Digitalで切り拓くPE新世代

シリーズ記事 

D Capital株式会社
共同代表 / パートナー 梅津 直人

シティグループ証券及びSMBC日興証券にて様々な産業におけるM&Aや資金調達を経験。その後、ユニゾン・キャピタルにて注力領域であるヘルスケア産業の投資担当者として、製薬企業への成長投資や調剤薬局・病院・訪問看護のロールアップ投資を中心に中堅・中小企業への投資及び成長支援を指揮。

日本の中小企業のDXが進んでいない

―― 梅津様の自己紹介をお願いします。

梅津 私は投資銀行でキャリアをスタートさせて、様々な産業のM&Aやエクイティファイナンスなどに取り組んできました。ユニゾン・キャピタル(以降、ユニゾン)が仕掛けた、とある買収案件に関わった際、プライベート・エクイティ・ファンドのビジネスに面白みを感じ、ユニゾンの門を叩いたのが2013年のことです。ミスターミニットやエノテカなどコンシューマーセクターの投資などを担当した後、共同代表の木畑と一緒に、ヘルスケア領域にも携わるようになりました。製薬会社への成長投資のみならず、薬局や病院、在宅医療、訪問看護と投資対象を拡げていき、専門性を深めました。その後、 2021年にD Capitalを設立しました。

―― D Capitalを設立された際の経緯と社名の由来についても教えていただけますか。

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梅津 ミッドキャップのPEファンドマーケットが成熟してきて、言い方を変えるとすごく混み合ってきて、競争も激しくなっています。その一方で、その少し下の階層は、まだプレイヤーが少なく良い案件も多いと見ておりました。ここで差別化された戦略をとるファンドをやりたいと考え、旧知のメンバーで議論を重ねました。

元ユニゾンのメンバーである木畑、重光、さらに重光と同じくゴールドマン・サックス出身の仁木、また木畑と留学時代からの友人であるデータサイエンティストの松谷、そして私。投資のプロとDXのプロが集って「DX×PE」というコンセプトを生み出し、D capitalをスタートさせました。

D Capitalの「D」は、もちろんDigitalという意味合いもありますが、業界をDisruptするような可能性を持つ会社に投資をさせていただいて、経営とDXの支援をする会社になっていきたいという想いも込めています。そして我々はDXを最初の切り口にしつつも、他の様々な経営テーマに対しても柔軟でありたいと思っています。

―― DXに精通したメンバーも多く在籍されているかと思いますが、御社はどのような体制になっていますか?

梅津 「DX×PE」というコンセプトの通り、投資のチームとデジタルのチームという、出自が違うチームの混成になっています。投資のチームには、コンサルや投資銀行をバックグラウンドに持つメンバーが集まっていますが、デジタルのバックグラウンド持つメンバーがすぐ近くにいるというのは、とてもユニークなことです。例えば木畑はファンドの経験もありますが、直近までJDSCという、DXコンサルティングを生業とするDXベンチャーでビジネスの管掌をしていました。松谷はMIT出身で、その後にNASAでロケットサイエンスに従事し、その後ゴールドマン・サックスでトレーディングの自動化に携わった経験を持っています。他にもデータサイエンティストやエンジニア、ITストラテジストなどデジタルバックグラウンドのメンバーが活躍しているのが当ファームの特長かなと思います。

―― 様々なバックグラウンドの方とビジネスを進めるにあたり、共通の理念や大事にされている価値観はございますか。

梅津 日本の中小企業のDXが進んでいないという現状認識があります。それは何故かというと、テクノロジーを持つ人とビジネスを推進する人、双方が有機的に繋がることがDXを進める上で大きなポイントであるにも関わらず、現状できていないからだと考えています。この橋渡しをするのが我々の仕事であり、存在意義です。デジタル側の観点のみならず、経営や財務的な観点を理解し融合していくことが組織運営にはとても重要であり、投資先のバリューアップにおいても大きなポイントであるというのが、メンバーの共通認識です。

―― 投資先に対して、投資チームとデジタルのチームが連動して対応されているのですね?

