もういくつ寝るとコロナ明け|欧州M&Aブログ(第27回)

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早いもので、2020年も残すところわずかとなりました。「夏には落ち着くといいね」といっていたコロナはその勢いを強め、欧州は年越しカウントダウンならぬ年越しロックダウンが確実な情勢となりました。コロナの話はうんざりな今日この頃ですが、今年最後のブログはコロナに支配された2020年を総括するとともに、2021年の(お願いに近い)展望、そして日本企業が第一四半期に取るべきアクションプランについて考えてみたいと思います。

1. 英国におけるコロナ最新状況

このブログを書いている今、英国は変異種コロナの急拡大というニュースばかりです。世界各国が英国との往来を禁止し、国全体が世界から隔離されている状態となっています。これまではロックダウン下であってもそれなりに多くの人が外に出ていましたが(だから広がっているという話でもありますが)、このニュースが出て以降、街はひっそりし、多くの人が強い不安を感じて過ごしています。英国は大陸欧州各国から毎日ドーバー海峡経由で多くのものを陸上輸入していますが、今ではそれもストップされています。スーパーマーケットでは品切れを恐れた買い占めも始まっているようです。この物流面の麻痺を見るに、万が一ハードブレグジットとなって関税手続きで膨大な時間を要するようになれば、このような混乱は日常茶飯事になるんだろうなと“ハードブレグジット疑似体験”をしている感じがします。一日も早く平穏な、普通の日々が戻ればと祈るばかりです。

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2. 2020年総括

さてブログの本題に入ります。今年も様々な出来事がありましたが、欧州に大きな影響を及ぼした重大イベントを3つ挙げるとすれば、以下の3つになることは間違いないかと思います。
 1.Brexit - 2020年1月31日
 2.新型コロナのパンデミック宣言 - 2020年3月
 3.米国大統領選挙 - 2020年11月
それぞれのイベントについては、特に詳細な説明は不要かと思います。コロナによるダメージがあまりに大きいためすべてがネガティブに見えてしまいますが、星取表をつけるのであれば、1勝1敗1分けという感じでしょうか。
 1.Brexit : 基本ポジティブだが今後の展開ではネガティブ(引き分け)
 2.コロナ : ものすごくネガティブ(負け)
 3.バイデン大統領 : ポジティブ(勝ち)

3. 不確実性を特に嫌う日本人

前回のブログではテクノロジー関連投資はコロナ禍においても盛況ということを取り上げました。欧米各国が投資スピードを上げている一方、日本企業は未だかなり慎重になっている感じがします。なぜ日本企業が慎重なのかについて、それが国民性によるものかどうかはわかりません。ただ、世界でも突き抜けて高い現金留保額に鑑みるに、日本企業はとにかく慎重に厚く備えるといった傾向があるように思います。とはいうものの、中国、東南アジアやインドなどそれなりに投資リスクが高い地域であっても、あまり躊躇することなく積極的に投資をしています。うーん、こう書くと日本企業は何に対して慎重なんだろうと混乱してきます。

答えを探るべく、先ほどの2020年の重大イベント3つの共通点について考えてみましょう。文字数節約の観点から結論から入ってしまいますが、1.Brexit、2.コロナ、そして3.米国大統領選挙、これらはすべて欧州経済の予見可能性に深く関わっていないでしょうか?Brexitとコロナが将来の予測を難しくした点については言うまでもなく、米国大統領選挙についても、トランプが仕掛けた貿易戦争が欧州を牽引するドイツの経済を著しく不安定なものにしたのは周知のとおりです。

これらの3つが欧州経済に与えている負の影響に疑いの余地はありませんが、日本企業が気にしているのは、「欧州の景気が悪い」という点よりは、「この負のスパイラルがいつまで続くんだろう」という予見可能性のほうだと強く感じます。例えばですが、マイナス成長があと1年継続するとしても、もしそれが1年で決着がつくものという予見可能性があるのであれば、きっと日本企業は積極投資に転じると思います。アジアで積極投資できる理由は、アジアのリスクは対処可能な、不確実性ではない見えているリスクからだからではないでしょうか?

4. 欧州経済の不確実性が消えるのはいつか?

また3つの重大イベントの話に戻ります。不確実性が薄まれば欧州景気は回復するという仮定に立つのであれば、「ではいつ不確実性が消えるのか?」は2021年を占う上で重要な質問となります。

Brexitについては、ハードブレグジットになる可能性はそれなりにあるものの、近く決着がつきます。つまり、Brexitにまつわるリスクは、インパクトの大小はさておき近く予見可能なものとなります。貿易戦争については、新EU派のバイデンが米国大統領になったことにより、米国との間での予見不能な貿易戦争のリスクは大きく減少することでしょう。もっとも、バイデンは欧州と共に中国への圧力を継続するとも言われていますので、中国の成長がさらに鈍化するようなことがあれば、中国で多くの車を販売するドイツにとっては不安要素になるかもしれません。

ただ、ドイツ自動車メーカーはコロナ禍にあっても中国売上を伸ばしており、予見不能なリスクではないと思われます。さて不確実性を高めていた3つのイベントのうち、2つは2021年には無くなりそうです。残ったのは・・・そうです、世界が待ちわびるコロナの収束です。コロナの破壊力はあまりに大きく、これが片付かないことには何事にも慎重にならざるを得ません。もしワクチンが大きな効果を示してコロナがコントロール可能となれば(そのようになればいいなと祈るばかりです)、コロナによる不確実性は大きく後退し、欧州域内の投資は急速に回復すると思われます。

いやいや、不確実性が薄れたところで欧州への投資が回復するというのは楽観的過ぎるでしょう、“予見可能な“欧州の不景気はもっと続くでしょうと思われる方もいらっしゃると思います。未来のことは誰にもわかりませんが、歴史に学ぶべく、過去10年ほどの歴史を振り返ってみましょう(下図)。

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2010年以降、欧州は欧州ソブリン危機や難民危機、Brexit等大きなイベントが数多くありましたが、GDPの落ち込みが続いた期間は2~3年で、大きな危機であっても比較的短期でしっかりと戻しています。失われた10年という状況にはなっていません。歴史が正しいのであれば、コロナが落ち着けば、欧州は急速に成長に転じるはずです。

急速に回復したあと1年も経てば、良いアセットは既に買収されてしまっている、ないし買収競争が激化してしまっている状況でしょう。「そろそろ回復するな」という回復基調に乗る少し前のタイミングを見逃すことなく、迅速に対応できるよう、2021年の第一四半期は攻めの準備をしっかり実施頂ければと思います。

記憶に残る年となった2020年も残すところあとわずかとなりました。本年度も数多くの買収・売却提案の機会を頂戴しましてありがとうございました。来年も多くのディスカッション機会を頂戴できれば幸甚に存じます。

記事監修

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