日本のグッド・カンパニーをグレート・カンパニーに
株式会社日本産業推進機構(NSSK)
代表取締役社長 ESGコミッティー議長 津坂 純
1983年ハーバード・カレッジを卒業、ハーバード・ビジネススクールにてMBA、マサチューセッツ工科大学(MIT)においてAdvanced Management Certificate in Innovation and Entrepreneurship を取得、アメリカでの米系投資銀行におけるバンカー経験の後、2006年よりTPGキャピタルの元パートナー兼投資委員会委員、及びパートナー選定委員、TPGキャピタル株式会社の元代表兼パートナー及びマネージングディレクターを歴任。 2014年に日本産業推進機構(NSSK)を設立し、最高投資責任者、ESGコミッティー議長、および株式会社日本産業推進機構の代表取締役社長を務める。それ以外には、MITが提供している経済発展を目指した教育プログラムであるMIT地域起業創生加速プログラム(MIT REAP)の東京チーム共同委員長や、日本ハーバード・クラブのプレジデント、経済同友会会員、故稲盛和夫氏が塾長を務めた盛和塾のメンバーとしての活動などに参加。
ディレクター 岩見 誠人
NSSK参画以前はプライスウォーターハウスクーパースに勤務。監査業務を経て10年以上に亘りM&Aのアドバイザリー業務に従事。NSSKには2016年に参画し、多くの投資先の新規投資および投資後の支援に携わる。公認会計士、立命館大学経営学部経営学科卒業。
シニアマネージャー 浜村 誠
NSSK参画以前は大和証券株式会社にてM&A案件に従事。NSSKには2018年に参画し、多くの投資先の新規投資および投資後の支援に携わる。神戸大学経営学部、ノースカロライナ大学(MBA)卒業。
「富士山と日の丸」に誓った日本への想い
―― 津坂様の自己紹介と、御社を設立された経緯についてお教えください。
津坂 大学を卒業後、米国でバンカーとしてのキャリアをスタートしました、世界で最も進んだ米国のプライベートエクイティ(以下「PE」)に関わる業務に身を置き、そこで改めて日本を見つめるなかで、日本には潜在力の高い魅力的な中堅・中小企業が数多く存在することに気づきました。当時の自分の仕事と照らし合わせて考えたときに、PE投資家は、今後日本経済において重要な役割を果たすであろうし、そうであれば既にマーケットが確立されていた米国の最先端のノウハウや経験を伝えるのが自分の役割だと思い帰国しました。帰国後に代表職に就いたグローバルファンドで、グローバルに通用する投資手法、業務改善の方法などのベストプラクティスや世界の投資家の見方といった知見を蓄積し、それらをより多くの機会で活かすべく、2014年に当時の仲間と一緒にNSSKを設立しました。こうした来歴もあり、我々NSSKは「グローバル企業での投資や投資先支援の経験を有するメンバー」で構成された、「日本発の独立系投資会社」であることが特長であると考えます。
(津坂氏)
―― 御社名はとても特徴的で、会社のロゴもユニークですね。どんな想いが込められていますか?
津坂 創立以前から「日本のために仕事がしたい」という強い想いを持ってきました。我々が日本の企業をお手伝いすることで「日本のグッド・カンパニーをグレート・カンパニーへ導きたい」と。そのような想いをどう形に落とし込むかは悩みましたが、最終的には僭越ながら日本の象徴である富士山と日の丸をモチーフとしたロゴを作りました。また我々は、働く上での最も重要な指針として、「人として正しいことを貫く」ことを全ての判断軸に置いています。利益や投資リターンの追求よりも前に、自分たちの支援が投資先企業の従業員やその家族の幸せにつながるかを問いますし、従業員の皆様には誇りを持って働いていただける会社へと成長する支援をしたいと考えています。
―― 前職の代表を務められていた頃から、NSSKを設立されて現在に至るまで、時代も大きく変わりました。日本におけるPEマーケットの現状をどのように捉えていらっしゃいますか?
