日本企業の果敢な攻めへの期待|欧州M&Aブログ(第22回)

欧州ブログ 

もういくつ寝るとお正月・・・というタイミングになりました。(総括するには早いですが)2019年は皆様にとってどのような年でしたでしょうか?欧州景気については、今年は明らかに下降局面に入りました。ただ、Brexitなど地政学的なイベントも毎月のように起きる今日この頃、世間はもはや不安定なことに慣れつつあり、たくましさすら感じるほどです。今回のブログでは、ひとつの区切りをみたBrexitと欧州を牽引するドイツの失速に触れつつ、2019年欧州M&Aから垣間見られた日本企業の果敢な攻めの姿勢について考察してみたいと思います。

1. Brexit疲れの先にあるもの

2016年の国民投票から3年近く進展が見られなかったBrexit、世間では「何でもいいから決めてくれ」という言葉も漏れていましたが、今月ついに一つの区切りをみるに至りました。「get Brexit done」を宣言するボリス・ジョンソン率いる保守党が、総選挙で過半数を獲得したのです。

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12月12日の総選挙当日、たまたまその日は社内のクリスマスパーティーだったのですが、ロンドンそしてマンチェスターオフィスの同僚達は、開票速報を見守りながら熱い政治議論を交わしていました。私は「ボリス・ジョンソンはとんでもない、絶対EU残留だ」というコメントを期待していたのですが、驚くことにそういった発言は全く聞かれませんでした。意外に多くの人がBrexit自体問題ないものと整理してしまっているのです。これが蔓延するBrexit疲れから来るものなのか、Brexitは大した影響がないと見ているのか、心の奥底ではEUの一員であることに居心地の悪さを感じているのかは分かりません。ただ、少なくとも誰もBrexitを英国の破滅の第一歩とは考えていないことは確かでした。

私のなかでは、Brexitは結局のところ、国民にとってどこまでいってもリアリティがない話なんだという結論に至りました。リアリティがないがゆえに「多少経済的にダメージがあっても何とかなる、ボリス・ジョンソンは近く失脚し結局はSoft Brexitになる」といった楽観は消えきらないのです。

とはいいつつ、リアリティはなくとも国民投票をしていれば漠然とした不安から残留という結論になった可能性は十分にあったと思います。事実として、ボリス・ジョンソン率いる保守党は過半数を大幅に上回る議席を獲得した一方、EU残留派・離脱慎重派の野党の獲得票合計は保守党などの離脱派の獲得票数を上回っていました。今回英国がBrexitにまい進することに決まったのは、このリアリティのない話の判断が、国民投票ではなく総選挙に委ねられたことに尽きます。

総選挙となれば、いくらそれがBrexit選挙と呼ばれようが、結局のところ優先されるのはBrexitのようなリアリティのない「国際問題」ではなく、保険や医療、雇用、景気、年金などの自分の生活に関わる、リアリティのある「国内問題」です。各野党は結局Brexitよりも各党の利益を優先することに走り、最大野党の労働党に至ってはBrexitに対する姿勢を明確にすることなく極端な左派的政策を大いにアピールしました。リアリティのないBrexitで野党が一枚岩になることは最後までなく、言い過ぎかもしれませんが、消去法的に、そしてHard Brexitは回避できるという根拠のない楽観により選ばれたのがボリス・ジョンソン率いる保守党だったのです。

さて2020年は、Brexitがどのような方向で決着するのか、要注目です。以前のブログでも触れましたが、イギリス国外売上が大きいロンドン市場に上場する英国企業の株価が大きく崩れた場合には、絶好の仕掛け時です。

2. 「ドイツ大丈夫か?」と思うドイツ人はいるのか?

2019年10月のドイツの工業生産高は前年比△5.3%となり、2009年以降最大の落ち込みとなりました。米国と中国が引き起こす貿易戦争に伴う中国の減速や、Brexitに伴う不透明感の増大など、ドイツの生命線である自動車産業にマイナス影響を与えるイベントが相次いでいることがその原因です。

ドイツにおいて自動車関連の就業者人口は830,000人、関連業界まで広げれば更に2,000,000人追加されると言われており、既にDaimler、Audi、Continental、Boschなどは人員削減の可能性に言及しています。自動車業界の不安がサービス業界に波及し、消費者心理の冷え込みに拍車がかかれば、更なる経済の減速を引き起こすことは間違いありません。

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ドイツが風邪を引けば欧州も風邪を引くといわれるくらいに、ドイツ経済の先行きは重要です。個人的には「おいおい、ドイツ大丈夫か?」と思う頻度が高まっているのですが、ドイツ人の同僚と話をすると、「確かに厳しい状況ではあるが、経済とは良いときもあれば悪いときもあるものだよ。今は景気サイクルの底に向かっているだけだよ」と、今回の問題はサイクルの問題であり構造的な問題ではないという楽観的な意見がほとんどです。つまり、多くのドイツ人はきっと落ち込みは一時的なものであり、すぐに成長局面に戻ると信じています。とても頼もしいかぎりです。

Brexitがほぼ確定し、トランプの再選の可能性もある状況において、どのくらい“すぐに”ドイツが回復するかは未知数です。ただ、ドイツの底力を持ってすれば、回復すること自体は間違いのないことでしょう。逆張りではないですが、回復を信じるのであれば、これから数年は優良案件がリーズナブルな価格でマーケットに出てくる好機と言えます。

3. 果敢な攻めを見せる日本企業

既に不透明感が漂っていた2019年の頭には、「欧州はしばらく様子見」という声がよく聞かれました。しかし、蓋を開けてみれば、今年は数多くの欧州案件が発表され、500億円以上の比較的規模の大きい買収案件も15件近く発表されました。11月末には三菱商事と中部電力がオランダ総合エネルギー会社Enecoを約5,000億円で買収予定というニュースがあり、その他ではDICによるドイツBASFのグローバル顔料事業買収やブリヂストンによるオランダTomTomのデジタルフリーとソリューション事業買収など、1,000億円を超える大型案件もいくつか見られました。

米国案件はトランプリスクがあり、成長著しいアジア新興国案件は新興国特有のリスクがあります。そして欧州は歴史的に地政学的リスクが高く、直近では上述のようにBrexitやドイツ失速のリスクが漂います。しかし、今年の日本企業の欧州M&A実績を見るに、80年代後半から積極的な海外展開を続けてきた日本企業にとっては、リスクは意識されてもブレーキとはなり得ないということを強く感じました。2020年も驚くようなイベントが多々起きる年になると思いますが、そんな状況になっても、きっと日本企業は果敢な攻めを見せ続けるでしょう。

本年度も隔月更新の欧州M&Aブログにお付き合い頂きましてありがとうございました。来年も欧州発で様々な情報を発信することができればと思います。

それでは皆様、どうぞ素敵な年末年始をお過ごしください。

記事監修

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