卓越したコンサルティングアプローチによる事業成長支援

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ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC
マネージングディレクター 末包 昌司

ボストンコンサルティンググループにて消費財・通信・自動車・金融等の業界に対してのコンサルティングに従事。2006年ベインキャピタル日本オフィス立ち上げに参画後、ベインキャピタルボストン本社を経て現職。

東京大学工学部学士、ハーバードビジネススクール経営学修士(MBA)

事業成長の結果として投資家のリターンがある

ーー 末包様の自己紹介と、貴社に参画された経緯について教えてください。

末包 以前はボストンコンサルティンググループでコンサルタントをしており、2006年にベインキャピタル日本オフィス設立時に声が掛かり入社しました。参画後は日本オフィスの立ち上げに尽力し、その後にハーバードビジネススクールへ留学、ボストン本社での勤務を経て日本に戻って参りました。帰国後は主に大企業のカーブアウト案件や、産業財、総合電機などのセクターを中心に携わっており、主な担当案件は東芝メモリ(現キオクシア)の買収、三井造船(現三井E&S)からのカーブアウトである昭和飛行機、ニチイ学館のMBO、そして、直近ですと日立金属の買収などです。最近では、トラディショナルなプライベートエクイティ投資からやや外れますが、日本風力開発というインフラ投資にも関わっております。

この業界に入る際、前職との親和性のあるコンサルティングや事業成長に軸足を置いたファンドに心が動きました。日本の経営者は会社の売却先等を検討する際、価格だけではなく事業への理解を非常に重視されます。金融色の強いファンドよりも事業寄りのファンドの方が、より案件発掘の機会が多いのかなと思ったのと、投資後に、会社の成長をしっかり後押ししたいという想いがあり、ベインを選びました。

ーー 御社の活動において、大事にされている理念や価値観をお聞かせください。

末包 金融的リストラクチャリングだけではなくて、須らく事業を成長させるべきということが関係者にとって大切だと思っています。弊社は元々、ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社のシニアメンバーが設立した会社ですので、起業の発想として「事業成長をしっかり実現させ、その結果として、投資家としてのリターンがある」と考えます。これがグローバル全体の共通思想でもありますので、日本でも同様の哲学を内包して取り組んでいます。事業が成長すれば、従業員もハッピーになりますし、私どもに会社を預けていただいた売り手方もしくは経営者もハッピーに、そして我々も結果としてリターンを上げられるということで、皆々の幸せにつながる状況を生むと思っており、それを追求できるようなティールを選んでおります。

徹底的な議論から事業戦略の方向性を見出す「コンサルアプローチ」

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ーー コンサルティングアプローチというのは御社の大きな特徴かと思いますが、組織の上でも投資チームと別に、投資先の事業改善やオペレーションを支援するチームを備えていると伺いました。チーム体制についてお聞かせください。

末包 投資先の支援を専門に担当する「ポートフォリオグループ」というチームを有しております。オフィス全体で45人ほどのプロフェッショナルのうち、10名程度がこの機能に携わっており、彼らは専ら投資先に出向常駐して内側から経営支援をするメンバーです。一方、残り30人強の投資チームに関しても、基本的には自らが関わった投資案件に最後まで責任を持つのが私どもの信条ですので、コンサルティングないしは事業会社の経験を持つメンバーを揃え、必要に応じて投資先との会話に時間を割き、事業成長を強力に支援するという体制を敷いております。

ーー オペレーション支援に特化したメンバー十数名に加え、投資チームも投資先にコミットするという点を伺うに、事業成長支援にここまで厚い陣容を敷いているPEファンドは稀ではと思います。

末包 人数の観点からも、少なくとも外資のファンドの中では最大の陣容だと思いますし、コンサルティング会社や事業出身者が6~7割、金融機関出身者が3~4割という構成は、おそらく他のファンドさんとは異なる比率ではないかなと推測します。本気で企業変革を後押しするためには、取締役会などであるべき論を振りかざすだけでは何のお力になることもできません。やはり現場に入り、課長・部長級の方とスクラムを組み、繰り返しPDCAサイクルを回していくということが、最も重要だと考えております。そういった意味でも、我々の側に層の厚い体制を用意することは必要なことです。

ーー 売却される事業側からすると、投資前の段階でコンサルアプローチによって描かれた成長戦略の腹落ちがあるということと、この人たちだったら任せられると感じられるということですね。

