「統合して何が変わった?何が変わってない?」~フーリハン・ローキー×GCA 経営統合1周年記念企画(第5回)
米国のグローバルM&Aアドバイザリー会社フーリハン・ローキー(HL)との経営統合を受けて、昨年2月22日に社名を変更して1周年を迎えました。M&Aの当事者となったM&Aアドバイザーは何を感じたのか、統合によってどのような変化がもたらされたのか。統合から1年が経った現在、HLのM&Aアドバイザーが統合時の心境や現況を語ります。全5回のシリーズの最終回となる今回は、マネージングディレクター 原田恵一郎の話をご紹介します。
「欧米ではPEファンドの投資を受けることはポジティブなこと。日本でも意識改革が進みつつあります」
――入社までの略歴と旧GCAでの役割、現在の担当業務をお教えください。
原田 大学を卒業した2001年、日本が不良債権問題に揺れていた時代に会計士として監査法人に入社しました。その会社から2003年に設立された産業再生機構に出向した後、2006年に旧GCAに転職しました。若い頃から倒産した会社の調査や非友好的買収の防衛など特殊なシチュエーションの案件に携わる機会が多く、その過程でプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の方々と仕事をする機会に多く恵まれました。現在はHL東京オフィスで、PEファンドや総合商社といったクライアントに向けたオリジネーション活動を行うフィナンシャル・スポンサー・グループを統括しています。
――PEファンド関連案件を多く手がけている米HLとの親和性が高いお仕事ですね。
原田 米国では特にリーマンショック後に多くの資金がPEファンドに流入し、市場が拡大しました。そういったPEファンド向けサービスに振り切った戦略で成長してきたのがHLという会社で、近年は、PEファンドが関与する案件のアドバイザー件数でグローバルNo.1の実績があります。
欧米では、事業における「選択と集中」を実行するにあたり、PEファンドが重要な役割を担っています。自社傘下にあることで成長できない事業は第三者に譲り、効率的な成長を促す。伸び悩む事業会社が同業と統合するケースは一見とても親和性が高いように見えますが、実は顧客が被っていたり、人事統合が難しかったりなどのデメリットもあります。他方、独立資本のPEファンドが買収した場合、必要な資金を投入し、新たな活躍のフィールドや機会を提供してくれる。また、経営陣や従業員に対するインセンティブを手厚く設計し、事業を成長させるための合理的な仕組みをしっかりと構築することができるのもPEファンドの特徴です。
――日本では、まだそういった認識に至っていない印象があります。
原田 日本でPEファンドが創設され始めたのは、金融機関が不良債権の処分方法に苦慮していた時代です。当時は、外資系ファンドが金融機関から不良資産を廉価で買収するケースも多く、そこからファンドの買収=厳しい状況にある会社が買い叩かれるとったイメージが付いてしまいました。
ですが、これは当時の日本の時代背景に基づくニーズにPEファンドが対応していたことによるもので、欧米では、事業や会社を成長軌道に乗せるための資金を提供したり、必要な人材を補強することなども重要な役割と認識されています。それどころか、投資のプロであるPEファンドに認められることはポジティブなことであり、事業環境の変化に企業が対応するためには、必要不可欠な存在と考えられているのです。
――日本で欧米ほどPEファンドが活用されていない理由は?日本でPEファンド市場が大きくなるきっかけとなり得るのは、どういったことなのでしょう?
原田 海外の投資家は日本企業を高く評価しているものの、「会社が一生面倒を見る」という企業文化や制度が根強く残る日本企業は、PEファンドのような先への事業売却を躊躇しがちです。また、米国では年金や私設財団、大学などが資産運用先としてPEファンドを活用していますが、日本のPEファンドの運用資金のほとんどは一部の事業会社や金融機関が支えているため、流入してくる資金の質・量に根本的な違いがあります。
とはいえ、日本のPEファンド市場も成長傾向にあり、現在国内でアクティブなファンドは外資・日系合わせて約80社ほど存在します。欧米の規模には及ばないものの、少子高齢化による事業承継問題が社会課題として顕在化したことに伴い、PEファンドを介在させて事業を継続するケースが増えてきました。また、複数の事業を営むコングロマリット型の企業においては、ポートフォリオ・マネジメントの必要性も再認識されてきています。
PEファンドには触媒的役割もあります。米国では、PEファンドの傘下に入った後に多くの追加買収を実行し、事業拡大を果たすケースも多く見られますし、オーナーであるPEファンドが何度も変わりながら、成長してきた事業会社もあります。特に日本のような成熟した経済では再編が必然の流れとなる業界も多くありますから、今後は日本でもそうした場面でPEファンドの存在感が増してくると考えられます。
「海外の動向への知見を深め、将来の日本の市場構造の変化に備えています」
――旧GCAとHLとの経営統合についてお伺いします。いつお知りになり、どのように感じられましたか?