ここ20年で、PE業界は着実な変化と進化を遂げています。まずは、世間の見方の変化です。2000年代前半は「ファンドに買われる」という言葉に込められていたのは、いわゆるハゲタカのイメージでしたよね。そしてそのネガティブなイメージはとても強かった。しかし今となっては、誰もPE投資家をそのような悪役とは見ていないと思います。企業の成長パートナーとしての実績が積みあがる中で、徐々に良いイメージに変わってきたと思いますし、PE投資家の役割への認識が醸成されてきたように思います。
そして、事業承継案件の増加です。PE業界における事業承継案件の比率は5割以上と認識しており、我々に投資していただける投資家の方々も日本における事業承継案件のプレゼンスには大いに注目しています。事業承継案件に関与していなければアクティブなPE投資家と見做されないといっても過言ではありません。家族経営の企業や、オーナー様が一代で築かれた企業などでは、自分たちの会社をどうしていくべきかについては常日頃から議論されていると思います。一方でグローバルあるいは日本の経済の状況、国としての状況、技術の進歩など取り巻く環境の変化により、正しい舵取りのための手法や知識は様変わりしており、難易度も増しています。そのような中で、事業承継案件の担い手としてPE投資家が台頭してきており、自社の成長戦略実現のために、日本のオーナー企業にとってPE投資家を上手く活用していくことが重要な選択肢の一つになってきているともいえます。昨今のGDP低成長時代において、投資家、経営者、従業員、顧客など企業の活動を取り巻く様々なステークホルダーから期待される存在として「PEの黄金時代が始まっている」と、私はそんな風に時代を読んでいます。
世界で最も脚光を浴びている日本のPEマーケット
―― NSSKが管理するファンドには、海外の投資家も多く出資をされていると聞いています。世界の投資家は、日本の投資環境をどのように見ているのですか?
日本は世界3位の経済大国であり、透明性のある世界水準の資本市場を有し、国内消費の割合も高く、経済も安定しています。ここだけ切り取ると、投資環境としては遜色ないのですが、PE投資家が関与する案件数自体はそう多くない時代が続いてきました。近年、活動実績が積み上がってきたことで海外の投資家からの信頼を得て、ようやく彼らが日本のPEに投資する「良い条件」が揃ったと見ています。
日々生活していて自国の悲観的な事実やニュースにしばしば触れていると気づかないのですが、実はPEの世界では日本のマーケットが一番脚光を浴びていると考えています。たしかに、日本は世界各国との比較では緩やかな経済成長ではありますが、グローバルで幾度となく危機的状況が生じたなかでも、全体として安定感があり、ボラティリティが小さく、レジリエントな市場であるというのは、大きな強みであると考えています。
―― ファンドの概要と、組織体制や陣容の特徴についてお聞かせください。
現在管理している複数ファンドの合計で約1,500億円のAUM(Assets under management:運用資産残高)を運用しています。LP投資家の過半は世界を代表する年金や政府系機関であり、NSSKへの厚い信用と信頼の証だと自負しています。主に、業務改善を支援し、投資先企業の価値向上のパートナーとして寄り添うバイアウトファンドと、ESG活動の一環として地域の活性化のために運用しているインパクトファンドに分けられます。
投資チームのメンバーは、金融、コンサルティング、事業会社など多種多様なバックグラウンドを持ち、女性も活躍しています。また、投資チームと共に大きな役割を担っているのが、業務改善を支援するNVP(NSSK Value-up Program)チームです。オペレーショナルなノウハウを最大限に活用してハンズオン支援をします。2014年の設立以来、30件を越える投資実績と世界の最新の業務改善ノウハウによって、企業ごとの最適なアプローチを創造・実装・実践しています。メンバー全員が高いプロフェッショナル意識を持ち、常に高い志と前向きな姿勢で業務に取り組んでいます。
―― ファームによっては投資担当者がバリューアップも兼任される場合もありますが、御社のように専門人材を抱える狙いはどこにありますか?
