ESGはポストコロナのメインテーマとなるか|欧州M&Aブログ(第31回)

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中期計画発表時にSDGsやESGという言葉を見ないことのほうが少ないくらい、環境問題を中心にサステイナビリティは企業の一大テーマとなりました。

欧州は環境や人権関連で世界をリードしています。スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが注目を集めたのも記憶に新しいところです。でも、なぜ欧州が環境や人権関連で世界をリードするに至ったのでしょうか?また、ESGというテーマはM&Aの世界にも影響を及ぼすのでしょうか?コロナ特集も疲れてきたので、今回の欧州ブログでは大きな投資テーマであるESGについて考えてみたいと思います。

1. なぜESGが大きなテーマとなっているのか?

ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉です。なかでも気候変動に代表される環境(E)が特に重要な論点として語られることが多いようです。 なぜ環境が大きなテーマとなっているのでしょうか?「温暖化につながる環境破壊は懸念すべき問題だから。つまらない質問をするな」と言われてしまいそうです。でも、環境が“大きな”テーマとなっている背景には、各国政党のポジション争いや地政学上のポジション取りにおいて環境は取り上げやすいテーマという側面もあるように思います。

例えば、米国の大統領選挙において、環境問題は大きな吸引力として機能しました。バイデン大統領は中国を名指ししたうえで温暖化が不十分な国からの輸入に対しては課徴金や輸出制限を課すようにと提案し、その環境問題へのコミットメントが若者の大きな支持につながりました。
ポスト・メルケルを占うドイツ連邦議会選挙においても、今年の4月には環境問題にフォーカスするアンナレーア・ボアボック党首が率いる緑の党が、与党のCDUを押さえて支持率トップになりました(一連のスキャンダルで最近は支持率が急落しましたが)。つまり、環境問題への取り組みは支持率獲得のための重要なファクターとなっています。

国レベルではなく、もう少し大きな地政学的なバランスで考えても、ESGはポジション取りにおいて重要になっています。特に欧州は、環境問題や人権問題を抱えるエリアへの投資を控える、制裁を科すなど、「最もESGを強く意識しているエリア」として世界で確固たるポジションを作っています。
欧州M&Aブログですからもう少し欧州の例を挙げると、2019年12月には欧州委員会のフォンデアライデン委員長が2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする「欧州グリーンディール」という野心的なプランを発表したり、コロナからの景気回復のため2021年~2027年を対象とする€7,500m(約100兆円)規模の復興基金を立ち上げた際、その一部は環境対策強化に使うことを宣言したりしています。国のみならずEUのような大きなエリアをまとめるうえでも、ESGはとても便利なテーマということかと思います。

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出典:https://www.japantimes.co.jp/

個人的には、支持率UPといった下心があろうがなかろうが、環境問題が政治の大きな論点になることはとても良いことだと思います。なぜならば、環境問題解決のためには莫大な資金が必要になるところ、国ないし地域レベルでの大きな動きなくしては、つまり政治の力なくしては前に進めないからです。

2. ESGは企業にとってどのくらい重要か?

ESGが資金調達や株価に影響を与える?そんなことないでしょうと思われるかもしれません。現実はというと、実は既にESGへの意識の低い企業にはお金が集まりにくくなっています。例えば118兆円の運用資産を誇るノルウェー政府年金基金は、環境やガバナンスを理由に既に200社以上から投資引き上げをしました。具体的にはパーム油関連株式をすべて売却したり、石炭関連の売却を進めたりしています。

こういった機関投資家の動きの背景には、制度面からプレッシャーもあります。例えば日本では2020年のスチュワードシップコード改訂の際、スチュワードシップ責任の内容として機関投資家がサステイナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮を行うことが明記されました。これの意味するところは、サステイナビリティへの配慮を欠いた経営を行っている企業については投資対象からの除外や投資引き上げの可能性があるということです。

企業間取引においても、自動車セクターを皮切りにESG対応が遅れている企業はビジネスチャンスを失いつつあります。先日ドイツのボッシュは2022年からCO2削減など環境への負荷軽減を新規調達先選定の基準の一つにすることを明らかにしました。ポルシェも再生可能エネルギー100%での生産を部品供給メーカーに義務化することを発表しています。ダイムラーやBMWも同様の動きです。ESG能力を引き上げることは、もはやプラスアルファを作ることではなく、生き残りのために必要不可欠なことになりつつあります。

3. ESGはポストコロナのM&Aのメインテーマとなるか

ESGは地域にとっても、国にとっても、そして企業にとっても既に重要なテーマであり、ポストコロナの世界でその重要さが増すのは間違いないでしょう。それではM&Aの世界において、ESGはどのように扱われていくでしょうか?
先行しているのはPEファンド業界です。大手グローバルファンドはESG関連企業の買収に特化したファンドを立ち上げています。理由は明確で、ファンドに資金提供する投資家はESGに対する関心が高く、またESG関連企業はファンドがExitする際に高いValuationが期待されるからです。

事業会社においてもESGアングルの案件が見られるようになってきています。例えば、英BPは2020年12月にカーボンオフセット開発の米ファイナイト・カーボンの過半数を取得しました。このようなESGノウハウを獲得するためのM&Aは今後一層盛んになっていくと思われます

それでは、ESGアングルのM&Aをリードするのはどの地域でしょうか?あるアンケート結果によれば、実に98%の人がESG関連M&Aの中心は西欧になると回答しています(複数回答で次点は北米で83%、そして日本の80%と続きます)。やはりESG、特に環境関連では欧州は外せないというのが世界のコンセンサスのようです。

ただ、多くの人が着目するESG関連M&Aでは相応の対価を覚悟する必要がありそうです。コロナによりデジタル関連企業のValuationは大きく上昇しましたが、同様にESG関連企業のValuationも大きく上昇しています。ESG関連だから〇〇パーセント上乗せしなければならないという話ではないですが、多くの人が買収したいということは相対的に価格が上がるということになります。データのとり方次第ではありますが、ESG関連案件のValuationは欧州では15%程度、米国では9%程度割高になっているというスタディ結果も出ています。

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良いものは高いというのはある意味仕方のないことではありますが、ESG関連市場はまさに広がりつつある段階ですので、ターゲット企業の取り扱う商品や事業が今後デファクトスタンダードになっていくか分からないという目利きの難しさがあります。GCAではESG関連M&Aにフォーカスするチームを持っています。ESG関連案件の検討の際には、是非ご相談を頂ければと思います!

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