The Takeaway |日本におけるプライベートエクイティの最新動向について原田恵一郎とのQ&A

The Takeaway(Q&Aコラム) 

近年、プライベートエクイティ(以下PE)の存在感が増しています。オーナー企業の事業承継に加え、近年では市場から事業ポートフォリオの変革を迫られた大手企業によるノンコア事業のカーブアウトや、上場企業の非公開化への投資機会が急増しています。今後も更なる市場の拡大が期待される中で、業界におけるプレーヤーの動向や今後の展望について、当社ファイナンシャル・スポンサーズ・グループの原田恵一郎が解説します。

ー 最近、市場の拡大とともに様々なPEの名前を目にしますが、業界にはどのようなプレーヤーが存在しているのですか?

日本国内におけるPEは100社程度に達し、その投資先企業数も、1,000社を超えたと言われています。PEの数も増えてくる中で、各社の違いについて問い合わせをいただく機会が増えてきました。まず、各社は、大きく外資系と日系に分類されることが多いです。

外資系については、米系のグローバルファンドが比較的早い時代から日本の市場に参入してきましたが、最近は欧州系、アジア系など様々なプレーヤーが日本で活動しています。日本市場への向き合い方は様々で、アジア等広域を投資対象とするドル建てのファンドから日本への投資を行っているプレーヤーもあれば、日本への投資に特化した円建ての地域ファンドを運営しているプレーヤー、その両方を運用しながら規模などによって使い分けているプレーヤーもあります。日系に比べるとファンドのサイズが大きいので、やはり規模の大きな案件は外資系のPEが手掛けているケースが多いです。また、海外の投資先との連携やグローバルな経営人材の招聘などのバリューアップも外資系ならではのアプローチですね。一方、日本の企業文化や商習慣は特殊なものも多いので、投資判断やその後のバリューアップに当たっては、日本の事情に精通したチームを構築できているかという点も重要になります。

日系のPEの多くは、円建ての日本特化型のファンドを運営しており、ファンドのサイズや注力分野によって様々なプレーヤーが存在します。かつては事業承継を中心に中規模~小規模の案件を手掛けるところが多かったのですが、近年は海外投資家の呼び込み等によりファンドのサイズも大きくなって、一部で外資系と競合するような比較的大きな案件を手掛けるところも出てきました。やはり、日系のPEは日本のことをよく分かっているというのが一番の特徴だと思います。海外から見ると理解しがたいような日本固有の文化や市場で事業を行っているような会社についてもしっかりと評価をして投資判断やサポートを提供してくれるのは日系のプレーヤーの強みだと思いますね。近年は、出資母体の大企業や海外投資家のネットワークなども活用して投資先に様々なサポートを提供するような取り組みも出てきています。

ー 事業会社から見た場合に、パートナーとなるPEを選ぶ場合にはどのようなことに気を付けたらよいですか?

既存のプレーヤーに加えて、外資系が引き続き日本に参入してくる動きがありますし、日系についても独立等により新しいプレーヤーが少しずつ増えてきています。競争が激しくなる中で、他社と差別化すべく、各社ともセクターを絞り込んだり、独自のバリューアップのアプローチなどを開発して投資先に提供するような取り組みを強化したりしています。以前は、「知り合いの伝手で紹介してもらったPEをパートナーに選んだ」というようなことが多かったのですが、今はプレーヤーも多様化しており、様々な情報源を活用し、各社の特徴や実績、ファンドの資金の背景、ひいては担当者の性格までよく理解したうえで、パートナーを選定することが重要だと思います。

ー 今後の業界を展望した場合に、どのようなことが注目されますか?

一つは、PEが案件を手掛ける際に活用するLBOファイナンスについてです。LBOローンに関しては、日本では低金利下、一部の大手商業銀行がほぼ市場を独占する形でこれまで推移して来ました。ただし、市場の拡大につれて、全てのリスクを限られた資金提供者だけで引き受けている現状を維持することができるのかという議論が出てくる可能性があります。米国では、こうしたファイナンスの提供者はクレジットファンドが主役となっており、Direct lendingと呼ばれています。2024年の米国の中規模案件におけるLBOローンについては、約90%をDirect lendingが占めているというレポートもあります。

もう一つ、潤沢な案件機会を背景に、PEの投資活動の方に注目が集まっていますが、今後は投資先のエグジットをどうしていくかというのも重要な課題になってくるとみています。そもそも、東証改革やアクティビストの台頭等を背景として、上場企業であり続けることを見直している企業が増えている中で、上場によるエグジットというのは考えにくいケースが増えるはずです。実際、PE傘下企業が上場した事例というのは近年激減しており、この数年の日本におけるPE投資先のエグジットのうち90%以上はM&Aによるものです。これは既に欧米とほぼ同じ傾向となっています。

一方、M&Aエグジットの際の売却先には大きな差があります。欧米では、売却先の約50%がPEです。いわゆる、Fund to Fundの取引が、半分を占めているのです。日本では、当社のデータでは過去数年の平均でざっくりと80%程度が事業会社、20%がPEというイメージです。今後投資先のエグジットを進めて行く中で、再度PE(又はPE傘下の会社)が受け皿になる取引が増える可能性が高いとみています。足元でも、日本への参入を検討している外資系PEの中には、既存のPE傘下企業の買収の検討から始めるところが増えてきています。

日本ではもう少し先の話になると思いますが、セカンダリー市場の活性化も論点になってくると思います。海外では、GP-led secondaryという、同じPE傘下に新たなファンドを作って、投資先をそちらへ譲渡して投資を継続するという取引が増加してきています。M&Aで別のPEへ売却するのではなく、同じPEの傘下で、投資を継続したい投資家は新たなファンドへ再度出資し、いったん資金化したい投資家は回収することが可能になります。この他に、LP持分を投資家間で売買する取引も非常に盛んです。日本でもPEに対する投資家の裾野が拡がっていくと、投資家に流動性を供給するための仕組みについても様々な手法が採用され、多様化していく可能性があります。こうした取引は、ファンドのNet Asset Value(NAV)を基礎に価値評価が行われるため、普段から、投資先の時価情報等について第三者の評価を得ながらLP投資家へ適切にレポーティングを行う仕組みが前提として欠かせません。この点に関しては、日本ではまだ海外のプラクティスと異なる部分も多いのですが、今後市場の拡大に伴い論点になってくる可能性があります。セカンダリー市場の動向は、PE投資先のエグジットの在り方にも影響するため、投資先の事業会社にとっても無関係では無いと思います。

ー 最後に、フーリハン・ローキーのスポンサー・カバレッジの体制についてコメントをお願いします

フーリハン・ローキーのフィナンシャル・スポンサーズ・グループは、グローバルに約30名のシニアプロフェッショナルを擁し、約1,900社の世界中のPE、クレジットファンド等のオルタナティブ・アセット・マネージャーとネットワークを持つ、世界でも最大級の専門チームです。私自身も、チームの一員として、欧米のマーケットの動向に関する最新の情報を入手しながら、日本のプライベート市場の発展に貢献すべくサービス強化に取り組んでいます。PEのことなら、なんでも、フーリハン・ローキーにお気軽にご相談ください。

記事監修

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