幾重の信頼が導く「選ばれるNo.1ファンド」への道

ファンドインタビュー 

ティーキャピタルパートナーズ株式会社
取締役社長 マネージング・パートナー 佐々木 康二

1998年12月、東京海上火災保険に入社、1999年7月から東京海上キャピタル(現ティーキャピタルパートナーズ)に出向し、PE投資チームの立ち上げを始め組織管理面の整備を進める一方で、数々のPE投資を率先して実行。2005年8月同社に転籍。2015年7月代表取締役社長兼マネージング・パートナーに就任し、現在に至る。

取締役 マネージング・パートナー 中川 俊一郎

2000年8月より東京海上キャピタル(現ティーキャピタルパートナーズ)に入社し、ヘルスケア、アウトソーシング等を中心に、幅広い業種における投資を主導。特に大企業グループからのカーブアウト案件、経営陣とのMBO型案件に豊富な経験を持つ。前職は東海旅客鉄道(JR東海)にて人事・企画・株式上場プロジェクト等に従事。

東京海上のグループ企業として産声を上げ、経営陣によるMBOで独立

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(写真左:中川俊一郎氏/写真右:佐々木康二氏)

ーー ご自身のご紹介と、貴社を設立された経緯や背景をご説明をいただけますでしょうか。

佐々木 私は1985年に新卒で日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行しました。銀行では法務部門の後、M&Aアドバイザリー業務を経験しました。80年代後半、当時は日本企業のクロスボーダーM&Aの全盛期でしたが、たまたま関わった案件の相手方がKKRで「米国には面白いビジネスがあるんだ、いつか日本でも」と思ったのが、プライベートエクイティ(PE)との出会いです。その後、米国留学を経て香港勤務になった際、担当した華僑企業がダイナミックなグローバル投資をしていて、あらためて投資事業に魅力を感じ、1998年長銀が破綻する中で、日本でPEというビジネスにチャレンジしたいと思うに至りました。

当時、日本ではPEはまだほとんど知られていませんでした。とにかく最初は信用が大切なので、誰もが知っていてリスペクトされているブランドである東京海上は、このビジネスを始めるには絶好のプラットフォームだと思いました。一方、東京海上としてもちょうど、子会社の東京海上キャピタルを通じて1991年頃から行なっていたベンチャーキャピタル事業をさらに発展拡大しようと試みている時期であり、その一環でグループ外の資金をファンド形式で集め運用する投資事業に本格的に進出しようとしていました。そうした状況と私の思いが一致して東京海上キャピタルに入社したのですが、これが現在のティーキャピタルパートナーズにおけるPE投資の実質的な始まりとなりました。

とはいえ、親会社である東京海上はご存知のようにプロの機関投資家ですから、私たちは当初から「キャプティブファンド」と呼ばれるリスクを常に感じていました。キャプティブファンドというのは耳慣れない言葉だと思いますが、金融系のグループ子会社で一時的な出向者が運用しているファンド、というネガティブな意味が込められています。そこで数年かけて、豊富な実務経験を持つプロフェッショナル中心の運営体制へと移行し、独立した投資意思決定の仕組みや、ファンド業界独特のキャリード・インタレストと呼ばれる人事報酬制度も作り上げ、徐々に「東京海上のブランドを持ちつつも運用上は親会社の影響を受けない独立したPEファンド」というユニークなビジネスモデルの確立に成功しました。

この結果、国内の機関投資家からは大変高い評価を頂くようになったのですが、海外の機関投資家からはやはり「ユニークな投資実績があり、パフォーマンスも素晴らしいが、キャプティブファンドのままでは資金を預けることはできない」といわれる状況は変わりませんでした。東京海上とも「資本的に独立した方がお互いのためだね」という話が自然とでるようになり、最終的には私をはじめとする当社の経営陣で東京海上から全ての株を買い取って、2019年10月に「卒業」、つまり東京海上のもとからMBOで独立したというのが当社の沿革です。