津坂 改善のスピードや効果を考えると、専門家のアプローチが一番効率の良い方法です。その分コストはかかりますが、投資ですから必要な経営資源は投下します。投資先企業には、我々から人を派遣するのではなく、まずは投資先企業において必要な追加人材を採用していただくのが基本スタイルです。これに加えて、業務改善に深い知見を有する専門人材と、数々の投資案件において課題解決と価値向上の実績と知見を有する投資チームメンバーが一体となり、投資先を強力にサポートしていきます。
―― これから注力される案件の形態や業界など、今後の戦略をお聞かせください。
津坂 まずは事業承継に引き続き注力します。案件数の半分程度は事業承継案件が占めるという構造は大きくは変わらないと思います。それ以外にはカーブアウトや、非上場化などの案件にも取り組んでいきます。投資対象としては、投資先企業の多様化を意識しており、幅広い業態の知識や知恵をフル活用して支援し、さらに知見を蓄えてより実力を上げていくという考えです。具体的な注力領域としては、例えばサービス業やコンシューマー事業であれば広義のヘルスケア、ウェルネス、教育といった日本の中でも重要なテーマ性のある領域や、製造業であれば成長性のあるニッチな分野で活躍している企業に注目しています。
―― ESGへの取り組みも目立ちますが、どのような活動をされているのでしょうか。
津坂 ESG活動はNSSKにとって最も重要なもののひとつです。ESGに真剣に対応することは、社会的責任に応えるのみならず、投資先企業の価値向上につながるものであると真剣に考えております。NSSKは設立以来、ESGの基本方針を定め、現在は投資プロセスの一環として各投資先においてESGリスクや改善点を外部のエキスパートと共に分析し、改善につなげることで実践しております。また外部に向けては、国内のGPとして初のESGの年次報告書を毎期刊行し、NSSK投資先企業の従業員によるESG活動の成果と取り組みを報告しております。さらに、日本国内の活動のみにとどまらず、国連が支援するPRIに署名しており、日本のGPとしては初めて、インパクト投資の運用原則に署名し、さらに2022年2月には同原則のアジア太平洋地域の議長に選任されました。このように、PRI 及び IFC といった外部機関と協調し、我々のコミュニティ及びアジア地域における ESGを推進しております。 社内にESGを専管するチームを設けそのチームが中心的に活動していますが、組織として浸透させ、実践していくためにも、私自身がNSSKのESGコミッティー議長を務め、あらゆる活動に積極的に参加しております。活動規模も、投資先が増える中で多様化しております。例えばNSSKグループの投資先全体として、雇用社員数が12%増加しています。女性従業員や女性管理職比率の向上も積極的に推進しており、CEO/COOの40%が女性またはマイノリティ、全投資先12,000人以上の従業員の70%が女性、管理職の35%が女性です。これは、私たちが最初にこれらのビジネスに投資したときと比べると、大きな増加です。ESGの取り組みは奥深く、状況を把握し、目標を定め、達成の方策を検討し、実践するという、投資先の価値向上のための方策と全く同じアプローチで、着実な取り組みを続けることが重要と考えています。投資先企業における意識も着実に高まっており、我々も責任ある行動を実践できていると実感します。
(2022-2023 NSSK ESG 年次報告書)
経営支援の実績とフィロソフィーへの共感から繋がった縁
―― では、最近フーリハン・ローキーがエグジットのお手伝いさせていただいた、ウェルネス分野「Welfareすずらん」様を例に、ご担当者から詳しく御聞かせいただきます。簡単に自己紹介をお願いします。
岩見 当社入社前は、PwCグループで会計監査やIPOの支援業務に携わった後、PEファンド向けにM&Aアドバイザリーに従事しておりました。2016年に当社に参画し、8年目に入りました。
浜村 同じく入社前は大和証券でM&Aアドバイザリーを行い、よりプリンシパルの立場から携わりたいと2018年に当社に参画し、その後、一貫して投資チームで案件に従事しております。
浜村氏(写真:左)と岩見氏(写真:右)
―― Welfareすずらん様ついて教えてください。
浜村 Welfareすずらん様(以下、すずらん様)は2011年に設立され、名古屋市を中心に介護事業を展開されています。「全従業員の物心両面の幸福を追求し、利用者様、全ての方々の健康増進に全力を尽くす」を企業理念に掲げ、住宅型有料老人ホーム、障がい者グループホーム、認知症対応型グループホーム等計12施設を展開しております。主力である住宅型有料老人ホームでは、施設に訪問介護・訪問看護ステーションを併設し、協力医療機関との連携を行いながら、充実した在宅療養体制を構築しているのが特徴の一つです。要介護者だけでなく精神障害者、身体障害者、認知症患者、難病患者等が適切な医療・介護サービスを低価格で受けることができる体制を構築しており、高収益かつ高い入居率での運営を実現しています。
―― 投資の経緯を教えてください。また、どのような課題を抱えておられたのでしょうか。
岩見 日本全体で要介護ニーズが高まる一方、高齢者向けの住まい・施設の供給が不足しており、需給ギャップの解消のため業界は活況です。一方すずらん様に於かれては、事業が順調な中でも、個人経営ならではの課題を感じられていました。例えばオペレーションの最適化、経営管理の効率化、高稼働を維持しながらの施設展開、組織的な人材育成など、今後に向けて課題解決のためのパートナーを探しておられました。ご縁あって面談の機会をいただき、NSSKとしての多店舗展開型の投資先への豊富な経営支援の実績があること、特に同じ介護業界の会社として、サービス付き高齢者住宅を中心に関東圏で当時140以上の施設を展開していた株式会社ヴァティーでのNVPでの実績等を踏まえ、NSSKであれば安心してパートナーになってもらえると創業者兼社長の田渕氏からご評価頂き、共に新たなスタートを切ることになりました。また、すずらん様とNSSK、両社ともに京セラ創業者の故稲盛和夫氏のフィロソフィーに深く共感し、強く影響を受けた企業理念を掲げていることから、企業文化に大きな親和性があったことも、当社を選んでいただいた理由の一つかと思います。
―― 実際に、どのような支援をされたのですか?
