社会と個の幸せを見つめる、産業界のポール・スターを目指して

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ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 代表取締役社長 木村 雄治

東京大学教養学部卒業
米国ペンシルバニア大学ウォートン校 MBA(1991年)

1985年4月日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、国内外取引先向けコーポレートファイナンス及び証券業務を担当。興銀証券(現みずほ証券)設立後、社債・株式引受業務を主導。その後、みずほ証券プライベートエクイティ部長に就任、自己勘定を活用したプライベートエクイティ投資業務を立ち上げる。2004年9月ポラリスを創業し、代表取締役に就任。現在、代表取締役社長として経営全般を統括しつつ、投資委員会委員長として投資・モニタリング・IR業務の前線に立つ。2019年9月一般社団法人日本プライベートエクイティ協会会長就任。2020年4月京都大学大学院客員教授就任(現任)。

『ハゲタカ』の時代、興銀DNAを宿しての船出

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ーー 自己紹介ならびに貴社設立の経緯や背景をお聞かせください。

木村 1961年、大阪生まれです。大阪教育大学附属天王寺の中学高校を出て、東京大学に入りました。1985年に日本興業銀行に就職し国際営業からスタートした後、1989年から1991年まで2年間、公費でアメリカのペンシルバニア大学ウォートン・スクールというMBAコースに留学しました。帰国後は証券部、日本郵船等の海運融資を担当する国内営業部7部を経て、興銀証券で株の引き受けも経験しました。その過程で銀行が合併することとなり、自分が目指してきたことと違う商業銀行になっていくのだろうなと思ったのと、興銀が持っている産業金融機能のような中長期的に融資先や投資先をサポートしていくというような仕事にもう一度チャレンジしたいなと思い、自ら新しい器、仕組みを作ろうとポラリス・キャピタル・グループを2004年に設立しました。

当時1990年ぐらいにはユニゾン様やアドバンテッジパートナーズ様、MKS様と後に御三家といわれるPEファンドがスタートしていたのですが、まだプライベートエクイティというものは日の目を見ていませんでした。どちらかというと買収屋というか、ノックアウト企業を買収するというところがハゲタカのようだと言われました。折しもNHKで『ハゲタカ』というドラマが始まり、それと合わせてこの業界は悪の権化みたいに見られていました。

私がアメリカに留学していたときは、プライベートエクイティというものが新しいビジネスとして立ち上がっていた頃でした。ケーススタディを見るなかで、このビジネスモデルは面白い、必ず日本にも上陸し、主たるビジネスになるのではないかと感じ、2004年に会社からチャンスをもらってポラリスをスタートさせました。ただ、実際ビジネスをスタートしたときは、世間でのバイアウトの知名度も、それに対する理解も低く、新しいビジネスとして本当に日本に根付いていくのか微妙な頃だったのではないかと思います。外資系も入ってきて競争が激しくなりつつあり、それなりのビジネスオポチュニティはあったとは思うのですが、如何せん知名度は低く、オーナーには「なぜそんな買収屋に株を奪われないといけないのだ」と受け止められたり、大企業の経営者からはファンドに売り渡すということに抵抗感を持たれたりする時期でした。そんな中で案件を仕立てていくのは相当苦労しましたが、みずほ発というバックボーンをうまく利用しながら信用を勝ち取りビジネスを軌道に乗せ、その後MBOによりみずほを離れ、完全独立系に移行しました。独立の立場になったことが功を奏し、海外の投資家のウェイトが高まり、ファンドサイズを上げていくことができました。また、個人としてはこの2年間日本プライベートエクイティ協会の会長を務めました。コロナ禍でも業界の知名度・存在感アップに貢献できたのではと思っています。

輝星「ポラリス」、その名を冠した想い

ーー ポラリス・キャピタルという社名の由来をお教えください。

木村 

銀行が合併するという混乱の中で、自分の目指すべき方針を社名で示したいなと思いました。ポラリスというのはポール・スター(北極星)なんです。とにかく軸が動かないというポール・スターの在り方がとても好きで、またそれを目指していこうという目印になるところも、日本産業界の中心となって企業を導いていくイメージに近いのかなと思い、ポラリスという名前にしました。