中川 私はこの会社で21年間、佐々木と共にバイアウト投資を推進してきました。元々は1990年にJR東海に新卒で入社し、最初の1年間は新幹線の車掌や駅員など鉄道の現場でじっくり勉強しました。その後、主に人事や財務部門で経験を積み、そこで自社の株式上場プロジェクトも担当しました。その後は米国留学を経て、次のキャリアステップとして「より産業社会のダイナミックな動きに関わりたい」という想いで、当時の東京海上キャピタルに転職しました。以来、様々な業種・規模の投資を経験してきましたが、なかでも比較的規模の大きい製造業でビジネスとしては安定しているものの、次のステップでの成長シナリオを模索しているような会社への投資を多く積み重ねてきました。

投資先と築く「横から目線」の関係性とは

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ーー 貴社は他のファンドと比較して、メンバーが定着していますし、良いチームワークで活動されているという印象があります。経営陣と社員の方とではどのような理念や価値観を共有されているのですか。

佐々木 私たちが活動の原点にしているキーワードは「誠実」と「信頼」です。PEという業種は現在、良くも悪くも世間から非常に注目されており、その中で私たちの振る舞いはPE業界全体の評判にも影響を与える立場であるという自意識を持って、常にしっかりした姿勢を維持したいと考えています。あらゆるステークホルダーから「ティーキャピタルというのは良いファンドだな、信頼できるな」と思われ、投資先の経営者や従業員の方たちからも「ティーキャピタルに投資してもらって良かったな」と思われることが最大の目標です。「選ばれるNo.1のファンド」でありたい、これが私たちの一貫したポリシーです。

特に当社の社員には、投資先企業に対して「横から目線」で接しようと常に話しかけています。ファンドの人間は企業価値を高める色々な知恵や経験を持っているのは事実なのですが、ともすればそれらを株主の立場を利用して独りよがりに導入し、企業を性急に変えていこうとする嫌いがあります。我々の心の持ち方としてはそうではなく、投資先企業の方に寄り添い、常に対等なパートナーシップを組む仲間としてディスカッションを繰り返しながら一緒に成長していきましょうという姿勢が最も大事だと思っています。これが「横から目線」という言葉の意味するところです。

ーー 一方でこれだけ長い歴史で多くの投資を重ねながら、一度も損を出されていない、業界の中でも稀有な存在でいらっしゃるとも聞いております。どのようにこれだけのパフォーマンスを出されてきたのでしょうか。

佐々木 元本を毀損しないで回収するということは投資ファンドとして当然期待されることですが、それを長年続けることは現実には非常に難しく、私たちが何か魔法のようなテクニックを持っているのではと言われることもよくあります。もちろん定量的・定性的な投資分析の手法や判断ロジックなどの点で独自に磨き込んできたスキルが大きな役割を果たしているのは事実だと思います。ただ、それ以上に、私たちが最後は「人」を見て投資を決めること、投資後も「人」と真摯に向かい合いながら共に企業価値向上という目標に向かって歩んでいくというスタンスを堅持していることが、結果としてのパフォーマンスに表れているのかなと考えております。

「誰も辞めないファンド」がもたらす安心感と信頼の礎

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ーー 貴社チームの特徴について教えてください。

佐々木 創業以来のフランクで自由闊達な社風を維持したいと考えております。私たち自身がいつも和やかに伸びやかなムードでやっているということは、端的にはメンバー勤続年数の長さに表れていると思います。「メンバーが辞めないファンド」という特徴に加え、21名のメンバーは銀行や証券などの金融業界出身者ばかりでなく、商社や事業会社、コンサルタントや会計事務所の出身者など多様なバックグラウンドを持っています。私たちは規模や投資スタイルを大きく変えずに安定的に成長していく方針ですが、ファンド規模が徐々に大きくなるに伴い、若手を中心に毎年若干名ずつ増員しています。

投資先との関係でいうと、案件の初期的な検討段階で担当チームを決めると、そのチームメンバーが原則として最後まで一貫して投資先と伴走します。しっかり責任感を持ってやりましょうということですが、これは投資先との信頼関係を醸成するうえでも非常に重要だと思っています。

