日本のエネルギーセキュリティと脱炭素との両立を考える
佐野 敏弘氏 | 株式会社JERA 代表取締役会長
第200回 M&A研究会(2022年6月開催分)ダイジェスト
2011年の東日本大震災を境に、日本のエネルギー政策は変革に向けて大きな一歩を踏み出しました。当時、多くの原子力発電所が停止を余儀なくされ、国内の電力供給のうち、火力発電の比率は一時90%にまで高まりました。こうした変化の中、2015年に、東京電力と中部電力の火力発電事業、燃料調達・輸送事業、トレーディング・海外事業を承継する形で、JERAが設立されました。設立秘話、脱炭素に向けた取り組み、日本やアジアのエネルギー展望などについてお伺いしました。
エネルギー業界の風雲児、ここに誕生す。
2011年の東日本大震災以降、日本ではエネルギー、とりわけ電力供給が非常に不安定な状況が続いていました。2015年4月、資源を殆ど持たない島国から国際エネルギー市場でプレゼンスのある企業体を創出し、「エネルギーの安定供給」と「企業価値向上」を同時に実現することを目指して、JERAは誕生しました。「JAPAN」「ENERGY」「ERA」をつないだ「JERA」という社名には、『日本のエネルギーを新しい時代へ』という想いが込められています。
東京電力と中部電力が共同出資してスタートした後、段階的な事業の統合を経て、2019年4月には両社の国内既存火力部門が統合し、計画された一連の統合プロセスが完了しました。現在は、国内電力の約3割を発電する、日本最大の発電会社となっています。
私達は、燃料資源の開発・調達から輸送、発電、卸売に至るまで、燃料・火力事業の一連のバリューチェーンを構築しています。世界16か国からLNGを調達、19隻のLNG船を所有、26ヶ所の火力発電所に約6,500万kWの発電容量を備え、24時間365日にわたり日本の電力供給を支えています。また、東南アジアを中心に、北米や豪州などでも再生エネルギー開発等に注力しつつ、幅広く事業展開しています。
エネルギーセキュリティ強化に向けた取り組み
本年3月22日、電力需給のひっ迫が起きたのは記憶に新しいところです。幸い大規模停電は免れましたが、今後の安定供給に備え、休止発電設備の再稼働やリプレースを進めつつ、機動的な燃料調達を行うトレーディング事業にも力を入れています。仏EDFT社と合弁で設立したJERAGM社は、太平洋/大西洋をまたぐ石炭・LNGのサプライチェーン全体の最適化事業を展開する世界最大規模の企業になっており、LNGの激しい争奪戦となっているいま、存在感を増しています。
「CO2が出ない火」を作って、発電の常識を変える
JERA設立以降の最も大きな環境変化といえば、世界的な脱炭素のうねりです。日本のCO2排出量の約4割が電力セクターから排出されており、CO2削減にむけて、電源の低炭素化・脱炭素化が必要であり急務です。
JERAは、2050年時点で、国内外の当社事業から排出されるCO2をゼロとする「ゼロエミッション」に挑戦することを宣言しています。具体的には、「再生可能エネルギー」と「グリーンな燃料による火力発電」を導入して徐々に低炭素化を追求し、最終的に発電時にCO2を排出しない「ゼロエミッション火力」を実現するものです。しかし、再生可能エネルギーには最適な立地探しや供給能力に不安があり、グリーン燃料にもサプライチェーン構築に課題があるため、国や地域によってその実現への道筋は異なります。従って、地理的な状況に応じたロードマップを作成することが必要です。日本国内ではまず非効率石炭火力を停止し、(燃焼してもCO2が発生しない)アンモニアや水素を混焼させてCO2を低減させつつ、再生可能エネルギーの開発目標を設定し、海外の風力・太陽光・蓄電池事業への参画を含めた幅広い事業推進を行っていきます。
アジアの経済成長と脱炭素の両立のために
アジア経済は成長の余地が大きいがゆえに、今後の電力需要ならびにCO2排出量も大幅な伸長が予想され、持続的な経済発展と脱炭素の両立という課題に直面しています。ただ、各国のエネルギー事情は様々であり、国ごとに適切なアプローチが必要です。JERAはバングラデシュ、フィリピン、インドネシア等の脱炭素ロードマップの策定を支援し、タイの大手発電事業者とも、脱炭素に向けてエネルギー転換分野での協業をスタートしようとしています。世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供すること、これがまさに、我々のミッションなのです。
パネルディスカッション
JERA佐野会長に加え、同社設立に深く関与した酒入副社長(設立当時弊社プロフェッショナル)を迎え、弊社会長の渡辺と懐かしく語らいました。
■ディスカッショントピックス
・難しいと言われた事業統合を成し遂げた「経営トップのコミットメント」と「共通ビジョン」の重要性
・東日本大震災後の「危機」がなければ、この統合はなかったか?
・PMIを支える対等互助精神
・統合後の経営のキーワードは「多様性」
・環境変化の捉え方
・投資家との会話を軽んじない
・イノベーションの取り込み方