2016年M&A市場総括と2017年M&A市場の展望|欧州M&Aブログ(第3回)

シリーズ記事 

本年度も欧州およびイスラエルのM&A動向や最新の話題など、皆様にとって有用な情報をご提供できればと思います。昨年同様、何卒よろしくお願い申し上げます。

2016年M&A市場総括

グローバルM&A市場: マクロ環境の不透明性により前年度比減も過去10年で3番目の規模

2016年は中国経済の失速、6月の英国の欧州連合離脱(Brexit)、11月のトランプショックなどサプライズの連続となった年でした。サプライズは市場の先行き不透明感を高め、それに伴いマーケットには様子見の雰囲気が広がりました。更にはM&A案件の取下げ・撤回が過去最高となったことも加わり、結果として2016年のM&A金額累計および件数は2015年比で大きく減少となりました。

しかしながら、減速して見えたのは2015年が過去最大のM&A金額累計を記録した年であったためであり、2016年の数値は過去3番目の規模*と決して低調なものではありませんでした。
(*Thomson Reuterより)

欧州M&A市場: 欧州域外からの欧州への投資は2001年以降最大、日本企業にとっても欧州は米国を上回る最大の投資先

Brexitに伴う不透明感の高まりにも関わらず、2016年の欧州域外からの欧州への投資は前年比約35.6%増*と2001年以降で最大規模となりました。中国企業による海外投資金額および件数は2001年以降最高を記録**しましたが、これが一つのドライバーとなったことは疑いの余地がありません。

日本企業の外国企業買収に着目するに、その規模および件数ともに4年連続で増加し、ターゲットエリアについては欧州が米国を超え最大の投資先となりました。Brexit確定後も、ソフトバンクによる英国半導体メーカーARM Holdingsの買収など、Brexit前を上回るペースで多くのUK企業買収案件が発表されたことはとても印象的でした。(* **Mergermarketより)

不透明感が高まるなか、なぜ欧州企業の買収が相次いだのか?

先行きの不透明感が高まったにもかかわらず欧州案件が増加した理由について考えるに、当然といえば当然ですが、それは不透明感に起因する不安を凌駕するだけの「買収しなければならない理由」が存在したと考えられます。

欧州企業の買収は、最新テクノロジーの獲得、ドイツ車メーカーへのアクセスの確保、長い歴史を持つブランドの獲得などを目的に実行される傾向がありますが、これらの目的は不透明感と無縁とまでは言えないものの、それにより価値が失われるものではありません。数年でスクラッチから開発、構築できるものであれば話は別ですが、そう簡単にはいきません。

最近では世界が保護主義の方向に向かう、企業活動のグローバル化の勢いは弱まるといった意見もあります。しかし、企業間の競争においては既に多くの分野で国境の垣根は消滅しており、“グローバル”での生き残りのためには優れた技術・顧客網・ブランドの獲得による継続成長が不可欠です。

そこで、多くの優良企業が存在し、かつそのバリュエーションが米国よりも割安である欧州が、市場自体は不透明感の払しょくには程遠い状況であったにもかかわらず、ターゲットエリアとして注目されたと考えられます。 

2017年M&A市場の展望

2017年はBrexitの交渉が開始され、ドイツ、フランスなどで議会選挙が予定されており引き続き激動の年になると予想されますが、M&Aマーケットに関しては、2016年より活発になると予想する向きが多いようです。

その理由としては、2016年には欧州の事業会社やプライベートエクイティファンド(PEファンド)が様子見で投資余力を残しましたが、2017年はとりわけ大きなインパクトをもたらしたBrexitやトランプ新政権の方向性が見えてくることから、各社がアクティブな投資へ舵を切りやすい環境になりつつあるためです。

上述のように欧州の事業会社やPEファンドが買収者としてアクティブに動くことと合わせ、M&Aマーケットに売りに出される案件数の増加も期待されます。

理由としては、①2016年にスローとなったPEファンドによるポートフォリオ企業売却が活発になること、②オーナー保有の非公開企業案件について、(特にUKにおいて)Brexitに伴うポンド安で高騰した株式市場を前提とした売却目線では株式公開をしても希望数量すべてを売却することは容易ではないため、M&Aでの会社売却が現実的な選択肢となるためです。加え③として、Brexitを中心に大きな地殻変動が起きている今だからこそ、大企業が選択と集中を進めるなかで、もしくは大型経営統合実行における独禁法への抵触を回避のため、優良アセットが切り出される可能性があるためです。

もちろん、株価が高騰している今日ではバリュエーション、すなわち売り手の売却価格の目線が上昇しています。しかし、対円でポンドおよびユーロが下落していることから、日本企業にとってはバリュエーション上昇を為替で吸収できる可能性があります。M&Aマーケットが昨年より活発になると予想されるなか、日本企業にとって今年は昨年にも増して欧州企業を買収するチャンスとも考えられます。

買収機会を見逃すことなく掴むためには日々の情報収集が不可欠です。この点はM&Aの専門家を上手く活用頂き、情報収集のアンテナを高く立てて頂ければと思います。欧州に80名超のプロフェッショナルを配置するGCAは、きっとお力になることができると確信しております。是非お気軽にお申し付け頂ければと存じます。

記事監修

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