末包 そうですね、経営者ご自身が腹落ちするということも勿論重要ですが、様々なステークホルダーと会話し、売却を説得していくというプロセスも無視できないと思うんですよね。例えば、特に従業員からは「なんでこのPEファンドに会社を売却するんだ」という反応が最初にきます。これに対し、ベインがどういうアイディアを持っていて、どのように事業を成長させてくれる存在なのかということを、経営者自身の口から説明することはとても大事です。また、従業員だけではなく、取引先、時には日本政府なども巻き込んでいかなくてはいけない場合もあります。「それぞれのステークホルダーに最適なパートナーとしてベインキャピタルがいる」ということをしっかり理解いただくために、十分に練り上げた事業戦略を準備し、関係者にベインはこの戦略の実現を支援してくれるパートナーだと認識いただくことが大切です。

ベインの歴史上初めてとなった一国ファンドの創設

ーー 御社はキオクシアや最近公表された日立金属のように、多くの大企業の大型カーブアウト案件実績をお持ちです。2006年の設立以降、大企業のプライベートエクイティに対する見方の変化をどう捉えておられますか。

末包 15年前に比べると、プライベートエクイティに対する企業の受容度は、明らかに高くなってきていると思います。より積極的にプライベートエクイティを活用し、自社グループの成長を追求していこうという前向きな姿勢を感じています。昔はPEファンドに事業を売却することに非常にネガティブな印象を持ち、それは最後の手段だと考える方が多かったのですが、良くも悪くも15年がたち、私どもがお預かりした事業に対して創出した価値をご理解いただけるようになってきたのかなと拝察しています。

ーー 大型案件に強みを持つ一方で、少し前に日本に特化したファンドも立ち上げられていますが、狙いについてお聞かせください。

末包 日本ファンドを立ち上げる以前は、日本で何らかの投資機会があった場合、約5,000億円程度のアジアファンドと、1兆円強のグローバルファンド、この2つを活用して投資してきました。一般論として、ファンドサイズが大きくなると、1件当たりの投資額も、投資効率の観点から同様に上がっていく傾向にあります。そうすると、5,000億円規模のアジアファンドを例にとりますと、100億円以下のエクイティチェックの案件になかなか投資しづらいという状況が起きていました。一方で、これまで15年間にわたる経験上、数十億円のエクイティチェックの案件、企業価値でいうと数百億円の案件でも、我々でも十分お役に立てる機会が数多くあると確信しており、ファンドサイズが大きいがために機会損失が起きていることに忸怩たる思いを抱いておりました。そこで、チャンスを拡げるべく1,100億円程度の日本ファンドを立ち上げたというのが「ジャパンミドルマーケットファンド」誕生の背景です。ちなみに、一つの国に特化したファンドの立ち上げはベインキャピタルの歴史上初めてで、今までの日本チームのトラックレコードがしっかり評価されたことの証左だと思います。

あるべき論を振りかざすだけでは会社は変わらない ~事業改革は現場から~

ーー これまで大きな成果を上げられた案件についてご紹介くださいますか。

末包 まずはキオクシア様(旧東芝メモリ)です。この件は様々な意味でいい方向に向かっていると思っております。まず事業の側面からお話します。東芝グループに在った時は、コングロマリット全体としての資本配分の議論の中で、必要十分な設備投資を享受できないときもあり、構造的な影響を受けていました。私どもと独立してからは、良くも悪くも自己責任となり、自分たちが稼いだキャッシュフローはきちんと投資に回せるし、逆も然りで、皆さん心を一に取り組みました。結果として、年間数十パーセントの規模でメモリの生産キャパシティーは増えています。その後も成長を続け、今でも「サムスンに追いつけ追い越せ!」と頑張っています。

また、M&Aによる成長という側面では、台湾のLITE-ONという会社のSSD事業の買収を実行しました。これは、今まで携帯電話やPC向けエンドアプリケーションとして多かったNAND型フラッシュメモリをデータセンター向けに活用するべく、研究開発のケーパビリティを強化するための買収でした。大型買収の経験者がそう多くない状況でしたが、ベインのディールチームも加わってノウハウを提供し、無事クロージングまで迎えております。案件の発掘から支援し、DD、交渉、かつ一番重要となる統合後のPMIにおけるモニタリングをサポートしました。

一体となって取り組んでいる事業改善の先に、上場を見据えています。社員の皆さんにストックオプションを持っていただき、上場の果実も受け取れるように仕組みを整えました。事業の成長、従業員の方の満足、そうして私どもも確かな収益を上げる、このような良い形を目指して支援を続けています。