岩見 経営の見える化を通じた組織的な経営管理、施設展開、訪問看護売上の強化、人財補強、人材育成・教育、ESGを中心にご支援をさせて頂きました。例えば、経営管理や人材補強についてですが、毎月の予実管理や月次決算の早期化等、経理プロセスやフローの改善・見える化が必要であったことから、NSSKの人材ネットワークを活用し、上場会社の執行役員経理部長等を経験していた方を幹部メンバーの一人として管理部長のポジションに補強させて頂きました。経理業務に留まらず、採用や人材育成、行政手続き、法務、総務などの管理部門の業務の責任者として活躍頂き、効率的かつ生産性の高い経営管理の大きな改善につながったと感じております。
また、介護は人のビジネスですから、人材教育が肝になっています。施設長及び施設長候補等の中間管理職の育成の一環としてリーダーシップに関する教育プログラムを新たにスタートさせたほか、長年に亘って稲盛氏の右腕として活躍してこられ、当社のチーフコーポレートフィロソフィーオフィサーである大田主導の元、NPP(NSSK Philosophy Program)を実践しました。フィロソフィーを体系的に学び、仲間とのディスカッションを通して、人材教育の基盤となるフィロソフィーへの理解が深まり、会社全体が一つの方向へ進む力が生まれます。すずらん様には以前から企業理念やフィロソフィーブックというものも存在していましたが、これをきっかけにフィロソフィーブックの改訂も行い、すずらん様の人材教育の基盤づくりに貢献できたと考えております。
ESGについては、従業員数、女性の管理職比率、女性の従業員比率をKPIとして設定し、継続的な改善に向けた取り組みを行いました。結果的には、NSSKの投資期間において従業員数は約40%の増加を達成しており、また女性の管理職比率、女性の従業員比率についてはそれぞれ約40%及び約80%と高い水準で維持することができております。また他にも、訪問介護記録ソフトの導入によりサービス実施記録のデジタル化を推し進めることで、サービス実施記録用紙の使用力削減等のペーパーレスに向けた検討などを行っておりました。
私たちの役割は、投資先の更なる成長のための基盤作りです
―― 今般、支援が順調に推移してエグジットに至られたと思いますが、エグジットに対する考え方を教えてください。
岩見 我々のエグジット後、投資先がいかに成長を続けられるかどうかを第一に考えます。そのための基盤作りをすることが自分たちの役割だと思っております。
本件に関しては、3年間の投資期間で売上高は約1.5倍に、EBITDAは約2倍まで拡大し、元々想定していた経営支援が一旦節目を迎える中で、すずらん様の更なる成長のためには新たなパートナーの元で次のステージに進むことが重要であると考え、エグジットプロセスの検討を始めました。
すずらん様のパートナーとなられたリコーリース様は、長年に亘り医療・介護業界向けのリースサービスや介護報酬ファクタリングサービスを提供されておりますが、自社での介護事業の運営自体は初の試みです。すずらん様と一緒になることで、既存のサービスの一層の強化と施設運営をも取り込んだサステナブルなサービス開発が可能となります。またすずらん様にとっても、リコーリース様の医療・介護業界で展開する事業部門との連携や、堅牢な財務基盤、信用力を背景としたファイナンスサービス等を活用し、更なる成長、企業価値向上を実現していけるものと感じております。
―― 介護業界に対し、どんな展望を持っていらっしゃいますか?
岩見 高齢化の進展により介護業界へのニーズは非常に高まっており、日本全体が抱える様々な周辺課題に対してPE投資家が果たせる役割があると考えています。高齢者にとっての重要な公共インフラである介護施設を拡大して、更に地域コミュニティへも貢献するといったビジネスモデルを今後も継続していきたいです。介護業界のみならず、ヘルスケア全体に対しても引き続き注目し、我々の知見や経験、ネットワークを最大限活用して確かな経営支援を担っていく所存です。
皆さまへのメッセージ
ーー 最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
津坂 産業や事業を問わず様々な課題があり、それは多様化・複雑化しています。ですが、現代は情報が豊富にあり、かつ、情報を容易に手に入れられる時代ですので、Nothing is impossible!だと考えています。解決に向けて策を練り、リソースを与え適任人材を置けば、難しい状況を変えていけるのではないでしょうか。我々は、不可能を可能にするお手伝いをしたいと思っています。
以上
日本産業推進機構
https://www.nsskjapan.com/
記事監修
この記事を監修している弊社担当者です。