日本の未来に挑戦しつづける金融フロンティア

ファンドインタビュー 

株式会社日本政策投資銀行
企業投資第1部長 新美 正彦

1994年日本開発銀行(現 ㈱日本政策投資銀行)入行。2002年留学修了以降、事業再生部(現 企業投資第1部)・企業投資部(現 企業投資第2部)・日本航空出向等にて、一貫して投資フロント業務や再生案件に従事(エクイティ投資、メザニンファイナンス、再生企業への出資やDIPファイナンス、LBOファイナンス、ファンドへのLP出資等)。
早稲田大学政治経済学部卒、ロンドンビジネススクール修士(ファイナンス)

株式会社日本政策投資銀行
企業投資第1部 課長 村尾 洵一

2005年日本政策投資銀行入行。2012年留学修了以降、企業投資部(現 企業投資第2部)・企業投資第1部で投資フロント業務に従事(バイアウト、グロース投資、顧客との共同投資、メザニンファイナンス等)したほか、業務企画部で投資企画業務(予算・戦略策定、投資委員会運営等)に従事するなど一貫して投資関連業務全般に従事。
東京大学経済学部卒、UCLA修士(MBA)

「金融力で未来をデザイン」したい

ーー 自己紹介と御行に参画された経緯についてお聞かせください

新美 1994年に当行の前身の1つである日本開発銀行に入行しました。セクターカバレッジのようなフロント営業に加え、審査やリスク管理等の経験を積み、留学を挟んで2002年以降は、投資部門で20年ほど勤めております。

村尾 私は2005年に入行しました。当時から当行はユニークなプロダクトを扱っていたため、他行に比べ珍しい経験ができそうだと期待を持ちました。私も留学を経て投資部門に入り、フロント業務の他に投資企画等のミドル業務を含め、10年以上、この世界に携わっております。

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(写真左:村尾洵一氏/写真右:新美正彦氏)

ーー 次に社内体制についてお伺いします。投資部門には何名ほど在籍されているのですか

新美 当行の企業投資部門と100%出資のベンチャーキャピタル(以下、VC)であるDBJキャピタルなどを併せ、フロント業務とアドミ業務に携わっている担当者総勢で100名程度の規模です。

企業投資部門は機能別に第1部~第3部に分かれます。企業投資第1部は主に特殊なファイナンス全般を扱っており、メザニン、LBOのようなM&Aファイナンス、事業会社との共同投資案件や再生ファイナンスを担当しています。企業投資第2部はもう少しエクイティ寄りで、キャピタルゲイン重視型の案件を取り扱います。レイタ―ステージにあるベンチャーにグロース投資をしたり、東南アジアなどのクロスボーダー案件も取り扱います。企業投資第3部は、主に地銀や事業会社と共同でファンドを組成・運用しています。東日本大震災後には、東北3県と茨城県の各地銀と、震災復興ファンドを共同で立ち上げ、被災した会社にリスクマネーの供給を行いました。

いわゆるセクターカバレッジの営業部隊は、担当セクター別に都市開発部、企業金融第1部から第6部、全国の支店に分け、企業投資部門とは連携しながら活動しています。

ーー 皆さまが大事にされている理念や価値観をご紹介いただけますか

新美 私どものミッションは「金融力で未来をデザイン」すること。つまり、様々な金融の解決策を提供して、お客さまの未来の成長につなげていくことです。役職員全員が「Initiative and Integrity (挑戦と誠実)」を胸に刻み、業務に取り組んでいます。シニアローンからエクイティまでお客さま本位の様々な解決策を「フレキシブル」に提供できることと、特定の財閥や企業グループに属しておらず、「中立的な立場」で等しくお付き合いをすることが我々のスタイルです。

金融の受け皿として、大いなるフレキシビリティを発揮する

ーー 御行はファイナンスとエクイティの両方を扱われており、金融機関的なアプローチも投資ファンド的なアプローチも取ることができます。一般的に銀行は、どこも同じようなソリューションが出せると思われがちですが、他の金融機関にはない特徴があればお聞かせください

村尾 大きな特徴はフレキシビリティです。そもそも当行は、「民業を補完すること」を基本としており、補完というミッションを果たすために小回りのきいた組織で非定型的なニーズへの対応力を磨いています。シンジケートローンなどの確立された分野においてはメガバンクの方が得意とすることが多い一方、まだ「こなれていない」分野については誰も対応できないことが多く、結果として非定型的なニーズにフレキシブルに対応できる当行に任される事例が多くなっています。また、私どもは必要があれば議決権比率などに捉われることなくファイナンスからエクイティにまたがった複合的なソリューションの提供が可能で、実際にそのような議決権に関するフレキシビリティが寄与して成立した事例が増えてきています。

新美 我々はプロダクトありきで提案するのではなく、お客さまのニーズ、B/Sの状況や今後の計画について議論を重ね、深く考察した上で、柔軟な提案を行うことができるのが特徴と言えると思います。