ESG投資のパイオニアが挑む産業未来図

ーー 投資スタイルの特徴などを教えてください。

佐々木 ESGに対する強いコミットメントが我々の特徴の一つです。2013年、日本に本拠を置くPEとしては初めてESG投資に関する国連のPRI(責任投資原則)に署名参加しました。投資した後も対象企業をESGの観点から繰り返しレビューしています。ESGを常に意識して経営を推進することによって結果的に企業価値の向上に繋がるという、今では広く認知されている関係性に私たちは早くから気づき、実践してきたので、ようやく時代が追い付いてきたなという感慨があります。

ーー ESGのアングルについて、海外の機関投資家から何かコメントされることはありますか?

佐々木 彼らからするとESGはもはや出資を決める際の必要不可欠な基本条件になりつつあると思います。当社は毎年海外からインタビューも受けてAランクの評価も頂いていますし、社内でもESGのチェック体制が組織的にインストールされており、案件の初期段階から投資後まで、明文化された仕組みによるESGチェックを行っています。このESGに関する手慣れ感も、海外の機関投資家から安心感を持って受け入れられている理由かなと思います。

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ーー 注目しているセクターなどありましたら教えてください。

中川 フォーカスセクターと呼ぶ3つの重点業界を設定して活動しています。1つめはヘルスケア業界です。今の日本で唯一確実な中長期トレンドである少子高齢化という流れの中で、人々がどうしたら健康的な生活を送れるかという大きなテーマに即した投資をしたいと考えています。その意味では製薬業界だけでなく健康食品や医療器具、医療サービス、介護なども含む、広義のヘルスケア業界に着目しています。

2つめはB to Bの領域、特にB toBサービス業界です。いわゆる産業社会のなかで動脈的、静脈的、或いは潤滑剤的な役割を果たしている存在意義の高い会社にフォーカスしたいという想いがあります。具体的にはSIer、アウトソーシングを引き受けている会社、最近ではSDGの観点からリサイクルの分野などにも注目しています。

3つめはいわゆる、サービス・小売業界です。案件数は非常に多いのですが、投資環境的には難しいセクターです。一過性の流行に乗っている会社を追うのではなく、コアとなるしっかりした力を持っている会社、例えば非常に強いブランドを持っているとか、独自のビジネスモデルを作り上げているなど、長期的にエッジを立て続けていられるような会社を探し出して投資をしたいと思っている分野です。

この3つのフォーカスセクターについては社内でそれぞれに専任者を決めてチームを作り、業界研究やネットワーキングを深め、個別企業にプロアクティブに提案に行く等、特に積極的に活動しています。

人・物・お金すべてにおいてサポートし、投資先を世界トップランクへ

ーー これまでで印象深い投資案件を教えてください。

中川 2010年に投資をし、2014年にエグジットした武州製薬の事例をご紹介します。元々は塩野義製薬の100%子会社で薬の製造受託を専門に行なっている会社です。当時、グローバルに新薬を開発し販売していくという塩野義グループ全体の戦略とのベクトルの違いによって、カーブアウトの対象になりました。我々は、従来の塩野義グループ傘下では同社の高い技術力や品質管理能力が売上高や利益として十分に活かしきれていないところに着目しました。実際、投資後は新規の販路にフォーカスして営業チームを再編・強化した結果、塩野義製薬向けの売上を維持したまま、従来取れなかった他社からの商売もどんどん取れるようになりました。急速に事業が拡大する中で新たな人材も必要となってきたので、経営企画や技術部門の中心となる方を外部から採用しました。

生産キャパシティに関しても、地道な生産性改善活動や、外部コンサルタントを活用した大規模なプロジェクトを導入しつつ、最終的には大手製薬会社の主力工場を買収したことで飛躍的な拡大を達成しました。

このような人・物・お金すべてにおけるサポートの結果、4年間の投資期間で武州製薬は名実ともに日本最大手の製造受託事業へと成長しました。それは同時に、日本の製薬業界全体にとって一つの強力な生産インフラとなる企業が生まれたということでもあり、社会的にとても意義のある投資になったともいえるかと思います。

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時には花見酒をともにするも、影を潜めるのが我々の日常です