梅津 おっしゃるとおりです。

テーマは「デジタル人材のハンズオン支援」

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―― いま運用されているファンドの概要について教えていただけますか。

梅津 ちょうど去年の年末にファイナル・クローズを迎えて、いま315億円の初号ファンドを運用しています。機関投資家の皆さまの他、KDDIさんやSCSKさんといったデジタルパートナーの方からもご出資をいただいていることが、特徴と言えるかもしれないですね。

―― 初号ファンドから300億円を超えられて、非常に大きなアチーブメントだと思います。やはり投資家が御社のコンセプトを大きく評価されたということでしょうか。

梅津 そうですね、投資家の皆さまとの会話の中で、やはり日本のプライベート・エクイティ・マーケットが成熟期にあり、プライベートエクイティが提供する価値もコモディティ化してきているのかなと感じました。この状況下で、デジタルのなかでも、「当社のネットワークにいるデジタル人材がハンズオンサポートを行う」というのは新しいテーマでありアプローチだと思っており、こういった時流を投資家の皆さまも感じておられることがご支援につながったのかもしれません。

―― 今後の投資について、強化していきたい案件のタイプや領域などはございますか?

梅津 案件のタイプとしては、事業承継の話が一番大きいです。オーナーの皆さんは、DXという単語に関心を持っていらっしゃるけれども、「具体的に何をやるのかわからない」「DXによって自分の会社にどういう可能性が拡がるのかイメージできない」「デジタル人材はどのように確保すればいいのか」などと仰います。それに対して我々が具体的なソリューションを交えた提案をすると、ファンドに売却するというよりは、「会社の次の成長を見据えDXをハンズオン支援する会社に譲る」という捉え方をされて、売却金額の多寡よりもオーナー様の御心に響いているのではないかと思うことがあります。 

また、カーブアウトのニーズも結構増えています。カーブアウト案件の際に重要なテーマになるのが、システムやデータの切り出し、スタンドアローン化です。我々は外部に任せるのではなく、まずは内部の人間がアセスメントし、ベストな布陣で対処することができるため、コストや安定性を担保できている自負があります。あとは非上場化です。非上場化して次の成長を作る際、やはりデジタルはどの会社にとっても避けては通れない大きなテーマですので、我々がお役に立てる場面があるというお話をします。

―― セクターに関しては、何か方針をお持ちでしょうか。

梅津 まず前提として、デジタルの余地はどの会社でもどの産業にでもあると思っているため、あまり業種を絞っておりません。ただ、これまでの実績やメンバーのバックグラウンドとしてはヘルスケアに強みを持っております。医師免許を持つ者、医大でデータサイエンスの講師をしている者の他、私自身もヘルスケアの投資を重ねてきており、引き続き取り組んでいきたいと考えています。あとはB2Cです。これも、強みを持つメンバーがいますので、色んな仕掛けを作っていくことはできるかなと思っています。またB2Bサービスも、引き合いがとても多く、しっかり捉えていきたいです。

DXは単なる省人化ではない。

―― 投資先に具体的にどのような支援をされているか、お聞かせくださいますか。

梅津 大きく3つのステップに分けています。まずデジタル戦略を策定し、組織を作り、蓄積したデータを整理する、つまりデータを使える状態にするのがステップ1です。次なるステップが事業改善です。使えるようになったデータを基に売り上げを伸ばす、コストを減らして効率化する、あとはキャッシュフローの改善などです。

例えばB2Cのお会社さんで現状のeコマースに新しいチャネルを作りたいというニーズがあれば、目的に沿ったアプリやサイトを作って、お客さんのインフローを確保していく。更にそのアプリやUXをしっかり磨き込み、色々な仕掛けを組み入れていくことによって、お客さんのロイヤルカスタマー化、アップセルやクロスセルを実現し、お客さまのライフタイムバリューを確実に増やしていきます。

よくDXというと省人化みたいに捉えられますが、我々はどちらかというと、これから成長していく部分を最も効率的に回す仕組みを作っていきたいと考えるのです。とある店舗型の営業で、売上情報を日々本部にFAXして、本部ではそれをエクセルに打ち込んで収支を作って、というようなフローが未だ行われています。これでは、店舗が増えるとそれだけバックオフィスの人数も増やさなければならず、労働集約型のビジネスなってしまうのです。我々は情報を一括管理できるような仕組みを整えて業務を改善し、ビジネスが成長してもバックオフィスがパンクせず、人が減っても人員効率が自然と引き上がるよう導きます。

また、在庫を抱えるビジネスにおいて、販売と製造のやりとりがシームレスになっていないことにより、過剰在庫や欠品などの問題がよく起こります。これも過去のトレンドデータを適切に分析して最適な在庫水準が分かれば問題は解消されていくはずで、在庫の圧縮によってキャッシュフローが改善します。このように、売り上げを伸ばす、コストを見直して効率化する、キャッシュフローを伸ばす、これら全てを我々はお手伝いできます。

ステップ3は、まさにトランスフォーメーションの世界で、例えば蓄積した顧客データを基に新しいビジネスを生み出すとか、非連続な成長を作ることです。大きな可能性は秘めていますが、必ずしも誰しもに必要なことではないかもしれません。ステップ2まででも十分に企業は変わると思いますので、まずはステップ1&2でビジネスを盤石にしていくということだと思います。

―― 他社のPEファンドでは、投資後に外部のコンサルティングファームなどに依頼してデジタルプロジェクトを進めていくケースが多いと思いますが、御社の場合は、インハウスメンバーでご支援をされるというでしょうか?