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ーー ありがとうございます。次にエクイティに着目した場合、一般のPEファンドと比較して御行のスタイルに特徴があれば教えてください

新美 PEファンドは100%のバイアウト、もしくはそれに準じたマジョリティーを取るのが基本スタイルだと思いますが、私どもはこれに限らないというのが大きな違いです。例えばPEファンドや事業会社がマジョリティーを取り、何かしらの事情により当行にマイノリティーを引き受けてほしいということになれば、それにも対応しています。

ーー PEファンドは投資家からお金を預かり、コミットしたリターンを実現するために投資をしますが、皆さんがフレキシブルなのは、そういったリターンの要求が通常のPEファンドとは異なるからなのでしょうか

新美 そこは良いポイントなのですが、「DBJはリスクに見合ったリターンをいただきます」というのが我々の考え方です。リスクに見合った適正なリターンがあげられることを、お客さまのB/SとP/Lを基に確認する作業を地道に積み上げて判断しようという思想であり、決して同じリスクを前に、我々は低いリターンでよいという発想はありません。リスクが低ければリターンも低くて構いませんが、リスクが高ければ、我々も当然高いリターンをいただきます。

ーー 投資を受ける側からすると、リターンと並んで「投資期間」も気になります。どの程度が標準的な保有期間なのか、一般のファンドと比べていかがでしょうか

新美 「我々はいつまでも持ち続けます」ということはありませんが、PEファンドのようにファンド期間等の制約を受けるわけでもありません。従って、最初にご相談を受ける段階で、お客さまの考え方やニーズに対して我々ができることを確認し合い、その際にイグジットの目安についても会話をさせていただきます。投資後も状況に応じて会話を継続させていただき、一言で申せば「フレキシブル」というのが答えになります。

村尾 実態としては、投資の意思決定の時点においては、投資期間は大体5年とするケースが多くなっています。というのは、PMIが落ち着くまでというように、お客さまのプロジェクトが一区切りつくまで伴走してほしいというニーズが多く、それが5年程度であることが多いためです。とはいえ、投資後の状況変化によって、結果的に投資期間が2、3年で終わる場合もあれば、10年を超える長丁場となる場合もあります。

DBJの投資スタイルを支える「柔軟なスキーム設計力」

ーー 随所に「フレキシブル」な姿勢を感じるお話が続いております。実際の投資事例を踏まえてもう少しご説明いただけますか

新美 2013年の『リクシルによる独・グローエ買収』の事例をご紹介します。グローエは高級なシャワーヘッド等を取り扱う、欧州でも有数の水栓金具メーカーで、当時PEファンドが保有していました。リクシルは以前からグローエに関心を寄せておられ、PEファンドのイグジットのタイミングで手を挙げられました。しかし、トータルで3,000億円を下らないディールサイズの大きさ、グローバルビッドプロセスに求められる限られた時間軸、その他多様なご事情等、ディール遂行にあたり様々な難しさがありました。そこで、求められる条件を満たすようなスキームを考案し、シニアはメガバンクが担当し、エクイティに関して当行分は議決権付優先株として、リクシルと共同買収する体裁を取りました。数年後、リクシルは当行分を買い戻し、晴れてグローエを完全子会社化しました。

ーー リクシルは場合によってはPEファンドと組むオプションも取りえたと思いますが、御行にサポートを依頼された背景にはどのような期待があったと考えられますか

新美 リクシルは、ファンドと組むとはあまり考えていなかったと記憶しています。なぜかというと、この状況であれば、通常ファンドは「リクシルと組んでもいいけど、マジョリティは我々ですよ」という提案をしてくることが予想されますし、仮に後年ファンド持分をリクシルが買い取る場合には、更に大きな金額を持ち出す必要があるという危惧があったと思います。

村尾 一般的にPEファンドは経営の支配権を握りたいという傾向がありますが、リクシルには自身でこの会社をマネージしたいという意向がありました。私どもはPEファンドと異なりお客さまのサポート役に廻ることも可能なので、こういう我々の立ち位置がリクシルにとって心地良かったのではないかと考えられます。また、リスク・リターン設計という側面においても、PEファンドはある程度のリスクを取って高いリターンを作るという設計が基本形のところ、私どもはリスクから起算して、取れるリスクを選別した上で、そのようなリスクにマッチした、ある程度コントロールされたリターン設計のオファーをしました。結果的に、リクシルにとってその資本コストが受け入れられやすかったということが、手を取り合えた理由ではないかと思っております。

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ーー 日本企業が海外投資を検討する際、日本のPEファンドは投資対象が国内に限定されているため対応できない、一方でいきなりグローバルファンドと組むこともハードルが高い、かといって通常のファイナンスでは限界があるなど、リスクをシェアできる金融機関を見つけるのは難易度がとても高いと感じます。まさにそこに皆さまがソリューションを提供されているようにも見えるのですが、特に海外投資に対して強みがあるということでしょうか

