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■ディスカッショントピックス

  • 中長期の展望を持つ時に留意すべきこと
  • 「日本型」の仕組みから如何に脱却するか
  • 経営者の目線は「真のグローバルステージ」へ向いているか
  • バブル後の勝ち組企業の成功理由
  • 真のグローバル競争に伍して勝つために、経営者は24時間全てのエネルギーを経営に注ぐべき
  • 信越化学の金川千尋会長から「経営者としての姿勢」を学ぶ
  • 『疾風に勁草を知る』
  • 失敗から学ぶ。チャレンジしないと失敗はない