The Takeaway|オートメーション分野のM&A ~今後の展望と期待について、村井慎とのQ&A
「自動化」という言葉をよく耳にするようになりました。労働力不足や人件費高騰、DX化、AIやロボティクス等の技術の高度化を背景に、オートメーションビジネスは拡大しています。今回はオートメーション分野におけるM&Aについて、同分野を担当するインダストリアル・テクノロジーチームの村井慎が解説します。
ー なぜオートメーションビジネスは拡大しているのでしょうか?
オートメーションビジネスが拡大している理由として、大きく以下の3つがあります。
- 課題への対応:労働力不足や人件費高騰への対応
- 顧客ニーズへの対応:顧客ニーズに細かく応えるためのデータ活用や生産性の向上
- 技術の進歩:オートメーションを可能にする技術の進歩
先進国においては労働力不足、人件費高騰が課題となっており、製造・物流プロセスの自動化は経営課題の解決手段として有効な打ち手となります。多くの企業がデジタル化によるデータの利活用を進めており、現場データ収集を可能とする製造・物流プロセスの自動化は、DX化の中心的な役割を果たしています。加えて、機械学習を含むAIやロボティクスなどの技術が急速に進化しており、これらを活用した高度なオートメーションが技術的に可能になっていることも見逃せません。
ー それでは、オートメーション関連企業の業績は絶好調ということになりますか?
注力市場(地域・製品群)によって、好不調の傾向は異なります。オートメーションの中心を担うマテハン、ロボット、そしてその関連部材メーカーの直近の四半期決算(24年4-6月期)を見るに、以下の傾向があります。
- マテハンメーカー:大手は安定しています
- FA・ロボットメーカー:回復しつつありますがが、少し苦しい状況が続いています
- 関連部材メーカー:回復しつつありますが、少し苦しい状況が続いています
ポイントは「中国市場への依存度」と「半導体関連ビジネスの大きさ」です。前者について、23年以降中国景気は停滞気味であり、それに伴って設備投資も低調になっています。日本を代表するファクトリーオートメーション(以下FA)・ロボットメーカー、例えばオムロン、三菱電機、安川電機、ファナック等は中国で相応のプレゼンスを有しているため、中国景気の停滞の影響を大きく受け、業績が悪化しています。また、FA・ロボット関連部材メーカー、例えばロボット用減速機メーカーであるナブテスコやハーモニック・ドライブ・システムズなどは、ロボットメーカーの業績が下降局面にあるときは、同様に下降局面となります。
半導体については、2023年に比べれば回復基調にあるとはいえ、産業機械向けや自動車向けの半導体投資が伸び悩むなど、まだまだ低調に推移しています。結果として、半導体関連事業割合の大きい企業はマイナスの影響を受けています。
マテハンメーカーの業績が比較的安定しているのは、国内の自動化ニーズは引き続き旺盛であること、中国依存が相対的に小さいこと、半導体関連においてクリーンルーム向け設備は日本企業(ダイフク、村田機械)が圧倒的なシェアを有しており大きく業績を崩すに至っていないことが理由と考えられます。
ー 次に、オートメーション分野におけるM&Aについてお聞きします。現在、この分野におけるM&Aは活発ですか?
グローバルベースでの件数、金額でみると、24年の本セクターにおけるM&Aは次のようなトレンドになっています。
- 件数で見れば、昨年よりは低調(22年と同レベル)
- 金額で見れば、コロナ明けの21年以降最低水準
- 地域別で見れば、特に欧米でM&Aにブレーキがかかっています
グローバルベースでの件数、金額ともに、本セクターのM&A活動レベルは少し落ちています。しかし、これが本セクター特有の傾向かといえばそうではなく、特に欧米では、昨年後半からM&Aマーケット全体の活動レベルが停滞しています。停滞の原因としては、ロシア・ウクライナ問題や米国・中国関係の緊張といった地政学的リスクの高まり、インフレによる景気の停滞、インフレを抑えるための金利上昇によるM&Aファイナンスコストの増加などが複合的に影響しています。ちなみに、日本のM&Aマーケットはグローバルのなかでは唯一といってよいほど堅調に推移しています。
ー 最後に、今後このセクターではどのようなタイプの案件が増加すると見ていますか?
個人的には、以下のようなアングルでのM&Aが増えてくると見ています。
- 「コト売り」へのビジネスモデルのシフトを意識した買収
- 事業ポートフォリオ見直しのなかでの撤退(事業売却)
- ソフトウェア領域でのM&Aの増加
マテハンシステム、産業用ロボット、減速機、サーボモータ等、オートメーション領域において日本企業は世界的に存在感があります。要するに、オートメーション領域で使われるハードの競争優位性が高いということです。一方で、ロボットを中心に中国企業の追い上げは著しく、競争優位性のあるハードがコモディティ化するまでの時間が年々短くなっています。
多くの日本企業は、ソリューションプロバイダーへのシフト、つまりモノ売りからコト売りへのビジネスモデルの進化を目指しています。バリューチェーン拡大のためにM&Aを活用する例も増えており、例えば、ロボットメーカーによるロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)の買収はこれに相当します。ロボットSIerを買収することで、ロボットを売るのみならずロボットを活用した自動化ソリューションも提供し、顧客に提供する付加価値を上げていくといった具合です。
二つ目の撤退(事業売却)について、コロナ直後の自動化ブームも落ち着き、業界をリードする大手企業と中堅以下の企業との業績の安定感に差が生じ始めています。業績が伸び悩んでいる場合や規模的にグローバルで戦っていくことが難しい場合などには、選択と集中の過程で、オートメーション関連事業の全部または一部の撤退を検討する企業も出てくると予想しています。言い方を変えれば、大手が主導する形での業界再編が加速していくと見ています。
三つ目のソフトウェア領域でのM&A増加ですが、これは私個人の期待も含んでいます。
実は欧米では産業ソフトウェア領域のM&Aが活況です。例えばSiemensは、数多くのソフトウェア企業を買収し、今では産業オートメーションソフトウェア分野で世界トップ10に入る企業になっています。もはや重電メーカーというイメージはありません。パナソニックによるサプライチェーンマネジメントソフトウェア企業であるBlue Yonder買収のような例もありますが、日本企業は未だソフトウェアは「必要に応じてライセンスを購入すればよい」という考えが主流です。一方で欧米企業は、特定のソフトウェアを自社サービスに完全に組み込むことで差別化を図り、また、そこから得られるデータを活用したサービスにつなげることも目指します。日本においても、今後数多くの産業ソフトウェア領域でのM&Aが見られることを期待しています。
最後に、フーリハン・ローキーではオートメーション関連を注力領域に設定し、グローバルに数多くのバンカーを配置しております。M&A検討に際しては、是非我々を壁打ち相手としてご活用頂ければと思います。
記事監修
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