村尾 もちろん、「海外企業の見極め力」を付けて勝負したいとは思っており日々グローバル案件審査力を磨いてはいますが、どちらかというとスキームの設計力が鍵となっていると思っております。例えば、熟知しているわけではない海外プロジェクトにおいて、様々なリスクを「取れるリスク」と「取れないリスク」に分類したうえで、そのようなリスクの分担を共同投資パートナーと相談することで、案件をサポートできるように組み立てられます。我々には投資戦略上の制約がないため、柔軟な設計力と機動的な意思決定をもって海外案件を検討することができる、このように理解しております。

「日本の資本市場を広げる取組」としてのグロース投資

ーー ありがとうございます。他にもご紹介いただける事例はございますか

新美 5、6年前になりますが、『メルカリ、スマートニュース、ラクスルという、レイターステージにあったベンチャー向けにグロース投資』をした事例です。いわゆるユニコーン級の企業に、さらなる成長資金として数十億規模の資金ニーズがある場合、2022年の今でこそVCやPEファンドも実績がありますが、当時は対応できるプレイヤーがきわめて限られていました。当行は中長期的な視点を持った投資を設計し、彼らのR&Dや海外ビジネスを広げる支援も行いつつ、結果としてメルカリもラクスルも上場を達成しました。

ーー ベンチャー投資の場合、当然通常の会社よりはリスクが高いと思いますが、そういったこのリスクの目利きや成長の見極めについては、専門的な部署で行われているのでしょうか

新美 それは非常に鋭いご質問です。少額のVC投資以外は通常案件同様に当行の審査部門の目を通すことになりますが、「なんだこれは?そもそも赤字じゃないか!」というところで議論が止まってもおかしくないところ、当時、専門チームを発足させたわけではありませんが、VCの経験者を含め、かなりの人的リソースを使って調査をし、考え方を整理しました。

村尾 このクラスのベンチャー企業は、いわゆるアーリーステージのスタートアップと違って、黒字化こそはしていませんが、ユーザーの獲得や定着等、やるべきビジネスプロセスは十分進捗していることが多くなっています。アーリーステージの投資に求められるような目利き力に依拠しなくても、標準的なDDをしっかりすれば、DBJのようなVCを本業とするわけではない金融投資家にとっても十分理解できる、十分インベスタブルなアセットとして検討できるのではないかと、我々は捉えています。ただ当時は金融業界でもそのような認識は今ほど普及しておらず、結果として大型スタートアップの資金調達は難しい状況にありました。いわば当時の我が国の資本市場に未成熟な部分があったなかで「駆け込み寺」的に当行に相談が来て、VC的な目利きに依拠し過ぎずあくまで通常水準のDDを行い、それで十分説明に耐えたので投資を決めました。

新美 こういった案件の発展形として、例えばUniposに対してSansanと共同で大規模増資に応じる等、SaaS領域のグロース企業との連携事例も出てきています。視座を高めますと、戦後の日本経済を支えてきたのは製造業でしたが、徐々にサービス業のウエイトが高くなって、ひょっとすると今後は、このようなICT産業がGDPのかなりのウエイトを占めてくる日が来るかもしれませんので、このような会社がしっかりと成長していくためにサポートしていきたいと考えております。

金融業界で無二の存在であるために

ーー さて、政府系ということで、民間の投資ファンドや金融機関との距離感や役割分担には難しさがあると思いますが、これに対して皆さんはどのようなお考えをお持ちでしょうか。

新美 私どもは、例えば民間の金融機関、銀行、あるいは民間の金融投資家の方々と常に連携し、協調することを原則としております。基本的に、我々が機会を独り占めすることはありません。引き受け手がなく単独になりそうなケースでも「一緒に動きませんか」というお声かけを基本動作として行っております。

村尾 他の金融機関との連携を組織レベルでオペレーションに組み込んでいます。投資委員会でも、必ず投資家やプロジェクトの顔ぶれをテーブルに並べた上で、DBJの立ち位置について常に点検しています。

今日ご紹介した事例のように、既存の仕組みやプレイヤーだけでカバーできないニーズは存在しますので、それに積極的に関与し、挑戦することが当行の使命・存在意義だと考えています。

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皆さまへのメッセージ

ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします

新美 M&Aに限らず、事業の一部を切り出したい、財務改善をしたい、あるいは会計的、ガバナンス的な歪みを正したいなど、会社によって様々なテーマや課題をお持ちだと思います。我々は、例えば設備投資をするときの資金調達や株式、事業承継に必要なファイナンスなど、様々な局面で「フレキシビリティ」「中立性」を活かし、ご相談に乗りたいと思っています。お気軽にお声掛けいただきたいなと思います。

村尾 これまでお客さまに喜んでいただいた案件のほとんどは、最初は混沌とした状態で、けれど期日は刻一刻と迫っているという難しい状況から始まったものが多かったように思います。その混沌としたところを解きほぐすのがDBJの得意なスタイルでもありますので、ぜひ、ご相談いただく内容がうまく整理できていない場合であっても、遠慮なくお話いただければと思います。

以上

株式会社日本政策投資銀行
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記事監修

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