原田 公表前夜、海外発のニュースで知りました。旧GCAで長く会社の変化の過程を見てきましたから、ニュースを見て最初に思ったのは「ついにそのときが来たか」ということでした。
買われる側になることも、自分自身の経験からあり得ると思っていました。重要なのは新たな発展につながる相手かどうかということ。その点、近年急成長していたHLは、自分の想像以上に規模が大きく、大いに期待できるパートナーでした。
――統合による効果を感じた場面があれば、お聞かせください。
原田 HLにはグローバルに非常に幅広くかつきめ細かいセクターカバレッジチームが存在します。最近、日本のPEファンドがある投資先の売却を検討する案件があったのですが、すごくニッチな業界だったにも関わらず、HLには米国にも欧州にもその業界を見ているバンカーがいました。プレゼンテーションでは、日欧米のバンカーをオンラインでつなぎ、買い手候補となる企業の直近の動向を伝えるとともに、売却の成功に必要な戦略的プロセスについてきめ細かく提案。HLだからこその体制が高く評価された結果、その案件のアドバイザーに任命していただきました。
統合後は、グローバルマーケットの最新動向を把握できるようになり、3歩先をいく欧米のような案件が日本でもいずれ発生するだろうという意識で活動するようになりました。PEファンド自身の運営のあり方についても欧米から多角的な情報を得ることができますし、知見は飛躍的に深まったと感じています。
――統合前からご担当業務で心がけてきたことは?統合による変化はありますか?
原田 我々のチームは、多様なリスクマネーへのニーズに対して適切なソリューションを提案し、産業とリスクマネーを結び付ける役割を担っていますから、全産業を俯瞰して、今資金を必要としている業界にアンテナを張って、その業界の担当者とチームワークよく仕事を進めることと、クライアントであるPEファンドごとの特徴を深く理解することを意識しながら活動しています。
資金ニーズがある会社に対して最もフィットするPEファンドをご紹介するためには、常に多方面とのリレーションをキープしておく必要があります。我々のチームのクライアントはプロフェッショナル。お互いにリスペクトしていないと理想的な関係は築けません。中には「ここだけの話」が重要になることもありますから、強固な信頼関係が不可欠なのです。
米HLのフィナンシャル・スポンサー・グループは、自分たちが成し遂げてきたことに対して大きな自信を持っており、そのノウハウを日本でも展開できることが将来のビジネスの発展につながると確信しています。一方、日本のPE市場は発展途上ですので、日本の現状を理解してもらいながら、将来を見据えた戦略について米国の担当者と議論を重ねている段階です。
――情報収集能力、分析力、想像力、提案力などが求められるお仕事ですから、後陣を育てるのは大変ではありませんか?
原田 私自身がいろいろな先輩にご指導いただきながら多くの経験を積み、ネットワークを築き、知見を深めてきました。担当する案件はタフなものが多いですが、後輩にはクライアントとの会話や議論に極力参加してもらっています。若いうちからクライアントと強固な関係を築いていくことは重要で、大企業のような人事異動などがあまりないPE業界では、それが一生続くリレーションになります。1つ1つの経験は将来必ず役に立つ。後輩たちもそういった視点でこの仕事を楽しんでくれていると思います。
「統合によるリソースの拡大を、クライアントの皆様の課題解決に役立てます」
――では、最後にご自身が担当するセクションの視点で読者にメッセージをお願いします。
原田 ではまず、事業会社の方に向けたメッセージを。
日本のPEファンド業界は歴史が浅く、規模もそれほど大きくありませんでしたから、その業界を長年専門とするバンカーがいるファームは当社以外に多くは存在しないと思います。私自身は時間をかけながらあらゆる規模のPEファンドとのリレーションを築き上げてきました。各PEファンドの特徴や目指しているビジョンも把握していますから、PEファンドを活用する余地のあるシチュエーションでは、ベストなパートナーをご提案する自信があります。PEファンドの活用は、あらゆる事業の課題を解決するための選択肢の1つ。業界動向や世界の潮流を見ながら、最適な活用方法を一緒に考えることができればと思います。
そして、PEファンドの方々に向けたメッセージです。
HLはPEファンド案件においてグローバルNo.1のファームです。そこに至るまでにブラッシュアップされてきたノウハウを日本でも展開し、皆様のお力になれるように尽力していきたいと考えています。どんなシチュエーションに対してもアイデアを提供したり、実行のための具体的な提案ができると思っていますので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。
――ありがとうございます。これからもぜひ厳しい状況にある日本の事業会社を救ってください。今後のますますの活躍を期待しています。
【話し手】
フーリハン・ローキー株式会社 マネージングディレクター 原田 恵一郎
大学卒業後、2001年より監査法人にて監査、財務デューデリジェンス業務を経験し、2004年からは株式会社産業再生機構にて、支援先の財務リストラクチャリングや投資後の事業改善支援を担当。2006年の旧GCA入社後は、事業再生、有事対応(非友好的買収/防衛)、カーブアウト、LBOファイナンス、ベンチャー買収等、多種多様なM&A案件のエグゼキューションをリードしてきた。近年は、フィナンシャル・スポンサー・グループの責任者としてPEファンド及び総合商社向けのオリジネーション活動を統括。特にPEファンド各社との間に広いネットワークをもつ。2001年慶應義塾大学商学部卒。