「リスクマネーの果たす社会的意義と企業戦略におけるPEの活用」

イベントレポート 

山田 和広氏 | カーライル・ジャパン日本代表兼マネージングディレクター

複雑かつ激しい環境変化に応じた変革が求められる時代、日本のみならず、グローバルなネットワークやリソースを有するプライベート・エクイティファンド(PEファンド)をパートナーとして選ぶ企業が急増してきました。20年超にわたり日本のPEマーケットを牽引してきたカーライル・ジャパンに、PEの果たしている機能と役割、日本のPE市場のこれからについて解説いただきました。

和魂洋才のプロフェッショナル集団

カーライル・グループは1987年に米国でオフィスを立ち上げ、総額3,764億ドル(約51兆円)を700名超のプロフェッショナルで運用しています。全世界18か国26拠点にネットワークを拡げ、エクイティ投資を柱とする『グローバル・プライベート・エクィティ』の他、『グローバル・クレジット』『グローバル・インベストメント・ソリューションズ』という3つのセグメントでビジネスを推進しています。また。豊かな経営経験を持つ業界の重鎮を「シニア・アドバイザー」として迎え、セクターチームとともに、業界の専門性と地域特性を活かした投資を展開しています。日本では2000年にオフィスを立ち上げ、22年目を迎えました。日系機関投資家からの資金が半分近くを占め、これが我々の特徴の一つとなっています。 (注:カーライル・グループに関する情報は2022年6月末時点)

ポストメインバンク時代の産業金融の担い手として

全世界のPE市場の運用総額は2021年末で5.3兆ドルと既に日本のGDPに匹敵する大きさです。今も急速に拡大しており、2026年末には11.1兆ドルを超える見込みです(出所:Preqin)。年金を中心とした機関投資家からお預かりした資金をリスクマネーとして企業に供給して活性化し、事業の成長によって生み出された収益の運用先として年金に再び資金が入るという「エコサイクル」を廻しています。欧米ではこのサイクルが大きく機能し、経済を支えるエンジンになっています。

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これほどまでに資金が集まる理由に、「株式運用益を大きく凌駕するほどのリターンの高さ」が挙げられましょう。 一方、企業との協働が急増している背景には、リスクキャピタルの確保に加え、PEファンドが保有する非連続な成長を支える人材やネットワークを始めとする成長ドライバーへの期待があり、ポストメインバンク時代の産業金融の担い手として注目されています。PE創成期には買収時に調達した借入金を事業キャッシュフローで弁済していくことで株式価値を上昇させていたのに対し、近年ではそもそも買収された企業の収益性が高めることで企業価値、ひいては株式価値を上げるという形になってきています。企業内オペレーションの改善・進化が我々の企業価値向上策の鍵となっており、雇用の創出も含めた社会的な影響力も高まってきています。

日米PEの歴史を紐解く

米国では80年代以降、多角化経営の失敗の末に掃き出された、収益性の低いノンコア事業の受け皿としてPEが発展しました。一方日本では、金融危機の際に再生案件の受け皿の一部にPEが駆り出され、両国でPE発展のストーリーは異なります。ようやく2020年近辺に、日本でもコングロマリット企業からのノンコア事業の切り出しや事業承継ニーズの高まりからバイアウトファンドによる買収が急増し、約40年遅れでようやく米国型のスタイルになってきたと言えます。とはいうものの、両国のマーケットサイズは未だ約20~30倍もの開きがあり、日本においては今後相当大きな変化が起こると予想しています。

日本のPE市場のこれから

今後も「ノンコア事業のカーブアウト」「戦略的非上場化」「オーナー企業の事業承継」を中心に、PE案件は更に増えていくでしょう。低成長と言われる日本においては、経営改善により今後の多くの成長の機会がある企業が多数存在します。加えてこの低金利環境ですから、PEから見て日本は投資対象として魅力的だと映ります。実際、日本企業は欧米に比べROE・PBRともに低迷し、時価総額の増加幅も見劣りします。あるデータによると、多角化した大企業ほど営業利益率が低く、同種の欧米企業と比べて大きく遅れを取っています。「コア事業へフォーカスしグローバルへ打って出る」「新規事業を推進する」というような、思い切った施策が打てていない証左ではないかと考えています。

ガバナンスコードの改正やアクティビストを中心とした株主からのプレッシャーの増加、産業構造の変化といった外部環境と、取締役会の機能向上やコア事業フォーカス思考といった内部環境が会社に「気づき」を与え、抜本的な事業改革の動きが活発化しています。加えて、270万社といわれるオーナー企業の6割が後継者不在と言われており(出所:帝国データバンク)、PEを活用した事業承継の動きもますます加速していくでしょう。

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当グループはこれまで、「事業戦略再構築/オペレーション改善」「海外展開強化」「戦略的M&A/ポートフォリオ最適化」といった観点から投資先の「変革」を支援して参りました。これからも、潜在能力を持っている会社の事業成長を実現するパートナーとして、企業の長期的な企業価値向上をサポートしていきます。

パネルディスカッション

弊社マネージングディレクター原田が参加し、黎明期から日本のPEマーケットを牽引して来られた日々を振り返りつつ、今後のPEの有効性についてもお話いただきました。

■ディスカッショントピックス
・PE市場の変遷と現在地
・オーナー企業の人的ネットワークではレピュテーションが何よりも重要である
・「売却」の話をする前に議論すべきこととは?
・「変化への期待」が従業員のモチベーションになる
・欧米系ファンドの参入に思うこと
・グローバルファンドでありながら、ローカルカルチャーを理解することの重要性
・PE人材の多様性~多様な経験やダイバーシティを携えて投資先を取り巻く激しい変化に対応する~
・議論を重ねて最適なエグジットを探す