ーー PEファンドから投資を受けることを今でも「乗っ取り」と感じられる会社が多いなかで、どうやって経営陣と一緒に色んなことに取り組まれてきたのか、具体例をご紹介いただけますか。

中川 先ほどお話しした武州製薬を例にすれば、正直に言って最初の1~2年は経営陣とは一心同体ではなく、むしろお互いに相手の考えを分かり合えるようになるまで、同じようなディスカッションを延々と繰り返すような、良い意味で緊張感のある関係がありました。

というのも、当時の武州製薬は、良いものを安定的に作って親会社を始めとする既存のお客様に納めていればそれでよし、という守りの姿勢が強い会社のように見えました。それでも当面はやっていけるのでしょうが、独立した企業として利益成長を続けなければグローバルな競争が始まっている業界の中で生き残ることはできず、結局は技術力や品質力といった、会社が最も大切に思っている価値も失うことになりかねないという危機感をなんとか共有したいという思いが私たちにはありました。

当初は噛み合わない部分も多かったのですが、技術と品質と利益、この3本柱で会社を伸ばしていきましょうというところで、具体的な成長シナリオを含めて意見が一致した後の動きはとてもスムーズでした。社長自ら大規模なM&A戦略の旗振り役となり、積極的にご自分のネットワークを駆使して候補先を発掘していただくようにまでなりました。

ファンドと投資先の一般従業員の方との関係で言いますと、社員食堂で一緒にランチを食べながら話を聞かせてもらったり、お花見の席に日本酒を持って参加するような関わり方はよくするのですが、基本的には「われわれが株主のファンドです」という形で前面に出るということは極力避けるというのがポリシーです。社員の方の意識の中心にはまず経営陣がいるべきだと思っていまして、そこにファンドが出しゃばってしまうと、一体俺たちはどこを向いて仕事をすればいいのだろうとなりますし、経営陣も非常にやりづらくなってしまうからです。

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皆さまへのメッセージ
~社会的な実在として、日本の変革や成長に資するPEでありたい

ーー 最後に、読者の方に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

佐々木 今、コロナ後の事業環境の変化への対応として、また株式市場をはじめとするガバナンス改革の必要性もあって、多くの企業でカーブアウトに関する検討が進んでいるようです。またオーナー企業の事業承継ニーズも不可逆的に増え、その受け皿機能としてファンドが市民権を得てきているのは間違いないと思います。実際に企業価値を高めることに成功した事例も増えて、安心してご相談いただける状況になっているのではないでしょうか。日本企業の変革や成長に役に立つ、社会的な実在としてPEは今後もますます発展拡大すると思います。企業として検討事題があれば、まずは何なりとご相談いただければと思います。私たちも選ばれるよう、日夜努力していきます。

中川 カーブアウトを検討されている親会社の経営企画の方向けに、私たちがどういう会社に関心があるかについて若干補足させていただきます。3つほど視点があり、最初は、対象会社が一匹狼になれる存在なのか、親会社の虎の威を借りている狐なのか、この辺りの区別をはっきり見たいと考えています。親会社の資本が外れてもスタンドアローンで進んでいけるようなコアとなる力を持っているかを、まずは見させていただきたいと思っています。

次に、現在のグループに入っていることで何らかのデメリットがあるとか、伸び悩んでいる部分があるかです。投資後の改善余地という点で、これはあったほうが投資評価においてプラスに働きます。例えば、採用や設備投資についての考え方が合わないとか、成長の方向性に関して自社と親会社のベクトルがズレているとか、そういうのも観点の1つです。

最後に、私たちが投資したらどうお役に立てるのかという点で、過去の投資から得ている業界知見ですとか、事業提携やM&Aのネットワーク、生産性の改善、海外販路の拡大などといったプラクティスを適用して効果があるかどうかです。

私たちはこれらの視点を持って日々投資の可能性を検討しておりますので、予めご理解いただいていると最初の会話もスムーズに進むのかなと思っております。

以上

ティーキャピタルパートナーズ株式会社
https://www.tcap.co.jp/

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