梅津 そうですね。D Capitalの中に5名、あと、DX Guildと呼んでいるD Capital独自のデジタル人材プールとして30名弱ぐらい、信頼に足る非常に優秀なエンジニア、データサイエンティストなどを集めています。結局、デジタルも属人的な領域であり、いい人材を捕まえるのがとても重要で、一騎当千の世界だと思っています。我々は、投資先の様々なデジタル人材のニーズに対し、インダストリーや技術的な要素などを加味した最適な人材を派遣できるような仕組みを構築していています。

―― 特に中小企業様だと、悩みはありつつも、プロに頼むとお金が掛かるから二の足を踏むというケースが多いと思うんです。御社のDX支援に関して、単純なコストと捉えられないような工夫をされていますか?

梅津 そうですね、まさに仰る通り、ベンダーロックイン問題はよく見かけます。ベンダー側に主導権を握られてしまってコスト高などに陥るのです。本当に必要なシステムなのか、オーバースペックになっていないか等を見直した上で、元の要件に照らして最適なパートナーを見つけていきます。そういう意味では効率化される部分があると思います。

―― その設計のところを御社がしっかり担当されるというのがポイントだということですね。

DX×PEを支える「若さ」という要素

―― 投資先のエグジットについてはどのようにお考えでしょうか。方針や大事にしておられる判断軸はございますか?

梅津 上場であれ第三者への譲渡という話であれ、誰かが株主であることは変わりないと思っています。我々が最も重視していることは、「誰が株主であっても、会社として持続的に成長する仕組み作りを一緒に作り込む」ということです。先ほどお話したステップ1でDXチームを作るとか、DXチームを作りながらステップ2のところまでしっかりと伴走し、それができたらあとは自立自走で自動的に企業価値が上がっていきます。企業価値を永らく最大化していくためには、上場がいいのか誰かの傘下に入ってより強力な支援を得るのがいいのか、この辺りを一緒に考えていきます。

―― 投資する際もそういった先のことを見据えながら、経営者と議論されているんですね。

梅津 そうです。本当にトランスフォーメーションの可能性が大きく、第3のステップのところを見据えているならば、やはり上場は大きな価値を生む選択肢であり、我々のリターンからいってもそれが魅力的かもしれないですね。

―― ありがとうございます。少し今までと視点が違う話になりますが、皆さん非常に若いチームで運営しておられて、他社と比べても際立っていますね。

梅津 若造です。(笑)

―― 一方で、投資先あるいは今後に投資対象になり得る会社には様々な経営者の方がおられて、若さゆえに色々と苦労をされたり、逆に若いからこそ上手くいっているというようなお話があればお聞かせください。

梅津:苦労したことは殆どなく、むしろデジタルというからにはある程度の若さが必要になってきます。もはや我々ですら、この業界では老輩です。「デジタルを進めていく中での山あり谷ありを乗り越えるバイタリティーがある」「身を粉にして頑張る」、我々の若さをそのように捉えていただいているように感じます。

―― 外苑前エリアにオフィスを構えられているのも、個性的ですね。

梅津 我々は半分金融だけど、やっぱり金融とは少し毛色が異なると思っています。ですので、いわゆる業界のオフィス街とは違う所がいいかなと。また、デジタル人材にとって働きやすい、堅苦しくないという意味で、スーツ姿の方が少ない場所を選んだのです。


「我々が壁打ち相手を務めさせていただきます」

梅津 我々の一番の価値は、「ビジネスとテクノロジーの橋渡し」です。「会社の強みやポテンシャルを、我々の持っているネットワークにあるテクノロジーを組み合わせると何が生まれるのか」を、共に考えます。そして、実際に進めていこうとなれば、お金とテクノロジーと我々の人的ネットワークを提供して、一緒に作っていくということなのです。

ビジネス上の題材をご提供いただき議論を重ねることで、何かのきっかけが起きるかもしれません。そうならなかったとしても、おそらくDXの観点からとても意味のある壁打ち相手になれる可能性があると思っていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

以上

D Capital株式会社

https://dcapital.jp/

記事監修

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