日本から世界へ新たなメディアコンテンツプラットフォームの実現をめざして ~その戦略と構想~

イベントレポート 

藤田 恭嗣氏 | 株式会社メディアドゥ 代表取締役社長

第203回 M&A研究会(2022年9月開催分)ダイジェスト

Web3.0、メタバースなどの出現を可能にしたブロックチェーン・テクノロジー。この技術によって、これまでコピーが容易であったデジタルコンテンツに唯一性を持たせたものがNFT(Non-Fungible Token)です。メディアドゥは電子書籍取次最大手という強みを活かし、こういった技術を利用して既存のコンテンツ流通とはまったく異なる新しいマーケットを創造することを目指しています。大きな話題となった大手取次トーハンとの資本業務提携の狙いや、近年力を入れている地元・徳島での地方創生事業についても伺いました。

More Contents for More People!

著作権法第一条に大きな感銘を受け、電子書籍事業を興しました。そこには、「文化の発展に寄与すること」を目的とし、その達成のために「著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図る」とあります。ひるがえって「著作物のデジタル流通」を事業コンセプトに、創作する人を守りながら健全な創造サイクルを作り、「ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人に届ける」ことを我々のミッションと置いた訳です。国内電子書籍市場の拡大に伴い、当社も右肩上がりの成長を続けてきました。

Image

これから当社が最も力を入れる事業は2つ、デジタルコンテンツを「資産化」する事業(Digital Contents Asset=DCA)と縦読みマンガ(縦スクロールコミック=TSC)の開発です。

近年、デジタルコンテンツの流通は、iTunesやKindleにみられるようなダウンロードモデルや、Spotify のようなサブスクモデルなどで進化してきました。DCAとは、NFTと同様にブロックチェーン・テクノロジーを活用してコンテンツに保有権を付けて「資産化」し、購入後の売買を可能にするもので、当社が世界で初めて提唱しました。
TSCは、右開きの日本漫画と左開きの欧米漫画間のジレンマを解消する、電子書籍ならではの技術です。現在世界で4,400億円のマーケットがあり、8年後には4兆円に迫ると言われる急拡大ビジネスです。

トーハンと手を携えて、紙と電子の垣根を超える

昨年、紙の本の2大取次の一つであるトーハンと資本業務提携しました。彼らの持つ約5,000書店のリアルネットワークにNFTデジタル特典付の出版物を置くことで、DCAビジネスの突破口にしたいと考えたのです。昨年10月のサービス開始以降、計27出版社から累計20万冊を超えるNFTデジタル特典付の出版物が発行され、通常版に比べて実売数も取引単価も20%以上の伸びを記録しました。更なる事業拡大のため、まずは既存店舗にNFT特典付出版物専用コーナーを常設し、コンテンツ売上の一部還元や優先的な配本という施策で書店や出版社を巻き込みながら、より多くの出版社にNFT特典付出版物の発行を促進させます。また、グローバル展開を見据え、欧米の出版社に強いコネクションを持つ企業の買収も始めています。

Image 1

M&Aによって非連続な成長を実現する

2017年、業界2位だった当社が業界1位企業を114億円で買収しました。当時、当社の時価総額は165億円ですから、随分背伸びしました。これを封切りにその後14社を買収・子会社化しました。企業戦略上、非連続な成長にM&Aは欠かせないという認識を持っており、M&Aファイナンス、ターゲットリストとスタンス、PMI体制、撤退基準などについて、明確なルールを持っています。

スマートフォンの台頭により、これからもコンテンツの世界的な需要急増が予想されます。これまで電子書籍取次最大手として築いた信用と実績を礎に、デジタル&フィジカルの流通網を活かしつつ、テクノロジーと確かなサービスによって出版業界のDXを支え、「コンテンツ配信の未来をつくる会社」へと成長していきます。

Image 2

すべての人の笑顔のために

わたしは人口1,000人の小さな村、徳島県の木頭で生まれました。大自然の暮らしや恵みを未来に繋げていくため、ゆず事業の再生や「世界一美しいコンビニ」などを仕掛け、故郷を盛り上げようとしています。また2020年からは「起業家が起業家を生み育てる」をコンセプトに人的プラットフォーム「徳島イノベーションベース」を設立し、毎月地元に足を運び、著名人を呼んだ月例会などでアントレプレナー支援を行っています。
すべての人が笑顔になれる奇跡の村を作りたい、そこに暮らす人々の毎日の暮らしを豊かにしたい、そこに息づく文化を大切に守り育てていきたい。事業に賭ける思いと根っこは同じなのです。

パネルディスカッション

弊社エグゼクティブディレクター久保田が参加し、コンテンツビジネス界のグローバル競争をどう生き抜くのか、また超多忙な日々の中で、なぜ徳島での地元支援や起業家支援に貴重な時間を割くのか、信頼関係があるからこそお尋ねできるチャレンジングな質問にも沢山お答えいただきました。

■ディスカッショントピックス
・新しいテクノロジーをビジネスに取り込む際に大切な視点
・順調なビジネスに新たな提案を仕掛けるコツ
・ブロックチェーン・テクノロジーが拡げる電子書籍の可能性
・歴史ある出版業界の先輩経営者をどう口説いたのか
・中国・韓国企業とのグローバル競争におけるメディアドゥのポジション
・M&Aのエグゼキューションにおいて特に心掛けていること
・M&Aによって「戦略実現のまでの時間」を買う
・デジタル業界でこそ重要なレピュテーション
・取引相手として信頼されるために、自分をつまびらかにする
・徳島での地元支援活動と本業の企業価値との関係

Image 3