ーー 貴社が掲げている理念や価値観についてお教えください。

木村 この仕事をやるのであれば、業界のリーダーになりたいという強い想いがあります。われわれのビジネスというのは投資家の貴重なお金を預かり、一定の期間の中で企業に投資をし、付加価値を上げ、それで上げたリターンを投資家に還元していくというフローをつくる役割です。あくまでも中間に位置する導管であるという意識を持つことが必要です。我々の活動は投資家のお金ありきだということと、投資先の付加価値を上げるサービスを提供していくこと、この2つは特に重要です。我々の提供する付加価値により投資先が成長し、結果としてリターンを投資家に還元することができれば、投資家もハッピーになる、投資先もハッピーになるというWin-Winの関係ができるわけです。

また、雇用創出であるとかノックアウト企業を救い出すなど、我々の投資が結果として日本経済や社会のためになっていくことも、我々の理念として大事な所だと思っています。

そして付加的にですが、ポラリスで働いているメンバーが幸せになり、働きがいや生きがいを見出ださないといけない。このビジネスは結構難しくチャレンジングで、強い責任感が求められるビジネスモデルです。5年から10年と中長期的に仕上げていかなければならず、そういったプレッシャーの中でも楽しい、やりがいがあると社員の皆に思ってもらわないといけないと思っています。このような想いを盛り込んだ経営理念を打ち立てて、これまで17年間やってきています。

企業価値向上にコミットするバリューアップグループ

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ーー 貴社の体制についてお教えください。

木村 現在従業員は合計で50名程度です。創業メンバーをコアにそれなりの組織サイズになっていますが、次世代につなげていくために、やはり組織をピラミッド構造にすべきだと考えています。私も含めてトップの層は50~60歳ですが、底辺の部分を立ち上げて、VPやアソシエイトを大量採用していく必要があるのではないかと思います。最古参のメンバーはそれなりに実績やノウハウもついてきているので、その中間から下のところを再構築し強化していくというのが今、組織の課題ですし、これから取り組んでいきたいことです。

さらに大きいファンドを運営すべく、それに向け陣容は相応に強化する必要があるなと思っています。具体的には、投資グループを中心に陣容拡大を考えています。一方、3年程前に「バリューアップグループ」というものを作ったのですが、これは投資先の企業価値を上げることに専念するチームです。投資グループとバリューアップグループがタイアップして投資先を見ていく体制です。投資グループは投資実行から投資後モニタリング、バリューアップ、エグジットまで一気通貫で行うのですが、バリューアップグループはその投資先に集中することで、投資グループのモニタリング力にアドオンするような機能を搭載しようと立ち上げました。特にマッキンゼーやボストンコンサルティンググループ(BCG)など、経営コンサルティング経験を持ち、かつ事業会社での経営経験がある者を採用し、現在は5名体制の組織となっています。

トップはBCG出身で、彼は投資グループにも在籍していたことがあるため、投資経験もあります。彼を核として、マッキンゼー出身の製造業等に詳しい者、それからBCG出身でヘルスケアに強い者、最近はマッキンゼー出身でDXやAIに強い者を採用し、陣容を強化しているところです。

なぜバリューアップグループを作ったかというと、これからはバリューアップ競争というものが業界の軸になるであろうということと、企業価値を上げるバリューアップグループという先端チームがしっかりそこに目配りすることが、ポラリスの競争力を高め、恐らく差別化要素になると思ったからです。私としては、これからはバリューアップ手法としてDXや業種に特化したノウハウは必須と考えており、また製造業、ヘルスケア、DXはこれから投資も集中していかなければいけないセクターのため、その辺の専門家を採用し、バリューアップに専念してもらうことも考えています。 投資グループのモニタリングは他の投資と並行して全てを見ていくため、時間の使い方として薄くなる面があります。そこで厚みを出すためにバリューアップグループがついているわけです。また、一つのレポーティングだけでは不確実な面があります。例えば、投資先に入れ込むと何も見えなくなって守ろうとしたりする体質が出てくるのです。一方、バリューアップグループはニュートラルに見て報告してくれる。投資グループとバリューアップグループの両輪体制を取ることで、私としては正確なジャッジメントを下しやすくなります。事実として、バリューアップグループが関わるようになってから投資先のモニタリング力は格段に上がっています。

