「統合して何が変わった?何が変わってない?」~フーリハン・ローキー×GCA 経営統合1周年記念企画(第3回)

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米国のグローバルM&Aアドバイザリー会社フーリハン・ローキー(HL)との経営統合を受けて、昨年2月22日に社名を変更して1周年を迎えました。M&Aの当事者となったM&Aアドバイザーは何を感じたのか、統合によってどのような変化がもたらされたのか。統合から1年が経った現在、HLのM&Aアドバイザーが統合時の心境や現況を語ります。全5回のシリーズの3回目となる今回は、一昨年12月に旧GCAに異動した元HL東京オフィス代表の藤野隆太の話をご紹介します。

「日本では1対150の統合。活動の幅が広がることへの期待感でいっぱいでした」

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――経営統合前、米HLにとって日本拠点はどういう位置付けだったのでしょうか?

藤野 1970年に設立した米HLは、2000年にロンドン拠点を設けるまで、ほぼ米州案件のみを扱っていましたが、2006年にオリックスがHL株の70%を買収したことで、日本でも事業展開すべきとなりました。しかし当初、欧州やアジアではそれほどうまくいかなかった。特に日本では、HLの3本柱であるコーポレートファイナンス、バリュエーション、財務リストラクチャリングのうち、コーポレートファイナンス以外の仕事は米国並みのフィーを実現できる機会はほぼ存在しないも同然だったのです。

立ち上げから関わり2007年に開設したHL東京オフィスでの業務もフルサービスではなく、また、HLの基本である売り手側代理人の案件は日本では発生頻度が低いうえに、あったとしてもカーブアウトや事業部の切り出しなど難易度が高いものが多かった。本社としてはシステマティックにいかない日本市場にあまり注力できず、立ち上げ直後にリーマンショックに見舞われたこともあって、人員補充しないまま気付けば東京オフィスは自分1人になっていました。それでもHLの売り手側代理人案件を日本の企業に紹介するには十分で、実際に年に3-4件をクローズすると「とても効率のいいオペレーションだね」といわれたりもしました。確かに効率はいいものの、発展性はない。それが当時の悩みでした。

――統合についてはいつお知りにりましたか?そのときに感じたことは?

藤野 TOBの情報がリークされたことを友人から聞き、電子ニュースで確認しました。それまで統合を検討していることすら知りませんでしたから、驚きました。

その時点では、GCAのクロスボーダー案件は買い手側代理人が中心という認識がありましたから、HLの売り手側中心の考え方とフィットするのだろうかという不安が一瞬よぎりました。とはいえ、1人で活動していた身としては、150人のバンカーがいるGCAとの統合により日本でのプレゼンスが大きくなることへの期待感の方が大きかった。チーム体制で案件に臨めることも楽しみでした。

――統合前、GCAに対してはどのような印象をお持ちでしたか? その印象は統合後に変わりましたか?

藤野 GCAに対しては、それまでの協業の経験からネットワークの広さ、幅広い業種に対する理解の深さ、アクセス先との関係性の深さが素晴らしいと思っていました。

統合後には、自分が思っていたよりも提供サービスの幅が広く、対応はかなりのハイレベルであることを知りました。また、日本最大級の案件や最も複雑な案件をまとめてきた実績にも驚かされました。

「もともと似た志を持つ会社同士の統合ですから、いい方向に進む予感がしました」

――現在はどのようなお立場なのでしょうか?

藤野 所属はクロスボーダー・スペシャルシチュエーション・グループです。要はカバレッジがない分野にエグゼキューション機能(スキーム構築からバリュエーション業務、デューデリジェンス業務などM&Aの一連のプロセスを実行・管理する機能)を提供するチームです。一方でHLは担当分野を狭めることで担当者の知見と業界との関係を深めるという手法で成功してきましたので、担当セクターの細分化が基本。HLグローバルのシステムが日本でも通用するか、本社も期待して見守っているところだと思います。

人口は減少傾向、GDPは伸びないという日本の状況を見ると、日系会社は今後必ず海外事業会社の買収も視野に入れる必要が出てくるはずです。HLの基本方針は売り手側代理人となることですが、それを日本の現状にフィットするよう考えるのも自分の役目。本社がメリットを感じる動きを続けていれば、自ずと日本チームの評価は上がりますし、その評価を積み重ねることによって、日本のディールスタイルにも興味を持ってもらえると信じています。

――旧GCAのオフィスに席を移されたわけですが、職場環境はいかがですか?

