デジタルでは見えないもの|欧州M&Aブログ(第17回)

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いよいよ2019年がスタートしました。年末年始は昨年の総括や今年の展望に関する記事が数多く出回りますが、今年の展望については2018年より減速するというトーンのものが多いように感じます。それを受け、各社の投資スタンスも「どんどん攻める」というよりは、「状況を見極め、慎重に」といったトーンが大勢を占めているように思います。Brexitを控える欧州への投資については尚更です。

ところで、各社の投資スタンスはどのような情報をベースに決定されているのでしょうか?新聞やインターネット情報から受ける“印象”は、全てではないにせよ投資意思決定に大きなインパクトを与えているように思います。

我々が世界を把握するうえで、新聞やインターネットの情報は欠かせません。一方で、目にする情報は、トピックの選定や伝えるトーンにおいてバイアスがかかっています。「ギリシャ経済が順調に回復」よりは、「メルケル党首続投断念」というニュースのほうがビジネスに対するインパクトが大きい(と思われる)ことを考えれば、一定のバイアスは当然です。言い換えれば、ある程度バイアスをかけて絞り込んでもらわないと、デジタル社会では情報の波に溺れてしまいます。

とはいうものの、偏見かもしれませんが、日本で見られる欧州関連ニュースはドイツ、イギリス、フランス等の大国に関するもの、ないし国問わずネガティブなものが中心です。その結果として、概して小規模国のポジティブなニュースは目にするチャンスは少なく、一方でネガティブなニュースは目にします。そして、そこから得られる印象そして判断は「ギリシャは問題ばかりだ、M&Aなんてあり得ない」となります。

ニュースから得られる印象、そしてそれをベースとした判断は感覚的に正しいと思う一方、年末休みにふと、「ドイツの業界20位の会社を買収するのと、ギリシャの業界3位を買収するのはどちらがいいのだろう?」という疑問が湧きました。もちろん明確な答えはなく、答えはケースバイケースですが、ここでのポイントは、ギリシャの業界3位のほうが良いケースもきっとあり得るという点です。

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百聞は一見にしかず

最近はじめてロシアに行く機会がありました。特に政治絡みで数多くのロシアに関するネガティブなニュースを見ていることもあり、正直同国に対して良いイメージは持っていませんでした。しかし、実際にロシア人バンカーや弁護士、そして現地日本企業の方々と意見交換するなかで、ロシア人の腰の低さ、ジブリ映画好きにはじまる日本製品信仰、モスクワという1200万人都市が持つポテンシャル、経済制裁をきっかけに逞しく立ち上がる数々の新ビジネスを目の当たりにするに、柔道服を着たプーチン大統領や西側諸国から見たクリミア併合のニュースをベースにしたロシアのネガティブな印象は大きく変わりました。ロシアは攻略すべき国なのです。

ギリシャ人バンカーや弁護士と意見交換をしていたときにも、同様のことを感じました。日EU経済連携協定(EPA)がスタートするなか、とある投資銀行からギリシャヨーグルトメーカーにアプローチしている日本企業がいるという話を聞き、やはり自らの審美眼でギリシャのポテンシャルを見極めている人は少なからずいると感心しました。

それぞれの国がそれぞれの魅力、そして問題を抱えています。問題はニュースでよく目にする一方、魅力はニュースにならないため、実際に見聞を広めるといったアナログ的アプローチで情報収集する必要があります。もちろん、全部見て回ることは現実的ではありません。ただ、現地駐在員を活用して生きた情報を吸い上げる、また具体的な案件がある場合にはフットワーク軽くターゲット企業のマネジメントと面談するだけでも随分違うと思います。巷に溢れる情報のみをベースにロシアやギリシャ、トルコなどをNGとしてしまうのは、場合によっては大きな機会損失となることを肝に銘じる必要があります。

面で押さえるか、点で押さえるか

既に欧州各国に拠点を持つ企業であれば、ドイツなどの主要国以外でのM&Aもアドオンとして検討しやすいかもしれません。しかし、そうではないケースにおいては、「なぜ最初にギリシャ?」という話になります。

欧州を面で押さえている企業を買収できることは理想的です。ただ、往々にしてそのような会社は規模も大きく、理想的なターゲットとはいえ買収を決断できるかというと、そこまでのリスクを取れない場合もあります。思い切った買収をしない場合は、まず欧州のどこかの国を点で押さえ(=ある国で一件買収を実施し)、徐々に点を増やしていく(追加でその周辺国の買収も仕掛けていく)というステップ・バイ・ステップが現実的なオプションとなります。

ではどの国で買収を仕掛けるかについて、冒頭の「ドイツの20位 vs ギリシャの3位」の話ですが、例えば両社ともに売上が100億円だと仮定すると、収益性についてはおそらくギリシャ3位のほうが高く、また同業他社を買収することでリーディングポジションを取ることができる可能性についても、ドイツ20位では難しいと思われます。もちろん、ドイツ企業の技術に狙いがある、日本本社の狙う顧客の多くはドイツ企業といったシナジーも考えなければならないので話は単純ではありませんが、個人的には、ギリシャ3位は評価に値するオプションだと思います。

実は、最近トレンドとしてドイツ、UK、フランス以外の欧州各国の案件が増加しています。例えば昨年は、NECによるデンマークKDMの買収、旭化成エレクトロニクスによるスウェーデンSenseair買収など、多くの北欧案件が見られました。いろいろな国の案件をバイアスなく評価することで、ひょっとすると運命のM&Aとなる会社にめぐり合えるかもしれません。

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最後に、EF EPIという英語能力指数によると、日本は88か国中49位、レベル5段階評価(1が最高点)では下から二番目の4と、かなり低い評価になっています。そんな語学的にはグローバルではない日本ですが、買い手候補として各国から大きなリスペクトを集めていると日々感じます。実際、とあるアンケートによれば、欧州企業は日本企業を米国に次いで有力な買い手候補と見ているようです(3位は中国)。この結果は、ひとえに日本人の誠実さ、勤勉さ、そして逞しくグローバル市場を開拓するフロンティア精神の賜物かと思います。この素晴らしいレピュテーションを最大限活用し、日本企業の皆様には2019年も是非積極的に欧州各国を開拓頂きたいと思います。GCAメンバーも全力でサポートをさせて頂きますので、お気軽にお声がけください。

記事監修

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