日本企業のソフトウェアM&Aはなぜ少ないのか?|欧州M&Aブログ(第13回)
日の入り時刻がどんどんと長くなり(フィンランドでは現在21時50分)、欧州は一年で最も明るい季節に突入しました。人々は待ち焦がれる7、8月のバケーション前のラストスパートに入っています。欧州ではバケーション前後は最もM&A案件がアクティブになる時期ですので、情報収集は怠らないようにしましょう!
さて今回のブログですが、「日本企業のソフトウェアM&Aはなぜ少ないのか?」ということについて考えてみたいと思います。
成長の手段としてM&Aを検討する場合、M&Aで何を獲得するのかを定義づけることが最も重要です。ターゲット企業の製品、販路、製造拠点、技術(特許)、ブランド、優秀な人材等、獲得したいものは様々ですが、欧州企業を買収するケースでは、製品、販路そして技術の獲得というアングルが多いように感じます。既存事業との関連性については、シナジーが期待される既存事業エリアを強化するというものが大半ですが、新たな事業の柱を構築すべく、既存事業と多少関連する新規分野にM&Aを活用して入っていくというケースも見られます。新規分野として注目を集めるのは、環境そしてヘルスケア関連です。
一方、日本企業のM&Aにおいて「既存事業領域と関連のあるソフトウェア企業を買収する」というものはほとんど見られません。ソフトウェア開発・販売を主たる事業としているケースは別として、「うちはソフトウェア販売の会社ではない」「必要なソフトウェアはライセンスを受ければよい」という声を良く聞きます。
自社製品が他の機械・システムと連動する必要はなかった時代から、完全に連動し、最終的には消費者ニーズとも瞬時に連動する時代に変わりつつあると言われています。IoT、Digitalization等、製造業のデジタル化に関する言葉がどんどん生まれていますが、「いくらなんでもすぐに産業構造を変えるような革命的な動きになることはないんじゃないか」と懐疑的に見ている人がほとんどかと思います(私も今日時点では実感を持つことができません)。
では、今後数年でデジタル化が大きく加速する可能性について関連技術コストから考えてみるに、直近10年間でセンサーのコストは2分の1、データ処理のコストは60分の1、そしてウェブストレージのコストは50分の1と急速に低下しました。薄型TVがパネルの価格下落により急速に広まったように、要素技術のコストが下がればあとは普及を待つのみです。つまり、コスト面ではデジタル化が加速する素地が整いつつあるということです。
例えば、もはや珍しい言葉ではなくなった「Fintech(フィンテック)」。今でこそ金融業界では送金・決済手続等のデジタル化は当然のこととなっていますが、思い出してみるに数年前はFintechという言葉すら存在しなかったわけで、デジタル化はそれが始まればいかに急速に進むかがこの例からも分かります。
それでは欧米企業はどのようにデジタル化を進めているのでしょうか?もちろん各社独自に対応技術の開発を進めていますが、特に大企業については、自社のみですべてのイノベーションを起こすことは不可能という前提のもと、他社の技術を取り組みつつデジタル化をする、つまり提携・M&Aをフル活用している企業が多いように見えます。
具体例を見てみるに、ドイツのインダストリー4.0を牽引する1社であるSiemensは、過去10年で1兆3000億円超を投じて10件超のソフトウェア企業を買収するとともに、通信、照明等の6事業を売却しました。実はSiemensはいまや世界トップ10に入るソフトウェア企業に変貌を遂げているのです。工場のデジタル化関連事業を担当するDigital Factory部門は既に約1兆5000億円超(全体の14%)の売上をあげています。2018年1~3月期の決算発表では電力・ガス部門の営業利益が前年同期の86%減というネガティブなニュースがあった一方、Digital Factory部門の営業利益が29%伸び、電力・ガス部門の不振を補ったというポジティブなニュースもありました。利益予想が引き上げられたこともあり、同社の第一四半期決算発表日の株価は4.6%上昇し、欧州でその日もっともパフォーマンスが高かった銘柄となりました。
この市場の反応こそ、世間はデジタル化の大きなうねりをどこかで感じており、そしてSiemensが重工業メーカーではなく工場デジタル化のリーディングカンパニーとして製造業のデジタル化をリードすると期待していることの証左といえるでしょう。
ここまで読み進めて頂くと、「デジタル化の波が押し寄せていることはわかった。欧米企業がM&Aを活用していることもわかった。じゃあどんな会社を買収すればいいんだ?」という疑問が持ち上がるかと思います。
この点が一番難しいのですが、今は新技術により市場が大きく変わろうとしているものの、そのデファクトスタンダードが決まっていない状況のため、「ターゲットとして最良なのはこういった会社」と狙いを定めることができません。一方で、狙いが定められるところまで待っていては、既に勝負が決している可能性があります。
このような状況におけるソリューションとしては、日々できる限り多くのソフトウェア案件情報に触れるようにすることに尽きるかと思います。欧州には思いもつかないユニークな会社が数多く存在します。「うちはソフトウェア販売の会社じゃないからソフトウェア案件は関心ないよ」と割り切るのではなく、数多くのソフトウェア案件に触れることで自社に関連するものを見極める目を養っていくことが、今後数年は重要になってくるのではないでしょうか。不動産を購入する際には多くの物件を見て自分の好みを固めるべしと言われるのに似ているかもしれません。
GCAでは、欧州でドイツ語圏を中心にインシュアテック企業Control€xpertの売却アドバイザーなど過去3年で20件のソフトウェアM&A案件を担当しました。ソフトウェア案件に関するアンテナを高くして頂くべく、是非GCA担当者に「どんどんソフトウェア関連案件を持ってきてくれ」とお申し付け頂ければと思います。
記事監修
この記事を監修している弊社担当者です。