寒い北欧が熱い!|欧州M&Aブログ(第14回)

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ワールドカップでベスト8に残ったスウェーデンの活躍も記憶に新しいですが、いま北欧経済は絶好調、M&Aマーケットも熱を帯びています。「北欧は攻略すべき市場としては規模が小さく優先順位は低い、北欧家具やムーミンは嫌いじゃないけど」と整理している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は北欧各国は「小ドイツ」と呼ぶことができるキャラクターを持っており、日本企業こそ注目して頂きたいエリアです。今回のブログではそんな北欧を大いにプッシュしたいと思います。

まず「北欧」という言葉の定義ですが、英語ではScandinaviaやNoridicといった呼称がありますが、その定義は曖昧です。とはいうものの、Scandinaviaは歴史的な結びつきの強いスウェーデン、ノルウェー、デンマークの3カ国を指し(Scandinavian Airlineもこの3国が共同運営する会社ですね)、Nordicはそれにフィンランドとアイスランドも含めた北欧諸国を指す言葉として使われることが多いようです。以下ではスウェーデン、ノルウェー、デンマークそしてフィンランドの北欧4カ国にフォーカスしていきます。

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北欧4カ国の人口は合計2,650万人、日本の人口の1/5程のサイズです。しかし、小規模ながら各国とも高い競争力を有し、ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが発表する各国の国際競争力ランキングでは、スウェーデン7位、フィンランド10位、ノルウェー11位、デンマーク12位と上位にランクされています(ちなみに日本は9位)。経済も絶好調で2018年にはスウェーデンは+2.7%、デンマーク、ノルウェーは+2.0%、フィンランドは+3.3%の成長を予想しています。

ところで、冒頭北欧を「小ドイツ」と呼びましたが、その理由には二つあります。
1. 輸出主導の経済構造
2. 活発なモノ作り
ドイツが強いモノ作りを背景に、多額の貿易黒字を計上しているのはご存知の通りですが、北欧も経済を支えているのは製造業であり、かつ各々の国の国内マーケットは小さいこともあり、輸出中心の経済構造となっています。例えばスウェーデンでは製造業がGDPの22%を占め、実に輸出総額の77%を占めています。輸出先としては、北欧域内のみならず、各国ともドイツと多くのビジネスがあることが特徴です。輸出主導の経済構造ゆえ、直近は欧州全体の好調な景気にシンクロする形で国・企業が成長しています。

モノ作りについて少し掘り下げるに、北欧各国はドイツの「インダストリー4.0」に倣った政策を打ち出しています。例えばスウェーデンでは「スマートインダストリー」という政策のもと、アジア諸国の安価な製品に対抗すべく、高付加価値のメード・イン・スウェーデンブランド構築を目指しています。フィンランドは「チームフィンランド」を立ち上げ、インダストリアル・インターネット分野の競争力強化を目指しています。既にスウェーデンは地球上で最もキャッシュレスが進んだ国と言われており、フィンランドも国全体で実証実験を行うスマートグリッド先進国と言われたりします。輸出主導、製造業中心、高付加価値製品特化という点で、北欧はドイツに近いキャラクターを持っていると言えるかと思います。

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ここで、「ドイツに似た側面があるということは分かった、でもそもそも北欧企業を買収できるチャンスは数多くあるのか」という疑問が湧きあがりますが、この点は全く問題がありません。北欧の2017年M&A金額は2001年以降最大となり、欧州全体のシェアの12.5%を占めるに至りました。これはフランスやイタリアを上回る水準です。

セクターでみれば、製造業・化学分野が最大で、2018年の第一四半期には全体の21.5%が当該セクターの案件です。製造業・化学分野の案件が多いという点も、ドイツに近い雰囲気を感じます。

ところで、オーナーが持分を売却する際にはM&Aだけではなく新規上場(IPO)もオプションとなりますが、北欧ではIPOマーケットも加熱しており、2017年には北欧全体で約110社が上場し、欧州域内のIPOシェアの30%を占めるに至りました。なんと2016年には件数・金額ともにロンドンを上回っています。

この点について最近北欧の協業先とディスカッションしたのですが、どうやらIPOマーケットはスローダウンの兆しが見られ、その結果、今後数年はM&Aが活発になるのでは、とのことでした。具体的には、ここ数年、オーナーが持分売却を検討する際にはM&AとIPOを両にらみで検討する「デュアル・トラック」というプロセスがよく取られていました。しかし、投資家はIPO銘柄をより吟味するようになっており、言い換えれば、誰しもが容易に上場でき、かつ高い株価を実現できる状況ではなくなっており、IPOよりはM&Aを通じた持分売却がより活発になると見ているようです。これは日本企業にとって大きなチャンスが来ているといえます。

「欧州で買収検討するならやっぱりドイツだよね」と結論付けるのではなく、製造業が中心であり、また、その産み出す製品も高付加価値のものが多く、さらには輸出中心で自国のみならず、その他北欧各国・ドイツ等にも展開できるという「小ドイツ」ともいえる北欧もぜひ着目して頂ければと思います。北欧はもっとも日の長いベストシーズンを迎えています。案件検討スタートは、是非寒い冬が訪れる前に・・・。

最後に、GCAはMergermarket社より「Boutique M&A Financial Adviser of the Year 2018」として表彰されました。独立・専業のM&Aアドバイザリーファームとして、これからも多くの案件で皆様をサポートさせていただく機会を頂戴できれば光栄です。

記事監修

この記事を監修している弊社担当者です。