経営者のプレッシャーに応える確かな提案力とエグゼキューション力

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ーー 近年大企業のカーブアウトの案件を多く手掛けられていますが、昨今の大企業のカーブアウトの動きをどのように見ていますか?また、御社がカーブアウト案件で実績を上げている強みについても教えてください。

木村 大企業のカーブアウトで言うと、富士通の携帯事業のカーブアウトや、パナソニックの監視用カメラi-PROの切り出しもかなり大型でした。直近ではパイオニアからのインクリメント・ピーという地図情報の会社の切り出し、昭和電工マテリアルズのプリント基板事業の切り出し等があります。AIメカテックというフラットパネルディスプレイや半導体パッケージ製造装置の開発・製造・販売などを行う会社は、元は日立製作所の液晶・フラットパネルディスプレイの製造販売事業でしたが、5年かけてこの7月に上場に導きました。このように大企業のカーブアウトについては幅広く堅実に積み上げることができていると思っています。

やはり大企業の経営者の皆さんにお会いすると、選択と集中を早期に計らなければならないと悩まれています。次世代に向けた投資をするためには、やはり非コアというのを選定して売却し、その原資でコアに集中・特化していく必要があります。「非コアの早期売却」というのは経営者皆さんの頭にあるということと、上場されているので株主への意識、特にアクティビストが入っている場合それを意識せざるを得ないということです。どうして収益率が低いのか、アセット効率が悪いのではないか、不良資産があるのではないか、もっと集中と選択を早期化せよなど、経営者はそういうプレッシャーにとても敏感になっていると感じています。また、ガバナンスの面でも、社外取締役が2名入ることがそれなりに機能しているのではないかと思います。客観的な指摘に耳を傾けないといけないという姿勢も出てきており、こういった事業環境面の変革もカーブアウトへのプレッシャーに繋がっているのではないかなと思います。

それから、やはり足元のコロナです。ウィズコロナでどうビジネスモデルを変えていくかというプレッシャーがあるなかで、有能な経営者はこれを転換期として、ファンドなど外部資本をうまく活用して業態やビジネスモデルの転換、イノベーションができないかということを考えておられます。従って、提案は積極的に受けたいし、タイミングと価格が合えば売却を進めたいという経営者の方が増えてきています。

ポラリスがカーブアウトの実績を上げているとの点ですが、やはり私が日本興業銀行出身だということが生きていると思います。いまだに興銀というものは結構評判が良く、「興銀さん出身だったんですね」と言われたり、「興銀のDNAをポラリスが引き継いでおり、産業金融に対する思いもあります」と申し上げれば耳を傾けてくれる企業が必ずいらっしゃいます。そういったものをベースに信頼関係を構築してきました。あとは、提案力とエグゼキューションの力です。弊社はデリバリー能力が高いと評価されています。またプライスに対するコミットがある点も評価いただいているのですが、これは売り手として非常に大事じゃないですか。そういったコミット力を評価いただき、カーブアウト案件を考えるときには必ず弊社を呼んでくださる企業もいます。 あとはファンドサイズです。日系の先駆者がトライしてきた1,500億円というファンドサイズをブレイクし更に上がろうとしている所ですが、この規模感だからこそお声がかかってくる面もあると思います。後は日立さんのカーブアウト案件で、リターンもさることながら上場を達成できたことは、カーブアウトを検討されている大企業の皆さんから「よく仕上げましたね」と評価いただいています。

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ーー 今後さらに注力していかれたいセクター、あるいは案件のタイプはございますでしょうか?