藤野 オフィスはフリーアドレスで代表以外はみな同じフロアにいますから、すぐに誰かに相談できるし、話を聞くこともできる。1人でやっているときとは比べものにならない生産性の高さを実感しています。そこで気づきました、人間は社会的な動物なんだなと。人と会話を交わすことで物事がどんどん進んでいく。人間としても生き返ったような気分です。そして、HLと旧GCAをつなげる立場として、日々前進している手応えがあります。

企業文化の面では、もともと両社はとても似ていたといえるでしょう。HLには自分たちさえ良ければいいという発想がないですし、旧GCAもClient Firstが社是だったくらいですから、どちらも「自分たちよりお客様優先」。地域的にもサービス的にも垣根を設けず、お客様のためを考えて動くことを基本としているHLの理念は、旧GCAのバンカーも馴染みやすいものだと思います。

――野々宮代表から、藤野さんの活躍ぶりをお伺いしました。何に対しても素早いレスポンスで的確に動いてくださると。

藤野 点と点をつなぐ作業では、つなぎ役が主体的に動かないと、どこに点があるかもわからないことが多い。ですから、点と点をつなげますと耳打ちしながら、この点はあの点とつながるかもしれないと提案する。また、頼まれたことに対してはNOといわないよう心がけています。そのような地道な作業を続け、つなぎ役が必要なくなったとき、HLとGCAは本当の意味で統合したことになると思っています。

 誰がどこで立ち止まっているかを把握するために、私は常にアンテナを張って社内をウロウロしています。そして現在は、まだ日本オフィスにセクターが存在していない分野の精緻な情報を提供し、対応力が強化されるよう意識して動いています。そういった自分の役割を果たすことで、多角的な意味でのケミストリーを生んでいけたらすごく嬉しい。統合からの1年があっという間に感じられるのも、自分自身がこの統合プロセスをめちゃくちゃ楽しんでいるからではないでしょうか。

「日本ではまだクロスボーダーM&Aが少ない業界こそ、お役に立てると考えています」

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――将来的には、どのセクターをご担当されることになるのでしょうか?

藤野 統合前からの商社と深いつながりがありますので、既に商社セクターを担当しているマネージング・ディレクター(MD)と動く機会が多くなってきました。また、金融セクターには大きな可能性があるという考えから、金融担当MDとも積極的に協業しています。将来的にはその2セクターに関わっていきたいと考えています。

――統合によって得られた価値はどのようなものだと思いますか?

藤野 旧GCAは個人の能力が高いことはもちろんですが、チームを組んだとき、HLと組んだときにその能力が増幅されるように感じています。統合によって得られた価値は、提供できるモノやサービスの幅が広がり、それが国境を超えることでフィールドも広がり、チームの能力が増幅されたこと。そして、それによりクライアントのニーズに応えられる可能性が高まったことだといえます。

また、HLも旧GCAも自分たちのバランスシートから融資や投資をしない独立系のアドバイザリー会社ですから、純粋に独立した立場でアドバイスできる組織として、限界値が取り払われた感覚もあります。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

藤野 世界的な金利上昇局面にある現在は、本業で稼げる金融業界をはじめM&Aに魅力を感じない方も多いのですが、日本国内の金利が安い今だからこそ、日本の事業会社や金融機関はアクションを起こす絶好のチャンスです。今アクションを起こすべきか悩んでいるのなら、迷わず動くべき。利益が出ている海外の事業会社の買収の場合、円安の影響で買収価格が高くても、買収した後の現地通貨ベースでの利益が為替変動に対するヘッジになりますので、ぜひ積極的にご検討いただきたいと思います。

かつてのHL東京オフィスではほぼ私1人で動いていましたが、今は旧GCAバンカーを含むグローバルチームが総力を挙げてお客様の課題解決に対応させていただきます。日本最高のチームが最善の道を一緒に考えますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

――余談ですが。冬なのに日焼けされていますし、オフも充実されている印象があります。

藤野 週7日、運動しています。毎朝10km走るかバイクを30km、だいたい1時間のトレーニングを欠かしません。2年ほど前までは週5回ほどバーベルを上げていたのですが、肩を痛めてしまったため、有酸素運動に転向しました。その後50肩にも悩まされていましたが、それも最近はまっているピラティスでだいぶ改善しました。

毎年、富士登山もしています。急斜面で山小屋もない直登ルートなのでかなりハードですが、毎年同じコースを登ると自分の体力の変化を知ることができます。朝6時ごろ登り初めて14時ごろに登頂、帰りは一般道で富士山の影が雲に移るのを見ながら下山します。時間が違うだけで見える景色が変わる。それもまた富士登山の楽しみですね。今年56歳ですが、テーマは「年齢に抗う」。今年はトライアスロンにも挑戦しようと思っています。

――お仕事が楽しくプライベートも充実。バイタリティの源がわかったような気がします。本日はありがとうございました。

【話し手】
フーリハン・ローキー株式会社 マネージングディレクター 藤野 隆太
大学卒業後、日本生命保険相互会社に入社し国際投資部に所属。1996年9月から同社から国際金融情報センターのワシントンD.C.事務所に出向、帰国後は同社株式部に所属。2001年1月よりPwCアドバイザリー合同会社でコーポレートファイナンス、バリュエーション、財務リストラクションなどの業務を約6年半担当した後、HL東京オフィスの立ち上げと同時に同オフィス代表に就任。HLとGCAの経営統合に至る2022年までマネージング・ディレクターを務める。1990年慶應義塾大学経済学部卒、米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士(MIPP)。