消費と流通を変えるSDGsシェアリングサービス

イベントレポート 

村本理恵⼦氏 | 株式会社ピーステックラボ 代表取締役社長

第202回 M&A研究会(2022年8月開催分)ダイジェスト

村本氏は時事通信社勤務、大学教授やネットベンチャー役員、そしてエイベックスでのモバイル動画配信サービス「BeeTV(現・dTV)」事業の立ち上げなどを経て、還暦を過ぎてからスタートアップに挑戦されました。モノの貸し借りを実現するプラットフォームである『アリススタイル』は開始から4年でユーザー数が約50万人を超え、村本氏自身も日経「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」受賞者としても大きな注目を集めています。
前回(2022年7月)のM&A研究会
の講演でも話題となった『循環型経済』の実現を可能にするシェアリングビジネス。事業の立ち上げからこれまでと、未来の事業を創るヒントについてもお話を伺いました。

10年後に常識となる「未常識」を事業化する

新規事業のタイプは以下の3つ、イノベーション、二番手改良、模倣に大別されると考えています。私はこのうちイノベーションにこだわり、「10年後に常識となる『未常識』を事業化したい」という想いで様々な事業を創ってきました。「モノを買わない生活を常識にしたい」と考えて、シェアリングプラットフォーム事業を起業したのが、2016年のことです。
普及が進むシェアリングビジネス、2030年には国内で14.1兆円にまで、CAGR(年平均成長率)21%で伸びると予想され、このうち一番大きなマーケットに成長すると見込まれているのが「モノのシェア」市場で、その規模は3.3兆円です。

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これまでも、ホテルやレンタカーなどのシェアリングビジネスは存在しましたが、家電などの生活用品のシェアリングプラットフォームは日本初の試みです。日用品に対し、従来の「買う」から「使用料を払う」へ、新しい選択肢を携えたサービスを提供しており、当社は個人利用のみならず法人利用をもカバーするハイブリッド型であることが特長です。今年3月にはサブスクモデルを開始しました。暮らしや好みの変化に応えられるよう、レンタル期間や回数に柔軟性を持たせ、関心を寄せているが購入まで至らない、けれども試してみたいという「コンバージョンしていない層」を確実にとらえ、マネタイズすることが狙いです。
このプラットフォームには、「モノが売れない」という課題をシェアリングによって解決したい企業や、顧客向けに新サービスとしてシェアリングを提供したい企業などが数多く参加し、企業間のオープンイノベーションも拡がってきました。

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ビジネスの鍵は「消費者のペインの解消」

私自身はこれまで携わってきた仕事において、消費者意識や心理に強い関心を持ち、「消費者のペイン(不安、不便、不満)の解消」にビジネスの鍵があると考えてきました。

とはいえ、「次にどんなビジネスが来るのか?」といった未来予測は、簡単ではありません。ビル・ゲイツを始め、IT/ネット社会における偉大な先人たちも、ことごとく未来予言を外しています。ただ、未来は予測できないけれど、「次に必ず起こること」は予想できると考えています。例えば、回線スピード、データ量、ハードウエアの性能などは進化を続けていますし、経済動向もデータで入手できます。こういった変化を捉えることが、イノベーションを成功させるポイントのひとつです。そして、テクノロジーの進化をツールとして、お客様がもつペイン(不安、不便、不満)をニーズに捉え直し、お客様にどんな体験をしていただくべきかという「顧客体験」をデザインするのです。

新規事業を推進するパワーの源、それは強烈な危機感です。「もう後がない」と本気になる事業だけが形になるという実感があります。また走り出したあとは、新しい挑戦が組織で是と扱われるよう、人事制度や評価制度も合わせて変えていくことで、事業は軌道に乗っていくものと考えています。

お金の使い方を変えるインフラになりたい

そもそも私は、レンタルビジネスをやりたかった訳ではありません。
前職のエイベックスでモバイル動画配信サービスに携わっていた2006年頃、身の回りを見直すと「世界はたまにしか使わないもので溢れている」ことに気が付きました。冬にしか使わないヒーターや勢いで買った健康器具が、一年中物置に眠っているというご家庭は少なくなかったです。そういう「モノとの付き合い方」に疑問を持ったことに加え、実質賃金の低下等から感じる日本経済の踊り場感、貧困や格差の拡大などから、「21世紀型の経済の姿」について考えを巡らしました。自分なりに出した答えは、日本経済は更に衰退へ向かい、「モノの使い捨て」に厳しい視線が向けられるのではないかといいうことでした。そこで、今後も豊かに生きる道としての提案が「がまんしない節約」であり、「使えるお金が減ってきている」というペインを、私のこれまでの経験で解決できると考えたのが「モノのオンデマンド」だったのです。

『アリススタイル』を通して提供する価値は「使えるお金をもっと自由に!」です。利用する分だけ費用を払う、定額で色んなものを試せる、気に入ったら購入もできる、そういう様々なスタイルの提案です。私の根底にあるのは「お金の使い方を変えるインフラになりたい」という想いなのです。

パネルディスカッション

ピーステックラボの最初の資金調達をお手伝いさせていただいた、弊社エグゼクティブディレクター久保田が参加し、スタートアップへの挑戦のこれまでについて、大いに語らいました。

■ディスカッショントピックス
・新しいことを始めようとするとき、一番大変なこととは?
・過去の経験をいかに活かすか
・後発に負けないためには「進化し続けること」
・事業はやっぱり「人」が大事
・アイディアを「戦略」から俯瞰的に語ることの重要性
・三度の起業を産んだ情熱は、一体どこから湧いてくる?
・消費者の心理を掴むために気を付けていること
・起業の「カジュアル化」について

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