「M&Aマーケットのトレンドと今後の展望」座談会【後編】

イベントレポート 

ESGは引き続きテーマに

住吉 『千差万別』の事例としてESGにフォーカスしてみますと、ウクライナの侵攻によってESGの概念が一歩後退したような認識を持たれている向きもありますが、引き続きこのトレンドは続いていくと思います。株式市場からの強い要請もあり、あるいはアクティビストからの提案の中でも大きな割合を占めていますので、企業経営をしていく側としては今後も決して無視はできないテーマと考えています。その中で時間軸に対する見方が人それぞれで、それが企業戦略に対する判断への影響も与えていて、ESG一つをとっても企業によって、もっと言うと経営者ご個人によってもだいぶ認識が異なっているように感じています。最近は、パブリックマーケットとプライベートマーケットという言葉をよく聞くようになりましたが、千差万別の中でプライベートマーケットの活用も選択肢にされていると考えています。

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住吉

ギャップを埋めるオポチュニティの提供。一見、飛び地に見えるM&Aの可能性

吉村 いまエレクトロニクスの会社がどんどん自動車の世界に入ってきて、GAFAも車載関連のスタートアップにかなり投資をして業界の垣根がなくなってきています。今までの既存の枠をいったん取り外して考えた先に本当のオポチュニティ、日本企業にとっての重要な機会があるのではと考えています。
グローバルM&Aのトレンドデータで日本が買い手国としての存在感が低下している説明がありましたが、じつは世界ではものすごくディールが起きていて、日本企業が知らないオポチュニティがたくさんあること、それをまだ届けられていないことを痛感しています。また最近では海外企業が事業を売却する際の受け皿候補として「日本企業がいい」という熱い声も聞いていて、そこにギャップがあることを感じています。

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吉村

われわれの一つの役目として、そのギャップを埋めるオポチュニティをご提供することで、日本企業が『リ・デザイン』をしやすくなるお手伝いができればと考えています。それは一見、飛び地に見えたとしても、そこには企業の戦略の再定義によってアラインがされていて、その戦略実行を早期に実現するためには、やはり買収というのが非常に有効な手段であり、形を変えるためにM&Aを活用されるケースがますます増えてくると考えています。

プライベートキャピタルの役割の拡大

原田 業界の垣根を越えたM&Aや事業の形を変えていくということは、投資も時間も非常にかかる中で、プライベートキャピタルの世界の役割が拡大していることを感じています。実際に米国ではそれが起きていて、上場企業は上場しているだけでコストがかかりますし、短期的には株価を意識しながら経営しなければいけないという中で、代替手段としてプライベートキャピタルを活用してPE傘下で事業の組み替えや追加買収をやって会社を大きくさせて、それが経済の成長の原動力になったという流れがあると感じています。まさに日本でも今後PEのマーケットが大きくなると、そういった流れとしてまさにPE3.0が出てくるのではないかなと思います。米国ではいろんな産業の『リ・デザイン』に対応すべくリスクマネーの世界もどんどんアップデートされているのが現状です。

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原田

どのPEと組むのがよいか?

榎戸 企業側の立場からすると、そうはいってもどのPEと組むのかがいいかその違いが分からないと、なかなか進めないように思いますが、その辺りはHLでPEの違いを良く把握していらっしゃるのでしょうか?

住吉 HLは日本だけではなくグローバルでPEといわれるカテゴリーのお客さま約1100社とお付き合いがあります。私も実際に売却候補先の検討をお手伝いする際に、本当にさまざまな必ずしもエグジットを前提としていないPEが存在していることを再度確認しました。ESG志向のファンドだけでなく、ESG社会へ移行するまでの期間に必要な繋ぎ投資として、あえてESG的ではない所にも社会的意義を見出して投資をされるファンドもあります。

原田 HLはグローバルPE関連の取引件数が世界ナンバーワンで、どのような投資家からどんなお金を預かっていて、どんな領域に注力していて、どんな性格の人がいるのか、全部把握ができている点が大きな強みです。日本でも旧GCAの時代から大型案件から小さな案件まで多数の経験があり、国内で活動中のファンドすべてと幅広いネットワークを持っているのも他社にはない特長と思います。

千載一遇のチャンス。良きグローバルシチズンとして世界で高く信頼されている日本

榎戸 M&Aに取り組む日本企業にいまどんなことをお伝えすることができますか?

酒井 不確実性の時代にあって、今後グローバルで会社の流動性が高まることが想定されます。世界的に景気後退が視野に入ってくると、苦しい業種においては破綻まではいかずとも、スポンサーが必要となるケースが増加し、平時であれば売りに出ないような優良企業が売りに出ることもあり得ます。これは前回の不況のときに目撃したのですが、まさにそういった分野に進出したい、そういった地域に進出したいと思っている日本の企業にとってみれば千載一遇のチャンスになり得るものだと思っています。これを逃さないにするということがとても大事かと思います。

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酒井

そして何よりも日本という国は政治・経済・金融環境が比較的安定しており、また地政学的にも良きグローバルシチズンとして世界で高く信頼されているユニークなポジショニングにあります。デカップリングが進んでいく困難な時代にあってもM&A 経済圏において重要な役割を果たしていく、そのことへの期待が高まっている、と現場にいる私たちは確信しています。

榎戸 今日はHLバンカーの皆さんより、最前線からのご意見をお届けしました。皆さまありがとうございました。

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【登壇者プロフィール】
酒井 圭一 | クロスボーダー&スペシャル・ソリューションズ・チーム 共同ヘッド
国内外の顧客に対して、様々な業種と地域におけるM&A案件の助言を提供。約20年にわたるアドバイザリー経験を有する。早稲田大学第一文学部 フランス文学専修 卒業

住吉 克洋 | インダストリアル・チーム 共同ヘッド
主に金属、鉱業、エネルギー、化学、自動車、機械分野でのM&Aに関する幅広い専門知識を有する。また、日本の優良企業に対し、国内外を問わず、数多くのM&Aやファイナンス案件につきオリジネーションならびにエクゼキューションに従事。投資銀行歴は20年超。 東京大学経済学部 卒業、University of Virginia Darden School of BusinessにてMBA取得

原田 恵一郎 | フィナンシャル・スポンサー・グループ ヘッド
20年近くに亘る事業再生・M&Aアドバイザリーの経験と人脈を活かし、プライベート・エクイティや総合商社が関連する案件の組成に注力。過去にはターンアラウンド、スペシャルシチュエーション(非友好的買収・防衛)、カーブアウト、LBO、ベンチャー企業買収など、様々なM&Aのエグゼキューションをリードし、成功に導いた経験も有する。 慶應義塾大学商学部 卒業

吉村 尚 | オートモーティブ及びテクノロジー・チーム ヘッド
15年以上の投資銀行業務経験を有し、民生・総合電機、ITサービス、イメージング・精密機器、電子部品等の幅広いセクターカバレッジ経験を活かし、主要顧客に対する戦略的アドバイザリーを通じて案件のオリジネーション及びエクゼキューションに多数関与。 京都大学経済学部 卒業、Washington University in St. LouisにてMBA取得

榎戸 教子氏 | 経済キャスター
静岡県出身。大学時代にスペイン国立サラマンカ大学へ留学。さくらんぼテレビ、テレビ大阪のアナウンサーを経て2008年より経済キャスターに。BSテレ東や日経CNBCで経済ニュース番組のメインキャスターを務める。株式会社PICANTE代表取締役。趣味はランニングとウクレレ。