木村 ヘルスケア分野ですね。以前、総合メディカルホールディングスという調剤薬局の非公開化案件をお手伝いしました。この会社の創業者の精神は、医療支援というお医者さんをサポートし、日本の医療問題を正そうというものでした。どうやって医療を支えていくか、患者さんをどうやって助けていくかという患者本位な考え方、どうやって皆さんにヘルスケアを味わってもらうかというところにフォーカスしたビジネスモデルに共鳴してバイアウトしたいと思ったのです。ヘルスケアはやり方によってはまだまだ伸び代がある事業だと考えており、医療関連のビジネスを含めて、投資を進めていきたいなと思っています。

2つ目は情報産業分野です。インクリメント・ピーというパイオニアのカーブアウト、これは私が「駅探」をやっていた頃からずっと付き合いがあり狙いを定めていた案件なんですが、この度ベアリング、パイオニアという関係の中で売り出してくれました。なぜ元々狙っていたかというと、地図情報だけではなく位置情報を含めた地図ソリューションがソフトのビジネスになるなと考え、更にこれがビッグデータとうまく繋がるとさらに発展する、プラットフォームになるなと思っていたからです。今後も情報産業にITを絡めたものを狙っていきたいなと思っております。

それから私どもの案件実績として多い技術・製造分野です。先ほど申したカーブアウト案件はほとんどこの分野にあたるのですが、豊富なトラックレコードもあって製造業に対しては土地勘がものすごくできていて、どこにバリューアップポイントがあるか、どうやったら経営改善するかというような技というのはそれなりに磨き尽くしてきたところがあります。そういったアセットを活かすべく、技術・製造カーブアウト案件というところについては狙いを定めていきたいなと思っています。 最後に、非公開化案件です。今ご相談をいくつも受けていますが、最近ではアクティビストが活躍しているということもあり、いい意味で対象会社さんにプレッシャーをかけてくれています。元より潜在力があるにもかかわらずそれを顕在化できていないことがアクティビストに狙い撃ちされている背景ですが、顕在化させるポテンシャルを持つ会社は必ずあるんですね。ですから、業種を問わず非公開化というテーマはものすごく魅力があって、磨けばダイヤモンドになるものを発見できるのであれば、手をつけていきたいなと思っております。弊社が携わった非公開化案件は数多く、ワークスアプリケーションズはじめノバレーゼや、キューサイ、それから総合メディカルとかオークネット等ありました。しかも短期間で仕上げるというノウハウも持っていて、それなりに技を磨いてきた面もあります。積み上げた実績はそれらが評価された結果かなと。エグゼキューション力ですね。

皆さまへのメッセージ
~しがらみを共に解決し、夢を実現させましょう

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ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

木村 いま働いている環境や経営の実情が「これで良い」ということは恐らくないと思うんです。さらに進化するというマインドを皆さんお持ちになっていると思うんです。しかし、転換には「しがらみ」が障害となります。何らかのしがらみに束縛されて手が打てない、新しい発想に転換できない、アイディアはあるのだけれども実現できない、誰かに止められているなどは絶対に生じます。こういった束縛をどうやって解き放っていくかについて、恐らく経営者の皆さん、従業員の皆さんは頭の中で考えておられるかと思います。また、上場会社特有のしがらみもあるんですよね。アクティビストにやられるとか、株価対策しなければいけない、どうやったら利益を上げられるか、短期的にやらなければならず中長期的には考えられないなど、これはすべて「しがらみ」だと思っています。しがらみをどう解決していくかというソリューションは自前ではなかなか出てこないものです。しかし、お金を提供しながら一緒に考えることができるコンサルティング能力のあるファンドマネージャーがいると、一緒に解決策を見出すことができます。

中長期的にビジネスモデルを磨き直して、皆さんに第二創業というかたちでベンチャースピリットを持ちながら新しいビジネスモデルに向けて走り出してもらいたいと思っています。私は「しがらみ学」と呼んでいますが、「しがらみ」の解決という点からアプローチさせていただいていています。「しがらみ」の解決のためにわれわれを利用して活用してください。必ずソリューションを提供します。そして夢を実現させましょう。

以上

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社
https://www.polaris-cg.com/

記事監修

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