島国 vs 陸続き|欧州M&Aブログ(第18回)

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このブログを書いている今週、UKの国会はBrexit関連でお祭り騒ぎです。メイ首相が必死にまとめたBrexit Dealは国会で否決され、No-dealでEU離脱することも否決されました。メイ首相の案は嫌、何も合意せずに離脱するのも嫌。離脱期限はきっと延長されますが、延長したところで大多数が賛成するBrexit Dealは見つからなさそうです。さて、イギリスはどこに向かうのでしょうか?

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Financial Timesの読者書き込み欄を見ると、BrexitをBrexshitと呼び、残留を賭けての2度目の国民投票を推す声が多数見られます。とはいうものの、国民を代表する国会議員は驚くほど国民投票に否定的です。経済的ダメージを受ける国民は、国益を無視して自分の政治理想を追い求める政治家に苛立ちを露にしています。イギリスのような大国ですら、政治リスクをコントロールできず、企業のビジネス活動に大きな影響を及ぼす状況に陥ります。地政学的リスクに敏感になることは、グローバルでビジネスをするうえで必須といえるかもしれません。

Brexit狂想曲が終わりを告げるのはまだ先になりそうですので、今回のブログは古くて新しい欧州の危うさ、そしてその魅力について、地政学的な視点で考えてみたいと思います。

ところで、あと数ヶ月で平成が終わりを告げます。平成(31年)は昭和(64年)に比べ半分以下の長さです。31年と聞くと平成元年はそんな昔のことではないような気がしますが、平成元年時点で欧州はどんな形をしていたのか見てみると、驚くべきことに
・ ベルリンの壁はまだ存在し(ドイツは東と西に分かれおり)、
・ ソ連が存在、冷戦は続いており、
・ チェコとスロバキアは同じ国で、
・ EU自体が産まれていない
という状況でした。こうやって振り返ると、欧州がこの30年でいかに進化・深化してきたかに驚かされます。

日本のような島国にいると、国境争いなんて歴史の教科書の話と感じますが、陸続きの国々にしてみれば国境線が固まったのはつい最近の話であり、ロシアのクリミア併合のように、今もなお国境線は動きつつあります。

島国であろうと陸続きであろうと、隣国とは経済的に密接に結びつきつつも争いが絶えないのは世界中どこも一緒ですが、とはいうものの、陸続きの場合には、その地政学的リスクは島国に比して大きいように思います。その意味では地政学的リスクを抑えるEUという仕組みは壮大な平和プロジェクトであり、島国のUKはその想いが大陸欧州と少々異なって当然かもしれません(=同床異夢の顛末がBrexitというべきでしょうか)。

M&Aブログですので、ここでM&Aの話を平成に絡めて無理やり差し込ませてください。

平成元年時点、M&Aは今ほどメジャーな言葉ではありませんでした。日経新聞に出たことがあったかどうかも疑わしいくらいです。日本のM&A件数を調べてみるに、平成元年(1989年)は645件、2018年は3,851件。平成元年は2018年の僅か1/6程度でした。

M&Aはこの30年でとても身近なものになりましたが、クロスボーダーM&Aが活発になったのはこの15年くらいのように思います。欧州においては、日本よりずっと早くM&Aが盛んになりましたが、着目すべきは、欧州の統合深化にシンクロする形で、域内のクロスボーダーM&Aが“クロスボーダー”といえないくらい、日々自然に起きるようになったという点です。逆の見方をすれば、域内クロスボーダーM&Aが欧州統合を深化させているともいえるかもしれません。

では、遠く離れた日本と欧州のクロスボーダーM&Aは増えていくのでしょうか?答えは明確で「Yes」です。その大きなきっかけになり得るのは、誕生して30年も満たないEUという一大経済圏と日本との間で今年2月に発効した経済連携協定(EPA)です。欧州域内では、経済的な結びつきが深まれば深まるほど、その経済圏内でのM&Aは活発になりました。EPAによって日EU間の経済的な結びつきが強固になることは疑いの余地がなく、欧州域内のクロスボーダーがクロスボーダーといえないくらい自然なものになったように、日EU間のクロスボーダーがとても身近なものになる可能性は、十分にあると思います。

欧州各国は長い歴史を持つ一方で、今の国境線の欧州は比較的新しい存在です。数多くの小国が国境を接しており、その地政学的なリスクは決して小さくないですが、EUという仕組みを軸に、うまく地政学的リスクをコントロールできています。具体的な数字で見れば、今年世界経済は失速が見込まれ、欧州においても予想GDP成長率は1.9%から1.3%に引き下げられましたが、Brexitやドイツ経済を牽引する自動車セクターの不調にも拘らず、引き下げられたEU成長率が、島国日本の今年の成長率と同じ水準というところに、地政学的リスクを飲み込みつつ成長する欧州の足腰の強さを感じます。

ある意味「安定」した欧州と、EPAを通じて一層強固に結びつき、クロスボーダーM&Aでさらに強固に結びついていくことができればよいなと日々思います。2019年は様子見の年と言われますが、EPA発効直後の今年は面白い年です。是非積極的に仕掛けていきましょう!

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