ーー 現場で行われる具体的な支援ついて、エピソードなども含めてもう少し詳しくお聞かせください。

末包 冒頭申し上げた通り、取締役会で旗を振るだけでは会社は変わらないと思っていますので、我々は現場組織に入り込んでいきます。キオクシアに投資させていただいた際は、財務、営業、人事、そしてIPOプロジェクトを立ち上げ、それぞれのプロジェクトで洗い出された論点を一つ一つ整理していきました。例えば財務プロジェクトでは、独立した財務管理を独立企業体として実施していなかったため、管理体制に課題がありました。経営におけるKPIの設定やテンプレートの持ち方、キャッシュマネジメントの徹底といった論点が炙り出されました。

他のプロジェクトでも同じように特有の論点があり、各プロジェクトに私どもの社員を1~2名張り付けました。我々が黒子となり、先ほどの財務プロジェクトであれば財務部と戦略部の方と共に毎週ミーティングを実施して、今週の進捗確認と、次週のネクストステップ確認を繰り返し、そのアウトプットを月1回、CEO以下、そしてベインキャピタルのメンバー全員集まって議論する「経営戦略会議」で基本的な方向性を決めています。それを正式に機関決定するのが取締役会という建付けです。取締役会、経営戦略会議で出てきた宿題は各プロジェクトにフィードバックし、検討を深めていきます。このように、投資直後はベインメンバーがしっかり貼りついてサポートしますが、常態化するのは健全でないため、徐々にハンズオフに移行します。M&Aの検討などはアドホックにサポートする等、その時々に応じて柔軟に伴走します。

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信頼の構築に「魔法の杖」はなし

ーー ファンドに入られる際、経営陣や社員の方々は「乗っ取られる」という警戒感を持たれると思うのですが、これはどのように薄まっていくものなのでしょうか。

末包 どのような投資であっても、オーナーが変わることに対し、当然関係者の皆さんは不安な気落ちを持たれると思うのですが、これにはあまり特効薬がなくて、一つ一つ信頼を積み上げて対処していくしかありません。要はこの人たちは意外と役に立つなと思っていただく機会、たとえば電気代の削減といったような小さなことから我々の蓄えたノウハウを注ぎ、問題解決のクイックヒットを重ねていきます。簡単な問題解決を糸口に、より本質的な論点~事業のビジネスモデルどうしていくのか、大型買収ってどう進めるべきか~へ進めていきます。信頼関係の深化によって、より大きな話を、腹を割って話せるようになるということなのかなと考えています。

ーー 今後の注力領域、特に注目されているセクターがあればお教えください。

末包 基本的に、あまり制約は持たずに検討していこうと思っています。得意としてきた分野のトラディショナルなバイアウト、グロース投資的なもの、またクレジット投資に近いようなインフラ投資や不動産周りも含めて取り組んでいこうと思っています。

ーー 外資系には国内系にはない「グローバルのネットワークを生かした技」というものがあると思うのですが、数ある外資系中でも、御社の特徴があればお聞かせください。

末包 グローバルメンバーが共通して「事業成長を後押ししていこう」という哲学を持って投資に臨んでいることが我々の特徴だと思います。投資先に協力するべく、国境を越えてグローバルからサポートを受けられる体制になっていますし、われわれ側のインセンティブにもなっています。日本の中で完全に独立された運営をしているようなグローバルファンドさんもあると聞きますが、ベインは日本の投資案件であっても投資先企業がグローバル展開をする際にグローバルチームから協力が得やすいということが大きな特長です。

皆さまへのメッセージ

ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

末包 15年前に比べると事業会社の方々のプライベート・エクイティ・ファンドに対するアレルギーというのは減ってきたと感じてはいるものの、実際に提案を聞く機会を持ったことがないという方も沢山いらっしゃると思います。具体的なお話でなくとも、こんなことはできるのか、こういう支援はやってくれそうか、ぜひ我々にお話をぶつけていただきたいと思っております。お話しさせて頂くことでお互い何らかのコミットメントが求められるものでもないですし、良いディスカッションができれば、会社のためになるような提案につながる可能性もあるかと思います。そういう機会をいただけるとありがたいと思っております。

以上

ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC
(通称 ベインキャピタル・ジャパン)
http://www.baincapital.co.jp/

記事監修

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