イタリアの魅力と、直面する課題|欧州M&Aブログ(第8回)

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イギリスでは総選挙で与党が敗北、フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の新党が圧勝、ドイツでは9月の連邦議会選前の前哨戦ともいえる州議会選挙が盛り上がりを見せるなど、選挙イヤーの欧州の大国では連日のように大きな動きがあります。ところで、欧州第4位の経済規模を誇るイタリアを忘れてはいませんか?景気低迷から抜け出せないイタリアですが、今回はその魅力と直面する課題について取り上げてみたいと思います。

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中国企業からの熱い視線

経済情勢が不安定な状況であるにもかかわらず、イタリアのM&Aマーケットは活況を呈しています。件数は過去7年間連続で増加しており、2016年は2001年以降で最高となる509件を記録しました。累計金額についても、2016年の€49.3bnはユーロ危機の2010年以降でみれば2015年に次ぐ2番目の規模でした。

外国企業によるイタリア企業買収案件にフォーカスすると、2016年の233件は過去10年間で最高、累計金額の€24.4bnは2015年に次ぐ2番目の規模となりました。特に中国企業によるイタリア企業買収案件は14件を超え、大きなインパクトを残しました。中国企業にとってイタリア企業の持つブランド力は大きな魅力であり、一方で財政状態が万全ではないイタリア企業にとっては中国企業による資本増強が成長の打ち手を繰り出すうえで大きな助けとなります。このようなWin-Win関係を背景に、当面中国企業のイタリア企業買収案件は増加し続けることが見込まれます。

日本企業の買収案件に目を向けてみると、2016年には日立化成による産業用鉛蓄電池メーカーFiamm Batterie買収、ダイドーリミテッドによるファッション・スポーツウェア向け生地メーカーPontetorto買収、ダイキン工業による業務用冷凍・冷蔵機メーカーZanotti買収などがありました。イタリアといえばコンシューマーブランドのイメージが強いですが、実は北部を中心にインダストリアルやケミカル分野の案件が多いのも特徴です。インダストリアル・ケミカル関連=ドイツという思い込みを持つことなく、イタリアの優良な案件もしっかりとウォッチしておくことが重要です。

イタリアの復活なくして欧州の復活なし

イタリアはユーロ圏全体のGDPの約16%を占める、ドイツ、フランスに次ぐユーロ圏3番目の経済規模を誇る大国ですが、他の欧州各国に比して経済や財政面での脆弱さが目立っています。南欧各国は今も軒並み苦しんでいると思いがちですが、ユーロ危機の際にはイタリアより危機的と言われていたスペインは2016年には3.2%の成長率を達成し、0.7%に留まったイタリアとは対照的に順調な回復を見せています。

イタリアの低成長の原因は①潜在成長率の低さ、②銀行の不良債権問題、そして③財政の弱さの3つによる負のスパイラルにあります。

①については、例えば海外からの新規投資額のGDP比(対内直接投資残高のGDP比)はスペイン60%台、ドイツ・フランス40%台であるのに対し、イタリアは資金調達や税制の硬直性などを理由に海外からの新規投資呼び込みが低調で、その水準はGDP比20%台に留まっています*。海外からの新規投資の少なさは、その潜在成長率の低さの証左ともいえます。

②については、イタリアでは株式市場の発達が遅れたこともあり、特に中小企業は資金調達を銀行に依存する体制となっており、中小企業の信用リスクが銀行に集約される構造になっています。景気後退により中小企業向け債権の不良債権化が進み、イタリアの銀行が抱える不良債権残高は2016年6月末時点で実にユーロ圏全体の約3分の1を占めるまでに至りました。

そして③については、イタリアの政務債務規模は2016年9末時点でGDP比132.7%に上り、ユーロ圏全体の政府債務残高合計の23%を占めるに至っています。(*三井住友アセットマネジメント2017.1.10調査による)

日本でも見られたように、銀行が不良債権問題で苦しむ状況においては、企業向けの貸出が抑制される傾向にあります。企業に対するカネの流れが抑制されれば、その成長は当然に鈍化します。それであれば不良債権を公的資金で処理し、企業に対するカネの流れを良くすればいいとも思えますが、EUのルールでは公的資金を民間企業に供給することは原則禁止されており、実行は容易ではありません。では財政出動で景気を刺激すればよいとも思えますが、政府債務残高のGDP比が既に高いことを考えれば、財政出動の余地は大きくありません。

ボトルネックとなっている景気が回復サイクルに入れば、その結果として不良債権が減少し(不良債権に分類されるものが減少し)、財政も税収増加により力強さを取り戻します。イタリアが構造改革をやり遂げ、投資環境を根本的に改善する努力をしなければならないのはもちろんのことですが、フランスがドイツに見直しを迫っているように、EUのアプローチも、ユーロ離脱の可能性を高めるような過度な財政緊縮による財政状態の改善ではなく、当面は柔軟な公的資金供給を容認する等、まずは経済成長を優先させたうえで長期的に財政状態を改善していく方向への転換が必要かもしれません。

イタリアのEU離脱の可能性は低い

6月11日に開催された地方選挙において、EU離脱を掲げる支持率トップの新興野党「五つ星運動」が大敗しました。1000以上の市町村で選挙が実施されましたが、決選投票に挑む五つ星運動の候補者はわずか9名という状況でした。

フランスでも見られたように、景気低迷が続く状況においてはEUがその原因として矛先を向けられがちです。五つ星運動は昨年末にレンツィ首相が辞任した時点では政権を奪取するかのような勢いでしたが、ローマで五つ星運動の市長が誕生して以来不祥事が相次いだり、景気が若干回復基調にあることもあり、その勢いはピークを過ぎたように見えます。Brexitに倣った「Italexit(イタレグジット)」という言葉もあるようですが、ちょっと発音しにくいですし、フランスが安定に向かっている今、欧州における新たなサプライズは避けて欲しいところです。

早いものでいよいよ来月からは2017年も後半戦に突入します。7月・8月は欧州各国でバケーションシーズンがスタートし動きがスローになりますが、その後は年後半に向けて猛然とアクセルがかかり、売却プロセスが数多く走り出す傾向があります。プロセスが始まってからの検討では出遅れることから、是非GCAを活用して早めに情報をキャッチ頂ければと思います。

記事監修

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