Circular Economyで拓くビジネスと未来

イベントレポート 

張田 真氏 | ハリタ金属株式会社 代表取締役

第201回 M&A研究会(2022年7月開催分)ダイジェスト

「世界は課題に満ちている」。この言葉が深く腹落ちする時代に、私たちは生きています。複雑に絡み合う社会的な課題に対し、ビジネスの視点から解決を図ろうとする動きがみられます。企業が地域社会や経済環境を改善しながら新たな価値を生み出し、自社の競争力を高めていくことは、未来のビジネス機会の獲得にもつながります。今回は、その手段として注目されるCircular Economy の考え方と現状について伺いました。

経済価値のものさしが変わる

Circular Economy(CE)とは、「循環経済」と訳される欧州発の概念です。これまでの大量生産・大量消費を前提とした一方通行型の線形経済(Linear Economy)に代わり、「資源価値をあらゆる手段で向上させる」経済の在り方です。これはすなわち、従来は廃棄されていた資源や製品を、経済活動の様々な段階(生産・サービス・消費・廃棄など)で新たな「資源」として再投入し循環させることで効率性を高め、その循環の中で付加価値を生み出すことによって、経済成長と環境負荷低減を両立させるという、新たな産業システムであり経済政策です。この経済効果は2030年で500兆円、2050年には2,700兆円に及ぶとも予測されており、大きな注目が集まっています。

これまでの経済には、いわゆる環境コストや経済安全保障のためのコストとして甘受すべき資源コスト増は反映されていませんでした。しかし、カーボンニュートラルという社会的要請の高まりや、ウクライナ侵攻に影響を受けた資源高騰など、私たちを取り巻く環境は一変しました。

CEの本質とは、あらゆる手段を使った「新しい持続可能な経済社会へのシフト」を模索する動きであり、単なるリサイクルや環境保全に留まらず、経済発展や雇用の創出をも視野に入れた広範な概念です。

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世界はいま、「Circularity(循環性)とは何か」という「ものさし」について検討を始めています。ISOに技術委員会(TC323)が設置され、その定義や枠組み、評価方法等、各スコープの規格標準化について議論が進められ、今秋には何等かの採択が行われる予定です。

欧州での重要な動き

CE議論をリードしてきた欧州では、モノのパスポートとも言える「デジタル・プロダクト・パスポート(DPP/Digital Product Passport)」の導入が検討されています。製品の原材料・リサイクル性・解体方法などのトレーサビリティの確保が求められ、それは勿論サスティナブルなものでなければなりません。ドイツでは、独自のCE規格を策定し、産業のデジタル化を目指すIndustry 4.0と統合し、自国の方向性を明確に打ち出しています。

標準化議論で地ならしをした後に規制をかける、これは欧州の得意技です。実際、英国ではプラスチック税が導入され、リサイクル率の低い容器包装へ課税が決まりました。CEを見据えた素材間競争が始まったと言えるでしょう。

当社は様々な使用済み製品を、高いリサイクル技術を使って「資源」として社会に戻していくことが生業です。まさにCEビジネスの一丁目一番地に居を構えており、これまでのリサイクルの延長ではない新しい市場、新しい価値を日本の先頭に立って創造していきます。

なぜ、ビジネスで社会課題を解決することが必要なのか―。

そう問われれば、「成果が最大化されるから」と私は答えます。

当社は自社の存在意義(Purpose)を「For Well-being~幸せの伝播で、人と地球を未来へつなぐ~」と定義しています。社会の諸問題をビジネスで解決し、持続可能な社会を次世代へつなぐことは我々の使命です。そのために4つのWell-being領域とKPIを設定し、事業と幸せの伝播がリンクするような経営の仕組みを作りました。

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社員を束ねる立場として、脳科学や心理学からのアプローチも勉強しています。人間は自らが見たいように現実を捉え、変化を危険だと本能的に判断します。だからこそ人事VIISIONに「Change」をかかげ、自らの変化を人事評価制度とも連動させて、変化への耐性や適応力を付けようと取り組んでいます。現在の延長に未来はありません、2030年までに売上高を3倍にする、この大きな目標に向かって目線を上げていきます。

パネルディスカッション

弊社会長の渡辺が参加し、事業成長のために経営者が行う決断について、大いに語らいました。

■ディスカッショントピックス
・Circular Economyが起こす「経済のルールチェンジ」
・企業の「所有」と「経営」の分離について
・PEファンドを活用した事業承継型M&Aを選択した狙い
・PEファンド活用のメリット
・2030年のあり姿を描く
・次世代に選ばれる企業であるために
・優れた基礎研究や技術を、ビジネスに結び付ける鍵とは