EU経済連携協定(EPA)発効に伴う、日EU間M&Aへの影響|欧州M&Aブログ(第10回)

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7月6日に日EU経済連携協定(Economic Partnership Agreement、以下「EPA」)の大枠が合意されました。今後の日EUビジネス環境を大きく変えるEPAは、果たして日本EU間クロスボーダーM&Aの起爆剤となるでしょうか?今回はEPA発効に伴いM&Aは増加するか否か、増加するのであればどのようなアングルのものかについて考察してみたいと思います。

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◆EPA=モノの移動における国境の撤廃?

EUのヒト、モノ、資本、サービスの自由な域内移動を可能とする「単一市場」の仕組みは、ビジネス面での国境を消滅させる画期的な仕組みです。Brexit交渉においては英国が引き続きEUの単一市場にアクセスできるかどうかが焦点の一つとなっており、ビジネス界からは可能な限り現状の仕組みを維持すべきとの声があがっているのは日々報道されている通りです(残念ながら英国が継続アクセスできる可能性は極めて低いですが)。ここでEPAの効果について考えてみるに、実はEPAは、EUの単一市場ほどではないにせよヒト、モノ、資本、サービスについて大きな規制緩和をもたらし、ビジネス上の国境をある程度消滅させる破壊力を持っています。

EPAのインパクトについて、話を単純にすべくモノの移動にフォーカスして考えてみます。モノの移動における国境は何かといえば、その最たるものは関税です。自社製品を輸出する際、関税はコスト面で大きなハードルとなります。その関税が取り払われるということは、輸出入自体が禁止されるものは別として、日EUのマーケットがひとつになり、結果モノの移動がボーダーレスになることを意味します。

ではどの程度の関税障壁が日EU間に存在しているのかについてですが、例えば工業製品については、現状は以下の通りです。
・ EUから日本への輸出: 現在は77.3%*が無税→EPA発効後、最終的に**は100%無税に
・ 日本からEUへの輸出: 現在は38.5%が無税→EPA発効後、最終的には100%無税に
*輸出額ベース  **品目ごとに撤廃タイミングは異なるものの、最長のものは15年の経過措置あり

日本からEUへの輸出には未だ多くの物品に関税が課されており、特に自動車分野では韓国勢との価格競争において劣勢に立たされています。EUは総人口約5.1億人、世界のGDPの約22%を占める巨大市場です。今後このEU巨大市場と日本市場がボーダーレスになるというのは、過去に例を見ない大きなビジネス構造の変化です。

◆市場が統一されるとM&Aが増える?

実はEU各国は既に今回以上の大きな変化を経験しています。それは言うまでもなくEUの誕生時です。EUが誕生し、共通通貨ユーロが(一部)導入され、各種規制緩和がなされることでEU内のビジネス上の国境は徐々に消滅してきました。ここで注目すべきは、EU域内のビジネス上の国境消滅に合わせ、国内企業間のM&Aを上回るペースでEU域内クロスボーダーM&Aが増加したという点です(市場が統一されたことからすれば、「欧州域内クロスボーダー」は本来的な意味でのクロスボーダーと呼ぶべきではないかもしれませんが)。

新しい市場の誕生はビジネスチャンスと競争相手の増加を生み出します。そして、チャンスをものにするべく攻めのM&Aを実施する、もしくは既存のシェアを維持するために守りのM&Aを実施するということはあっても、新しい競争環境のなかで多くの人が様子見を決め込んでM&A件数が減少するということはないと思われます。つまり、市場の統一は高い可能性でM&A増加を招くと思われます。

ではどのようなタイプのM&Aが増えるのでしょうか?結論から言えば日EU間でのクロスセルによる販売シナジー、もしくは原材料の供給面でのコストシナジーを期待したM&Aが増加すると思われます。

M&Aには販路(顧客)、実績・ブランド、製造拠点、研究開発能力の獲得や新規事業分野への進出等の目的があります。日欧クロスボーダーM&Aについては、例えばドイツ自動車メーカーへのアクセス獲得など、海外企業が持つ販路(顧客)獲得を主たる目的としたM&Aが多いように見えます。とはいうものの現実は厳しく、自社製品を買収した海外企業の販路に乗せて販売するというクロスセルを実現させることは容易ではありません。買収した会社の営業マンが日本本社の商品に対する十分な理解を有していない等、シナジー実現が思うように運ばない理由は様々ありますが、そもそも関税により日本製品の価格競争力が無いということも理由の一つに挙げられます。

この点、EPA発効により日本とEUのビジネス上の国境が徐々に消滅していけば、日本製品をEUで販売できる可能性は広がることはあっても狭まることはありません。日本製品の認知度が高まり、実績が積みあがり、日EUの市場統合が進めば進むほど、販売シナジーの実現は容易になります。これは、EU製品を日本で販売するという逆のパターンについても同様です。その他には、例えば欧州で販売する製品の部品を日本で製造して供給するなど、原材料の日本EU間でのやり取りにおけるコストシナジー実現のハードルも下がると思われます。

◆大きな変化が起きる今こそチャンス

モノの移動における障壁の消滅により、これまでにないビジネスチャンスが生まれます。そのビジネスチャンスを掴むためには、M&Aは検討すべき重要な経営戦略のひとつとなります。

日EUという巨大市場を攻略するためには、自社より小さな会社を買収するだけではなく、同規模の会社との経営統合といった大きな打ち手も必要になるかもしれません。大きな変化が生まれる今だからこそ、今まで以上に積極的に欧州M&A情報を収集頂ければと思います。その際には是非GCAの持つ欧州ネットワークもご活用ください。

記事監修

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