The Takeaway|ヘルスケア業界のアウトソース関連セクターについて、美里賢史とのQ&A
ヘルスケア業界におけるアウトソース関連ビジネスは、本業界周辺で事業展開を目指す多種多様なプレイヤーにとって、M&A活用による事業拡大機会があります。ヘルスケア業界のM&Aトレンドおよび、昨今目覚ましい成長をみせるアウトソース関連セクターの動向について、日本におけるヘルスケアチームヘッド美里賢史が解説しました。
ー 2024年のこれまでのヘルスケアセクターのM&A市場をどのように見ていますか?
2023年、日本企業によるM&A取引額は過去最高を記録しました。その勢いは2024年上期にも続いており、前年同期比で顕著な伸長を見せています。そのうち、日本のM&A市場全体の約10%を占めるヘルスケアセクターにおいても同様で、一般に景気の増大局面では、他のセクターに比べてもM&Aに対する強いモメンタムを示す傾向があります。
クロスボーダー案件においても、現在のM&A案件のディールフローは活発です。日本企業は低金利を背景とした資金調達力を活かし、買収者として海外企業や投資ファンドに対して競争力を維持し続けていることから、海外の売主が買収主体としての日本企業に期待していることも背景の一つです。
ー ヘルスケア業界において、なぜいまアウトソース関連セクターが重要なのでしょうか?
製薬業界のアウトソース関連は、CRO(臨床試験受託)、CDMO(開発製造受託)、CSO(販売受託)領域をはじめ、我々日本チームが過去に10件以上関与してきた注力領域です。近年は、上記のほか、製薬企業のマーケティングに関わるアウトソース領域が注目されています。
製薬DXの文脈もありますが、それと同程度に、がんや希少疾患をはじめとする難しい疾患に対して、新しい技術を持つバイオテック企業を含む海外企業の日本市場戦略に関わる動向が影響しています。彼らは創薬の強みを活かして強力に資金調達を行いますが、日本での医薬品承認に向けた治験以降のステージでは、自社対応よりもワンストップでサービス提供可能なアウトソース先に期待する向きがあります。近年は、製造や物流といったバリューチェーンの川下にまでそのニーズが拡大し、CDMO企業や物流企業がコンソーシアムとしてそれに対応していることも、高く評価される事業環境となっています。
製薬マーケティングが新たな局面を迎えているのは、これまで大手・専業の医療情報代理店が提供してきたサービスに加えて、医師や患者さんへのアクセスに関わるデータ活用のマーケティングを組み合わせ、よりカスタマイズされた製薬顧客のマーケティングニーズへの対応が可能となっていることです。これが以前に比べて新たな価値創造に繋がっています。
ここでM&Aの観点として重要なのは、医薬セクター周辺で事業展開を目指す、より多くのプレイヤーにとって、事業拡大機会があるという点です。既存の代理店やデジタルマーケティング企業にとってはもちろんのこと、CXO企業や医療情報プロバイダーにとっても新たな市場創出の機会と捉えられます。さらには、上述のとおりワンストップサービスを実現するために、複数企業によるコンソーシアムとしても顧客ニーズを叶えられるわけですから、製薬アウトソースの領域強化を目指す企業にとっては、自らが製薬顧客に対して、マーケティングを含むフルラインのサービスを整えることも可能ですし、あるいは、自らは製薬マーケティングに特化したカテゴリーリーダーとなり、他社と組んでワンストップ体制を築くことも可能なわけです。すなわち、企業の戦略に沿って様々な選択肢を取り得る環境そのものが、M&Aによる既存強化や新規参入によるダイナミクスを生み出しています。またこれは、事業会社だけでなくPEファンドにとっても、経済的にマクロなニーズの伸びしろが大きいこと自体、この製薬マーケティングセクターが注目される理由です。
海外のフーリハン・ローキーには、この製薬マーケティング領域で非常に経験を持つチームが存在し、これまで30件以上と圧倒的に多くのM&A助言を提供してきたことも、我々の強みとなっています。
ー アウトソース関連の有力な成長分野は、製薬セクターの周辺に限られるのでしょうか?
いいえ、製薬セクター周辺に限りません。近年は医療機器セクターでも、CDMO市場が年率11%という高い成長を遂げており、今後もさらなる発展が予測されています。我々のグローバルヘルスケアチームは、医療機器や医薬品といった大きなセクターの括りに留まらず、さらに細分化された分類として、高い成長率と強いキャッシュフローを創出するセクターを中心にカバーしていることが特徴です。その中でも、医療機器CDMOセクターはその有望先の一つに位置付けられています。
ここでの医療機器CDMOとは、単なる組立工程の受託ではなく、高度な加工技術や精密技術を持ち、複雑な薬事規制の対応ノウハウを活かして、医療機器メーカーと開発段階からパートナーとして伴走するプレイヤーを指します。このニーズは国内に限らずグローバルです。日本企業には医療機器や部品のメーカーとして優れた精密加工技術を持つ企業が多く存在します。そのような企業にとって、メーカーの立場として海外での承認取得を目指す戦略だけでなく、精密加工の自社技術を活かしたサービスプロバイダーとしての海外展開を検討するためのM&A戦略の相談が我々に寄せられるようになっています。
海外のこうした医療機器CDMOプレイヤーは、複数の優れた技術を次々と獲得することで、自社の顧客基盤に対して価値提供すべく発展し続けています。ここでは、まずプラットフォームの核となる企業を買収し、その後、優れた技術で付加価値を持つ企業のアドオン買収を繰り返すことで、プラットフォームとしての企業価値を高めていきます。
すなわち、医療機器CDMOセクターでは、まさにBuy and Buildの戦略で成長するモデルが機能する領域といえます。これは、PEファンドのバリューアップ手法に向くことからも、アドオンの対象となる比較的中規模の会社が数多く存在しており、日本企業にとっても多くの買収機会が存在します。また、海外で一気に安定したプラットフォーム獲得を目指すのであれば、PEのポートフォリオとして優れた企業が既に存在しますから、いずれを買収対象とする場合も、日本企業のM&A戦略として柔軟性が増す好ましい環境と考えられます。
ー 2024年下期以降、さらに期待されるテーマはありますか?
医薬品の創薬研究に関わるアウトソース領域です。LaaS(Lab As A Service)をはじめ、現在は前臨床CROとして受託を行うワークフローが、ITやソフトウェアの力によってクラウド化、自動化されていく動きが強まっています。ライフサイエンスの研究領域でのサービス関連セクターを見ても、グローバルで年率2桁成長が遂げられている成長領域です。
この分野も、現在日本では医薬品の分析受託を行う化学企業や、あるいは分析機器メーカーとして日本企業が強みを持つ計測分析の分野が交差する領域です。これまでに述べてきたことと同様で、様々なプレイヤーにとって、既存事業の強みを伸ばせる領域、もしくは新技術の獲得のために新たな買収検討が必要となる領域が存在する環境は、M&Aのダイナミクスを生み出すため、戦略的なM&Aとしての関心の高まりを強く実感しています。
ー 最後にひと言お願いします。
我々のグローバルヘルスケアチームは、製薬アウトソースや医療機器セクターに加えて、医療プロバイダーやヘルスケアIT領域を深くカバーする専門チームが多数在籍しています。それに呼応する形で、日本でも医療サービスやデータヘルス領域での強みを差別化要素として、実に多くのM&A案件を手がけてきました。いつでもお気軽にご連絡ください。
記事監修
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