「未来の社会を支える会社になるために」

イベントレポート 

鈴木純氏 | 帝人株式会社 取締役会長

2014年から8年に亘り、帝人グループの経営を牽引された鈴木様、自然に囲まれた環境で幼少期を過ごし、虫や動物が大好きな少年だったそうです。大学院ではミミズの研究に没頭し、生き物への興味はやがてバイオテクノロジーへと通じ、帝人では長らく研究畑を歩んでこられました。転機になったのは2012年のマーケティング最高責任者へのご就任。欧州代表職にあったオランダより1年で呼び戻されての抜擢となり、一気に経営の中枢へと歩みを進められました。 たゆまぬ変革と挑戦の日々を振り返りつつ、イノベーション創出やポートフォリオの見直しについて拠り所とされた考え方についてお話を伺いました。


大正のスタートアップが「世界のテイジン」になるまで

当社は山形県米沢市が発祥の地です。二人の研究者に当時の大商社が出資するという、今でいうスタートアップさながらに事業を開始し、以降104年間、様々な事業の変革と挑戦を続けてきました。例えば高機能マテリアル事業「アラミド」は長い研究開発の末に製品を上市し、更にオランダ企業を買収して世界二強の一翼となりました。事業買収を契機として始めた炭素繊維事業は、多くの用途開発と量産化の成功を経て、本格的に自動車業界へ進出を果たしました。多角化の一つとしてスタートしたヘルスケア事業は、自社新薬の開発と導入品の展開を両輪として推し進め、事業の柱となりました。

高度成長の最中にあった1960年代に取り組んだ多角化戦略ですが、ヘルスケア以外の殆どは撤収しています。ゼロから作り上げるような「飛び地」に出るのは容易ではなく、新規事業創成には、既存技術やノウハウ等の社内基盤とともに、「成功のイメージを持つこと」と「執念」が必要という教訓を得ました。

グループの2021年度売上高は9,261億円、その4割を占めるのがアラミドや炭素繊維を始めとするマテリアル領域、商社的機能が強い繊維・製品領域が3割、ヘルスケア領域が2割と続きます。EBITADAの構成比では、ヘルスケアが60%を占め絶好調です。グローバル売上高比率や従業員比率では、海外が半分を占めています。


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テイジンにしか描けないサスティナブルな未来

2017年から「未来の会社を支える会社になる」という長期ビジョンを掲げました。気候変動への対応やサーキュラーエコノミーの実現、安心安全といった社会課題に対して、「環境価値」「安心・安全・防災」「少子高齢化・健康志向」3つのソリューション領域へ様々な価値を提供しようと考えています。

「環境価値ソリューション」では、例えば炭素繊維を用いたモビリティ軽量化による脱炭素社会への貢献、熱可塑性材料のリサイクル性向上など、世界的な地球環境目標達成に貢献する製品やサービスを提供します。「安心・安全・防災ソリューション」領域では、耐燃性・難燃性や防弾性に優れた高機能素材で人命を守り、また炭素繊維と木材のハイブリット集成材により鋼性と軽量性を同時に実現し、森林保全にも貢献します。「少子高齢化・健康志向ソリューション」領域では、40年の歴史を有する在宅医療事業を礎に地域医療サポートを拡大し、機能性食品素材を通じ、健康寿命の延伸に貢献します。

すべてのビジネスには寿命がある

当社にとって、「イノベーションの創出」とは、「新規事業創成」とほぼ同義です。人財や組織、技術といった各側面から同時並行的に様々な施策を打ちつつ、新しいチャレンジを促す企業風土を作り、事業間シナジーの追求と外部との連携を強化します。最近では、富士フイルム傘下のJ-TEC社を買収して再生医療に参入し、当社のヘルスケア領域やマテリアル領域の技術やエンジニアリング力と組み合わせることで更なる事業拡大を目指しています。また現場社員の発案による社内ベンチャーも生まれており、嬉しく感じているところです。

すべてのビジネスには寿命があります。ですから、既存ビジネスの深化と同時に、新規ビジネスの探索・創成を行う、いわゆる「両利きの経営」が必須です。各領域の中長期戦略では、付加価値を高めながら「利益ある成長(Profitable Growth)」を続ける基盤事業と、「将来の収益源(Strategic Focus)」として成長する後発事業とを分け、それぞれにビジネス拡大を目指します。また、ポートフォリオの不断の見直しを行い、儲けていないビジネス、儲けているビジネスを見極め、儲けていないビジネスについては必要な手を打ちます。新規ビジネスはバックキャスティングの発想でビジネスの実現性を見ますが、欠くことができないのが「担当者のやる気」です。「絶対にビジネスを成功させる」という強い気概を持つ人の存在が、成功の必要条件です。

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わたしはCEO時代、「会社は社員がやりたいことを実現する場だ」と言い切って社内を鼓舞していましたが、先行投資案件は、利益を上げるまで株式市場から評価されません。ステークホルダーから様々な声が聞こえてきますが、自分の信じる道を見つめ、日夜考えて抜いて、最後は自分が決断するしかありません。経営者には、このような覚悟が必要なのです。

パネルディスカッション

弊社マネージングディレクター國重が参加し、老舗の変革に腐心された日々について、引き続きお話を伺いました。

■ディスカッショントピックス

  • 注力すべきは「売り上げではなく利益を出すこと」
  • 社長とは「ステークホルダーの幸福度を高める人」
  • 若いひとに選ばれる会社の条件
  • 儲かっている事業については「いつまで儲け続けられるのか」を考える
  • M&Aにおいて大事なことは「準備をすること」と「企業文化が合うか」
  • M&Aは目的ではなく、手段に過ぎない
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